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新刊紹介 (54巻1号(212号)掲載分)

「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『国語学』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)

阿久澤忠著『語法・語彙を中心とする 平安時代仮名文論考』

 平安時代に成立した「仮名文」(平仮名文)の実態と諸相とについて,おもに語法(広く構文のあり方も含む)と語彙との面から論じた書である。前著『源氏物語の語法と表現』(1993)では,源氏物語を中心に扱っていたが,本書では,源氏物語前後の作品をも考察の対象とし,平安時代全体を通して仮名文をとらえようとしている。全体は,4部,28編の論考から成る。第1部「平安時代中期の仮名文―源氏物語―」では,源氏物語の文章が前期の仮名文から受けた影響と,源氏物語の文章が後期の仮名文与えた影響とについて考察する。第2部「平安時代前期の仮名文―竹取物語,古今和歌集,土佐日記―」,第3部「平安時代後期の仮名文―更級日記―」で,前期及び後期の仮名文を中心にとり扱っている。第4部「平安時代の仮名文を通じて」には,「飽かず」という語句を使った構文の変遷,「砂」を意味する語の使用状況の変遷,歌語「まさご」の用法の変遷についての論考を収める。

(2002年5月20日発行 武蔵野書院刊 A5版縦組み 444ページ 13,000円)

李長波著『日本語指示体系の歴史』

 本書は,一般に「コソアド言葉」といわれている指示表現のうち,とくに「コ・ソ・ア(カ)」という3系列の指示詞と,人称体系との関わりについて,上代語,近世後期の江戸語,および現代語を対象に,歴史的な観点から考察したものである。第1章「指示詞研究の視点と課題」では,指示詞研究の理論的な側面と研究史的な背景とに言及する。第2章「現代日本語の指示体系」では,佐久間鼎の仮説を検証し,「ソ系」指示詞が「非一人称」にも関わることを論じる。第3章「上代から近世までの指示体系の歴史」は,指示表現が現代語に到達するまでの用いられ方,人称体系との関わり方について考察する。第4章「古代中国語と日本語の人称体系―三人称代名詞の成立を中心に」では,日本語の指示体系と人称体系について確認したことについて,中国語を対象に可能性を検証しする。また,古代中国語と日本語との関わりの一つのありかたとして,三人称代名詞の成立に触れている。なお,本書は京都大学に提出された博士学位論文と,既発表論文とを全面的に書き改めたものである。

(2002年5月30日発行 京都大学学術出版会刊 A5版縦組み 462ページ 5,200円)

林忠鵬著『和名類聚抄の文献学的研究』

 本書は,中国を母語とする研究者による古辞書の研究で,神戸学院大学に提出された博士学位論文を修訂し,刊行された。蔵中進氏の序文によれば,本書のねらいは,次の二つのことにあるという。一つは,狩谷斎が『箋注倭名類聚抄』に取り上げた十巻本本文(京本)の性格を明らかにするための十巻本諸本の校勘作業(第1章〜第5章)である。もう一つは,『和名類聚抄』中に典拠として引用されている漢籍,とくに逸書に関する研究(第6章)である。第1章は,「『和名類聚抄』研究の歴史」。第2章は,「十巻本と廿巻本の対立」で,十巻本独自異文を中心に考察している。第3章は,「十巻本諸本の校合」で,箋注本と十巻本諸本を校合・検討している。第4章「箋注本の枠線付き條の検証」は,狩谷斎が「存疑」という形で残した部分についての考察。第5章「『類聚名義抄』所引『和名抄』の諸問題」では,筆者が十巻本引用説も否定できない結論に至ったことを述べる。第6章「『和名抄』の引用書について」では,とくに『藝文類聚』『切韻』『兼名苑』との関係を分析。なお,テキスト『十巻本和名類聚抄』を公刊準備中とのことである。

(2002年4月11日発行 勉誠出版刊 A5版縦組み 668ページ 25,000円)

木村晟著『駒澤大学国語研究資料別巻1 中世辞書の基礎的研究』

 本書は,『駒澤大学国語研究資料』(全7巻)の別冊として出版されたもので,中世韻書の二大系列を成す,『平他字類抄』基づく韻書群と,『聚分韻略』に基づく韻書群とについての解題・研究である。序章は,「中世韻書の成立と研究課題」。第1章は「『平他字類抄』とそれに基づいて成立した「色葉字平他」類の韻書」,第2章は,「『聚分韻略』とそれに基づいて成立した「略韻」類の韻書」である。第3章「『平他字類抄』と『聚分韻略』の双方に基づいて成立した韻書」では,『新韻集』『伊呂波韻』を,さらに付章「韻書と併用された韻事のための辞書」では,『国花合記集』『下学集』を解説する。第1章〜第3章,および付章は解題を中心としており,時代背景や聯句との関係も解説されている点が特徴的である。終章「中世韻書の系列と特色」では,第1章〜付章で扱った韻書について,それぞれの位置づけや意義,実用性などに言及している。また,付載資料として,各種統計・一覧表が示されている。

(2002年5月発行 汲古書院刊 A5版縦組み 618ページ 12,000円)

石橋玲子著『第2言語習得における第1言語の関与 ―日本語学習者の作文産出から―』

 第2言語で作文をするとき,第1言語がいかに関わるかを,認知心理学的視座から捉えようとした書である。第1章「序論」で,従来の見解と問題点,この研究の目的・意義を述べたあと,第2章「日本語学習者の作文産出過程」では,作文産出の際,第1言語がどのように関与しているかについて,日本語を第2言語として習得している学習者に焦点を当てて考える。さらに,第3章「作文産出における第1言語使用の効果―質と量について」,第4章「作文産出に第1言語使用が及ぼす影響と学習者の第1言語使用意識」では,第1言語の効果・影響,および誤用分析を行う。第5章「学習者の産出作文へのフィードバック」は,自己訂正能力,フィードバックに対する学習者の認識と対応についての研究を行う。また,第6章「結論」で, 第2言語の作文指導上の示唆や今後の課題が述べられる。なお,本書は,平成11年度にお茶の水女子大に提出した博士論文を一部加筆・修正し,まとめたものである。

(2002年1月31日発行 風間書房刊 A5判横組み 146ページ 6,200円)

日本方言研究会編『21世紀の方言学』

 方言の消滅・共通語化という事態に対処しうる,有効な方法論を追求した論文集である。これまでの方言学の水準と,これからの方言学の方向を知ることができる。全体は7章から構成されている。

(2002年6月29日発行 国書刊行会刊 A5判横組み 434ページ 8,000円)

宮岡伯人著『「語」とはなにか ―エスキモー語から日本語をみる―』

 本書は,「語」という単位が長年正当に扱われて来なかったと見る立場から,「語」を言語の根本問題ととらえ,その「語」が生じる基盤について考えたものである。また,副題に見られるように,日本語の「語」という単位をどのようなものと考えるべきかという問題について,エスキモー語との対照により考察を行っている。著者は,「語」が,機能や意味の問題から一方的に規定されるような存在ではなく,あくまでも形態の問題として独自に設定されるべき単位であることについて論じている。それとともに,日本語については,いわゆる助詞・助動詞と呼ばれてきたものについて,接尾辞と後倚辞という区別を導入するなど,形態法についてさまざまな提案をしている。言語学上の基本問題を捉え直すという原理的考察,英語などに比べあまり例が多くないエスキモー語との対照,そこから見えてくる日本語の姿など,幅広い角度から読まれうる著作である。

(2002年7月15日発行 三省堂刊 A5判横組み 210ページ 2,000円)

井上史雄・鑓水兼貴編著『辞典〈新しい日本語〉』

 日本各地から集められた新方言(新しく使われ始めた,従来とは別形の語など)の辞典である。若者を中心に行われている言語変化の一側面を観察することができる。レポート・論文等の報告,現地の研究者の報告のほか,補正としての作例やインターネットから集めた使用例を加え,小項目辞典の体裁に編集したものである。次に記述例を挙げる。

マーゴツ 「大変、とても」。熊本の若者;老年層の「(メノ)マウゴツ」から意味用法が変化したもの(吉岡1990)。熊本市周辺の10代の3分の2使用、県北部東部は約半数、県西部南部はわずか;伝統的方言ではタイギャ(村上1996)。<HP>2.「まーごつはらんへっとるつばい!ぬすけちか!」(熊本弁解説)→マウゴツ

 各見出し語ごとに,意味,説明,用例などを示している。説明はさまざまな報告を引用する形式で構成されており,出典は巻末に「出典文献一覧」としてまとめられている。そのため,辞典であると同時に,新方言に関する文献一覧としての性格をもっている。このほか,飾り罫の囲み記事として,術語項目(たとえば,疑似疑問イントネーション,結果態など)の説明も各所に配されている。

(2002年6月10日発行 東洋書林刊 A5判横組み 367ページ 4,500円)

大津由紀雄・池内正幸・今西典子・水光雅則編『言語研究入門 ―生成文法を学ぶ人のために―』

 認知科学の立場から書かれた生成文法系言語研究の入門書である。編著者は,本書において,「こころ」(内的処理機構)の構造と機能を明らかにすることを目的に行われる言語研究について,平易に説明し,さらなる深い研究へと誘うことを目指している。その立場は,第1章「こころを探る言語研究:なぜ言語を研究するのか」(大津由紀雄)や,第18章「言語研究の現状と今後の展望」(大津由紀雄・池内正幸・今西典子)に色濃く表されている。また,各章の終わりには,読書案内が設けられている。ここでは,分野ごとに基本的かつ重要な1冊を紹介している。付録として,コーパス言語学,事例研究,音の記号などについても触れられている。  なお,章立ては以下のようになっている。

(2002年4月25日発行 研究社刊 A5判横組み 316ページ 3,500円)

国立国語研究所編『対照研究と日本語教育』

 国立国語研究所による,「日本語と外国語との対照研究」シリーズの10冊目である。これまでに刊行された9冊の蓄積をふまえながら,対照研究の意義,対照研究と日本語教育との関係,などに関する基本的な問題について考えようとしたものである。平成2年から国立国語研究所日本語教育センターで,対照研究に携わってきた研究者の論文11編を収める。全体は3部に分かれている。

(2002年3月31日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 168ページ 2,500円)

飛田良文・佐藤武義編『現代日本語講座 第6巻 文字・表記』

 文字・表記の研究に関する,現時点での総合的な概説を記したものである。各論文の題名・筆者名は以下の通りである。

 なお,第1巻から順に,「言語情報」「表現」「発音」「語彙」「文法」を扱ってきた現代日本語講座のシリーズはこの巻をもって完結を迎えた。

(2002年5月30日発行 明治書院刊 A5判縦組み 245ページ 3,000円)

飛田良文著『知の蔵書21 明治生まれの日本語』

 明治時代に新たに使われるようになった言葉を取り上げ,その作られ方(あるいは転用の経緯)や,文化的背景などについて解説したものである。ひとつの言葉を追いかけて行ったときに見えてくるさまざまな事柄の広がりに驚かされる。語誌的観点からも,文化史的観点からも,興味深い読み物となっている。第1章「文明開化が生んだ日本語」では「東京,電報,年賀状,駅,時間,世紀」,第2章「新しい家族をつくった日本語」では「彼女,印象,恋愛,新婚旅行,家庭,衛生,冒険」,第3章「庶民の造語,知識人の造語」では「ちゃう,ぽち,より…,個人,権利,常識,科学,哲学」を扱う。なお,本書は月刊誌『なごみ』(淡交社)に,1999〜2001年にかけて連載されたものに修正を加え,新たに編集したものである。

(2002年5月13日発行 淡交社刊 B6判縦組み 223ページ 1,800円)

山口幸洋著『方言・アクセントの謎を追って』

 著者の研究者としての人生を振り返り,方言の調査研究を始めるに至ったきっかけ,学者や学界との交流,家業との両立,博士論文とそのいきさつなど,さまざまなことを記した自伝的著作である。また,アクセントに関する著者の自説(一型アクセント原初論)が,体験・調査などの長い間の積み重ねにによる裏付けに基づくものであることが述べられる。さらに,他の研究者からの手紙が引用されている部分や,交流があった研究者の言葉や態度が記されているところがあり,学史上の興味という観点から読むこともできる。

(2002年4月20日発行 悠飛社刊 B6判縦組み 182ページ 1,800円)

李練著『朝鮮言論統制史 ―日本統治下朝鮮の言論統制―』

 日本の朝鮮統治において言論統制がどのように行われたかを,資料に基づき総合的に分析したものである。具体的には,当時の国内外の情勢,関連人物,法制度,組織に関して調べ(言論史の空白を埋めるべく)史実を明らかにしようとしたものである。新聞放送学科の教授である著者の手法は,新聞をはじめとするマスメディア形成の歴史的事情を明らかにするとともに,それらが「何を」「どのように」伝えたかという点を重視するというものである。扱われている内容は,朝鮮における近代新聞の成立,斎藤総督の言論統制政策,関東大震災と言論統制,小磯総督の出版物統制などである。

(2002年3月28日発行 信山社出版刊 A5判横組み 545ページ 15,000円)

馬瀬良雄監修 佐藤亮一・小林隆・大西拓一郎編『方言地理学の課題』

 1999年に亡くなったグロータース神父の追悼論文集である。日本方言地理学の発展,成果,水準を記し,それに対してグロータース神父が果たした役割を明らかにするとともに,方言地理学の今後の指針を探る。また海外の方言地理学についても紹介する。内容は以下の通りである。

(2002年5月20日発行 明治書院刊 A5判横組み 526ページ 15,000円)

宮崎和人・安達太郎・野田春美・高梨信乃著『新日本語文法選書4 モダリティ』

 文の叙法性(モダリティ)の形式と意味の関係を体系的に記述することを目的として書かれたものである。従来のモダリティ論を紹介した後,「モダリティとは,言語活動の基本単位としての文の述べ方についての話し手の態度を表し分ける,文レベルの機能・意味的カテゴリーである。」(p.7)と規定する。単語レベルの形態論的カテゴリーをムードと呼び,これを基盤として他の文法的・語彙的手段を交えながらモダリティが組織化されているとする。モダリティーの細部を論ずるにあたっては,実行(第1部)と,叙述(第2部)の両モダリティの対立を軸とし,前者を意志・勧誘(第1章),命令・依頼(第2章),後者を評価(第3章),認識(第4章)のモダリティに分けて論ずる。さらに,意味・機能面から,疑問(第3部)を扱い,ここには質問と疑い(第5章),確認要求(第6章)のモダリティを配する。そして,テクスト・談話とモダリティ(第4部)で,叙述・疑問において分化する説明のモダリティ(第7章),実行・叙述・疑問すべてにかかわる終助詞のモダリティ(第8章)を論ずる。

(2002年6月15日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 325ページ 3,000円)

仁田義雄著『新日本語文法選書3 副詞的表現の諸相』

 命題の内部で働く副詞的な修飾成分を,できる限り組織的体系的に分析・記述していこうとする研究をまとめたものである。副詞的修飾成分が様々に下位分類されることを示し,その意味や統語的機能を,文の意味・統語構造と関連させながら分析・記述している。語彙的な面にかかわる部分が大きい副詞の領域に関して,このような形にまとめられることを示したことは今後の副詞論を考えるうえでの基礎を築いたという意味がある。第1章「はじめに」,第2章「文の成分」で準備をしたあと,第3章「副詞的修飾成分の概要」で副詞的成分の下位的タイプについて説明し,その各々について,第4章「結果の副詞」,第5章「様態の副詞とその周辺」,第6章「程度量の副詞」,第7章「時間関係の副詞とその周辺」,第8章「頻度の副詞とその周辺」の各章で詳しく説明している。

(2002年6月15日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 325ページ 3,000円)

久島茂著『くろしおχブックス4 《物》と《場所》の意味論 ―「大きい」とはどういうこと?―』

 前著『《物》と《場所》の対立―知覚語彙の意味体系―』(『国語学』207号に新刊紹介あり。)の入門編として,語彙体系を追うということがどのようなことなのかをわかりやすく述べたものである。ハンカチの面積は「大きさ」と言うが,花壇の面積「広さ」というのはなぜかなど,身近な疑問から出発して,語の意味・用法の研究に誘う。そして,平易に《物》と《場所》との対立の重要性を指摘する。さらに,そこから人間のものの考え方,世界の把握のしかたの一端を探ることができるのではないかと述べる。

(2002年5月10日発行 くろしお出版刊 B6判縦組み 214ページ 1,600円)

千野栄一著『言語学フォーエバー』

 2002年3月に亡くなった著者のエッセイ集である。各文章は,以前に出版された『言語学の散歩』,『言語学のたのしみ』,『注文の多い言語学』の3冊から選ばれたものである。ただし,最終章「[遺稿]私の考える言語学」は書き下しで,亡くなる1週間前に書かれたものであるという。そのなかで,著者は,言語学を志す者へ,次のような言葉を記している。「真の言語学を学ぼうと思ったとき,それに一番近い道は,自然言語を素材とし,言語とその部分の関係を追求する言語学を学ぶことである。その学ぶ対象の言語が母語であってももちろんかまわないが,一つの母語以外の言語であって,特にこれまで研究されていない言語であれば,その研究は実におもしろく,しかも学問にとって,これまで知られていない有益な知識を加えていくことになる」(p.266)。

(2002年7月1日発行 大修館書店刊 B6判縦組み 278ページ 2,200円)

佐藤亮一監修 小学館辞典編集部編『お国ことばを知る 方言の地図帳』

 『日本方言大辞典』所収の方言地図(国立国語研究所編『日本言語地図』に基づいた略図)178点と音韻地図14点とに解説を付けたものである。原則として,見開きの左ページに言語地図,右のページにその解説という体裁をとっている。方言地図に取りあげられた語は,自然,人間と生活,動植物の項に分けられている。また,音韻編ではカ行子音,ハ行四段動詞の音便形などの項目が扱われる。巻末には「方言の基礎知識」と題された解説がある。また,付録として,CDに録音された「お国ことばで聞く桃太郎」があり,全国14か所の方言話者に昔話「桃太郎」の冒頭を語ってもらったものを収録している(約13分)。なお,本書は1991年刊行の『方言の読本』を増補・改訂したものである。

(2002年7月20日発行 小学館刊 A5判縦組み 366ページ 2,500円)