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新刊紹介 (55巻2号(217号)掲載分)

「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『国語学』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)

倉島長正著
 『国語100年―20世紀,日本語はどのような道を歩んできたか―』
 『国語100年の鼓動―日本人なら知っておきたい国語辞典誕生のいきさつ―』

 『国語100年―20世紀……』は国語政策を中心に,日本語の歩みを見ようとしたものである。第1部では,国語調査会発足から,2000年の国語審議会廃止までの1世紀を対象として,それらの会のいきさつや変遷,どのような問題がどのように扱われてきたかを追っていく。第2部では,漢字制限・仮名遣いなどの問題も絡めながら,漢字仮名交じり文について述べている。他に,日本書房西秋松男氏からの聞き書きが収められており,さらに「日本語100年略年表―付,その主潮」という6ページ程度の付録がある。

 『国語100年の鼓動……』は『「国語」と「国語辞典」の時代』上・下巻(小学館1997年)を母体とし,大型国語辞典の歴史に焦点を絞って記述して,加筆・訂正を加えたものである。

(2002年5月20日発行 小学館刊 B6判縦組み 288ページ 2,500円 ISBN 4-09-387378-X
(2003年3月20日発行 小学館刊 B6判縦組み 318ページ 2,500円 ISBN 4-09-387416-6

『日語研究』編輯委員会編 『日語研究』第一輯

 中国在住の中堅の日本語研究者が中心となって新しく発刊された日本語研究の専門誌。第一輯は,特別寄稿「カテゴリー的多義の比較」(宮島達夫)のほか,投稿論文13編と書評「評兪暁明著《現代日語副詞研究》」(徐一平)からなる。投稿論文としては,「語料庫語言学与日漢対比語言学(コーパス言語学と日中対照研究)」(曹大峰),「福沢諭吉著作中的四字語(福沢諭吉の著作における四字熟語)」(彭広陸),「日漢翻訳中的宏観把握(日中翻訳におけるマクロ的把握)」(続三義)などが掲載されている。投稿規定には,「特約論文を除き,中国語の原稿のみ受理する」と明記されている。

(2003年3月発行 商務印書館(北京)刊 A5判横組み 249ページ 24人民元)

馬瀬良雄著 『信州のことば―21世紀への文化遺産―』

 信州のことばについての案内書・概説書である。4章から成る。

 第1章「信州・方言紀行」は,中信・南信・東信・北信・奥信濃のことばの違いを紹介したものである。あるひとつの共通語談話を提示し,各地域の話者に自地域のことばで翻訳してもらう。それによって各地域のことばの違いを明示し,その解説を行う。第2章「東西両方言の対立と信州方言」は,日本の方言を東西に分けた場合,信濃が境界線上の地域であることから,東西両方言の歴史的基本特徴や研究史に触れつつ,その対立から見た信州方言について述べる。第3章「信州・ことばと生活」は,生活・文化・環境の面から,信州のことばを捉えたものである。ことばと自然,ことばと生業などのテーマが扱われる。第4章「ことばの喫茶室・信州」は,長野市民新聞の連載をまとめたものである。「飲マズ」「ナナ―ト(禁止表現)」など,個々の単語や文法形式についての読み物を33項目挙げている。

 章立ては次のようになっている。

第1章 信州・方言紀行
第2章 東西両方言の対立と信州方言
第3章 信州・ことばと生活
第4章 ことばの喫茶室・信州

(2003年6月15日発行 信濃毎日新聞社刊 A5判縦組み 412+10ページ 3,000円 ISBN 4-7840-9937-9

藤原与一著 『日本語学シリーズ5 言語生活の学―方言学の発展―』

 言語生活の観点から,方言のさまざまな事象を扱ったものである。

 「言語生活の学」について著者は「言語学思念の最初に識得されるものであり,かつは,言語学の最後に,学として認識されるべきものであろう」(序説より引用)と記している。扱われている内容は,呼びかけ,あいさつ,文表現の文末決定性,文末詞の世界,情と理と,動詞,修飾語詞,などであるが,扱う内容を章名にし,それに対するコメントを述べるという形式になっている。

 なお,本巻は日本語学シリーズの最終巻である。同シリーズの既刊は『実用音声学』,『文法学』,『「現代語」学』,『現在学トシテノ方言学』である。

 構成(部立て)は以下のようになっている。

1 言語生活の学 本篇
2 言語生活の学 続篇
3 言語生活の学 結語

(2003年6月15日発行 武蔵野書院刊 A5判横組み 78ページ 3,500円 ISBN 4-8386-0208-1

平山輝男編者代表 佐藤和之編『日本のことばシリーズ2 青森県のことば』
平山輝男編者代表 中井精一著『日本のことばシリーズ29 奈良県のことば』

 『現代日本語方言大辞典』を基礎として,さらに各地の方言を詳述しようとする「日本のことばシリーズ」の第2,29巻である。既刊の巻と同様,各県ごとの方言ハンドブックであり,その方言の特色,位置付け,県内各地域の特徴を記述し,さらに「方言基礎語彙」と名付けた基礎語に関する辞典も収める。これは全国的に調査した項目について,その五十音順に,それに当たる当該県の方言を挙げるという形式となっている。また,俚言,生活の中のことばなどについての章も用意されている。

 青森県の執筆者は,佐藤和之・櫛引洋一で,「方言基礎語彙」の部分には大島一郎・大野真男・久野真・久野マリ子・平沢洋一の名前が挙げられている。奈良県については,「方言基礎語彙」の部分が久野マリ子,それ以外は中井精一執筆となっている。

 なお,章立ては(両巻とも)次のようになっている。

1 総論
2 県内各地の方言
3 方言基礎語彙
4 俚言
5 生活の中のことば

(2003年6月20日発行 明治書院刊 A5判横組み 286ページ 2,800円 ISBN 4-625-62303-0
(2003年6月20日発行 明治書院刊 A5判横組み 254ページ 2,800円 ISBN 4-625-62304-9

原口庄輔・中島平三・中村捷・河上誓作編 西垣内泰介・石居康男著 『英語学モノグラフシリーズ13 英語から日本語を見る』

 英語で得られた知見を出発点にして,日本語の現象を論じていこうとするものである。なお,土台になっているのは生成文法(原理とパラメータのアプローチ)であり,それを前提としている。

 第1章「序論」に続き,第2章「日本語の語順と構造」では量化表現の作用域,束縛理論,投射仮説に触れつつ,語順や構造の問題やそれに関連する現象について論じている。第3章「名詞句移動」では,繰り上げの有無,受動文の型,非対格文の解釈などの検討を行っている。第4章「日本語のWH構文」では疑問語疑問文を取りあげ,英語との違いを比較し,「かきまぜ」や論理形式における再構成の問題を扱う。第5章「主要部移動」では,主要部移動をどのように解釈するかについて諸論考の主張や,その相違の分岐点を提示しながら,いくつかの可能性を検討している。

 章立ては次のようになっている。

第1章 序論(西垣内泰介)
第2章 日本語の語順と構造(西垣内泰介)
第3章 名詞句移動(石居康男)
第4章 日本語のWH構文(西垣内泰介)
第5章 主要部移動(石居康男)

(2003年6月30日発行 研究社刊 A5判横組み 212ページ 2,800円 ISBN 4-327-25713-3

辻幸夫編 『シリーズ認知言語学入門1 認知言語学への招待』
吉村公宏編 『シリーズ認知言語学入門2 認知音韻・形態論』
松本曜編 『シリーズ認知言語学入門3 認知意味論』

 「入門」と銘打った全6巻のシリーズである。構成は,上記3巻のほか,第4,5巻が『認知文法論I,II』,第6巻が『認知コミュニケーション論』となっている。認知言語学のすべての分野にわたる内容を網羅し,この分野に興味を持った人が,全体像を掴めるようになっている。

 第1巻『認知言語学への招待』は認知言語学の誕生とその基本的な考え方を述べる。第2巻『認知音韻・形態論』では,認知言語学では,必ずしも中心的な課題ではなかった「音韻・形態・語彙論」などを,認知の観点から扱っていくという試みを行っている。第3巻『認知意味論』は,従来の研究を批判的に検討しながら,その基本的な考え方を紹介している。

 章立ては次のようになっている。

●第1巻『認知言語学への招待』
第1章 認知言語学の輪郭(辻幸夫)
第2章 認知言語学の史的・理論的背景(野村益寛)
第3章 認知言語学の基本的な考え方(本多啓)
第4章 概念形成と比喩的思考(菅井三実)
第5章 認知から見た言語の構造と機能(塩谷英一郎)
第6章 認知言語学の周辺領域(森芳樹)
 
●第2巻『認知音韻・形態論』
第1章 認知音韻論(熊代文子)
第2章 認知形態論(黒田航)
第3章 認知音韻・形態論とコネクショニズム(出口雅也)
第4章 認知語彙論(吉村公宏)
第5章 認知語彙論と構文の習得(児玉一宏)
 
●第3巻『認知意味論』
第1章 認知意味論とは何か(松本曜)
第2章 語の意味(松本曜)
第3章 意味の拡張(籾山洋介・深田智)
第4章 多義性(籾山洋介・深田智)
第5章 メタファー表現の意味と概念化(高尾享幸)
第6章 意味の普遍性と相対性(井上京子)

(2003年7月1日発行 大修館書店刊 A5判横組み 283ページ 2,300円 ISBN 4-469-21281-4
(2003年7月1日発行 大修館書店刊 A5判横組み 295ページ 2,400円 ISBN 4-469-21282-2
(2003年7月1日発行 大修館書店刊 A5判横組み 322ページ 2,400円 ISBN 4-469-21283-0

北原保雄監修 荻野綱男編 『朝倉日本語講座9 言語行動』

 言語行動について,基本的な考え方と,その研究が扱う多様なテーマの一端を示したものである。

 第1章は日本人の言語行動の概観について。第2章は国際化・情報化について述べた後で「察し」「質問しない」「ウチとソト」などについて考察する。第3章は教室でのディスコースが子供に与える影響について。読み書き能力と認識の問題なども扱う。第4章は村落共同体を典型とする社会における言語行動などを扱う。第5章は敬語と方言,ことばの使い分けなどについて。第6章は関西圏の場合を事例とし,方言と共通語の使い分けの様相を見ていく。第7章は多言語の使い分けとその要因。第8章は対照語用論から見た,外国人とのコミュニケーションについて。第9章はワープロ,Eメールなどが言語行動に与える影響について。第10章はポケベル,携帯電話と言語行動について。第11章は言語行動調査法の概観とその問題点。第12章は言語行動の研究史をミクロ・マクロ的研究に分けて見ていく。

 章立ては次のようになっている。

第1章 日本の言語行動の過去と未来(J=V=ネウストプニー)
第2章 日本人の言語行動の実態(江川清)
第3章 学校での言語行動(内田伸子)
第4章 近隣社会の言語行動(沖裕子)
第5章 地域社会と敬語表現の使い分け行動(佐藤和之)
第6章 方言と共通語の使い分け(真田信治)
第7章 日本語と外国語の使い分け(ダニエル=ロング)
第8章 外国人とのコミュニケーション(西原鈴子)
第9章 電子メディア社会の言語行動(橋元良明)
第10章 若者の言語行動(松田美佐)
第11章 言語行動の調査法(荻野綱男)
第12章 言語行動の研究史(渋谷勝己)

(2003年7月10日発行 朝倉書店刊 A5判横組み 268ページ 4,500円 ISBN 4-254-51519-7

山内洋一郎著 『活用と活用形の通時的研究』

 文法史(活用)に関する論を集めたものである。

 序章「古代の動詞活用と文終止法」で,活用変化と連体形終止文の基本的把握,問題点を示したあと,第1部「活用の通時的研究」で,二段動詞の一段化,下一段動詞,ナ行変格動詞についての研究史とそれらについての論考を展開する。次に第2部「連体形終止法の研究」では,時代ごとの連体形終止の様相を見ていき,さらに,連体形終止の関連語法(終助詞「は」の成立,助動詞「うず」,助動詞「ベシ・マジ」など)について扱う。また,連体形終止法の逆行現象を否定する論も収められている。

 論の多くは既発表論文に基づくが,その後の研究の進展に伴い,資料面の検討,他の説への言及(「補説」を参照のこと)など,修正が施されている。

 章立ては次のようになっている。

 序章 古代の動詞活用と文終止法
第1部 活用の通時的研究
 第1章 二段活用動詞の一段化
 第2章 下一段動詞「蹴る」
 第3章 ナ行変格動詞「いぬ」「死ぬ」
第2部 連体形終止法の研究
 第1章 奈良時代の連体形終止
 第2章 平安時代の連体形終止
 第3章 院政期の連体形終止
 第4章 連体形終止の関連語法
 第5章 連体形終止法の逆行現象の否定―ナ変動詞の五段化はなかった―

(2003年7月10日発行 清文堂出版刊 A5判縦組み 300ページ 8,000円 ISBN 4-7924-1377-X

井上史雄著 『講談社現代新書1672 日本語は年速一キロで動く』

 新方言を主題とし,その伝達様式・速度について述べたものである。

 第1章「逆流による東京新方言」,第2章「西日本の新方言」,第3章「全国各地の新方言」で,具体的な単語や文法形式に触れ,分布図やグロットグラムを例示しながら,新方言とはどのようなもので,どのような変化をしているかについて述べる。第4章「伝わり方の今と昔」で年齢差を利用した変化把握,過去の文献を利用した考察を展開する。前者で短期的な,後者で長期的な変化を観察している。第5章「全国への広がり方」では,伝達速度について考え,「方言年速総合地図」として示す。第6章「ことばが変わるしくみ」では,まとめとして,変化速度を知る手がかり・方法・留意点を示し,新方言の伝達要因などについて論ずる。

 全体としては,細かな議論をするのではなく,わかりやすさを旨とし,さらに著者のアイディア(これから研究され,その正否が確認されるような示唆)が盛り込まれている。

 章立ては次のようになっている。

第1章 逆流による東京新方言
第2章 西日本の新方言
第3章 全国各地の新方言
第4章 伝わり方の今と昔
第5章 全国への広がり方
第6章 ことばが変わるしくみ

(2003年7月20日発行 講談社刊 新書判縦組み 220ページ 700円 ISBN 4-06-149672-7

三尾砂著 『三尾砂著作集II』

 『話しことばの文法(改訂版)』法政大学出版局(1958),および「『話しことばの文法』を書き終えて」(『実践国語』9-212 穂波出版社(1958)所収)を収めたものである。後者は前者に対する著者自身の解題となっている。内容は,話しことば,「場」,ことばづかいの構造と文体などについて述べたあと,品詞,活用と続き,動詞,形容詞の各説へと進む。さらに「だ」「です」「ます」や「だ体」「です体」など,文体について述べ,次に,後の複文研究に影響を与えた「文の内部におけるていねいさの表現」「接続部における「です体」形」などの問題が扱われる。本書の今日的意義は,話しことばに取り組んだ先見性と考え方の柔軟性を味わう点にある。文法研究において,形態や構文だけでなく,コンテクストに目をむけることの重要性が再認識されている現在において,読者に刺激を与える著作と言えるのではないだろうか。

 目次は以下のようになっている。

1 話しことばと文法
2 場とことばづかい
3 ことばづかいの構造と文体
4 品詞と文の成分
5 文体形と活用形
6 話しことばにおける動詞
7 話しことばにおける形容詞
8 「だ」
9 「だ体」
10 「です体」
11 「です」
12 「ます」
13 「ございます」
14 文の内部におけるていねいさの表現
15 接続部における「です体」形
16 半終止と文体
17 連体部における「です体」形
18 敬譲語におけるていねいさの表現
19 女ことば
[付説]動詞の変化について―素朴な疑問から―
「話しことばの文法」を書き終えて

(2003年7月30日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 334ページ 2,800円 ISBN 4-89476-163-7

王学群著 『現代日本語における否定文の研究―中国語との対照比較を視野に入れて―』

 否定の基本的性質を検討したうえで,テンス・アスペクトがからんだいくつかの否定形式の意味・用法を記述・分析したものである。特色としては,形態的・構文的な観点だけではなく,「場」を重視し,文脈における否定を視野に入れている点,中国語を補助線として使っている点などが挙げられる。

 全体は3部に分かれる。第1部「序論」では,第1章で,否定と肯定を対立として捉えることの重要性など,言語学研究会で論議されてきた基礎的事項を確認する。第2章ではテキストにおける肯否の問題を扱い,否定の肯定への依存,否定を条件付ける場における肯定的事態の想定の存在などについて述べる。第3章はテンス・アスペクトの概観。第4章は日中両語の否定の形態論的な違いについて。第5章は使用資料一覧である。第2部「本論」では,第1部で準備した内容を踏まえつつ,会話と地の文の場合とに分け,「しない」「しなかった」「していない」「していなかった」の意味と用法について,どのように使用されているのか,何が表されているのかを観察・記述している。これらが,中心であるが,他に,動詞の否定が動きを離れて特徴・性質を表すようになる現象についても考察している。第3部は結論をまとめた部分である。

 なお,本書は博士論文(1997年学位取得)をもとに,加筆・修正を行ったものである。

 章立ては次のようになっている。

第1部 序論
 第1章 否定の概観
 第2章 テキストにおける肯定と否定
 第3章 アスペクト・テンスの基本的な意味
 第4章 日中語の形態論における否定の相違
 第5章 使用資料
 
第2部 本論
 第1章 会話文における肯定と否定
 第2章 会話文における個々の否定形の意味用法
 第3章 地の文における肯定と否定
 第4章 地の文における個々の否定形の意味用法
 第5章 否定文の特殊化現象
 
第3部 結論

(2003年8月8日発行 日本僑報社刊 A5判横組み 285ページ 8,000円 ISBN 4-931490-54-9

千葉勉・梶山正登著,杉藤美代子・本多清志訳 『母音―その性質と構造―』

 本書は,Tsutomu Chiba and Masato Kajiyama 『THE VOWEL - Its Nature and Structure』(Tokyo - Kaiseikan , 1942)を翻訳したものである。当時のこの領域の状況がよくわかるように訳者による注が付されている。原書は,母音に関する画期的な研究であり,20世紀後半の音声研究に広く影響を及ぼし,世界的名著と言われてきた。殊に,音声学・生理学・物理学的な観点を結び付けて実証を進めた点が評価されている。

 全体は4部に分かれる。第1部「喉頭の働き」では声の発生源としての喉頭の機能を解明する。第2部「母音の生成機構」では(当時の)母音諸理論を考察し,「共鳴」の定義の不明確さを指摘したうえで,その基礎的な検討を行っている。第3部「声道の計測と自然周波数の計算」では,声道の計測と自然周波数の計算を行い,声道と,母音の特徴周波数との対応関係を明らかにしている。第4部「母音の性質に関する主観的研究」では,聴覚に関わる考察を行う。異なる話者による同じ母音の発音を同じと感じるのはなぜかという問題について,レコードの速度を変える実験やフィルタ処理による実験などを行って考察し,空間パタン理論を提唱している。

 なお,巻末解説は前川喜久雄が執筆している。

 部立ては次のようになっている。

第1部 喉頭の働き
第2部 母音の生成機構
第3部 声道の計測と自然周波数の計算
第4部 母音の性質に関する主観的研究

(2003年8月26日発行 岩波書店刊 A5判横組み 262ページ 9,800円 ISBN 4-00-002107-9

高山寺典籍文書総合調査団編 『高山寺古訓点資料第四』

 高山寺資料叢書の23巻目にあたる。また,高山寺蔵の古訓点資料から重要なものを紹介するシリーズの4冊目である。本書は,平安末期から鎌倉初期にかけての下記の資料八点を収めている。それぞれ,資料の影印,訳文,訓点要語索引,解題を載せる。

  1. 恵果和尚之碑文(担当:金水敏)
  2. 三教指帰巻中(担当:菅原範夫・松本光隆)
  3. 遍照発揮性霊集巻第五(担当:月本雅幸・松本光隆。ただし解題は月本雅幸。)
  4. 弁顕密二教論(担当:月本雅幸)
  5. 文鏡秘府論(担当:月本雅幸)
  6. 秘密漫荼羅十住心論(担当:近藤泰弘・小助川貞次・山本真吾。ただし書誌内容解題は小助川貞次,訓点解題は山本真吾。)
  7. 胎蔵界自行次第(担当:築島裕・沼本克明。ただし,書誌解題は築島裕。内容解題は沼本克明。)
  8. 阿弥陀念誦略私記 (担当:築島裕・沼本克明。ただし,書誌解題は築島裕。内容解題は沼本克明。)

(2003年8月27日発行 東京大学出版会刊 B5判縦組み 762ページ 30,000円 ISBN 4-13-026095-2

宮崎里司・ヘレン=マリオット編 『接触場面と日本語教育―ネウストプニーのインパクト―』

 接触場面研究の発展に力を尽くしたネウストプニー氏の古稀を祝う記念論文集である。第1部には,理論的考察や応用方法論的実証研究が集められており,「日本語の外来性(foreignness):第三者言語接触場面における参加者の日本語規範及び規範の管理から」(サウクエン=ファン)を含む7編の論文を収載する。第2部には,接触場面や,その参加者の多様性に関連する内容を扱った論文が中心となっており,「Peer editing in academic contact situations」(ヘレン=マリオット)を含む計6編の論文を収める。第3部には,第二言語,外国語としての日本語教育などについての論文が収められており,「アクティビティと学習者の参加―接触場面にもとづく日本語教育アプローチのために―」(村岡英裕)を含む計11編を載せる。

 内容(論文一覧)は以下のとおりである。

第1部
日本語の外来性(foreignness):第三者言語接触場面における参加者の日本語規範及び規範の管理から(サウクエン=ファン)
共生言語の形成―接触場面固有の言語形成―(岡崎敏雄)
異文化理解教育の範疇と方向(李徳奉)
接触場面におけるカテゴリー化と権力(高民定)
接触会話の研究から会話の教育へ―電話会話の終結部に見られるコミュニケーション問題を中心に―(尾崎明人)
カタカナ表記逸脱における日本語学習者の脳波分析:事象関連電位(ERP)を応用した言語処理過程の研究(宮崎里司)
日本語アクセントの知識と言語管理(山田伸子)
第2部
Peer editing in academic contact situations(ヘレン=マリオット)
Parental role in children's first language maintenance : The case of Japanese school children in Melbourne(吉光邦子)
他言語職場の同僚たちは何を伝え合ったか―仕事関連外話題における会話上の交渉―(宮副ウォン裕子)
英語話者が日本語でコミュニケーションする際生じる問題(久保田満里子)
ディスコースから見た政府の役割に対するシンガポール人の個人言語管理―50代と20代の比較からの考察―(石田由美子)
初対面日本語母語話者間の会話に見られる敬語のバリエーションの研究(宮崎七湖)
第3部
アクティビティと学習者の参加―接触場面にもとづく日本語教育アプローチのために―(村岡英裕)
学習ストラテジーは学習の過程でどのように変化するか(伴紀子)
Learning from contact situations:Individual differences in the framing of performance activity(ロビン=スペンス=ブラウン)
「談話能力」の学習にむけて(中道真木男)
オーストラリアの中学校の日本語の授業を分析する:COLT Scheme を使って(浅岡高子)
日本語ボランティア場面における教師の「規範」と言語管理(加藤好崇)
ビジターセッション活動の意義とデザイン(横須賀柳子)
接触場面の教材化(鎌田修)
接触場面における言語現象の多元性―教材バンクの開発を目指して―(由井紀久子)
在外日本語教師の訪日接触場面(佐々木倫子)
多言語・多文化共生社会の実現に向けた日本語教師の役割(内海由美子)

(2003年9月10日発行 明治書院刊 A5判横組み 457ページ 9,800円 ISBN 4-625-43319-3

山口翼編 『日本語大シソーラス―類語検索大辞典―』

 異なり語数約20万(索引見出し語約3万2千)を擁するシソーラスである。類語辞典とは違い,文例・語釈はない。ある意味に近いことばを探したいときに,容易に検索できるという目的にしぼって構成されている。連想関係を重視した点,多義語に関しては重複を厭わなかった点,品詞別にしなかった点などの特色がある。内部の分類は,「抽象的関係」「位相・空間」「序と時間」「人間性」「人間行動」「社会的活動」「自然と環境」に大きく分かれ,それがさらに1044の小項目に細分されている。実際に使用するときには,索引(991〜1540ページ)を引き,その番号を頼りに本文ページを見るということになる。なお,著者は『ロジェズシソーラス』と『分類語彙表』を出発点にし,手探りでより良いものを作ろうとしたとのことである。

(2003年9月10日発行 大修館書店刊 A5判横組み 1549ページ 15,000円 ISBN 4-469-02107-5

神部宏泰著 『近畿西部方言の生活語学的研究』

 生活語研究の立場から言語研究や表現法研究を行い,その成果をまとめたものである。対象は兵庫県を中心とした地域である。

 第1章「特定文末詞の表現法」では,「ナ」「ヤ」「ヨ」などの文末詞の用法・機能について述べる。第2章「敬語表現法」,第3章「断定表現法」,第4章「接続表現法」,第5章「婉曲・間接表現法とその推移」でそれぞれの形式と表現について述べる。第6章「特殊表現法」では,連文における上昇調の問題,指示・呼びかけ,間投表現などを扱う。第7章「生活語の世界」では,女性の生活語,生活敬語法の推移,人間関係を築く話しことば表現の問題を扱う。いずれも,生活環境と人とことばのかかわりを重視していく立場からの観察である。結章「方言の表現とその特性―方言表現特性論の試み―」は,藤原方言学をさらに発展させようとする著者が方言研究の表現論的立場について論じたものである。

 章立ては次のようになっている。

第一章 特定文末詞の表現法
第二章 敬語表現法
第三章 断定表現法
第四章 接続表現法
第五章 婉曲・間接表現法とその推移
第六章 特殊表現法
第七章 生活語の世界
結章 方言の表現とその特性―方言表現特性論の試み―

(2003年9月20日発行 和泉書院刊 A5判横組み 406ページ 11,000円 ISBN 4-7576-0225-1

鈴木丹士郎著 『近世文語の研究』

 近世の文語は,平安時代の和文を基礎としつつも,漢文の要素の編入,その後の時代の変化(特に口語の影響)などにより,典型的な文語とは違っているところも多い。だが,従来は典型からの逸脱や誤用例として扱われるのみ,ということも少なくなく,それ自体をひとつの対象として総合的に深く考察しようという気運は近年になってやっと生じてきた。本書は,近世文語を研究対象として捉えようとするとき,どのような問題が視野に入ってくるかを考察するという課題に取り組んだものである。

 第1部は近世の文語に関する研究課題と研究の構想について述べている。第2部は動詞に関する論考で,四段動詞の下二段化,下二段・サ変動詞の四段化,というふたつの変化について考える。第3部は,主に形容詞・形容動詞の活用上の問題を取り扱う。第4部は副詞「かならず」「かならずしも」や,接続詞についての論が展開される。

 章立ては次のようになっている。


 第1章 近世文語研究の課題(上)
 第2章 近世文語研究の課題(下)
 第3章 近世文語と中古語法との距離―本居宣長の『玉あられ』を通じて―

 第4章 四段動詞の靡語形
 第5章 下二段動詞・サ変動詞の非靡語形

 第6章 形容詞補助活用の活用形造出ならびに機能拡大
 第7章 形容詞型活用助動詞の活用形造出とその用法の一面
 第8章 形容詞連用形「―く」と未然形「―から」の用法
 第9章 シク活用形容詞シシ語尾の展開
 第10章 ク活用形容詞の一類
 第11章 ヤカ型形容動詞の広がりとその性格(上)―曲亭馬琴の読本の場合を中心として―
 第12章 ヤカ型形容動詞の広がりとその性格(下)―曲亭馬琴の読本の場合を中心として―

 第13章 「かならず」と「かならずしも」―交錯から分化へ―
 第14章 接続詞の様相

(2003年9月20日発行 東京堂出版刊 A5判縦組み 283ページ 8,000円 ISBN 4-490-20503-1

山口幸洋著 『日本語東京アクセントの成立』

 アクセントをめぐる諸論考をまとめたものである。まず「まえがき」でアクセントには仲間を識別するフェロモンのような機能があるのではないかという見方を述べている。

 全体は,第1部「東京式アクセントの成立をめぐって」と,第2部「特殊アクセント諸方言の研究」と,「余録」に分かれている。第1部冒頭には,「日本語東京アクセントの成立」を配する。これは江戸語や東京アクセントについての通説を紹介し,それを批判しつつ自説を述べていく構成になっている。著者は「江戸語のアクセントは,当時の中部地方の外輪式アクセント分布圏から変化した,上方アクセントが浸透したところの西三河岡崎の中輪式アクセントである」(p.42)と述べ,さらに「現在東京を中心に関東に広まる東京アクセント(中輪式)は,西三河に,今の名古屋地方(内輪式)のように変わる前の段階で残ったタイプのアクセントが,天正18(1590)年の三河武士の集団移動によってもたらされて現在に残るもの」(p.53)であると述べている。この論考の他に「保科孝一講義録が伝える江戸語事情―東京アクセントの出自と定着」など,第1部には計12編,第2部には「準二型アクセントについて」を含め計8編,余録には「歴史地理とアクセントの分布」,あとがき,論文目録を収める。

 部立ては次のようになっている。

第1部 東京式アクセントの成立をめぐって
第2部 特殊アクセント諸方言の研究
余録

(2003年9月20日発行 港の人刊 A5判横組み 485ページ 12,000円 ISBN 4-89629-117-4