日本語学会

ホーム > 研究情報 > 新刊紹介 > 新刊紹介 (『日本語の研究』第4巻4号(通巻235号)掲載分)

新刊紹介 (『日本語の研究』第4巻4号(通巻235号)掲載分)

「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)

澤田美恵子著 『現代日本語における「とりたて助詞」の研究』

「とりたて助詞」自体の基本的な意味は単純であり,使用環境や話者の見方(期待や評価)により様々な意味が生まれるという立場から,「も,でも,さえ,しか,だけ,ばかり,こそ,など,なんか,なんて」について考察したものである。序章「「とりたて」という概念の創出」では,「とりたて」をめぐる研究史をたどる。第1章「認識的判断に関わる「とりたて助詞」」では,「も」の諸用法を検討し,「でも」「さえ」との共通点と相違点を分析する。また,韓国語との対照も行なう。第2章「限定に関わる「とりたて助詞」」では,「だけ」と「しか」の違いや,「ばかり」の限定以外の用法を扱う。第3章「評価的判断に関わる「とりたて助詞」」では,「PREFER値のスケール(命題に対する話し手の価値判断の尺度)」を提案し,「こそ」「など」「なんか」「なんて」の位置づけと関連性を指摘する。終章では,各章のまとめと今後の課題を示し,日本語教育への応用にも触れる。

内容は以下のとおりである。

(2007年12月3日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 210頁 3,800円+税 ISBN 978-4-87424-387-9

松本克己著 『世界言語のなかの日本語―日本語系統論の新たな地平―』

本書は言語類型論の視点から日本語の系統を論じたものである。第1章「日本語系統論の見直し―“マクロの歴史言語学”からの提言―」では,従来の比較言語学の枠組みを越えた発想が必要なことを言語類型論の立場から述べる。第2章「日本語・タミル語同系説批判」,第3章「日本語の系統と“ウラル・アルタイ説”」は,日本語系統の著名な仮説を批判したものである。第4章「類型地理論から探る言語の遠い親族関係―太平洋沿岸言語圏と環日本海諸語―」は本書の中心をなす部分である。流音・名詞の数カテゴリー・人称標示などの特徴により,ユーラシア内陸言語圏と太平洋沿岸言語圏を分け,さらに後者を南方群(オーストリック大語族)と北方群(環日本海諸語)に分け,日本語を北方群に位置づける。第5章「新説・日本語系統論―環日本海諸語とアメリカ大陸―」,第6章「環太平洋言語圏の輪郭―人称代名詞からの検証―」では,環太平洋言語圏の特徴を述べる。第7章「太平洋沿岸言語圏の先史を探る」では,歴史・考古学的側面から太平洋沿岸言語圏の成立と変遷を扱う。

内容は以下のとおりである。

(2007年12月10日発行 三省堂刊 A5判横組み 352頁 3,500円+税 ISBN 978-4-385-36349-3

藤村靖著 『音声科学原論―言語の本質を考える―』

本書は音声を新たな視点で捉え直そうとしたものである。著者の主張の眼目は,音声の生理学的・音響学的性質を踏まえて,時間関数としての音声現象を合理的に扱うならば,従来の音素単位ではなくシラブル単位の記述をするべきだというものである。そして,独自の音声学理論C/Dモデル(変換/分配モデル)により,CDダイアグラムを用いて音声を記述する。また,本書には,「唇の調音(labial articulation)は,言語学者や音声学者の間でも充分に理解されていないことの多い,簡単そうに見えてそうでない現象である。」(56頁より)や,「母音と子音の対比を物理的な観点から考えるためには,概念的に前者は静力学(statics),後者は動力学(dynamics)の問題であると捉えるのが有効だと思われる。」(84頁より)など,今後の音声研究の新たな展開の糸口を示すような記述が諸所に見られる。

内容は以下のとおりである。

(2007年12月19日発行 岩波書店刊 A5判横組み 248頁 4,000円+税 ISBN 978-4-00-022392-8

今石元久編 『音声言語研究のパラダイム』

音声言語研究に関する論考20編を,五つのテーマ(分節,超分節,音声言語データ,音声言語の科学および教育,言語学的諸相」)に位置づけ,「感性を発揮しながら既成の枠を越える」(「論纂の目的」より)ことを企図した論文集である。「分節」には,日本語母語話者の英語母音区別を扱うAkiyo Joto論文を含む4編,「超分節」には,香川県広島方言を扱う中井幸比古論文をはじめアクセントやイントネーションに関する5編,「音声言語データ」には,地域言語の音声データ保存について述べる岩城裕之論文を含む2編,「音声言語の科学および教育」には,脳機能計測装置による実験結果を考察する船津誠也論文を含む5編,「言語学的諸相」には,都市をフィールドとする言語研究の必要性を述べる中井精一論文を含む4編を収める。なお,付属CD-ROMには,音声分析ソフト「音声録聞見 for Windows」(東京大学大学院医学系研究科認知・言語医学講座開発)とサンプル音声データが収録されている。

収録論文は以下のとおりである。

(2007年12月25日発行 和泉書院刊 A5判横組み 544頁 12,000円+税 ISBN 978-4-7576-0440-7

小久保崇明著 『水鏡とその周辺の語彙・語法』

『水鏡』を中心に,いわゆる鏡物4作品及び平安鎌倉時代の諸文献を資料として,中世語の語彙・語法に関する論考が集められている。第1部「『水鏡』の語彙・語法」では,中世語的性格を帯びたものや,解釈上の問題を有する箇所について検討を加える。「多し」など形容詞4語,「いからかす」など動詞10語,「さしむ」など助動詞3語,「とかや」など助詞5語,敬語法,係り結び,人称代名詞などが取り上げられている。第2部「『水鏡』周辺の語彙・語法」では,接頭辞「御」,『大鏡』に見える表現「仰せられ掛く」「きこえさせ給めり」,八巻本『大鏡』の性格などが扱われている。付録として,山田孝雄『年号読方考証稿』に,八巻本『大鏡』,千葉本『大鏡』に付せられた年号の読み及び声点を補足した「『年号読方考証稿』鶏肋」を収める。

内容は以下のとおりである。

(2007年12月25日発行 笠間書院刊 A5判縦組み 488頁 9,000円+税 ISBN 978-4-305-10371-0

長谷川信子編 『日本語の主文現象―統語構造とモダリティ―』

ワークショップ「日本語の主文現象と統語理論」(神田外語大学言語科学研究センター,2006年2月)での発表内容を基にした論文集である。「序 日本語の主文現象から見た統語論―文の語用機能との接点を探る―」(長谷川信子)は,統率束縛理論による統語論では命題中心の文構造と現象を主に扱ってきたが,ミニマリスト・プログラムでは統語論の領域が拡大し,主文現象を軸に統語理論研究を展開することができると述べる。全体は3部から成り,第1部「主文と補文:数量詞の作用域から」には,「だけ」の焦点化の可能性から日本語が題目優位言語であることを論じる岸本秀樹論文など3編,第2部「主文と補文:上代語と熊本方言」には,万葉集と平安初期訓点資料をデータとして,日本語は平安初期に格システムが能格から対格へ移行したと仮説を示す柳田優子論文など2編,第3部「モダリティと人称制限」には,真正モーダルと擬似モーダルの形態的・統語的性質を検討する井上和子論文など4編を収録する。

収録論文は以下のとおりである。

(2007年12月25日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 400頁 7,600円+税 ISBN 978-4-89476-348-7

国語文字史研究会編 『国語文字史の研究 10』

1992年9月から刊行されている論文集『国語文字史の研究』の第10集である。前田富祺氏による序文に続き,室町時代初期の連歌学書『心躰抄』には,助詞・助動詞に対する当て字など特異な漢字表記が見られることを述べる山内洋一郎論文,正税帳に出現する「都合」と「合」との使い分けの解明を試みる奥田俊博論文,「え」の仮名字体が「ちぢみえ」と称されていたことの背景をいろは歌の仮名表記に求める遠藤邦基論文,近世初期刊行の画数分類字書を検討する米谷隆史論文,「祇園」の「祇」のしめすへんの字体(「ネ」と「示」)を非文献資料によって分析する當山日出夫論文など,全19本の論文を収める。なお,巻末に第1集から第10集までの総目次を付す。

収録論文は以下のとおりである。

(2007年12月30日発行 和泉書院刊 A5判縦組み 360頁 10,000円+税 ISBN 978-4-7576-0446-9

※〓aは,人偏に旁が「尓」の文字。(Unicodeの4F60)
※〓bは,偏が「示」の「祇」。

八亀裕美著 『日本語形容詞の記述的研究―類型論的視点から―』

現代日本語の形容詞についての記述的研究である。諸外国語や日本語の諸方言の言語事象を視野に入れ,類型論的観点から,実例に基づく帰納的手法により,形容詞とはどのようなものかを明らかにする。第1章「はじめに」では,国内外の形容詞研究史をまとめ,著者の立場を述べる。第2章「形容詞の基本的な性質」では,「時間的限定性」と「評価性」を軸に形容詞を分類する。第3章「形容詞の文中での機能」では,形容詞の文の中での働きから,規定語,述語,それ以外の場合に整理する。第4章「日本語の形容詞述語文」では,述語用法の形容詞には「特性」「状態」「存在」「関係」というタイプがあり,連続的に存在すると主張する。第5章「これからの形容詞研究のために」では,方言形容詞を取り上げ,類型論的観点の有効性を確認する。また,テキストタイプと解釈の関係性や,場面との関わりについて述べる。第6章「おわりに」では全体をまとめ,補章では著者の基本的立場を解説している。なお,本書は博士論文(大阪大学,2005年)が基になっている。

内容は以下のとおりである。

(2008年1月30日発行 明治書院刊 A5判横組み 228頁 10,000円+税 ISBN 978-4-625-43402-0

山東功著 『唱歌と国語―明治近代化の装置―』

明治における近代化の問題を「文法」と「唱歌」を軸に扱ったものである。「文法」と「唱歌」はともに西洋からの影響が強い分野であり,両者の関連性を述べていく。第1章「国楽創生」では,主に伊沢修二を取り上げ,西洋音楽の受容と唱歌教育の形成,第2章「文法の発見」では,江戸期の国学者流の文典とは異なる文法教科書確立までの流れを追う。第3章「唱歌と文典」では,唱歌の作詞者が文法書を編集している事実から,国語教育関係者が唱歌教育に関わっていたことを指摘する。第4章「装置としての唱歌」では,身につけるべき内容を教え込むための装置(教授法)として唱歌が機能していたことを見る。第5章「暗唱されるものの内実―新体詩と唱歌―」では,新体詩と新体詩人大和田建樹の事跡を述べ,第6章「明治近代化と文法・唱歌」で全体をまとめる。

内容は以下のとおりである。

(2008年2月10日発行 講談社刊 B6判縦組み 224頁 1,500円+税 ISBN 978-4-06-258406-7

朝日祥之著 『ニュータウン言葉の形成過程に関する社会言語学的研究』

都市計画により開発された地域においては,様々な地域からの移住者が新たな地域社会を形成する。そこでは各所から持ち込まれた言葉が接触し,言語変種が生まれる。本書はニュータウンに注目し,言語変種の形成過程を社会言語学の見地から明らかにしようとしたものである。全体は4部からなる。第1部「ニュータウン研究の目的と意義」では,研究対象や方法などが示される。第2部「言語意識レベルにおける言語変種の形成過程」では,ニュータウン居住者の言語変異に対する言語意識を調べ,年齢差・出身地差による言語意識の違いを分析する。第3部「言語構造レベルにおける言語変種の形成過程」では,引用形式と動詞否定辞を取り上げ,移住者とニュータウン生まれの世代との違いを分析する。第4部「ニュータウンにおける言語変種の形成過程」では,第2部と第3部での議論をまとめ,言語変種の形成過程のモデルを示す。

内容は以下のとおりである。

(2008年2月14日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 258頁 8,600円+税 ISBN 978-4-89476-361-6

小林賢次著 『狂言台本とその言語事象の研究』

本書は,現存する大蔵流・和泉流・鷺流狂言台本について,その資料性を明らかにするとともに,狂言台本に見られる様々な言語事象を分析し,古代語から近代語への変遷過程を考察するための資料として位置づけることを試みたものである。第1部「言語資料としての狂言台本」は,狂言台本の資料的性質を考察することを主眼としており,第1章「大蔵虎明本における狂言詞章の伝承と改訂─本文注記の分析から─」,第4章「和泉流雲形本『狂言六議』の本文の性格について─筆録時期と言語事象─」,第5章「和泉流雲形本と古典文庫本の本文比較」,第8章「言語資料としての天理図書館蔵『狂言 大外』『狂言 新』」などの全9章で構成されている。第2部「狂言台本に関連する言語事象」では,キリシタン資料や抄物などをも視野に入れつつ具体的な考察が行われ,文法化の視点から条件表現の変遷を考察した第10章「条件表現史にみる文法化の過程」,狂言台本における「重宝」と「調法」の干渉・混同を論じた第13章「「重宝」と「調法」─狂言台本における使用状況とその語史─」などの全6章から成っている。

内容は以下のとおりである。

(2008年2月14日発行 ひつじ書房刊 A5判縦組み 384頁 9,800円+税 ISBN 978-4-89476-354-8

小川栄一著 『延慶本平家物語の日本語史的研究』

和漢融合という課題を提起し,『延慶本平家物語』に関する書誌的・日本語史的研究の成果を示すものである。第1部「延慶本の日本語史料的意義」では,延慶本の書誌・成立について検討し,言語資料としての性格を定位する。延慶本を『平家物語』の原型により近いものと見る水原説を支持し,「言語年代」を鎌倉時代後期と推定する。第2部「延慶本における和漢融合」では,表現システムの融合という理論的枠組みを設定し,延慶本の文章・文体についての考察を行う。日本語の中の「和」と「漢」との要素が融合する過程を検討した上で,延慶本の文章構造を明らかにする。第3部「延慶本の語彙システムと和漢融合」では,程度副詞,時制副詞,時間副詞を対象に,和文体起源語彙と漢語・訓読語起源語彙とが機能的な分担を果たしていることを論証する。第4部「和漢融合の背景にあるコミュニケーション」では,言語システムの変化を人間のコミュニケーション活動を背景とした機能的変化と捉える立場から,和漢融合文体は,記録語・訓読語と口頭語との間隙を埋めるものとして,両者の融合による機能進化として成立した文体であると論じる。なお,本書は博士論文(筑波大学,2006年)が基になっている。

内容は以下の通りである。

(2008年2月25日発行 勉誠出版刊 A5判横組み 528ページ 16,500円+税 ISBN 978-4-585-10438-4

小林隆・木部暢子・高橋顕志・安部清哉・熊谷康雄著 『シリーズ方言学1 方言の形成』
真田信治・陣内正敬・井上史雄・日高貢一郎・大野眞男著 『シリーズ方言学3 方言の機能』
小西いずみ・三井はるみ・井上文子・岸江信介・大西拓一郎・半沢康著 『シリーズ方言学4 方言学の技法』

新たな角度から方言学についてまとめた「シリーズ方言学」全4巻のうちの3巻である(第2巻『方言の文法』の新刊紹介は『日本語の研究』3巻3号参照)。第1巻『方言の形成』は,日本語の方言がどのようにして生まれたのかを問題にする方言形成論を扱う。内的変化や接触変化などによる方言形成の考察のほか,アジアにおける日本語方言の位置づけや,方言形成に関わるシミュレーション研究の紹介などを取り上げる。第3巻『方言の機能』は,社会の中で果たしている方言の役割を扱う。発話スタイル,若者語,経済価値,福祉,学校教育と方言との関わりといった,属性論的な社会言語学においてあまり扱われていないテーマを取り上げる。第4巻『方言学の技法』は,方言学における調査・資料化・分析の最新技法を解説する。データベース,パソコンで作る方言地図,地理情報システム(GIS)など,情報機器の発達によって導入された技術を取り上げる。

各巻の内容は以下のとおりである。

【方言の形成】(2008年3月27日発行 岩波書店刊 A5判横組み 248頁 3,400円+税 ISBN 978-4-00-027117-2
【方言の機能】(2007年10月30日発行 岩波書店刊 A5判横組み 192頁 3,400円+税 ISBN 978-4-00-027119-6
【方言学の技法】(2007年12月20日発行 岩波書店刊 A5判横組み 248頁 3,400円+税 ISBN 978-4-00-027120-2