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新刊紹介 (『日本語の研究』第7巻4号(通巻247号)掲載分)

「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)

湯澤美紀著『幼児の音韻的短期記憶に関する研究』

発達心理学を専門とする著者が実験を通して「幼児の音韻的短期記憶がどのようなメカニズムになっているか」を探ったものである。単語の記憶・獲得研究につながる内容である。全体は6章からなる。第1章では前提として採用する作動記憶モデルについて説明しつつ,この分野の動向を紹介する。第2章では,短期記憶を保持するための反復について,成人は音韻情報累加―系列的反復を行うが,幼児は成人とは違って直前の情報を次の音声提示以前に繰り返す追唱反復を行うと仮定して,それを実験で確かめる。第3章ではアクセント,イントネーションなどのプロソディが記憶にどうかかわるかを見る。第4章では非単語反復を用い,プロソディや準語彙情報(連想しやすいような類似性を持つなど)の影響を探る。第5章は準語彙情報の諸側面とその相互関係を明らかにし,処理プロセスについて考察する。第6章では得られた知見をまとめ,今後の課題を記す。

内容は以下のようになっている。

(2010年12月15日発行 風間書房刊 A5判横組み 144頁 5,000円+税 ISBN 978-4-7599-1820-5

三ツ井崇著『朝鮮植民地支配と言語』

朝鮮総督府によるハングル綴字法の制定を題材にして,支配者側がどのように朝鮮語を扱おうとし,非支配者側がどのような態度をとったかを明らかにしようとしたものである。まず,序章で日本語強制=朝鮮語抹殺論や,逆に綴字法を制定して文化に貢献したとする施恵論の双方を批判的に検討し,共に詳細な歴史的事実を踏まえていない部分があると述べる。第1,2章では,論の前提となる当時の言語状況を概観する。第3,4章では具体的な綴字法制定(1912年版,1921年版,1930年版)がどのような人たちによりどのように行われたかを詳述する。第5章では特に1930年の綴字法制定に深くかかわった朝鮮語学会(もとは朝鮮語研究会)の活動,支配体制との協力関係(お互いの利用・被利用関係),後の朝鮮語学会事件について扱う。第6章では綴字法をめぐって朝鮮語学会と対立した朝鮮語学研究会の活動を追う。第7章では,ハングルが持つ支配者への抵抗の側面と総督府によるハングル管理という複雑な問題を考察し,従来のハングル運動への単純な評価の源泉を指摘する。終章では社会構造や当事者の意識も含めた言語運動史の必要性を指摘する。

内容は以下のようになっている。

(2010年12月20日発行 明石書店刊 B6判縦組み 404頁 5,700円+税 ISBN 978-4-7503-3318-2

高田三枝子著『日本語の語頭閉鎖音の研究―VOTの共時的分布と通時的変化―』

日本語の語頭閉鎖音に関して,破裂から声帯振動開始までの時間(=VOT)を測り,それが地域(日本全域)によってどのような違いがあるか,さらに世代によってどのような違いがあるかを描き,その構造を考察したものである。まず,地域・世代差がある録音資料をもとに,語頭閉鎖音のVOTを測るという音響分析を行う。それを統計的に処理し,地域の特性,世代の特性を分析し,地理的分布の解釈,通時的変化の解明を行う。音韻素性と音声要素のマッピングの枠組みを利用して変化を説明することも試みている。音の物理的な側面を扱う音響音声学と社会言語学(言語地理学,方言学)をつなげたという点で従来にはあまり見られなかった研究であり,新しい研究の可能性を示唆している。なお,本書は2009年に東京外国語大学に提出した学位申請論文に加筆修正をしたものである。

内容は以下のようになっている。

(2011年1月14日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 272頁 3,800円+税 ISBN 978-4-87424-501-9

三宅和子著『日本語の対人関係把握と配慮言語行動』

対人関係に留意して行われる「言語表現と言語行動」を合わせたものを配慮言語行動と呼び,それをめぐる著者の論文を一書としたものである。第1部「配慮言語行動―日本語のコミュニケーション・スタイル―」では,配慮言語行動の定義,研究上の留意点,理念,重要性について概観している。敬語やポライトネスのような視座からではなく,それを含むような広い領域を扱うことの必要性を述べる。第2部「言語行動にみる対人関係把握と役割意識」は,「すみません」,「はい」などの具体的な使い方や機能に触れたり,具体的な表現行動や対人把握に関する文化的な違いについて考えたりする論文,スポーツ中継実況で聞き手が求める談話スタイルについて分析する論文など6編が収録されている。第3部「メディア社会の配慮言語行動」は社会の変化に応じて起きた配慮言語行動,具体的にはポケベル,ケータイ,メールなどにおける配慮言語行動とその変化を扱った論文7編が収められている。

内容は以下のようになっている。

(2011年1月21日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 332頁 3,800円+税 ISBN 978-4-89476-472-9

澤村美幸著『日本語方言形成論の視点』

地域差が何によってどのように生じるのかを考える方言形成論の新たな課題や方向性を探る試みである。全体は8章からなる。第1章「序論」のあと,第2章で弟を表す「舎弟」,第3章で〈葬式〉の名称を扱い,方言形成に社会的背景のような言語外要因が関わることを示すとともに,地理的伝播以外に位相的伝播というような面があることを指摘する。第4章で「スガリ」が東と西で「蜂,蟻」という違う意味で使われていること,第5章で歌語の世界では「スガリ」の古形「スガル」が「鹿」の意味で使われることを扱い,意味変化に文化的背景,音声的事情が関わることを指摘する。第6章で失敗を表す感動詞,第7章で痛みを表す感動詞を扱い,感動詞のようなあまり扱われていなかった分野における研究を行い,地域による発想の違いが語の分布に関係している可能性を指摘する。第8章で結論と今後の課題を述べる。なお,本書は2010年に東北大学に提出した学位論文に加筆修正をしたものである。

内容は以下のようになっている。

(2011年2月17日発行 岩波書店刊 A5判横組み 176頁 3,800円+税 ISBN 978-4-00-024278-3

有光奈美著『日・英語の対比表現と否定のメカニズム―認知言語学と語用論の接点―』

多様な否定と対比表現に対し,否定文における否定の役割と否定性について,経験世界の知識に照らし合わし認知主体が下す否定的な価値判断には違いがあることを,認知言語学と語用論の立場から論じたものである。対比概念にかかる否定性を対象依存的否定性と価値的否定性に分類し,否定的言語行為の整理を試みている。本書は7章で構成されるが,この分類については第3章(対比的意味と否定の意味),第4章(量から質へ,質から量への意味変化のメカニズム),第5章(否定性を基盤とする発話行為),第6章(否定性の諸相と日常言語のレトリック)で説明がなされる。本書は,京都大学大学院人間・環境学研究科に提出された学位論文に修正加筆をしたものである。

内容は以下のようになっている。

(2011年2月19日発行 開拓社刊 A5判横組み 314頁 3,600円+税 ISBN 978-4-7589-2160-2

杉藤美代子編『音声文法』

音声言語が持つ様々な側面を扱った論文集である。『文法と音声』(くろしお出版1997)から『文法と音声?X』(同2006)までの積み重ねを踏まえ,その後継として出発したものである。全体は3部に分かれる。第1部「音声と教育」は早口言葉のときの口の動きをMRI映像で観察し,早口言葉の教育への利用を提案する杉藤美代子論文,国語教育における音声言語指導法を考える吉田隆ほか論文,日本語話者の英語母音をMRIで観察する中村淳子ほか論文を含む8編を収める。第2部「談話と場面」は,談話と付随行動測定の手法を扱うニック=キャンベル論文,小津映画の会話分析を行う佐藤大和論文を含む4編を収める。第3部「調音と韻律」は,一語発話「ん」の対話韻律とその印象表現の関係を扱うグリーンバーグ陽子ほか論文,名古屋弁の変母音を扱う犬飼隆ほか論文を含む4編を収める。

内容は以下のようになっている。

(2011年3月5日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 272頁 3,800円+税 ISBN 978-4-87424-507-1

高田博行・椎名美智・小野寺典子編著『歴史語用論入門―過去のコミュニケーションを復元する―』

歴史語用論を紹介し,その研究例を英語,ドイツ語,日本語,韓国語を題材にした論文で示したものである。歴史語用論には,コーパスを基盤にして,史的変化を進めた微細な要因の相互関係を描くもの,語用論を基盤としているが現代語の話し言葉ではなく近代語・古典語などの書き言葉を扱ったものなどいろいろなタイプの研究があるが,おおむね資料性を重んじ,かつ(単に形だけを扱うのではなく)多面的な事象を大切にするというような特徴がある。さて,本書は2部11章構成になっている。第1部「理論と方法論」では,この分野の基礎知識と,重要な手法・概念を解説する。第2部「ケーススタディー」は,英語を扱った4編,ドイツ語を扱った1編,日本語を扱った2編,日韓対照を扱った1編からなる。日本語を扱った2編は,丁寧語の語源と発達を扱った金水敏論文,聞き手敬語(対者敬語)の起源を扱った森山由紀子・鈴木亮子論文である。また,日韓対照を扱った1編は,両国語の文末表現を機能主義的類型論の観点から扱った堀江薫・金廷?a論文である。

内容は以下のようになっている。

(2011年4月1日発行 大修館書店刊 A5判横組み 256頁 1,900円+税 ISBN 978-4-469-21331-7

上田万年著・安田敏朗校注『国語のため』

1897年の訂正再版『国語のため』と1903年の『国語のため 第二』(ともに冨山房)をまとめて一書とし,校注及び解説(安田敏朗)を付したものである。国語は日本人の精神的血液と説き,漢字漢語の跋扈を抑えるための国語の整備が求められるという主張をはじめとして,国語学のあり方,標準化についてなど,当時にあって進むべき道を示した啓蒙的論文が並ぶ。従来,(パソコンを使って国立国会図書館所蔵の原本を近代デジタルライブラリーで見ることはできたが,それ以外に)本という形では筑摩書房の明治文学全集第44巻(1968年)所収のものが最も手に入れやすい活字テキストであった。しかし『国語のため』が抄録だったので,今回の出版でより良い活字テキストが得られることとなった。校注は初版と訂正再版を比較するとともに,上田について書かれた論文を踏まえて行われている。解説では,イデローグとしての上田ではなく,当時の人から見た上田の新しさに着目している。(東洋文庫 808番)

内容は以下のようになっている。

(2011年4月25日発行 平凡社刊 特殊文庫判縦組み 496頁 3,200円+税 ISBN 978-4-582-80808-7