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新刊紹介 (『日本語の研究』第7巻3号(通巻246号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 金文京著 『漢文と東アジア―訓読の文化圏―』
- 土井光祐編著 『鎌倉時代法談聞書類の国語学的研究 影印篇(一)』『鎌倉時代法談聞書類の国語学的研究 影印篇(二)』
- 大島弘子・中島晶子・ブラン=ラウル編 『漢語の言語学』
- 小田勝著 『古典文法詳説』
- 文化庁文化部国語課著 『平成21年度国語に関する世論調査 新しい常用漢字についての意識』
- 新井小枝子著 『養蚕語彙の文化言語学的研究』
- 中村明著 『文体論の展開―文藝への言語的アプローチ―』
- 鈴木泰・清水康行・山東功・古田啓編 『日本語 近代への歩み―国語学史2―』
- 長谷川信子編 『統語論の新展開と日本語研究―命題を超えて―』
- 青木博史著 『語形成から見た日本語文法史』
- 田窪行則著 『日本語の構造―推論と知識管理―』
- 中村春作・市來津由彦・田尻祐一郎・前田勉編 『続「訓読」論―東アジア漢文世界の形成―』
- 湯沢質幸著 『増補改訂 古代日本人と外国語―東アジア異文化交流の言語世界―』
- 馬場俊臣編著 『現代日本語接続詞研究―文献目録・概要及び研究概観―』
- 今野真二著 『日本語学講座 第1巻 書かれたことば』
金文京著『漢文と東アジア―訓読の文化圏―』
漢文訓読を中心にして,東アジアで漢文がどのような影響を与えたかを考えようとしたものである。論文「東アジアの訓読現象」(『和漢比較文学の諸問題』汲古書院1988所収)の問題意識から発展した内容であり,漢文文化圏という見方で各種の現象を捉えていこうとしている。第1章は日本の訓読を扱う。漢文訓読(中国語から日本語への訳)は仏典漢訳(仏典の梵語から中国語への訳)の影響があったであろうと述べ,訓読の歴史(草創期〜近代)を辿る。第2章は朝鮮半島,契丹,ヴェトナム,中国の訓読現象を扱う。特に朝鮮半島は詳しく,訓読の思想的背景,新羅訓読と日本訓読の関係,訓読の歴史などが記される。また,中国に関しては古典漢文とその現代語を比較し,現代語訳が一種の訓読を行っていると指摘する。第3章は漢文を東アジアではどう書いてきたかという観点から,各地域の変体漢文を扱う。(岩波新書新赤版1262番)
内容は以下のようになっている。
- はじめに
- 第1章 漢文を読む―日本の訓読―
- 第2章 東アジアの訓読―その歴史と方法―
- 第3章 漢文を書く―東アジアの多様な漢文世界―
- おわりに―東アジア漢文文化圏―
(2010年8月20日発行 岩波書店刊 新書判縦組み 256頁 800円+税 ISBN 978-4-00-431262-8)
土井光祐編著『鎌倉時代法談聞書類の国語学的研究 影印篇(一)』『鎌倉時代法談聞書類の国語学的研究 影印篇(二)』
本書は,鎌倉時代成立・書写の日本語資料として知られる,明恵上人高弁(1173−1232)の講説に対する二つの聞書類「解脱門義聴集記」10巻,「華厳信種義」4巻(共に称名寺蔵・神奈川県立金沢文庫保管)の全文を影印を公刊したものである。「解脱門義聴集記」は鎌倉時代書写の明恵関係書類の中で最大の言語量を有する。識語により成立過程を比較的に詳細に確認することができる点,多くの中世語を含み,声点付和語が認められるという点で,資料性が高い。また,「華厳信種聞集記」は虫損等による破損,落丁が目立つものの,中世語,声点付和語を多く含有し,朱筆による加筆修正は中世語の古代語への改修,全訓送仮名の振仮名への変更など聞書本文の生成過程を知る上でも貴重である。
内容は以下のようになっている。
- 『影印篇(一)』 凡例,解脱門義聴集記 第一〜第七
- 『影印篇(二)』 凡例,解脱門義聴集記 第八〜第十,華厳信種聞集記 第一〜第四,略解題
(2010年6月9日発行 汲古書院刊 A5版縦組み 670頁 15,000円+税 ISBN 978-4-7629-3577-0)
(2010年9月6日発行 汲古書院刊 A5判縦組み 662頁 15,000円+税 ISBN 978-4-7629-3578-7)
大島弘子・中島晶子・ブラン=ラウル編『漢語の言語学』
2008年にフランスで行われた国際シンポジウムでの発表をもとにした論文集である。漢語の統語構造複合語の形成過程とその特殊性を指摘する影山太郎論文,複合語の音韻交替現象を二種に分けたうえで漢語形態素が漢熟語を作る際の音韻現象を見ていく高山知明論文,漢語の音韻構造を最適性理論の点から検討し幼児の言語習得モデルの問題点を指摘する太田光彦論文,大阪方言における世代差を例に一字漢語のアクセントパターンが二字漢語に保持されているか否かを扱う田中真一論文,東京・京都・鹿児島の各方言においてアクセントから見た二字漢語が単純語的なのか複合語的なのかを整理する小川晋史論文,「-本」とつながるとき,「三」が「さんぼん」になるのに「四」が「よんぼん」にならない現象をもとに漢語系「さん」と和語系「よん」の違いを考える田端敏幸論文,「愛する」などの「一字漢語+する」型の構造について述べる三宅知宏論文,漢語接尾辞「〜中」について考察する大島弘子論文,「新-」の造語機能を考える中川秀太論文,「-度」「-系」「-力」の用法を観察しその造語力について述べる中島晶子論文の計10編を収める。
内容は以下のようになっている。
- 序文―フランスと日本の言葉の架け橋―(影山太郎)
- 日本語形態論における漢語の特異性(影山太郎)
- 音韻交替の二類と漢語の連濁(高山知明)
- 漢語音韻の習得可能性について(太田光彦)
- 大阪方言の漢語式保存と「一語性」(田中真一)
- 日本語の諸方言における二字漢語のアクセント─単純語と複合語の狭間で─(小川晋史)
- 数詞「三」と「四」について(田端敏幸)
- “一字漢語スル”型動詞をめぐって(三宅知宏)
- 漢語接尾辞「〜中」によるアスペクト用法─「〜ている」との違い─(大島弘子)
- 字音形態素「新」の造語機能(中川秀太)
- 新造語における「度」「系」「力」の用法(中島晶子)
- あとがき(上野善道)
(2010年9月17日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 192頁 3,400円+税 ISBN 978-4-87424-493-7)
小田勝著『古典文法詳説』
本書は,奈良時代から南北朝時代までの文学作品に用いられている日本語の文法について包括的に記述したものである。全20章(古典文法の基礎知識,動詞,述語の構造,ヴォイス,時間表現,肯定・否定,推定・推量,当為・意志・勧誘・命令,疑問表現,形容詞と連用修飾,名詞句,格,とりたて,複文,引用・挿入,係り受け,敬語,談話,物語の文章,和歌の表現技法)からなる。本書の特色として,「じ−ばや」「めり−けり」「り−に−けり」「やは(疑問)」などの珍しい句型について詳しい記述があること,現代語文法で話題となる「数量詞移動」「形容詞移動」「否定繰上げ」といった言語現象の古典語の実例に容易にアクセスできること,1990年代,2000年代の研究成果を積極的に取り入れ,その依拠文献を明示したこと等が挙げられる。なお本書は,前著『古代日本語文法』(おうふう,2007年刊)の内容を大幅に増補したものである。
内容は以下のようになっている。
- 第1章 古典文法の基礎知識
- 第2章 動詞
- 第3章 述語の構造
- 第4章 ヴォイス
- 第5章 時間表現
- 第6章 肯定・否定
- 第7章 推定・推量
- 第8章 当為・意志・勧誘・命令
- 第9章 疑問表現
- 第10章 形容詞と連用修飾
- 第11章 名詞句
- 第12章 格
- 第13章 とりたて
- 第14章 複文
- 第15章 引用・挿入
- 第16章 係り受け
- 第17章 敬語
- 第18章 談話
- 第19章 物語の文章
- 第20章 和歌の表現技法
(2010年9月25日発行 おうふう刊 A5判横組み 568頁 15,000円+税 ISBN 978-4-273-03617-1)
文化庁文化部国語課著『平成21年度国語に関する世論調査 新しい常用漢字についての意識』
本書は,文化庁文化部国語課が平成22年2月から3月にかけて全国16歳以上の男女個人6000人を対象にして実施した「国語に関する世論調査」の調査結果を記したものである。本書が扱う調査では,新たに制定された常用漢字に関する意識を扱っている。具体的には,「日常生活で用いる漢字についての意識」「『常用漢字表』についての意識」「『改訂常用漢字表』に関する試案」についての意識があつかわれる。「日用生活で用いる漢字についての意識」では,新聞や雑誌,ウェブニュースを読む頻度,漢字が読めずに困る経験などが,「『常用漢字表』についての意識」では,常用漢字表の認知度などが,「『改訂常用漢字表』に関する試案』では,都道府県名に用いられている漢字の追加に対する意見,追加候補漢字の印象などがそれぞれ取り上げられる。この他に,調査で用いられた調査票,標本抽出方法が述べられる。地域,年齢,性別などによる集計表も所収される。
内容は以下のようになっている。
- I 調査の概要
- II 調査結果の概要
- III 調査票
- IV 標本抽出法
- V 集計表
(2010年10月20日発行 ぎょうせい刊 A4判横組み 196頁 2,095円+税 ISBN 978-4-324-09192-0)
新井小枝子著『養蚕語彙の文化言語学的研究』
養蚕にかかわる語彙を記録に残すとともにそこに反映した人々の生活文化を明らかにする記述的文化言語学の実践である。また,養蚕語彙の語彙体系や造語法,さらに蚕にかかわる語を使った比喩表現を扱うなど,語彙研究や比喩表現研究を行っている。養蚕語彙研究は特殊なテーマではなく,生活と言葉の結びつきを観察する例としてこれまで研究の積み重ねがあり,それを踏まえての研究である。また,養蚕という「場」はごく限られた生活世界だが,語彙体系を把握するにはこのような狭い世界が有利に働くことなどがわかる。全体は4部に分かれる。第1部で目的と方法を語る。第2部で記述的方言学,文化言語学的研究を行う。第3部で語彙体系研究,第4部で比喩研究を扱う。なお,本書は2008年に東北大学に提出した博士論文に加筆をしたものである。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 研究の目的と立場
- 第1章 今,なぜ,養蚕語彙か―目的と意義―
- 第2章 養蚕語彙はどのように研究されるか―研究の前提―
- 第2部 養蚕語彙の概観
- 第1章 養蚕語彙の分類と記述
- 第2章 養蚕語彙の分布と歴史
- 第3部 養蚕語彙の造語法と語彙体系
- 第1章 《蚕》《桑》《繭》の語彙
- 第2章 《飼育期別の蚕》の語彙
- 第3章 《場所》の語彙
- 第4章 《蚕の活動》の語彙
- 第4部 養蚕語彙の比喩表現
- 第1章 養蚕語彙による比喩表現の多様性
- 第2章 養蚕語彙による比喩表現の類型化
- まとめと今後の課題
(2010年11月8日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 340頁 9,400円+税 ISBN 978-4-89476-467-5)
中村明著『文体論の展開―文藝への言語的アプローチ―』
作家の文体についての既発表論文を一書にまとめたものである。1958年発表のものから2007年のものまでと年代も幅広く,また計量的な論から表現研究まで内容も多彩なものとなっている。各論文で取り上げられた人物は漱石,鴎外,藤村をはじめとして,志賀,有島,芥川,谷崎,小林秀雄,横光,太宰,森茉莉,井上ひさし,川端,井伏,小沼丹などである。第1〜7章は個別の作品を中心にしたものが多いが,第8章では散文のリズム,漢字使用等についての計量調査,第9章では作品を読んだ人がどのように感じたかというような調査,第10章では視点や余情を扱った論が収められている。あとがきでは進路を決定づけた出来事として波多野完治との出会いが綴られており,著者の(関心の持ち方の)原点,初期論文の問題意識がわかり,その後の軌跡を理解することの助けとなっている。
内容は以下のようになっている。
- 第1章 明治期文豪 重厚な文体
- 第2章 白樺派作家 勁直の文体
- 第3章 技躍る多彩な文体
- 第4章 ことばが氾濫する文体
- 第5章 川端康成 稲妻の文体
- 第6章 井伏鱒二 飄逸の文体
- 第7章 小沼丹 ヒューマーの文体
- 第8章 言語調査に映る文体の姿
- 第9章 文体印象に働く表現要素
- 第10章 作品意図と文体効果
(2010年11月10日発行 明治書院刊 A5判縦組み 718頁 18,000円+税 ISBN 978-4-625-43436-5)
鈴木泰・清水康行・山東功・古田啓編『日本語 近代への歩み―国語学史2―』
古田東朔の著作集「古田東朔・近現代日本語生成史コレクション」全6巻のうち第4巻。第3巻に続く第2回配本である。本巻は,幕末・明治以降の日本語研究史に関する著述の中から,文字・文法・語彙・国語施策に関するもの17編を収録し,巻末に解説(山東功,15頁)を付す。収録された論考の一部を示せば,以下のようである。「音義派「五十音図」「かなづかい」の採用と廃止」(初出「小学読本便覧」1,1978年),「品詞分類概念の移入とその受容過程」(「蘭学資料研究会 研究報告」130,1963年),「登尓波考」(「東京大学教養学部人文科学科紀要」51,1970年),「日本文典に及ぼした洋文典の影響―特に明治前期における―」(「文芸と思想」16,1958年),「大槻文彦の文法」(「月刊言語」10-1,1981年)。
内容は以下のようになっている。
- 刊行のことば
- 1 音義派「五十音図」「かなづかい」の採用と廃止
- 2 文法研究の歴史
- 3 品詞分類概念の移入とその受容過程
- 4 登尓波考
- 5 『訳和蘭文語』から『小学日本文典』,『日本文典』へ
- 6 日本文典に及ぼした洋文典の影響―特に明治前期における
- 7 明治前期の洋風日本文典
- 8 明治以後最初に公刊された洋風日本文典―古川正雄著『絵入智慧の環』について
- 9 中金正衡の『大倭語学手引草』
- 10 西周『百学連環』『知説』中の文法説について―明治初期洋風文典原典考1
- 11 中根淑『日本文典』の拠ったもの―明治初期洋風文典原典考2
- 12 田中義廉『小学日本文典』の拠ったもの―明治初期洋風文典原典考3
- 13 物集高見博士『日本文語』の拠ったもの―明治初期洋風文典原典考4
- 14 大槻文彦の文法
- 15 「海」へ注いだ流れの一つ―『小学読本』と『言海』
- 16 明治以降の国字問題の展開
- 17 明治から終戦までの教科書に表れた国語施策
- 校訂付記
- 解説
(2010年11月11日発行 くろしお出版刊 A5判縦組み 360頁 7,500円+税 ISBN 978-4-87424-504-0)
長谷川信子編『統語論の新展開と日本語研究―命題を超えて―』
神田外語大学言語科学研究センター主催のワークショップで発表された論を中心にまとめられた論文集である。主に日本語の現象を扱い,命題を越える領域すなわちモダリティや情報構造を取り込んで(さらには語用・談話などを視野に入れて)統語論の理論的分析を行う試みを行っている。まず,序章で研究の流れと各論文の紹介を行う。以下には,命令文などをもとに日本語の主語と述語の一致現象を扱い空主語の統一的分析を行う長谷川信子論文,終助詞の階層を扱う遠藤喜雄論文,疑問文文末の「か」と「の」違いを論ずる?繻エ和生論文,形態的一致を持たない言語は焦点・主題の一致現象が形態的一致と同様の役割を担うとする宮川繁論文,とりたて詞の分析を行う佐野まさき論文,かき混ぜ規則のほか主題と対比の「は」を扱う青柳宏論文,数量詞繰り上げやかき混ぜなどを扱い認知能力の面からの説明を行う奥聡論文,疑問詞の韻律を観察して統語構造や情報構造との関わりを分析する北川善久論文,対照の「は」を多角的な面から扱う富岡諭論文が並ぶ。最後のLuigi Rizzi論文は命題を越える領域の理論的位置づけを述べた1997年の論文の前半を翻訳したものである。
内容は以下のようになっている。
- 序章 文の機能と統語構造:日本語統語研究からの貢献(長谷川信子)
- 第1章 CP領域からの空主語の認可(長谷川信子)
- 第2章 終助詞のカートグラフィー(遠藤喜雄)
- 第3章 日本語疑問文における補文標識の選択とCP領域の構造(?繻エ和生)
- 第4章 一致素性のある言語とない言語の統合(宮川繁)
- 第5章 とりたて詞の多重生起と併合関係(佐野まさき)
- 第6章 日本語におけるかき混ぜ規則・主題化と情報構造(青柳宏)
- 第7章 統語,情報構造,一般認知能力(奥聡)
- 第8章 日本語の焦点に関する主文現象(北川善久)
- 第9章 発話行為と対照主題(富岡諭)
- 第10章 節の Left Periphery(左端部)構造の精緻化に向けて(Luigi Rizzi)(翻訳:長谷部郁子)
(2010年11月13日発行 開拓社刊 A5判横組み 400頁 5,200円+税 ISBN 978-4-7589-2158-9)
青木博史著『語形成から見た日本語文法史』
本書は「ひつじ研究叢書<言語編>」第90巻であり,著者の既発表の論文14本に改訂を加えたものである。派生・複合を中心とした日本語の語形成に関する諸現象について歴史的観点から考察しており,抄物資料を中心に具体例を示しながら,実証的記述を試みている。5部からなり,第1・2部では派生現象を,第3〜5部では複合に関する現象を取り上げている。第1部は「可能動詞」(読める,等)について,第2部は「カス型動詞」(冷やかす,等)について,それぞれ形態論的・意味論的考察を加えたものである。第3部では複合動詞「〜ナス」(見なす,等)における統語的特徴と意味的特徴の連関について述べ,また「〜キル」(思いきる,等),「〜オル」(食べおる,等)について,現在方言への展開という観点でも論じる。第4部では「節」を含んだ合成語形成(「動詞連用形+ゴト」構文,「句の包摂」現象,「〜サニ」構文)の統語的・意味的記述とともに歴史的変化についても考察し,第5部では動詞の重複形式(泣く泣く,等)を複合現象の一端として分析する。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 可能動詞の派生
- 第1章 中世室町期における四段動詞の下二段派生
- 第2章 可能動詞の成立
- 第3章 四段対下二段の対応関係
- 第2部 カス型動詞の派生
- 第1章 カス型動詞の派生
- 第2章 「デカス」の成立
- 第3章 カス型動詞の消長
- 第3部 動詞の複合
- 第1章 「〜ナス」の構造
- 第2章 「〜キル」の展開
- 第3章 「〜オル」の展開
- 第4部 句の包摂
- 第1章 中世室町期における「動詞連用形+ゴト」構文
- 第2章 古典語における「句の包摂」について
- 第3章 「〜サニ」構文の史的展開
- 第5部 動詞の重複
- 第1章 終止形重複と連用形重複
- 第2章 動詞重複構文の展開
(2010年11月14日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 316頁 8,200円+税 ISBN 978-4-89476-521-4)
田窪行則著『日本語の構造―推論と知識管理―』
田窪行則氏の還暦記念として編まれた田窪氏の既発表論文集(編集:有田節子・笹栗淳子)である。論文は最低限の誤植訂正などにとどめ,今の主張と違う部分があってもそのままにしてあるが,今の時点から見た「解説」が各部の前に付されている。なお,発表時に英文だったものは日本文に訳してある。全体は3部に分かれる。第1部「日本語の統語構造と推論」は,南不二男の階層理論を扱ったもの,否定のスコープを扱ったもの,複合動詞を語彙的複合動詞と統語的複合動詞に分けることを論じたもの,「ところ」や「〜こと」を扱ったものを収める。第2部「談話管理と推論」にはメンタルスペース理論を談話に応用した談話管理理論のモデルを扱ったもの,それを感動詞研究に使ったものが並ぶ。第3部「推論と知識」は,談話管理理論と指示詞あるいは名詞との関わりを論じたものが収録されている。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 日本語の統語構造と推論
- 第1章 統語構造と文脈情報
- 第2章 日本語の文構造─語順を中心に─
- 第3章 日本語における否定と疑問のスコープ
- 第4章 中国語の否定─否定のスコープと焦点─
- 第5章 日本語複合述語の構造と派生の諸問題―述語繰りあげ変換を中心にして―
- 第6章 現代日本語の「場所」を表す名詞類について
- 第7章 日本語における個体タイプ上昇の顕在的な標識
- 第2部 談話管理と推論
- 第1章 対話における知識管理について―対話モデルからみた日本語の特性―
- 第2章 談話管理の標識について
- 第3章 談話管理の理論―対話における聞き手の知識領域の役割―
- 第4章 音声言語の言語学的モデルをめざして―音声対話管理標識を中心に―
- 第5章 感動詞の言語学的位置づけ
- 第3部 推論と知識
- 第1章 対話における聞き手領域の役割について―三人称代名詞の使用規則からみた日中英各語の対話構造の比較―
- 第2章 ダイクシスと談話構造
- 第3章 名詞句のモダリティ
- 第4章 日本語の人称表現
- 第5章 日本語指示詞の意味論と統語論─研究史的概説─
- 第6章 談話における名詞の使用
(2010年11月15日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 368頁 4,200円+税 ISBN 978-4-87424-503-3)
中村春作・市來津由彦・田尻祐一郎・前田勉編『続「訓読」論―東アジア漢文世界の形成―』
文部科学省科研費特定領域研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成」の「儒学テキストを通しての近世的思考様式の形成」研究班における研究成果を中心とした論文集である。日本における「訓読」の意味を探った前著『「訓読」論―東アジア漢文世界と日本語―』に続き,今回は「訓読」をはじめとして漢文の受容のあり方を扱うことによって東アジア知識世界の実相を明らかにしようとしている。総論を述べる「『訓読』論から東アジア漢文世界の形成を考える」(中村春作)のあと,全体は3部に分かれる。第1部は,明治前期の建白書を取り上げ,その内容と候文・訓読文との関わりを論じる前田勉論文を含む6編,第2部は,長崎の唐通事が記した中国語資料を扱う木津祐子論文を含む5編,第3部は,明治・大正期の漢文教科書に洋学系教材が扱われていることを見ていく木村淳論文を含む4編を収める。
内容は以下のようになっている。
- 「訓読」論から東アジア漢文世界の形成を考える(中村春作)
- 第1部 東アジアにおける「知」の体内化と「訓読」
- 読誦のことば―雅言としての訓読―(齋藤希史)
- 琉球における「漢文」読み―思想史的読解の試み―(中村春作)
- 素読の教育文化―テキストの身体化―(辻本雅史)
- 明治前期の訓読体―言路洞開から公議輿論へ―(前田勉)
- どう訓むかという問題の難しさ(小島毅)
- 朝鮮半島の書記史―不可避の自己としての漢語―(伊藤英人)
- 第2部 近世の「知」の形成と「訓読」―経典・聖諭・土着―
- 漢文の訓読,階層性,トポス―『春香伝』の「千字文プリ(唱)」を手掛りとして―(崔在穆)
- 平田国学と『論語』―菊池正古『論語考』をめぐって―(田尻祐一郎)
- 満洲語思想・科学文献からみる訓読論(渡辺純成)
- 唐通事の「官話」受容―もう一つの「訓読」―(木津祐子)
- 訓読から「辺境」を考える(澤井啓一)
- 第3部 「訓読」と近代の「知」の回廊―文学・翻訳・教育―
- 白話小説はどう読まれたか―江戸時代の音読,和訳,訓読をめぐって―(川島優子)
- 近代日本における白話小説の翻訳文体について―「三言」の事例を中心に―(勝山稔)
- 明治・大正期の漢文教科書―洋学系教材を中心に―(木村淳)
- 中国思想古典の文化象徴性と明治・大正・昭和―『論語』を素材に―(市來津由彦)
(2010年11月15日発行 勉誠出版刊 A5判縦組み 480頁 6,000円+税 ISBN 978-4-585-28001-9)
湯沢質幸著『増補改訂 古代日本人と外国語―東アジア異文化交流の言語世界―』
本書は、2001年に勉誠出版の遊学叢書14として刊行された『古代日本人と外国語―源氏・道真・円仁・通訳・渤海・大学寮―』に大幅な増補改訂を行ったものである。副題をキーワードの羅列から全体を覆うものに変更されたが、ちょうど東アジアにおける異文化接触が注目される昨今の時宜に応じたものとなっている。主な変更点は、五章仕立てだった旧著に対して、「第五章 外国音の魔力(2)―訓読文中の漢字の音―」を旧第四章の後に置き、旧第四章を外国音の魔力(1)にして、旧第五章を第六章にしたところであるが、全体に大幅な改訂をほどこし、随所にコラムの欄が設けられ、また、参考文献も近年のものが加えられ、さらに人名索引と書名索引があらたに付された。
内容は以下のようになっている。
- 序章 源氏物語桐壷の巻に寄せて
- 第1章 国家百年の計―勧学院の雀は蒙求を囀る
- 第2章 東アジアのリンガフランカ―日本・渤海・新羅・唐間の外交用言語
- 第3章 通訳−たかが通訳,されど通訳
- 第4章 外国音の魔力(1)―古代日本人は外国音に何を感じたか―
- 第5章 外国音の魅力(2)―訓読文中の漢字の音―
- 第6章 古代日本人と外国語―円仁は唐で外国語にどう対処したか―
- 終章 道真と右大弁
(2010年11月15日発行 勉誠出版刊 B6判縦組み 296頁 2,800円+税 ISBN 978-4-585-28002-6)
馬場俊臣編著『現代日本語接続詞研究―文献目録・概要及び研究概観―』
1945年から2008年までに公刊された現代日本語の接続詞に関する研究文献(973件)を挙げ,その概要をまとめたものである。さらにそれをもとに約60年にわたる接続詞研究の概観を記したものである。これまでは先行文献を探す際に論文題名,あるいはキーワードなどを参考にするしかなかったが,論文の内容について触れた本書のような目録があれば,より短い時間で必要となる情報に出会える可能性が高まる。全体は2部に分かれる。第1部(9〜398ページ)は「文献目録及び概要」である。太字で筆者・発行年・文献名・発行所などの基本情報を記し,その内容を要約している。第2部は「現代日本語接続詞研究概観」である。研究の流れを叙述したあと,「順接」「逆接」などの意味用法別の概観,「国語教育・言語発達」「日本語教育」など分野別の概観を記す。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 文献目録及び概要
- 第2部 現代日本語接続詞研究概観
(2010年11月25日発行 おうふう刊 A5判横組み 432頁 12,000円+税 ISBN 978-4-273-03620-1)
今野真二著『日本語学講座 第1巻 書かれたことば』
音声によってかたちを与えられた言語を音声言語、文字によってかたちを与えられた言語を文字言語とよび、それぞれを独立した言語態と認めた場合、両者の間には両者を行き来できる何らかの「回路」が確保されているとみることができる。本書では、典型的な文字言語と音声言語との間に存在するさまざまな様態をもった言語を「書かれたことば」と呼び、そこに現われる多様な言語現象を分析している。第一章「書かれたことば」では、「書かれたことば」という捉え方について原理的に説明をし、第二章「言語の身体性」では、明治期のはがき、回覧雑誌、裁判言い渡し書など、さまざまな手書き文献を採り上げ、そこに現われる、音声言語とは異なる「言語の身体性」を論じている。第三章では博文館からシリーズとして刊行された『少年文学』を採り上げ、第四章では『字引類』を採り上げている。第五章では朝日新聞に掲載された夏目漱石『虞美人草』の単行本初版、第六版、縮刷版など、六種類の『虞美人草』テキストを採り上げている。
内容は以下のようになっている。
- はじめに
- 序章
- 第1章 書かれたことば
- 第2章 言語の身体性―明治期の手書き文献
- 第3章 『少年文学』のことば
- 第4章 字引類のことば
- 第5章 六つの『虞美人草』
- おわりに
(2010年11月20日発行 清文堂出版刊 A5判縦組み 218頁 3,500円+税 ISBN 978-4-7924-0924-1)