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新刊紹介 (『日本語の研究』第9巻2号(通巻253号)掲載分)
2013年4月23日掲載
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 神部宏泰著『生活語の原風景』
- 北原保雄著『日本語の形容詞』
- 近代語学会編『近代語研究第15集』
- 国語文字史研究会編『国語文字史の研究12』
- 中西久実子著『現代日本語のとりたて助詞と習得』
- 高山倫明著『ひつじ研究叢書言語編第97巻 日本語音韻史の研究』
- 住吉朋彦著『中世日本 漢学の基礎研究 韻類編』
- 鈴木泰著『語形対照 古典日本語の時間表現』
- 陳志文著『現代日本語の計量文体論』
- 小林芳規著『平安時代の佛書に基づく漢文訓讀史の研究4中期訓讀語體系』
- 長崎靖子著『断定表現の通時的研究 江戸語から東京語へ』
- 尾崎知光著『国語学史の探求』
- 今野真二著『百年前の日本語 書きことばが揺れた時代』
- 室山敏昭著『日本人の想像力 方言比喩の世界』
- 増井典夫著『近世後期語・明治時代語論考』
- 陣内正敬・田中牧郎・相澤正夫編『外来語研究の新展開』
- 丹羽一彌編著,黒木邦彦・田村建一・品川大輔著『日本語はどのような膠着語か――用言複合体の研究――』
- 東北大学方言研究センター著『方言を救う,方言で救う 3.11被災地からの提言』
- 石塚晴通編『漢字字體史研究』
神部宏泰著『生活語の原風景』
本書は,生活語の伝承と,そのことばに生きた人びとの生活と哀歓を描きながら,生活語事実を事実として取り上げ,その組織や体系に意を用いた書である。中備後の神石高原町小野をフィールドとし,その地域性と具体性によりながらも,基層で日本語の史的事実と深く関わるさまが,名詞や動詞,挨拶や敬語,文末詞などの実例とともに示されている。第一章では,ボタモチ,モチ・タンゴ,トビ,ユリー(いろり),ニワ・カド,カシコマル,ミテル,ニガル,オエル,イタシー,ボッコーをとりあげる。第二章では,あいさつことば,自然敬語,敬語命令形,転成文末詞をとりあげる。第三章では,動詞・形容詞・形容動詞をめぐる生活とその推移について,付章では,九州方言における動詞活用の変遷と動詞音便の変遷を論じている。なお,本書は村の生活語を記述した前著『日本語方言の表現法――中備後小野方言の世界――』(2006)につづく姉妹編という位置づけになるという。本書は和泉書院 研究叢書405として刊行された。
- 第一章 生活語・その豊饒なる流れ
- 第二章 文表現・その発想
- 第三章 語詞語彙・その原風景
- 付章 九州方言動詞考
(2010年4月25日発行 和泉書院 A5判横組み 307頁 8,000円+税 ISBN:978-4-7576-0552-7)
北原保雄著『日本語の形容詞』
形容詞を,「客観の表現」,「主観の表現」,「主観客観の二面的表現」の三種に分け,三者の関係について詳しく考察した書。著者が長期間にわたり書いたり話したりした内容が総合的にまとめて論じられている。次の7章からなる。
- 第1章 形容詞概説
- 第2章 形容詞の種類と意味
- 第3章 表現主体の主観と動作主の主観
- 第4章 形容詞の意味と構文
- 第5章 形容詞の語音構造
- 第6章 形容詞のウ音便――その成立の過程をさぐる――
- 第7章 形容詞「ヒキシ」攷――形容動詞「ヒキナリ」の確認――
(2010年6月20日発行 大修館書店刊 四六判縦組み 266頁 1,800円+税 ISBN:978-4-469-22211-1)
近代語学会編『近代語研究第15集』
近代語学会による論集『近代語研究』の第15集である。室町時代周辺から現代に至るまでの日本語について計29編の論文を収める。
- 「聞ク」と「尋ヌ」の展開――中世における〈質問〉の意味の拡大をめぐって――(小林賢次)
- 鎖のさされてさぶらふぞ(岩下裕一)
- 漢語「有無」――近代語への歩み――(玉村禎郎)
- 『長恨歌抄』に見える「まいけれども」をめぐって――接続助詞「けれども」の成立説を検証する――(坂詰力治)
- 抄物における助動詞「げな」の用法(山田 潔)
- 『謡抄』における??謡?≠フ注釈意識と用語(小林千草)
- 抄物資料における副助詞ガナ(小林正行)
- 類義語「功者」と「上手」の差異について――天理本・虎明本における使用を中心に――(宮内佐夜香)
- 『和名集并異名製剤記』の諸版とその変容(柳田征司)
- 江戸俗字の解読と検証――西鶴作品を主として――(杉本つとむ)
- 近世後期上方資料に見られるテルとチヨルについて(増井典夫)
- 『桑名日記』にみる近世末期下級武士の人称代名詞(山本志帆子)
- 検索法多様化の余燼――一九世紀近世節用集における――(佐藤貴裕)
- 馬琴の用語――券縁・欠安・羞殺・笑納・不勝の歓び――(鈴木丹士郎)
- 『路女日記』における会話文の引用法(大久保恵子)
- 式亭三馬の半濁音符に関する一考察(長崎靖子)
- 『呉淞日記』に見られる片仮名表記語について(山口 豊)
- 幕末明治期に生れた日本製の漢語(鈴木英夫)
- 『日清会話』と『日韓会話』(参謀本部編明治二七年八月刊)――日本語資料としての位置付け――(園田博文)
- 漱石直筆原稿『それから』の振り仮名(小松寿雄)
- 否定条件句「(行か)ないで,〜」と「(行か)ずに,〜」(田中章夫)
- 鉄道駅名における分割地名の構造(続)(鏡味明克)
- 副詞「よほど」の意味・用法について――近代から現代へ――(佐々木文彦)
- 明治大正期関西弁資料としての上司小剣作品群の紹介および否定表現形式を用いた資料性の検討(村上 謙)
- 明治大正期における補助動詞「去る」について(小木曽智信)
- 明治民法典を編纂した人々の言語――指定辞について――(北澤 尚)
- 「浮雲」の自己表現をめぐって(森 雄一)
- J.F.ラウダーー著『日英会話書』の日本語――人称代名詞から――(常盤智子)
- 『日葡辞書』と『日仏辞書』のヘボンの参看の可能性をめぐって(木村 一)
(2010年10月20日発行 武蔵野書院刊 A5判縦組み(一部横組み) 532頁 15,000円+税ISBN:978-4-8386-0248-3)
国語文字史研究会編『国語文字史の研究12』
国語文字史研究会による論集『国語文字史の研究』の第12集である。文化を創造し,時代・地域を越えて情報を伝える言語において重要な役割を果たす文字の視点からの研究と,文字史研究に関する11編の論考による。
- 「変字(かえじ)法」と「変字(へんじ)法」と(今野真二)
- 萬葉集における地名表記と子音韻尾字――非固有名詞表記例をもたない二合仮名――(尾山 慎)
- 古代語における文字とことばの一断章(乾 善彦)
- 続日本紀宣命の表現――「欵」字と「イソシ」の対応――(白石幸恵)
- 『日本霊異記』中巻第一縁「嚬●(=口偏+戚)」の訓釈について(坂尻里奈)
- 和名類聚抄地名の二合仮名(蜂矢真郷)
- 「當」と「マサニ」の対応関係について(王 秀梅)
- 元永本古今集を読むために――表記史と書道史――(浅田 徹)
- 近世初期俳諧『正章千句』の振り仮名に関する一試論(田中巳榮子)
- 位取り縦書き漢数字の発生と流布(永田高志)
- 多義を有する専門語――日中同形語「寄生虫」の場合――(王 敏東)
(2011年3月25日発行 和泉書院刊 A5判縦組み 215頁 7,000円+税 ISBN:978-4-7576-0583-1)
中西久実子著『現代日本語のとりたて助詞と習得』
ひつじ書房「シリーズ言語学と言語教育」の28冊目。著者の博士論文「現代日本語におけるとりたて助詞の使用実態と日本語学習者の習得」の内容を含む。とりたて助詞の統語的・意味的・語用論的特徴を明らかにした上で,コーパスを用いて日本語学習者によるとりたて助詞の使用実態の調査をおこない,語の位置でとりたて助詞の誤用・不使用の問題が多いという現象を見出し,それが述語の位置のとりたてと述語以外の位置のとりたての違いによるものであることを指摘している。
- 序章
- 第1章 とりたて助詞の意味論的・語用論的特徴
- 第2章 とりたて助詞の統語的特徴
- 第3章 とりたて助詞の調査の概要と結果の概観
- 第4章 「だけ」の特徴と使用実態
- 第5章 「しか」の特徴と使用実態
- 第6章 「ばかり」の特徴と使用実態
- 第7章 「こそ」の特徴と使用実態
- 第8章 「も」の特徴と使用実態
- 第9章 「まで」の特徴と使用実態
- 第10章 「さえ」の特徴と使用実態
- 第11章 「でも」の特徴と使用実態
- 第12章 「くらい」の特徴と使用実態
- 第13章 「など」,「なんか」,「なんて」の特徴と使用実態
- 第14章 「なら」の特徴と使用実態
- 第15章 学習者のとりたて助詞の習得
- 終章 まとめと今後の課題
(2012年1月31日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 308頁 4,800円+税 ISBN:978-4-89476-606-8)
高山倫明著『ひつじ研究叢書言語編第97巻 日本語音韻史の研究』
著者のこれまでの日本語音韻史研究の成果を集めた書。清音濁音,四つ仮名,促音,アクセント,プロソディなど,これまでも日本語音韻史の中心的で伝統的に議論されてきたテーマである題材を扱いながら,従来の学説,通説に縛られず,日本語の音韻史を革新することを提案する。
- 第I部 研究史と方法論
- 第1章 研究史と日本語音韻史素描
- 第2章 日本語音韻史の方法
- 第II部 分節音論
- 第3章 古代的濁音の弁別的特徴
- 第4章 史的連濁論
- 第5章 促音の音用論
- 第6章 四つ仮名と前鼻音
- 第III部 韻律論
- 第7章 音訳漢字とアクセント
- 第8章 音節構造と字余り論
(2012年2月14日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 261頁 6,000円+税 ISBN:978-4-89476-576-4)
住吉朋彦著『中世日本 漢学の基礎研究 韻類編』
2010年に提出された慶應義塾大学審査学位論文を根幹とする書。国内外の伝本を博捜,書誌学の方法により,中世日本漢学の特質を明らかにする。
中国で成立した韻類書で日本の中世に広く流布した『古今韻会挙要』,『韻府群玉』,『氏族大全』の三書を取り上げ,その現存諸本を網羅的に調査し,版本学的方法を以てその本文系統と諸本の展開とを明らかにし,さらに三書の日本に於ける受容の実態を探って,日本漢学史の中に位置づけたものである。
- 序説一 日本漢学史における五山版
- 序説二 日本漢学史における辞書,類書
- 第一章 『古今韻会挙要』版本考
- 第二章 『韻府群玉』版本考
- 第三章 『氏族大全』版本考
- 総説 中世日本漢学における韻類書の受容
(2012年2月28日発行 汲古書院刊 A5判縦書き 750頁 16,000円+税 ISBN:978-4-7629-3604-3)
鈴木泰著『語形対照 古典日本語の時間表現』
古典日本語の時間表現の形式の対立や競合の状態を,動詞の種類ごとに一目で対照できるようにするために編まれた書。全体は「概説編」と「用例編」に分かれる。
「用例編」では,各形態の用例の相互参照を便利にするために,見開き2ページを4象限に分割し,第1・2・3象限で各形態の用例を対照させ,第4象限で用例を対照した結果についてコメントが記されている。「用例索引」と「個別的意味索引」を付す。
- 概説編
- 第一部 現代日本語のテンス,アスペクト,パーフェクト
- 第二部 古典日本語のテンス,アスペクト,パーフェクト
- 第三部 非過去形式の意味
- 第四部 過去形式の諸問題
- 第五部 過去形式の意味
- 第六部 ケリ形態の意味
- 用例編
- 第七部 非過去形式の個別的意味と動詞の種類
- 第八部 過去形式の個別的意味と動詞の種類
- 第九部 ケリ形態の個別的意味と動詞の種類
(2012年7月15日発行 笠間書院刊 菊判縦組み 308頁 1,900円+税 ISBN:978-4-305-70593-8)
陳志文著『現代日本語の計量文体論』
著者が東北大学に提出した博士論文「現代日本語の計量文体論的研究――情報伝達型の文章を中心に――」をもとにまとめられた書。現代日本語としてかなり代表的なものと考えられている新聞,雑誌(週刊誌)高校の教科書の3文体を,統計的な方法を利用して,それぞれ適切な文体類型に分類した上で,三者の関係について詳しく観察することを試みたものである。計量的な方法による日本語と中国語との対照研究も試みられている。くろしお出版日本語研究叢書26 FRONTIERSERIESとして刊行された。
- 第1部「計量文体論とは何か」
- 第1章 文体と文体類型
- 第2章 先行研究及び本書の立場について
- 第2部「現代日本語の計量文体論的研究」
- 第3章 新聞の各紙面に見られる文体の類型――朝日新聞と読売新聞の分析から――
- 第4章 週刊誌に見られる文体の類型
- 第5章 新聞と週刊誌に見られる文体の類型と関係
- 第6章 高校教科書に見られる文体の類型
- 第7章 新聞,週刊誌,高校教科書に見られる文体の類型と特性
- 第8章 男性誌及び女性誌に見られる文体特性の相違――「論理的」と「感性的」――
- 第9章 計量文体論における日中文体の対照研究についての一試論――日台同一事件のネット記事に見られる直接引用表現の相違――
- 第3部「まとめ」
- 現代日本語の研究における本書の位置づけ並びに意義
(2012年8月22日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 208頁 3,800円+税 ISBN:978-4-87424-5590)
小林芳規著『平安時代の佛書に基づく漢文訓讀史の研究4中期訓讀語體系』
大著『平安時代の佛書に基づく漢文訓讀史の研究』の第四冊。
- 第一章 總説
- 特定高僧の訓讀(一)〜(二)
- 第二章 寛平法皇の訓讀法
- 第三章 石山内供淳祐の訓讀法
- 特定ヲコト點使用資料の訓讀(一)〜(二)
- 第四章 慈覺大師點所用資料の訓讀法
- 第五章 順曉和尚點の訓讀法
- 第六章 石山寺經藏の平安中期古點本の訓讀法について
- 平安中期における各宗派の訓讀 ――平安新興佛教(一)〜(三)
- 第七章 天台宗三井寺の訓讀法
- 第八章 天台宗延暦寺の訓讀法
- 第九章 眞言宗小野流の訓讀法
- 第十章 辯中邊論における眞言宗石山寺淳祐内供の訓讀法と法相宗興福寺空晴僧都の訓読法
- 平安中期における各宗派の訓讀 ――南都古宗(一)〜(二)
- 第十一章 興聖寺藏本大唐西域記卷第十二平安中期點の訓讀法
- 第十二章 乘掌珍論天暦九年點の訓讀法
- 第十三章 石山寺藏佛説太子須陀拏經平安中期點の訓讀語について
- 第十四章 平安中期訓讀語の泯亡と繼承
(2012年9月10日発行 汲古書院刊 A5判縦組み 623頁 18,000円+税 ISBN:978-4-7629-3594-7)
長崎靖子著『断定表現の通時的研究 江戸語から東京語へ』
2001年に提出された日本女子大学審査学位論文と,その後10年間の発表論文に加筆修正を施しまとめた書。江戸語から東京語へ至る断定表現体系の変遷をたどる。助詞・助動詞という品詞の枠組を越えて,江戸語資料における終助詞の断定機能に着目する。江戸語が中央語として変化していく過程を象徴的に示す終助詞「さ」と助動詞「です」の通時的変遷を研究の核として,丁寧な断定表現体系の変遷に的を絞った考察が行われる。
- 第一部 断定表現研究序説
- 第一章 江戸語・東京語
- 第二章 断定表現の通時的研究の意味
- 第二部 終助詞「さ」の通時的研究
- 第一章 江戸語の終助詞「さ」の機能に関する一考察
- 第二章 江戸語の「動詞連用形+て+さ」表現形式に関する一試論――西部待遇表現「動詞連用形+て+指定辞」との関係から――
- 第三章 終助詞「さ」による反語表現に関して
- 第四章 「ツサ」の意味分析に基づく江戸語の文末表現の特徴
- 第五章 「のさ」の一形式「んさ」に関する考察
- 第六章 『浮世風呂』『浮世床』に見る断定辞としての終助詞「よ」の位相――断定辞としての終助詞「さ」との比較から――
- 第七章 江戸語から東京語に至る断定辞としての終助詞「よ」の変遷――断定辞としての終助詞「さ」との比較から――
- 第八章 現代語の終助詞「さ」の機能に関する考察
- 第三部 助動詞「です」の通時的研究
- 第一章 江戸後期口語資料に見る助動詞「です」の意味――その使い手と語感を通して――
- 第二章 歌舞伎台帳に見る助動詞「です」の様相――その意味と使用意図に関して――
- 第三章 明治初期の小新聞に見る助動詞「です」の様相
- 第四章 明治初期の大新聞に見る助動詞「です」の様相――明治初期の小新聞との比較から――
- 第五章 洋学会話書に見る助動詞「です」の様相
- 第六章 明治期における助動詞「です」の普及――演説速記資料を中心に――
- 第四部 その他の断定表現
- 第一章 江戸語における「でございます」
- 第二章 遊里における「であります」の使用意図――江戸後期の洒落本,人情本の調査から――
- 第三章 文末表現「げす」の評価に関して
- 結び 断定表現体系の変遷――江戸語から東京語へ――
(2012年9月14日発行 武蔵野書院刊 A5判縦組み 446頁 12,000円+税 ISBN:978-4-8386-0263-6)
尾崎知光著『国語学史の探求』
本書は近代と近世の二部構成になっており,第一部の近代では,主に前著『国語学史の基礎的研究』(昭和五十八年刊)以後の国語学史の論考を取り上げ,第二部の近世では,第一部に先行する近世のものを取り上げている。第一部の近代では,昭和期を代表する二大文法学説として橋本文法と時枝文法について,橋本文法の文節論とそれに関連するノートを取り上げ,時枝文法の言語過程説と敬語論について論じた。第二部の近世では,本居宣長や本居春庭などの著書やそれに関わる研究を取り上げて論じ,第三部の余論では,真福寺本古事記について論じた。本書は新典社 研究叢書231として刊行された。
- I 近代
- 一,橋本文法の「文」,「文節」の考へ方とヨーロッパ言語学説
- 二,橋本進吉博士の「国翠史概説」の講義ノート
- 三,昭和六年度東大文学部に於ける橋本進吉博士の「国語学史概説」講義の鈴木朖・本居春庭に関する部分
- 四,言語過程説の生成
- 五,詞に属する敬語についての私見
- 六,受身の形につく謙譲語の「聞ゆ,奉る」について――源氏物語の用例による
- 〔付〕文化審議会の敬語五分類とそれに対する私見
- II 近世
- 七,『漢字三音考』の本旨――ンノ韻の問題にふれて
- 八,本居宣長の仮名遣と歌学・古学
- 九,『古代国語の音韻に就いて』にみえる宣長の「神」の説
- 十,『あゆひ抄』における「さす,ささぬ」の説とその展開――大野晋博士の新説にふれて
- 十一,本居春庭の「詞,てにをはの係り受け」について
- 十二,『詞八衢』について
- 十三,柳園叢晝一『言語四種論・活語断続譜』の刊年その他について
- 十四,草鹿砥氏旧蔵,名古屋市立鶴舞中央図書館本『古言別音抄』について
- II 余論
- 十五,稲葉通邦の真福寺本古事記研究と本居宣長
- 十六,『古事記伝』に引用された真福寺本古事記について
(2012年9月19日発行 新典社 A5判縦組み 287頁 8,000円+税 ISBN: 978-4-7879-4231-9)
今野真二著『百年前の日本語 書きことばが揺れた時代』
日本語が,この百年ほどの間にどのように変化してきたのか,明治期の書きことばと現代の書きことばを対照しながら記述する新書。明治期の日本語はこういう状態にあったということを,豊富な実例を以って紹介する。岩波新書新赤版1385として刊行された。
- 第一章 百年前の手書き原稿――夏目漱石『それから』の自筆原稿
- 第二章 「揺れ」の時代――豊かな明治期の書きことば
- 第三章 新しい標準へ――活字印刷の広がりと拡大する文字社会
- 第四章 統一される仮名字体――失われた選択肢
- 第五章 辞書の百年――辞書を通してみた日本語の変化
(2012年9月20日発行 岩波書店刊 新書判縦組み 208頁 700円+税 ISBN:978-4-00-431385-4)
室山敏昭著『日本人の想像力 方言比喩の世界』
本書は,方言比喩,とりわけ方言メタファーをのぞき窓として,地域生活者の歴史の厚みを背景とする豊かな「想像力」について,基礎論と研究の方向性を提示し,方言メタファーに独自の特性や地域差があることを指摘しつつ,その形成要因を明らかにしようとしたものである。特定の生活領域や社会状況に対する関心が強いほどそれに関する語彙が多くなり,細かく分節化されることを普遍的特性として指摘しつつ,「擬自然化」,「擬人喩」,「見立て」などの実例を挙げながら,方言比喩に関する具体的な分析を通して,地域生活者の感覚的理性が歴史を背景とする生活環境と相関しつつ形成されてきたことを明らかにすべく取り組まれた。筆者が長年取り組んできた方言語彙の世界を方言比喩の観点から描き出すための基本的アプローチが示されている。なお,第一章と第四章は既発表論文の大幅な加筆修正によるもので,他章は書き下ろしである。本書は和泉書院 研究叢書425として刊行された。
- 第1章 方言比喩の世界へ
- 第2章 方言比喩に見る地方人の想像力
- 第3章 方言比喩の創造と環境世界
- 第4章 言性向語彙における比喩表現の生成と構造
- 第5章 漁業社会の魚名語彙における比喩の諸相
- 第6章 子どもたちの想像力
(2012年9月25日発行 和泉書院 A5判横組み 405頁 11,000円+税 ISBN:978-4-7576-0631-9)
増井典夫著『近世後期語・明治時代語論考』
近世後期語,明治時代語についての著者の研究をまとめた書。第一部では,近代語の形容詞について述べる。第四部では,近世後期上方語から近代関西方言について述べる。第二部及び第三部は近代日本語研究上の基本文献となりうる資料論についての論考が続く。本書は和泉書院 研究叢書426として刊行された。
- 第一部 近代語における形容詞の研究――意味・用法を中心に――
- 第一章 形容詞「えらい」の出自と意味の変遷
- 第二章 形容詞終止連体形の副詞的用法――「えらい」,「おそろしい」を中心に――
- 第三章 江戸語における形容詞「いかい」とその衰退について
- 第四章 近世後期における形容詞「きつい」の意味・用法とその勢力について
- 第五章 形容詞「えらい」の勢力拡大過程――近世にみる新語の普及と定着――
- 第六章 形容詞「まぶしい」の出自について――「マボソイ」→「マボシイ」→「マブシイ」――
- 第二部 近世後期語研究――資料性の問題を中心に――
- 第一章 洒落本とは
- 第二章 江戸語資料としての十九世紀洒落本について――「きつい」,「ゑらい」,「いかい」等の語を見ながら――
- 第三章 近世後期上方語研究の課題――近世後期名古屋方言を視野において――
- 第四章 形容詞「えらい」,「どえらい」から見る近世後期上方語と名古屋方言
- 第三部 明治時代語研究――資料性の問題を中心に――
- 第一章 近代語資料における校訂の問題と資料性をめぐって――坪内逍遥『一読三歎当世書生気質』の場合――
- 第二章 近代語資料における校訂について――坪内逍遥『小説神髄』の場合を中心に――
- 第三章 『一読三歎当世書生気質』に現れる語について
- 第四章 『明治文学全集』における校訂の問題について――山田美妙「武蔵野」を中心に――
- 第五章 明治期口語研究の新展開に向けて――標準語と保科孝一,そして「トル・ヨル」――
- 第六章 尾崎紅葉における形容語での「可」の用字について
- 第七章 近代語資料としての「真景累ヶ淵」,「緑林門松竹」
- 第四部 近世後期上方語から近代関西方言へ
- 第一章 近世後期上方語における“ちやつた”について
- 第二章 近世後期上方語における“ちやつた”の扱いについて
- 第三章 近代語における「トル」と「ヨル」について
- 第四章 近世後期上方語におけるテルをめぐって
- 第五章 近世後期上方資料に見られるテルとチヨルについて」
(2012年10月5日発行 和泉書院刊 A5判縦組み 347頁 10,000円+税 ISBN:978-4-7576-0634-0)
陣内正敬・田中牧郎・相澤正夫編『外来語研究の新展開』
「言語文化論的なアプローチ」,「言語生活論的なアプローチ」という二つの方向から,「近年急速に成熟し視野を広げた観のある外来語研究の分野を広く展望し,外来語をめぐる新しい日本語研究の姿を提示」することを意図して編まれたもの。
- 「外来語研究の意義」(陣内正敬)
- 第1部「言語文化論的アプローチ――構造・歴史・語彙交流――」
- 外来語の基本語化(金 愛蘭)
- 文法的視点からみた外来語(茂木俊伸)
- 言語の西洋化――近代化の中で――(米川明彦)
- キリシタン語彙の歴史社会地理言語学(小川俊輔)
- 日本語の世界進出――グーグルで見る外行語――(井上史雄)
- 中国における外来語受容の歴史的・地域的変異(荒川清秀)
- 第2部「言語生活論的アプローチ――社会・マスコミ・教育――」
- 「『外来語』言い換え提案」とは何であったか(相澤正夫)
- 日本語と韓国語の外来語の受容意識(梁敏鎬)
- 新聞の外来語はどのように生まれるか(関根健一)
- 放送の外来語――傾向と対策――(塩田雄大)
- 日本語学習者の外来語意識――日本語教育における外来語教育を考える――(中山惠利子)
- 国語教育における外来語――コーパスによる類型化を通して――(田中牧郎)
(2012年10月25日発行 おうふう刊 A5判横組み 248頁 2,000円+税 ISBN: 978-4-273-03698-0)
丹羽一彌編著,黒木邦彦・田村建一・品川大輔著『日本語はどのような膠着語か――用言複合体の研究――』
日本語のようなタイプ(アルタイ型)の言語においては,語の「足し算」的構造の組み立て方の原理を明らかにすることが重要であり,記述の枠組みや文法概念も「足し算」的な構造の資料から帰納的に導かれなければならないという考え方に基づき,日本語以外の言語も視野に入れながら,日本語の膠着語構造の特性を把握しようとした論文集。
- I 日本語の膠着的構造
- 日本語の連辞的語構成(丹羽一彌)
- 日本語動詞構造の形態類型論的位置づけ(品川大輔)
- II 日本語の用言複合体
- 動詞述語語幹の構造(丹羽一彌)
- 丁寧表現の構造と変化(丹羽一彌)
- サ四動詞音便語幹と後続形式(丹羽一彌)
- 二段動詞の一段化と一段動詞の五段化(黒木邦彦)
- 中古和文語の動詞派生接尾辞‐-ツ‐-,‐-ヌ‐――承接順位を巡って――(黒木邦彦)
- III 膠着語としての日本語の特徴
- 満洲語動詞述語の構造(田村建一)
- キリマンジャロ・バントゥ諸語から見た日本語の膠着性――動詞屈折形式における膠着型言語の類型的差異――(品川大輔)
- 印欧語の文法範疇と日本語の接辞(丹羽一彌)
(2012年10月30日発行 笠間書院刊 A5判横組み 208頁 2,800円+税 ISBN:978-4-305-70670-6)
東北大学方言研究センター著『方言を救う,方言で救う 3.11被災地からの提言』
東日本大震災で自らも被災した東北大学方言研究センターの筆者らが,地域と方言の関係を震災をとおして改めて問い直してきた活動成果をまとめたものである。東日本大震災と原子力発電所の影響で人口が激減している地域で,方言が消滅するということの研究上の意味,消滅しつつある方言を記録するための事前調査,方言によるコミュニケーションのあり方,方言に関わる情報の集約・発信,方言の伝承を取り上げ,東北方言概説のコラムを所収する。東日本大震災以降,研究者による災害復興支援が特に重視されるようになったが,方言研究者がチームを作り,研究対象を通じて被災地支援にあたろうとする一つのモデルをしめしたものといえる。
なお,本書の内容は,2011年度文化庁委託事業「東日本大震災において危機的な状況が危惧される方言の実態に関する予備調査研究」成果報告書のうち第1部「東日本大震災の中の方言」の内容を大幅に改訂し,新たに第5章を加えて構成されている。
- なぜ,今,方言なのか(小林 隆)
- 第1章 貴重な方言が消えていく(中西太郎)
- 第2章 方言のこれからの記録に向けて(川越めぐみ)
- 第3章 方言は被災者を支えることができるか(魏 ふく子)
- 第4章 支援者と被災者を結ぶ方言パンフレット(坂喜美佳)
- 第5章 人々をつなぐ方言情報ネットワーク(中西太郎)
- 第6章 次世代に方言を伝えるために(津田智史)
- コラム 被災地の方言を知ろう!1〜9(田附敏尚)
- 震災を体験して――執筆者から一言(各執筆者)
(2012年10月31日 ひつじ書房 B6判横組み 240頁 1,600円+税 ISBN:978-4-89476-640-2)
石塚晴通編『漢字字體史研究』
漢字について,各時代・各地域(各国)の用例の推移に基く帰納的方法と,字書・字様書による演繹的方法とをつきあわせて,字体規範と異体の歴史を考えることを目的とする研究のもと,漢字字体規範データベース(Hanzi Normative Glyphs database,略称HNG)を用いながら,漢字字体史研究の基礎とすべく編まれたものである。
中国周辺民族が漢字漢文を受容してそれぞれの文化を形成する過程で,漢字の草書化・省画化・増画化あるいは漢字の構成原理を応用して固有文字を生み出されており,漢字の役割は重要である。漢字文献の記述において,漢字字体の歴史的・地域的変遷や諸文献中の字体異動,実用例と字書記述とを相互に検討することにより,字体のもつ資料的意義を体系化し,対象文献の時代比定や作成背景を探る。なお,本書は2011年12月16-18日に開催された国際シンポジウム「字体規範と異体の歴史」の成果を基本とし,字体規範と異体の歴史を考える上で有用な既発表論文を採り込み,五部構成,計22本の論文で構成されたものである。
- 序論 漢字字体史研究――序に代えて――(石塚晴通)
- 第一部 字体理論と字体変遷モデル
- 漢字字体の日本的標準(石塚晴通)
- 金属活字と文字の同一性(豊島正之)
- 唐代楷書字体規範からみた『龍龕手鏡』(西原一幸)
- 書法と書体(紅林幸子)
- 第二部 字体データベース論
- 漢字字体規範データベースの構想と発足(石塚晴通・豊島正之・池田証寿・白井純・高田智和・山口慶太)
- 漢字画像情報多量データベース――HNG(漢字字体規範データベース)を中心として――(石塚晴通)
- HNGにおける字種・字体の認識と異体処理(岡墻裕剛)
- 拓本文字データベースの設計とその応用(安岡孝一)
- 第三部 字体資料論
- 古写経の歴史――書誌学と字すがた――(赤尾栄慶)
- 敦煌漢文文献(漢籍)の性格とその漢字字体(小助川貞次)
- 行政用漢字の文字同定――汎用電子情報交換環境整備プログラムの場合――(高田智和)
- 異体字表検証の試み――ユニコードの拡張でどの程度異体が弁別できるようになっているのか――(小野芳彦)
- 第四部 字体史研究の方法
- 金沢文庫本白氏文集『長恨歌』の漢字字体について――漢字字体規範データベースの応用的事例として――(當山日出夫)
- 漢字字体の変遷――HNGに見る変わる字体と変わらない字体――(斎木正直・池田証寿)
- 国語研本金剛頂経の漢字字体(高田智和)
- 漢字字体の実用例と字書記述――「寂」の場合――(池田証寿)
- 『新訳華厳経音義私記』における字様の利用について(賈智)
- 写本の実態から見た字書記述――会意文字を例として――(イムレ・ガランボス(翻訳:岡田一祐))
- 『落葉集小玉篇』の部首配属からみたキリシタン版の字体認識(白井純)
- 第五部 字体研究の諸相
- 異体字・国字の出自と資料(笹原宏之)
- HNGの利用を通して見た親鸞・明恵の字体(斎木正直)
- 日本史史料における翻刻データの作成支援と共有手法(山田太造)
(2012年11月2日発行 勉誠出版 A5判縦組み 416頁 8,000円+税 ISBN:978-4-585-28008-8)