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新刊紹介 (『日本語の研究』第3巻1号(通巻228号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 町田健編 中井精一著 『社会言語学のしくみ』
- 江口泰生著 『ロシア資料による日本語研究』
- 馬渕和夫著 『悉曇章の研究』
- 岡田袈裟男著 『江戸異言語接触―蘭語・唐話と近代日本語―』
- 林義雄編 『四本和文対照 捷解新語』
- 矢澤真人・橋本修編 『現代日本語文法―現象と理論のインタラクション―』
- 小林芳規博士喜寿記念会編 『小林芳規博士喜寿記念 国語学論集』
- 青柳宏著 『日本語の助詞と機能範疇』
- 野沢勝夫著 『「仮名書き法華経」研究序説』
- 浦野聡・深津行徳編 『古代文字史料の中心性と周縁性』
- 窪薗晴夫著 『岩波科学ライブラリー118 アクセントの法則』
- 海保博之監修 針生悦子編 『朝倉心理学講座5 言語心理学』
- 国広哲弥著 『日本語の多義動詞―理想の国語辞典II―』
- 国語文字史研究会編 『国語文字史の研究9』
- 上田功・野田尚史編 『言外と言内の交流分野―小泉保博士傘寿記念論文集―』
- 遠藤織枝編 『日本語教育を学ぶ―その歴史から現場まで―』
- 倉島節尚編 『日本語辞書学の構築』
- 小谷博泰著 『木簡・金石文と記紀の研究』
- 筑紫国語学談話会編 『筑紫語学論叢2―日本語史と方言―』
- 金田一春彦著 『金田一春彦著作集5 国語学編5』『金田一春彦著作集9 論文拾遺』『金田一春彦著作集別巻』
- 山口仲美著 『日本語の歴史』
- 真田信治監修 任栄哲編 『韓国人による日本社会言語学研究』
- 中井精一・ダニエル=ロング・松田謙次郎編 『日本のフィールド言語学―新たな学の創造にむけた富山からの提言―』
- 内間直仁・野原三義編著 『沖縄語辞典―那覇方言を中心に―』
- 日本語ジェンダー学会編 佐々木瑞枝監修 『日本語とジェンダー』
町田健編 中井精一著 『社会言語学のしくみ』
「シリーズ・日本語のしくみを探る」の第7巻である。「社会言語学」がどんな学問で,何を対象にして,どのように研究するのかを概説した入門書である。第1章「社会言語学の枠組と方法」では,社会言語学の意義やテーマ,日本の社会言語学の特徴やデータ収集の方法について述べる。第2章「日本社会の特質とことば」では,地域差や言語意識,地域社会生活と言葉の関係などについて述べる。第3章「変貌する日本社会とことば」では,高度経済成長に伴う社会変化と言葉の変化の関係,世代差や男女差,集団語について述べる。第4章「国際社会と日本語」では,多言語社会,世界の中での日本語の位置について述べる。巻末では,参考文献(定評があるもの,初学者に向いているもの)についての解説がなされている。なお,本書の冊子本体の表紙・背表紙には「社会言語論のしくみ」と書かれているが,刊行元によると,「社会言語学のしくみ」が正しい書名とのことである。
章立ては以下のようになっている。
- 第1章 社会言語学の枠組と方法
- 第2章 日本社会の特質とことば
- 第3章 変貌する日本社会とことば
- 第4章 国際社会と日本語
- さらに勉強したい人のための参考文献
(2005年12月20日発行 研究社刊 A5判縦組み 194ページ 2,000円+税 ISBN 4-327-38307-4)
江口泰生著 『ロシア資料による日本語研究』
18世紀に薩摩出身の漂流民がロシアに残した資料を基に,その資料的意味を考え,数々の現象を記述し,そこから方言や日本語史に関わる考察を行ったものである。全体は2部に分かれる。「1部 ロシア資料資料論」では,漂流民がロシアに残した日本語資料がどのような性格を持つか,あるいはこれまでどのように研究されてきたか,資料として扱うときにどのような注意が必要か,という観点で資料論を展開する。「2部 ロシア資料形態音韻論」では,資料から得られる当時の薩隅方言に関する事実の積み重ねと,形態音韻論的分析を行う。具体的には,母音の脱落・無声化現象,助詞ノの撥音化,助詞の融合と文節形成などの現象を扱い,その現象が起こる条件を探る。なお本書は『ロシア資料の形態音韻論的研究』(岡山大学文学部2002年)および九州大学に提出された博士論文を大幅に書き改めたものである。
章立ては以下のようになっている。
- 1部 ロシア資料資料論
- §1 ロシア資料沿革
- §2 研究史補遺
- §3 表記論
- §4 「外国資料」としての『露日単語集』『日本語会話入門』
- §5 「外国資料」としての『友好会話手本集』
- §6 「外国資料」としての『世界図絵』
- §7 「簡単な報告」中の日本語
- 2部 ロシア資料形態音韻論
- §1 母音の脱落・無声化と境界表示
- §2 助詞ノの撥音化
- §3 助詞の融合と文節形成
- §4 促音と撥音の音価
- §5 ロシア資料のエ列音
- §6 アイ連母音のエ列化と語種類別
- §7 語幹保持の諸相
- §8 ロシア資料からみた18世紀初頭薩隅方言
(2006年2月20日発行 和泉書院刊 A5判横組み 336ページ 10,000円+税 ISBN 4-7576-0350-9)
馬渕和夫著 『悉曇章の研究』
本書は,悉曇章(梵字の子音系文字と母音系文字を合成した時にできる文字を,五十音図のような表にしたもの)の資料的性格を明らかにし,梵字に添えられた漢字や朱筆の書き入れ(万葉仮名や漢字など)を検討して,日本語の音韻・表記に関する考察を行ったものである。第1章「悉曇章の伝来」では,悉曇章の説明を行い,日本への伝来について文献にはどのように記述されているかを紹介する。第2章「渡来悉曇章各論」は,諸本について述べたもので,特に安国寺本,東寺観智院金剛蔵第201箱の大悉曇章に多くの紙面を費やしている。第3章「個別問題研究」では,諸流の学統,空海と悉曇との関わりなど,個々のテーマに関する論が展開されるが,中でも「円仁と安国寺本悉曇章」「東寺観智院蔵『全雅本悉曇章』解析」では,書き入れに関する詳細な読み解きが展開される。また,「円仁『在唐記』について」では,これについての従来の説の検討を行なう。第4章「中国漢字音史との関係」では,悉曇章の対注漢字について検討し,安国寺本は当時の長安音,全雅本は南方音を記した資料と推測する。第5章「国語における清濁の意識」では,清濁意識の発生について考究し,第6章「濁音記号」では,濁音記号の発生に関する見解を記す。
章立ては以下のようになっている。
- 序
- 悉曇文字のローマ字転写
- 第1章 悉曇章の伝来
- 第2章 渡来悉曇章各論
- 第3章 個別問題研究
- 第4章 中国漢字音史との関係
- 第5章 国語における清濁の意識
- 第6章 濁音記号
(2006年3月1日発行 勉誠出版刊 A4判縦組み 292ページ 16,000円+税 ISBN 4-585-03145-6)
岡田袈裟男著 『江戸異言語接触―蘭語・唐話と近代日本語―』
江戸期における異文化言語との接触・苦闘・交流の実態を解明し,当時の人たちが何を得たのか,あるいは何を考えさせられたかを通じて,文化を考えようとしたものである。具体的には,当時のオランダ語や,明・清の中国語口語の受容がいかにして行われたかを中心に扱っている。全体は5章からなる。第1章「江戸異言語接触と言語文化」では,次章以下の詳しい検討に入る前に概略を説明する。第2章「蘭語学史の諸相」では,『和蘭字彙』の分析(文法の枠組み,音訳語表記,漢語の分析を含む)や「ハルマ和解」との比較,蘭学者が使った文法用語や時制表現把握の様相などが扱われる。第3章「唐話学史 白話の受容と展開」では,岡島冠山の語学書の紹介,唐話辞書の基礎的検討,白話翻訳小説の語彙・文体等の研究,荻生徂徠・太宰春台の著書の分析などを扱う。第4章「蘭学史・蘭語学史と文学・文化」では,広く文化という観点から,異文化と関わった人が感じたことなどを追う。第5章「唐話辞典・江戸時代唐音表・江戸言語学年表」は資料編に相当する。この「江戸言語学年表は」,1253年以降の西暦・年号・干支・一般事項・キリシタン語学・蘭学・蘭語学・唐話学・漢語学・日本語学・海外事項を年表としてまとめたものである。
章立ては以下のようになっている。
- 第1章 江戸異言語接触と言語文化
- 第2章 蘭語学史の諸相
- 第3章 唐話学史 白話の受容と展開
- 第4章 蘭学史・蘭語学史と文学・文化
- 第5章 唐話辞典・江戸時代唐音表・江戸言語学年表
(2006年3月20日発行 笠間書院刊 A5判横組み 684ページ 14,000円+税 ISBN 4-305-70308-4)
林義雄編 『四本和文対照 捷解新語』
朝鮮李朝で交易・外交の通訳を養成するための教科書として使われた『捷解新語』の「原刊活字本」(1676年),「第1次改修本」(1748年),「重刊改修本」(1781年),「捷解新語文釈」(1796年)の日本語本文部分を対照して示したものである。このうち原刊活字本と二種の改修本は,内容面では変化がないが,言語面では異同が見られる。これは近代日本語形成の過渡期の現象を反映していると考えられている。そこで,『捷解新語』4種の日本語本文を翻字し,対照して並べることでその異同が明らかになるようにし,中世から近世期における日本語の言語変化を研究する際の資料として,『捷解新語』諸本の本文を活用できるようにすることが本書の主たる目的である。なお,「原刊活字本」「重刊改修本」「捷解新語文釈」は,それぞれ『原刊活字本捷解新語』『重刊改修新語』『捷解新語文釈』(いずれも韓国弘文閣出版刊)の本文影印より翻字し,「第1次改修本」は『改修捷解新語(解題・索引・本文)』(韓国太学社刊)の本文影印に基づく翻字本文を用いている。
(2006年3月20日発行 専修大学出版局刊 A5判縦組み 236ページ 5,500円+税 ISBN 4-88125-173-2)
矢澤真人・橋本修編 『現代日本語文法―現象と理論のインタラクション―』
北原保雄前筑波大学長の退任を記念して出版された論文集である。教えを受けた人の中で比較的若い世代の現代日本語研究者(70年代生まれが9人含まれる)による14編を収載している。現象と理論の両面に目配りをし,その相互関係を意識しつつ論を進める態度を忘れないという気持ちが副題に込められている。全体は5部に分かれる。第1部は「情報の提示と理解」がテーマで,文内情報完結度を扱った天野みどり論文,否定応答表現を扱った冨樫純一論文,誤用文聴取時の脳波を調べる実験言語学研究を展開する福盛貴弘論文を収める。第2部は「格体制」がテーマで,受動文における動詞外項の降格重視説に反対する石田尊論文,格体制変更現象に関わる「〜テイル」に注目する福嶋健伸論文を収める。第3部は「従属節」がテーマで,引用句内の「は」「が」を扱う阿部二郎論文,B類・C類従属節の情報構造を扱う橋本修論文,資格を表す「〜に」を扱う和氣愛仁論文を収める。第4部は「とりたて」がテーマで,副詞「せいぜい」を扱う安部朋世論文,従属節内の「さえ」「こそ」の解釈と構造を扱う茂木俊伸論文を収める。第5部は「限界性・結果性」がテーマで,副詞的修飾に関する新たな概念構造を提案する井本亮論文,結果性と限界性を分けることが格体制記述にも有効であることを示す川野靖子論文,ある条件下で動詞が方向を表す句を持つことが可能かどうかということと,その動詞の経路指向性との関係について述べる北原博雄論文,結果修飾と様態修飾を検討してその再編を試みる矢澤真人論文を収める。
論文の題名・筆者名は以下のとおりである。
- 第1部 「情報の提示と理解」に関わる「現象と理論のインタラクション」
- 文内情報完結度の多様性―「AがBだ」文と「XはYがZだ」文の差異―(天野みどり)
- 否定応答表現「いえ」「いいえ」「いや」(冨樫純一)
- 「ガ格」「ヲ格」における統語および意味的逸脱に対する実験言語学研究―ERPにおけるN400・P600を指標として―(福盛貴弘)
- 第2部 「格体制」に関わる「現象と理論のインタラクション」
- 受動文における動詞外項の降格について―日本語の受動化の多様性―(石田尊)
- 動詞の格体制と〜テイルについて―小説のデータを用いたニ格句の分析―(福嶋健伸)
- 第3部 「従属節」に関わる「現象と理論のインタラクション」
- 引用句内に現れる「ハ」と「ガ」(阿部二郎)
- いわゆるB類・C類従属節の情報構造小考(橋本修)
- 〈資格〉のニ句について(和氣愛仁)
- 第4部 「とりたて」に関わる「現象と理論のインタラクション」
- 副詞セイゼイの意味・用法と「とりたて」の在り方(安部朋世)
- 従属節内の「さえ」「こそ」の解釈と構造(茂木俊伸)
- 第5部 「限界性・結果性」に関わる「現象と理論のインタラクション」
- 状態変化の修飾―副詞的修飾関係の決定要因と事象構造―(井本亮)
- 移動動詞と共起するヲ格句とニ格句―結果性と限界性による動詞の分類と格体制の記述―(川野靖子)
- 移動動詞のテイル形が述語である文の解釈をめぐって―方向句との共起可能性と経路指向性との相関性―(北原博雄)
- 情態修飾関係の素性分析について(矢澤真人)
(2006年3月20日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 368ページ 7,800円+税 ISBN 4-89476-277-3)
小林芳規博士喜寿記念会編 『小林芳規博士喜寿記念 国語学論集』
小林芳規氏の喜寿を記念した論文集である。門下生や,角筆文献の研究を通して交流のある韓国の研究者が稿を寄せている。「乃至」の訓読を例にして,平安初期にはテニヲハを読み添える訓法あるいは不読の語が,平安後期ごろから次第に音読語化する変化について述べる小林芳規論文以下,合計34編を収める。執筆者は,山内洋一郎,東辻保和,柳田征司,来田隆,沼本克明,三保忠夫,村田正英,金子彰,松本光隆,原卓志,田中雅和,榎木久薫,山本秀人,佐々木勇,山本真吾,西村浩子,柚木靖史,〓竹民,青木毅,宇都宮啓吾,田村夏紀,土居裕美子,岡野幸夫,連仲友,橋村勝明,磯貝淳一,浅田健太朗,世羅恵巳,森岡信幸,尹幸舜,金永旭,李丞宰,南豊鉉である。巻頭に,小林芳規氏の略年譜,業績目録を収録している。
論文の題名・筆者名は以下のとおりである。
- 「乃至」の訓読を通して観た漢文訓読史の一原理(小林芳規)
- 明文抄復元の全体像(山内洋一郎)
- 古代後期日本語の道と路―小右記を中心に―(東辻保和)
- 有情物の存在を表す「アリ(アル)」と「ヲリ(オル)」「ヰル(イル)」(柳田征司)
- 漢書読みと史記読み―漢籍読誦音の伝承の一面―(来田隆)
- 呉音直読資料に於ける四声点の加点の諸相(沼本克明)
- 助数詞「はい(貝)」から「はい(盃)」「かひ(貝)」へ(三保忠夫)
- 漢字使用率から見た定家筆平仮名文における頻用の漢字―『奥入』『嘉禄本古今和歌集』『拾遺愚草』を比較して―(村田正英)
- 親鸞遺文の左注について―その形式と字訓の性格―(金子彰)
- 広島大学角筆文献資料研究室蔵即身成仏義の訓点について(松本光隆)
- 平安時代和文文学作品における「名詞+ら」について(原卓志)
- 『草案集』所収「同(大師供)表白」翻字本文・訳文・註釈(田中雅和)
- 漢語の連濁とアクセント変化―大東急記念文庫蔵光明真言土沙勧信記に基づく考察―(榎木久薫)
- 図書寮本類聚名義抄における毛詩の和訓の引用について―静嘉堂文庫蔵毛詩鄭箋清原宣賢点との比較から―(山本秀人)
- 鎌倉時代の日本漢音資料における濁声点加点について(佐々木勇)
- 日光輪王寺蔵『諸事表白』に於ける漢字の用法について(山本真吾)
- 正岡子規と角筆文献―法政大学図書館正岡子規文庫蔵の角筆文献を中心に―(西村浩子)
- 淑明女子大學校図書館蔵の韓国十九世紀の角筆文献―発見の意義と今後の課題―(柚木靖史)
- 漢語の意味変化について―「神心」を一例として―(〓竹民)
- 平安時代における漢文翻訳語「ナキカナシム(泣悲)」について(青木毅)
- 西教寺正教蔵の訓点資料について(宇都宮啓吾)
- 観智院本『類聚名義抄』に複数記される漢字の記載内容の比較―『干禄辞書』から引用された漢字を対象として―(田村夏紀)
- 〈焦慮〉を表す動詞語彙の展開―「はやる」「いらる」「いらだつ」「あせる」「せく」―(土居裕美子)
- 平安鎌倉時代における「すべる(滑)」の意味用法―複合動詞の前項が全体を代表する用法について―(岡野幸夫)
- 仏教説話における希望表現について―日本霊異記,三宝絵,今昔物語集を資料に―(連仲友)
- 大村由己著『惟任退治記』に於ける表記差による本文異同について(橋村勝明)
- 醍醐寺蔵探要法花験記と東大寺図書館蔵法華経伝記―和化漢文資料とその出典との関わりについて―(磯貝淳一)
- 涅槃講式譜本における促音(浅田健太朗)
- 『源氏物語』における「うるさし」「むつかし」「わづらはし」(世羅恵巳)
- 金沢文庫本群書治要鎌倉中期点経部の文末表現をめぐって(森岡信幸)
- 韓日の漢文読法に用いられた符号形態について―「瑜伽師地論」の境界線と合符と合符逆読符号を中心に―(尹幸舜)
- 角筆の起源について(金永旭)
- 湖巌本と石山寺本『花厳経』の比較研究(李丞宰)
- 古代韓国における漢字・漢文の受容と借字表記法の発達(南豊鉉)
(2006年3月26日発行 汲古書院刊 A5判縦組み 696ページ 22,000円+税 ISBN 4-7629-3547-6)
- ※ 〓は「欒」の簡体字。「亦」の下に「木」を書く字体(Unicodeの683E)。
青柳宏著 『日本語の助詞と機能範疇』
本書は「日本語を特徴づけるとりたて詞を中心とした助詞や接辞がどのような仕組みで実現し,また解釈されるのかを生成文法理論の立場から論じる」ことを目的としている(3ページより引用)。第1章「助詞,接辞と膠着」で,前提とする文法モデルと論の対象となる基本概念を示す。第2章「とりたて詞と機能範疇」では,とりたて詞の位置づけを論じており,接語的付加詞である(形態的には基体を選ばない非独立要素であって,統語的には任意要素)との仮説を提示する。第3章「とりたて詞と格助詞」では,これらの助詞の連結順序の事実を説明しようとする。とりたて詞については係助詞と副助詞との区別の必要性,格助詞に関しては抽象格ではなく形態格であるとの指摘がなされる。第4章「とりたて詞と焦点」では,焦点決定には,とりたて詞の作用域と,とりたて詞とは無関係な焦点の二つが絡んでいることを示す。第5章「動詞・形容詞と機能範疇」では,動詞と機能範疇の膠着について,ゲルマン諸語の場合は述語上昇という説明がなされるが,日本語の場合は,述語上昇ではなく形態的併合による説明が適切であることを論じる。なお,本書は南カリフォルニア大学に提出された博士論文を基に,大幅な加筆修正を行ったものである。
章立ては以下のようになっている。
- 第1章 助詞,接辞と膠着
- 第2章 とりたて詞と機能範疇
- 第3章 とりたて詞と格助詞
- 第4章 とりたて詞と焦点
- 第5章 動詞・形容詞と機能範疇
(2006年3月30日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 216ページ 6,000円+税 ISBN 4-89476-286-2)
野沢勝夫著 『「仮名書き法華経」研究序説』
「仮名書き法華経」の諸本の関係を整理し,主要系統に属さない瑞光寺本・月ガ瀬本の紹介をし,それらと妙一本(主要系統)との比較・考察を行ったものである。全体は2篇に分かれる。まず<論考篇>では,諸本の系統整理を行う(法印本―唐招提寺蔵の断簡―天理本―妙一本―足利本の流れに属するものが「妙一本群」としてまとめられる)。そして,妙一本群に属さない瑞光寺本・月ガ瀬本の紹介をする。また,「「法華経切れ」に見る仮名書き法華経―「翻訳法華経」の存在―」と「「絵巻」のなかの仮名書き法華経―「簡約仮名書き法華経」の存在―」では,中世の「仮名書き法華経」とは別種の仮名書き資料の存在を論じる。他に,「仮名書き法華経に見る謙譲の「給フ」の消長」では,仮名書き法華経を国語資料として使い,謙譲の「給フ」の四段化について論を展開する。次に<資料篇>では,〔比較,考察〕の項で瑞光寺本と月ガ瀬本をそれぞれ妙一本と比較し,その考察を記す。また,〔翻字〕の項で,この二本の翻字を行う。
章立ては以下のようになっている。
- 序にかえて
- <論考篇>
- 1 『法華訳和尋跡抄』所引の仮名書き法華経について―「妙一本群」の祖本を求めて―
- 2 「瑞光寺本」について
- 3 「月ガ瀬本(付)矢代本」について
- 4 「法華経切れ」に見る仮名書き法華経―「翻訳法華経」の存在―
- 5 「絵巻」のなかの仮名書き法華経―「簡約仮名書き法華経」の存在―
- 6 仮名書き法華経に見る謙譲の「給フ」の消長
- <資料篇>
- 〔比較,考察〕
- 1 瑞光寺本(妙一本との比較,考察資料)
- 2 月ガ瀬本 (妙一本との比較,考察資料)
- 〔翻字〕
- 1 瑞光寺本
- 2 月ガ瀬本
- 〔比較,考察〕
(2006年3月30日発行 勉誠出版刊 A5判縦組み 408ページ 13,000円+税 ISBN 4-585-03150-2)
浦野聡・深津行徳編 『古代文字史料の中心性と周縁性』
立教大学東アジア地域環境問題研究所が主催した国際シンポジウム「歴史的コンテクストの中における文化財(古代文字史料)の『中心性』と『周縁性』」(2004年12月)の報告原稿を編集したものである。古代地中海世界を対象とする研究者(英国の大学から4名)と,古代東アジア世界を対象とする研究者(韓国の大学から1名,日本の大学などから7名)が,研究対象の違いを越えて,情報交換を行ったものである。発掘史料を対象として,「中心」と「周縁」という概念で問題発見を試みている。収録された論文は,「古代東アジア史料の世界」(李基東),「古代日本史料の世界」(石上英一),「古代日本からみた東アジアの漢字文化とメンタリティの多様な成り立ち」(新川登亀男),「古代日本における地方社会と文字」(平川南),「木簡はどういう所から出土するか?」(寺崎保広)など12編である。このほかの執筆者は,アラン=K=ボウマン,チャールズ=V=クラウザー,エレイヌ=マシューズ,冨谷至,李成市,浦野聡,ロジャー=トムリンである。
論文の題名・筆者名は以下のとおりである。
- ■総論
- 古代東アジア史料の世界(李基東)
- 古代日本史料の世界(石上英一)
- ローマ帝国における官僚制と文書(アラン=K=ボウマン)
- ■慣習と伝統
- 古代日本からみた東アジアの漢字文化とメンタリティの多様な成り立ち(新川登亀男)
- 東方ギリシア碑文における石の上での「公」・「私」の対話(チャールズ=V=クラウザー)
- 古代世界におけるギリシア人と名前―伝統と革新―(エレイヌ=マシューズ)
- ■主題と内容
- 近年出土した中国古代の法律(冨谷至)
- 東アジア辺境軍事施設の経営と統治体制―新羅城山山城木簡を中心に―(李成市)
- 古代日本における地方社会と文字(平川南)
- 後期ローマ帝国における台帳碑文―その社会的・財政的含意についての若干の考察―(浦野聡)
- ■時間的・空間的分布と偏在
- 木簡はどういう所から出土するか?(寺崎保広)
- 西方辺境からの言葉―ウェールズとカーライル出土の書板―(ロジャー=トムリン)
(2006年3月31日発行 春風社刊 A5判縦組み 360ページ 3,500円+税 ISBN 4-86110-067-4)
窪薗晴夫著 『岩波科学ライブラリー118 アクセントの法則』
本書は,日本語の単語にどのようなアクセントの法則が隠れているかを明らかにすることを通して,言葉の中に(さらには頭の中に)規則の体系が存在していることを説明しようとしたものである。「プロローグ」に続き,「1 標準語のアクセント」「2 標準語と英語のアクセント」では,標準語のアクセント体系を分析する。従来は,単純語か複合語か,あるいは動詞か形容詞かなどの条件によって,アクセント規則が左右されると言われてきたが,基本的には同じ原理に拠っていることが明らかにされる。また,英語・ラテン語などの例を検討して,アクセントの一般原理を導く。さらに,一見アクセントとは無関係と思われている現象が,実はその規則によって生み出されている可能性について述べている。「3 平板式アクセントの秘密」では,どのような語が平板式になるかの条件を探る。「4 鹿児島弁のアクセント」では,複雑そうに見える鹿児島弁アクセント体系が,標準語の場合と異なる観点から見ると,単純明快な体系を持っていることを指摘する。「5 鹿児島弁のアクセント変化」では,標準語の体系からの影響で,独自の体系が崩れてしまう可能性が大きくなってきたと述べている。
章立ては以下のようになっている。
- プロローグ
- 1 標準語のアクセント
- 2 標準語と英語のアクセント
- 3 平板式アクセントの秘密
- 4 鹿児島弁のアクセント
- 5 鹿児島弁のアクセント変化
- エピローグ
(2006年4月5日発行 岩波書店刊 B6判縦組み 136ページ 1,200円+税 ISBN 4-00-007458-X)
海保博之監修 針生悦子編 『朝倉心理学講座5 言語心理学』
行動実験というアプローチをとっている執筆陣によって書かれた言語心理学の概説書である。「1 言語心理学研究の潮流」(針生悦子)では「生得か学習か」を切り口に現在の研究動向を紹介する。「2 発話の知覚」(大竹孝司)では単語の聞き取りなどにおける分節の問題を扱い,「3 心的辞書」(久野雅樹)では,脳内単語検索などの高速性を可能にしている内部機構の問題を扱う。「4 文章の理解」(中條和光)は,理解過程における状況モデル生成の研究であり,「5 文章産出」(内田伸子)は,子供の物語産出,作文,推敲における過程の研究である。「6 語用論」(岡本真一郎)と「7 ジェスチャー」(野邊修一)は,状況の中での意味,コミュニケーションについての研究を紹介している。「8 言語と思考」(針生悦子)は,言語の思考への影響について,「9 言語獲得」(小椋たみ子)は,言語獲得における遺伝と環境,前提条件,個人差について述べる。「10 言語獲得のコンピュータ・シミュレーション」(河原哲雄)は,情報処理の計算論的モデルで言語獲得を研究する手法の現況について述べる。
章立ては以下のようになっている。
- 1 言語心理学研究の潮流―「生得か学習か」を超えて―(針生悦子)
- 2 発話の知覚(大竹孝司)
- 3 心的辞書(久野雅樹)
- 4 文章の理解(中條和光)
- 5 文章産出―物語ること・書くこと・考えること―(内田伸子)
- 6 語用論(岡本真一郎)
- 7 ジェスチャー(野邊修一)
- 8 言語と思考(針生悦子)
- 9 言語獲得(小椋たみ子)
- 10 言語獲得のコンピュータ・シミュレーション(河原哲雄)
(2006年4月10日発行 朝倉書店刊 A5判横組み 212ページ 3,600円+税 ISBN 4-254-52665-2)
国広哲弥著 『日本語の多義動詞―理想の国語辞典II―』
多義の動詞をいくつか取り上げ,その多義のあり方についての具体的な分析と考察を行ったものである。前著『理想の国語辞典』(大修館書店1997年)の第二部「多義語」を発展させ,より具体的な検討をしたものと見ることができる。「序説」で方法論や注意点について述べ,「多義動詞の分析と記述」で個々の検討を行う構成になっている。取り上げられた単語は,「あおぐ(仰ぐ),あらう(洗う),くずす(崩す)・くだく(砕く),くれる(暮れる),こぐ(漕ぐ),こる(凝る),ころがる(転がる),しめる(閉める)・とじる(閉じる),とく(解く・溶く・梳く・説く),とぐ(研ぐ),とまる(止まる・泊まる・留まる),なおす(直す・治す),ながれる(流れる)・ながす(流す),ならう(倣う・習う),ぬう(縫う),ぬく(抜く),ねる(練る),のこる(残る),のぞく(覗く),のぞむ(望む・臨む),のびる(伸びる・延びる),はかる(計る・測る・量る・諮る・図る・謀る),はずれる(外れる),はらう(払う),はる(張る),ひかえる(控える),ひねる(捻る),ひらく(開く),ふく(拭く),ふむ(踏む),ふれる(触れる),ほる(掘る・彫る),まく(巻く),まつ(待つ),まわる(回る),もつ(持つ),もどる(戻る)・もどす(戻す),もむ(揉む),もる(盛る),やく(焼く),やける(焼ける),やすむ(休む),やぶる(破る),よぶ(呼ぶ),よむ(読む)」である。
(2006年4月20日発行 大修館書店刊 A5判縦組み 336ページ 2,300円+税 ISBN 4-469-22178-3)
国語文字史研究会編 『国語文字史の研究9』
文字史に関わる11編を収めた論文集である。四つ仮名や開合の初期例かと見られる仮名表記を検討する遠藤邦基論文,宣命の用字をめぐる奥村悦三論文,定家の表記に関する説を再考する矢田勉論文,世阿弥自筆能本のマ・バ行音の表記を扱う長谷川千秋論文,『古事記伝』の特異な仮名字体使用の裏に『古言梯』の影響を想定する内田宗一論文,江戸期女性の仮名使用実態を往来物の調査を通して考える永井悦子論文,中世の医家・田代三喜の造字についての考察と京都大学富士川文庫本『百一味作字』の影印を載せる佐藤貴裕論文,森鴎外の著作を例にとり同語異表記についての考察をする今野真二論文,外来語片仮名文字列の特質を近代期雑誌『太陽』やその前身資料から考える深澤愛論文,日本統治期の『臺灣民報』を調査し,外国地名の表記の実態を描く王敏東ほかの論文,促音や撥音を中心に現代のローマ字表記の例を見ていく蜂矢真郷論文を収めている。
論文の題名・筆者名は以下のとおりである。
- 西本願寺本三十六人集の仮名表記の異例―「四つ仮名」「開合」などを中心に―(遠藤邦基)
- 文字の連なり,ことばの繋がり(奥村悦三)
- 定家の表記再考(矢田勉)
- 世阿弥自筆能本におけるマ・バ行音の表記―表記の表音性をめぐって―(長谷川千秋)
- 『古言梯』の仮名字体―訓仮名出自字体の忌避をめぐって―(内田宗一)
- 近世女子用往来における仮名字体(永井悦子)
- 医家・田代三喜の造字―付,京都大学富士川文庫本『百一味作字』影印―(佐藤貴裕)
- 同語異表記をめぐって(今野真二)
- 近代における外来語片仮名文字列の特質変化―『太陽』及び『太陽』前誌群を資料として―(深澤愛)
- 台湾における外国地名の表記について―日治時期の『臺灣民報』を中心に―(王敏東・何家徳・洪子傑・連雅〓・盧慧萍)
- 促音・撥音の現代ローマ字表記(蜂矢真郷)
(2006年4月25日発行 和泉書院刊 A5判縦組み 256ページ 8,000円+税 ISBN 4-7576-0371-1)
- ※〓は、偏が「王」、旁が「其」の文字。(Unicodeの742A)
上田功・野田尚史編 『言外と言内の交流分野―小泉保博士傘寿記念論文集―』
本書は53編からなる記念論文集である。冒頭に「傘寿の辞」(小泉保),「小泉保博士履歴・学会活動・研究業績」があり,これまでの歩みとこれからの目標について知ることができる。扱われた分野の広さを反映して,収載論文も多彩である。「フィンランド語の離格の用法について」(佐久間淳一)などのウラル語系を扱ったもの,「定住外国人対象の日本語教育の枠組みに関する一考察」(足立祐子)などの語学教育に関わるもの,「「どうせ」の意味と既定性」(有田節子)や「とりたて助詞と条件・否定の相互作用」(澤田美恵子)などの意味・文法についてのもの,「英語のジョークと川柳の笑いについて―関連性理論による分析―」(東森勲)等の語用論に関わるもの,「「認知語用論」の展開―参照点能力と推論―」(林宅男)等の認知言語学に関わるものなどがある。このほかに,池田哲郎,伊藤克敏,稲葉信史,上田功,上村隆一,大島一,何自然・劉小珊,甲斐ますみ,鍵村和子,加納満,金良宣,金水敏,久保進,黒田史彦,児玉徳美,小林純子,小牧千里,澤田治,澤田淳,澤田治美,志水義夫,荘司育子,杉本孝司,砂川有里子,宗田安巳,高見健一,田澤耕,田中廣明,田中美和子,谷上れい子,陳訪澤,筒井佐代,徳井厚子,野瀬昌彦,野田春美,野田尚史,蓮沼昭子,林礼子,樋口功,藤家洋昭,Emi Matsumoto,村岡貴子,村松英理子,山口治彦,山梨正明,由井紀久子,余維の論考を収める。
内容は以下のようになっている。
- 傘寿の辞(小泉保)
- 小泉保博士履歴・学会活動・研究業績
- 定住外国人対象の日本語教育の枠組みに関する一考察(足立祐子)
- 「どうせ」の意味と既定性(有田節子)
- 日本語の思惟方法からみた動詞のしくみ(池田哲郎)
- 接続文構造の習得方略(伊藤克敏)
- ウラル基語属格考(稲葉信史)
- 「派生時代」の音韻獲得制約再考(上田功)
- 特異な指示詞「あれ」再考―日本語会話コーパスによる分析―(上村隆一)
- ハンガリー語の副動詞構文について(大島一)
- 面白い言語現象(何自然・劉小珊)
- 「XはYがP」構文における「Yが」の解釈について(甲斐ますみ)
- 直喩と諺―語用論の視点から―(鍵村和子)
- スリランカ手話のネームサインにおける位置と生起制約(加納満)
- 日本語「VNする」と韓国語「VN hada/doeda」―基礎的語彙を中心に―(金良宣)
- 役割語としてのピジン日本語の歴史素描(金水敏)
- わきまえの言語行為研究のための課題探求「遠慮」の言語行為をめぐって(久保進)
- ビジネストークの語用論(黒田史彦)
- 20世紀の言語学―分析対象の縮小とその結果―(児玉徳美)
- 異文化間の誤解(小林純子)
- 情動自動詞に見られる使役性と他動性(小牧千里)
- フィンランド語の離格の用法について(佐久間淳一)
- 「はおろか」構文・「どころか」構文に関する意味論的・語用論的考察(澤田治)
- ヴォイスの観点から見た日本語の授受構文(澤田淳)
- 日本語の自発文をめぐって(澤田治美)
- とりたて助詞と条件・否定の相互作用(澤田美恵子)
- Kalevalaと古事記との距離(志水義夫)
- いわゆる日本語の助詞に関する覚え書き(荘司育子)
- 不変性仮説と類似性(杉本孝司)
- 「〜てもらっていいですか」という言い方―指示・依頼と許可求めの言語行為―(砂川有里子)
- 「で」の「格解釈のゆれ」再考―「道具」と「原因・理由」を中心に―(宗田安巳)
- 「〜ている」形の解釈と非能格/非対格動詞(高見健一)
- Tirant lo blancの難解な箇所とAlbert Hauf版について(田澤耕)
- 埋め込み文の推意について(田中廣明)
- 条件文の意味論(田中美和子)
- サミュエル・ベケットの演劇―混沌からグレート・マザーへ―(谷上れい子)
- 「は」と「が」の意味について(陳訪澤)
- 雑談における評価の共有―映画を見たあとの雑談の分析―(筒井佐代)
- 会話における「異文化性」のダイナミズム―相互行為分析の視点から―(徳井厚子)
- ハンガリー語の様格-kentが語順に現れる位置について(野瀬昌彦)
- 新聞の見出し末における格助詞・とりたて助詞の特徴(野田春美)
- 日本語の打ち間違いの言語学的な分析―パソコンのローマ字入力の場合―(野田尚史)
- 譲歩の談話と認識的モダリティ―「のではないか」はなぜ譲歩文と共起しないのか―(蓮沼昭子)
- 「認知語用論」の展開―参照点能力と推論―(林宅男)
- ディスコースメタファーの構築―シロ色がジェンダーの意味を獲得する瞬間―(林礼子)
- 英語のジョークと川柳の笑いについて―関連性理論による分析―(東森勲)
- 日本語の名詞述語文の連続性と「ハ」「ガ」の選択(樋口功)
- トルコ語とウイグル語における現在形と過去形の人称を示す形式(藤家洋昭)
- Perceived Competence in Pronunciation: Changes During a Phonetics Course(Emi Matsumoto)
- 理系日本語論文における緒言部と結論部との呼応的関係―専門日本語教育のための文章研究として―(村岡貴子)
- ポルトガル語の中舌母音(村松英理子)
- 話法研究に潜む暗黙の前提(山口治彦)
- 認知プロセスと構文の分布関係(山梨正明)
- 日本語教育における「場面」概念の意義(由井紀久子)
- 時間直示に関する日中対照語用論的研究(余維)
(2006年4月30日発行 大学書林刊 A5判横組み 632ページ 10,000円+税 ISBN 4-475-01875-7)
遠藤織枝編 『日本語教育を学ぶ―その歴史から現場まで―』
本書は,遠藤織枝編『概説日本語教育』(三修社1995年初版,2000年改訂版)を,時代の変化に合わせて項目・内容を新たにしたものと位置づけられる。第1章「日本語を学ぶ人・教える人」(谷部弘子)では,1980年以降の日本語教育の現状を海外・国内に分けて概観する。第2章「言語学」(桜井隆)では,言語学の基本を概説する。第3章「日本語教育現場における異文化コミュニケーション」(ヒダシ,ユディット)では,文化や誤解などを扱う。第4章「何を教えるか,どう教えるか」(川口良)では,教育の内容と方法,第5章「どう評価するか」(島田めぐみ)では,評価法について述べる。第6章「さまざまな外国語教授法」(加納陸人)では,代表的な教授法を紹介し,海外での教育法と現地レポートを載せる。第7章「第二言語習得研究と日本語教育」(小柳かおる)では,第二言語習得研究理論と外国語教育への応用について述べる。第8章「社会とことば」(遠藤織枝)では,言語権の問題と生活の中の日本語について述べる。第9章「日本語教育をふりかえる―日本語教育の歴史―」(本田弘之)では,日本語教育史について述べる。
章立ては以下のようになっている。
- 第1章 日本語を学ぶ人・教える人(谷部弘子)
- 第2章 言語学(桜井隆)
- 第3章 日本語教育現場における異文化コミュニケーション(ヒダシ,ユディット)
- 第4章 何を教えるか,どう教えるか(川口良)
- 第5章 どう評価するか(島田めぐみ)
- 第6章 さまざまな外国語教授法(加納陸人)
- 第7章 第二言語習得研究と日本語教育(小柳かおる)
- 第8章 社会とことば(遠藤織枝)
- 第9章 日本語教育をふりかえる―日本語教育の歴史―(本田弘之)
- 〔付〕日本語教育関連年表
(2006年4月30日発行 三修社刊 A5判横組み 248ページ 2,400円+税 ISBN 4-384-04078-4)
倉島節尚編 『日本語辞書学の構築』
倉島節尚氏の古稀を記念した論文集(編集委員は沖森卓也,木村義之,陳力衛,中山緑朗,山田進)である。「語彙・辞書研究会」の参加者による論文を中心に35編が収載されている。巻頭の「日本語辞書学構築の礎を―序に代えて―」(倉島節尚)で,辞書をめぐる検討課題や辞書学の展望について述べ,さらに本書の構成についての説明をする。収載論文の内容は多岐にわたるが,おおよそ「意味記述」「個別資料」「辞書中の語の扱い」「語誌」「対照言語学」「電子化・コーパス」に分けられる。執筆者(上記編集委員以外)は,野村雅昭,荻野綱男,伊藤雅光,松岡洸司,坂詰力治,上野和昭,木村一,武藤康史,當山日出夫,橋本和佳,相澤正夫,川嶋秀之,岩淵匡,安田尚道,〓a岡昭夫,砂川有里子,山田潔,佐藤武義,坂梨隆三,小杉商一,田中牧郎,〓b喜〓c,潘鈞,王学群,松岡榮志,李漢燮,牧野武則,横山晶一,柴田実である。
内容は以下のとおりである。
- 日本語辞書学構築の礎を―序に代えて―(倉島節尚)
- 基礎語で辞書の意味記述はできるか(野村雅昭)
- 国語辞書の記述内容と言語使用の現状の異同(荻野綱男)
- 国語辞典の意味記述―語釈の示し方を中心に―(沖森卓也)
- 意味から引く辞書(山田進)
- 小川家本『新訳花厳経音義私記』における言語計量の特徴(伊藤雅光)
- キリシタン版『落葉集』の音訓意識(松岡洸司)
- 『狂言記』(正編)に用いられた漢語の意味・用法(坂詰力治)
- 『言語国訛』覚え書(上野和昭)
- 『和英語林集成』初版・再版・三版における漢字表記(木村一)
- 『小辞林』の増補改訂―『辞林』系国語辞典の一側面―(木村義之)
- 『辞林』論(武藤康史)
- 全訳古語辞典のカラー印刷と色覚異常―ユニバーサルデザインの視点から―(當山日出夫)
- 『分類語彙表』の増補改訂と外来語の増加―「1.4 生産物および用具」について―(橋本和佳)
- 『和製漢語辞典』の構想(陳力衛)
- 「お茶」から「おビール」まで引ける“辞書”―利用者と提供媒体の見直しから―(相澤正夫)
- 漢字表記史と辞書(川嶋秀之)
- 現代語中心の国語辞典における漢字の扱いについて(岩淵匡)
- 大型国語辞典・古語辞典における記録語の扱い―斎木一馬氏の提言をめぐって―(中山緑朗)
- 国語辞典における百科語の諸問題(安田尚道)
- 同形・同音異義語の扱いについて(〓a岡昭夫)
- 「言う」を用いた慣用表現―複合辞の意味記述を中心に―(砂川有里子)
- 「送り迎ひ」と「送り迎へ」(山田潔)
- 歌語「故郷」源流考(佐藤武義)
- 鳥肌が立つ(坂梨隆三)
- 周知のこと(小杉商一)
- 「努力する」の定着と「つとめる」の意味変化―『太陽コーパス』を用いて―(田中牧郎)
- 二言語辞書の構築のための「日日辞書」のあり方―「新明解国語辞典」を中心として―(〓b喜〓c)
- 中国人日本語学習者が求めている日本語辞書―日本語教育の視点から―(潘鈞)
- “〓d立了”の存在文としての使用条件と辞書での意味記述(王学群)
- 「国字」の現代中国語音について―その提案と審議のプロセスを中心に―(松岡榮志)
- 韓国における日本語辞書について(李漢燮)
- 自然言語処理のための言語資源(牧野武則)
- 新明解国語辞典の電子化(横山晶一)
- かな漢字変換辞書の製作―ATOK2005 NHK新用字用語辞典を例に―(柴田実)
(2006年5月5日発行 おうふう刊 A5判横組み 536ページ 15,000円+税 ISBN 4-273-03431-X)
- ※〓aは、冠「雨」、脚「鶴」の文字。(Unicodeの974F)
- ※〓bは、音チョウの文字。(Unicodeの66FA)
- ※〓cは、さんずいに「育」「攵」の文字。(Unicodeの6F88)
- ※〓dは「聳」の簡体字。「从」の下に「耳」を書く字体。(Unicodeの8038)
小谷博泰著 『木簡・金石文と記紀の研究』
1999年以降に発表された木簡など文字資料をめぐる論考と,古事記・日本書紀についての論考をまとめたものである。全体は2部に分かれており,第1部「上代文字資料の表記をめぐって」では,木簡,幡の銘文,法隆寺薬師像光背銘等の金石文などについての表記・文体に関する論考を中心に10編を収めている。近年の新たな木簡の出土によって,かつては通説とされた「漢文から変体仮名へ」「音訓交用文から万葉仮名文へ」「記紀の歌謡借音仮名表記が新しい表記である」「和歌の表記は人麻呂の略体表記から」とする説が揺らいでいる様子がわかる。また,第2部「古事記の成立と日本書紀」では,「木花之佐久夜毘売」「天孫降臨」などのテーマごとに古事記と日本書紀の対照を行い,記紀の関係を探ろうと試みる論考を中心とした10編を収めている。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 上代文字資料の表記をめぐって
- 1 七世紀における日本語の文章表記
- 2 法隆寺幡銘と斉明紀挽歌
- 3 文章史から見た法隆寺幡銘と薬師像光背銘
- 4 万葉集の「柿本人麻呂歌集」と初期木簡
- 5 播磨国風土記の筆録
- 6 上代木簡の文体史
- 7 [書評]沖森卓也『日本古代の表記と文体』
- 8 日本語表記のルーツを探る
- 9 上代の文字と意味
- 10 万葉集と庭園
- 第2部 古事記の成立と日本書紀
- 1 木花之佐久夜毘売
- 2 国生み・黄泉の国・須佐之男昇天
- 3 天孫降臨
- 4 国生み・天の石屋・八俣の大蛇
- 5 神武・崇神・垂仁(古事記中巻)
- 6 古事記の形成と文体
- 7 古事記の筆録と和風表記
- 8 仁徳・允恭・安康(古事記下巻)
- 9 [書評]西條勉『古事記の文字法』
- 10 記紀の表記と上代文字資料
(2006年5月10日発行 和泉書院刊 A5判縦組み 340ページ 12,000円+税 ISBN 4-7576-0369-X)
筑紫国語学談話会編 『筑紫語学論叢2―日本語史と方言―』
1981年に始まった筑紫国語学談話会を主導してきた一人である迫野虔徳氏の九州大学退職を記念した論文集である。「日本語史と方言」というテーマの下に執筆された31編の論文を収めている。上代日本語母音調和の従来説検討と研究の見通しを述べる早田輝洋論文,「たまげる・たまぎる」の語誌を追う前田富祺論文,『古今集』554番歌の解釈を検討する山口佳紀論文,『蒙求抄』資料研究の一環として高野山宝寿院蔵本を紹介し位置づけを行う柳田征司論文,「巳の時,午の時」などの時刻表現の転義を見ていく鈴木丹士郎論文,『交隣須知』の成立について検討し,通説である雨森芳州関与説を疑う迫野虔徳論文が並ぶ。これ以外の論文は,各分野に分けられている。「1 音韻・表記」には,佐野宏,江口泰生,高山倫明,奥村和子,矢野準,「2 文法」には,堀畑正臣,山下和弘,荻野千砂子,青木博史,「3 語彙」には,辛島美絵,山本秀人,前田桂子,播磨桂子,新野直哉,林慧君,「4 文献」には,田籠博,藤本憲信,山県浩,岡島昭浩,坂本浩一,「5 方言」には,木部暢子,久保智之,高橋敬一,〓村弘文,杉村孝夫の論考が収録されている。
論文の題名・筆者名は以下のとおりである。
- 上代日本語母音調和覚書(早田輝洋)
- “たまげる”と“たまぎる”(前田富祺)
- 「夜の衣を返してぞ着る」の意味―『古今集』五五四番歌考―(山口佳紀)
- 高野山宝寿院蔵『蒙求抄』について(柳田征司)
- 時刻名の転義用法(鈴木丹士郎)
- 『交隣須知』の成立存疑(迫野虔徳)
- 1 音韻・表記
- 萬葉集における非単独母音性の字余りの性格―A群とB群の関わりから―(佐野宏)
- 鎌倉時代擬音擬態語と特殊拍(江口泰生)
- 四つ仮名と前鼻音(高山倫明)
- 近松浄瑠璃におけるハ行四段動詞音便形について―時代物と世話物の言葉―(奥村和子)
- 藍庭晋瓶(晋米)浄書 草双紙類の仮名遣の実態―『敵討余世波善津多』及び『正本製 五編 難波家土産』―(矢野準)
- 2 文法
- 「(さ)せらる」(尊敬)の成立をめぐつて(堀畑正臣)
- タリからテアルヘ(山下和弘)
- クダサルの人称制約の成立に関して(荻野千砂子)
- 原因主語他動文の歴史(青木博史)
- 3 語彙
- 「けしき」をめぐって(二)―古代の「気色」の特色―(辛島美絵)
- 真福寺本将門記における「合戦(カフセン)ス」と「合戦(アヒタタカ)フ」(山本秀人)
- 「いいかげん」の意味・用法の変遷(前田桂子)
- 「よほど」の使用条件の変化(播磨桂子)
- “返り討ち”の意味変化について―《気づかない意味変化》の一例として―(新野直哉)
- 外来語成分の造語をめぐつて(林慧君)
- 4 文献
- 『物類称呼』巻二「動物」の典拠について(田籠博)
- 肥後近世文献に見る方言―『嶋屋日記』と『上田宜珍日記』―(藤本憲信)
- 江戸語資料としての『はまおき』(山県浩)
- 『俚言集覧』『増補俚言集覧』における『今昔物語』からの引用について(岡島昭浩)
- 明治期対訳辞書『英語節用集』所載カタカナ表記英語語形をめぐって―『薩摩辞書』との比較対照調査報告―(坂本浩一)
- 5 方言
- 九州方言の可能形式「キル」について―外的条件可能を表す「キル」―(木部暢子)
- 福岡方言と朝鮮語釜山方言の疑問詞疑問文の音調(久保智之)
- 対馬方言の敬語―『交隣須知』を資料にして―(高橋敬一)
- 沖縄首里方言における複合名詞音調規則について(〓村弘文)
- 来間島方言の格助詞(杉村孝夫)
(2006年5月15日発行 風間書房刊 A5判縦組み 610ページ 17,000円+税 ISBN 4-7599-1575-3)
- ※〓は「崎」の異体字。旁の上部を「大」ではなく「立」につくる字体。(UnicodeのFA11)
金田一春彦著 『金田一春彦著作集5 国語学編5』 『金田一春彦著作集9 論文拾遺』 『金田一春彦著作集別巻』
第5巻は,『四座講式の研究―邦楽古曲の旋律による国語アクセント史の研究各論(一)』(三省堂1964年)を収めたものである。第9巻は,「補忘記の研究,続貂」(日本方言学会編『日本語のアクセント』1942年)以下,20編の論文を収めたものである。第9巻の編集にあたり,主題別に5群に分けて配列している。第9巻所収論文のうち「日本四声古義」など11編は,『日本語音韻音調史の研究』(吉川弘文館2001年)に収められており,読者にとって手に取りやすい環境にあったが,これらに加えて本書には,「日本語のアクセントから中国唐時代の四声値を推定する」(『日語学習的研究』第4巻第5号1980年),「埼玉県下に分布する特殊アクセントの考察」(プリント私家版1948年)など,簡単には見られなかったものも含まれる。別巻は,遺稿である「林大君のこと」や,その他,柳田國男との対談,「国語問題」についての座談(他の出席者は,池田弥三郎,熊沢龍,時枝誠記,林大)などを収める。また,年譜と著作目録(両方とも『金田一春彦博士古稀記念論文集』の第3巻所載のものに補訂を加えたもの),著作集の総索引がある。総索引は,標題索引,件名索引(末尾には「アクセントの型」索引がある),人名・機関名索引,書名・作品名索引からなる。
- 【第5巻】
- 四座講式の研究
- 第1編 アクセント史の資料としての『四座講式』
- 第2編 『四座講式』の墨譜とその音価
- 第3編 『四座講式』で墨譜を施されている語彙総覧
- 第4編 『四座講式』によって推定される鎌倉時代のアクセント
- 付録
- 後記
- 四座講式の研究
- 【第9巻】
- 1
- 補忘記の研究,續貂
- 移りゆく東京アクセント
- 東京語アクセントの再検討
- 日本四声古義
- 日本語のアクセントから中国唐時代の四声値を推定する
- 2
- 平曲の音声
- 音韻史資料としての真言声明
- 契沖の仮名遣書所載の国語アクセント
- 類聚名義抄和訓に施されたる声符に就て
- 金光明最勝王経音義に見える一種の万葉仮名遣について
- 平声軽の声点について
- 3
- 国語アクセント史の研究が何に役立つか
- 古代アクセントから近代アクセントへ
- 国語のアクセントの時代的変遷
- 去声点ではじまる語彙について
- 4
- 現代諸方言の比較から観た平安朝アクセント
- 奈良・平安・室町時代の日本語を再現する
- 朗読 源氏物語
- 平家語釈僻案抄
- 5
- 埼玉県下に分布する特殊アクセントの考察
- 後記
- 1
- 【別巻】
- 1 遺稿・放送・対談
- 林大君のこと
- 目的に応じた話し方
- 日本の方言 総説
- 生活と方言
- ことばの行き違いと方言 関東地方
- “国語問題”を考える
- 2 年譜・著作目録
- 金田一春彦年譜
- 著作目録
- 3 総索引
- 1.標題索引
- 2.件名索引、アクセントの型
- 3.人名・機関名索引
- 4.書名・作品名索引
- 1 遺稿・放送・対談
【第5巻】(2005年9月25日発行 玉川大学出版部刊 A5判縦組み 720ページ 8,500円+税 ISBN 4-472-01475-0)
【第9巻】(2005年9月25日発行 玉川大学出版部刊 A5判縦組み 656ページ 8,500円+税 ISBN 4-472-01479-3)
【別巻】(2006年5月19日発行 玉川大学出版部刊 A5判縦組み 360ページ 5,000円+税 ISBN 4-472-01483-1)
山口仲美著 『日本語の歴史』
本書は,日本語の歴史についての概説を,専門書の延長ではなく,一般の人に受け入れられやすい形で述べようとしたものである。著者は「日本語の歴史に関する専門的な知識を分かりやすく魅力的に語ること」「できる限り,日本語の変化を生み出す原因にまで思いを及ぼし,「なるほど」と思ってもらえること」「現代語の背後にある長い歴史の営みを知ってもらうことによって,日本語の将来を考える手がかりにしうること」(7ページより引用)の3点を実現しようという思いで執筆したと述べている。また,「話し言葉」と「書き言葉」のせめぎあいという観点から叙述するという基本姿勢を打ち出している。内容は,序章にあたる「日本語がなくなったら」に続き,「漢字にめぐりあう―奈良時代」,「文章をこころみる―平安時代」,「うつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」,「近代語のいぶき―江戸時代」,「言文一致をもとめる―明治時代以後」,結語にあたる「日本語をいつくしむ」となっている。なお,本書は岩波新書新赤版の1018である。
(2006年5月19日発行 岩波書店刊 新書判縦組み 240ページ 740円+税 ISBN 4-00-431018-0)
真田信治監修 任栄哲編 『韓国人による日本社会言語学研究』
任栄哲氏門下の研究者による社会言語学的な日韓対照研究の論文集である。「出版の辞」(真田信治)に続き,「韓国人とのコミュニケーション」(任栄哲)では,日本と韓国の言葉・文化に関わる相違などについて概説する。以下は3部に分かれる。「日本人と韓国人の言語行動」には,スタイル切換えについて述べる李吉鎔論文,韓国での接客言語行動を扱う金美貞論文,セールス場面での発話順番取りを扱う呉恵卿論文を収める。「日本と韓国の言語表現の比較」には,断り談話に使われる理由表現を扱う任〓a樹論文,漫画の感情補足記号を扱う権敬〓b論文,シナリオ談話を材料に第三者への敬語を扱う金順任論文を収める。「日本における韓国人・韓国語」には,在日一世の言語運用を扱う金智英論文,バイリンガリズムを扱う朴良順論文,韓国の帰国子女のコード・スイッチングを扱う郭銀心論文,日本での韓国語学習者の学習目的と学習意識を扱う金由那論文を収める。
論文の題名・筆者名は以下のとおりである。
- 出版の辞(真田信治)
- 韓国人とのコミュニケーション(任栄哲)
- ■日本人と韓国人の言語行動
- 韓国人と日本人のスタイル切換え(李吉鎔)
- 韓国での接客言語行動について―文末形式選択のダイナミックス―(金美貞)
- セールス場面における発話順番取り(turn taking)の日韓比較(呉恵卿)
- ■日本と韓国の言語表現の比較
- 日韓断り談話に見られる理由表現マーカー―ウチ・ソト・ヨソという観点から―(任〓a樹)
- 韓国と日本の漫画に見られる「感情補足記号」の比較研究(権敬〓b)
- 日本語と韓国語のシナリオ談話からみた第三者敬語の対照研究(金順任)
- ■日本における韓国人・韓国語
- 在日コリアン一世の言語運用の一実態(金智英)
- 日本語・韓国語間のバイリンガリズムとコード・スイッチング(朴良順)
- 韓国の帰国子女の言語生活―日本語と韓国語間のコード・スイッチングを中心に―(郭銀心)
- 日本における韓国語学習者の学習目的と学習意識(金由那)
(2006年5月25日発行 おうふう刊 A5判横組み 248ページ 2,200円+税 ISBN 4-273-03432-8)
- ※〓aは、偏が「火」、旁が「玄」の文字。(Unicodeの70AB)
- ※〓bは、偏が「王」、旁が「民」の文字。(Unicodeの73C9)
中井精一・ダニエル=ロング・松田謙次郎編 『日本のフィールド言語学―新たな学の創造にむけた富山からの提言―』
本書は富山大学人文学部が進めてきた日本海総合研究プロジェクトの研究報告4として刊行されたものである。今回は,このプロジェクトの一環として多分野総合型の研究が企図され,「日本のフィールド言語学」というテーマの下に調査研究が行われた。本書はそれに基づく22編の論文集である。変異理論が日本では多少誤解されて捉えられたことや,その理論が持つ可能性などを日本のフィールド言語学の研究史を織り込みながら述べる松田謙次郎論文,方言話者も含む日本語(標準語)非母語話者を研究対象にした社会言語学を扱うダニエル=ロング論文,奈良の文化・環境と「食」の語彙を扱う中井精一論文,『方言文法全国地図』についても触れながら言語地理学の発展と衰退と再起動について述べる大西拓一郎論文がある。このほかに,金澤裕之,太田一郎,岸江信介,都染直也,新田哲夫,二階堂整,井上文子・三井はるみ,田原広史,鳥谷善史,日高水穂,村上敬一,余健,西尾純二,朝日祥之,松丸真大,阿部貴人,高木千恵,市島佑起子の論考を収める。
収録されている論文は以下のようになっている。
- 変異理論と日本のフィールド言語学―邂逅と誤解の物語―(松田謙次郎)
- 日本語の非母語話者を研究対象にした新しい社会言語学の可能性(ダニエル=ロング)
- 景観・感性・言語―「食」の語彙と環境利用システム―(中井精一)
- 言語変化への一視点(金澤裕之)
- 「社会」をもとめる社会言語学―変異理論の可能性を考える―(太田一郎)
- 言語地理学の再起動(大西拓一郎)
- 京阪式アクセントは東京式アクセントより本当に古いのか(岸江信介)
- 山陰・山陽から関西における方言の分布と動態について―JR山陰本線・山陽本線・播但線・神戸線グロットグラムをもとに―(都染直也)
- 方言に見られる生き物名に付く接尾辞「メ」―石川県白峰方言を中心に―(新田哲夫)
- 談話資料・コーパスによる文法研究(二階堂整)
- 方言談話の中の地域差・世代差・場面差―方言談話の収録と活用のために―(井上文子・三井はるみ)
- 近畿における方言と共通語の使い分け意識の特徴―方言中心社会の提唱―(田原広史)
- GISを用いた既存言語地図データベースの試み―『奈良県と三重県の境界地帯方言地図』の電子データ化の方法と問題点―(鳥谷善史)
- 秋田方言の親族語彙の体系変化に見られる非対称性(日高水穂)
- 地域社会の変容と社会言語学(村上敬一)
- 社会言語学の学際的特徴を生かした発展の可能性―認知社会言語学的観点から―(余健)
- 地域社会内部の言語層を素描する(西尾純二)
- 社会言語学における方言接触研究のこれから―地域社会の特性との関係を中心に―(朝日祥之)
- 方言における確認要求表現の対照研究にむけて(松丸真大)
- 個人のことばを捉える視点―スタイルの切換え―(阿部貴人)
- 関西における幼児期・児童期の方言習得(高木千恵)
- 現代日本語の地域方言とその評価(市島佑起子)
(2006年5月31日発行 桂書房刊 A5判縦組み 348ページ 3,000円+税 ISBN 4-903351-09-2)
内間直仁・野原三義編著 『沖縄語辞典―那覇方言を中心に―』
沖縄県那覇方言のうち,現在60歳以上の人によって日常的に用いられてきた語を中心に,古典文学作品の語,他方言には見られない那覇方言独自の語を加えた見出し語約8000の辞典である。歴史的にもっとも有力な位置にあった首里方言を基にする(あるいは中心にする)沖縄語辞典は多いが,本書は,首里方言とは微妙に違う点がある那覇方言を中心とし,本書の特色の一つとなっている。構成は「序」「凡例」に続き,「那覇方言概説」「主要参考文献」を記して,本編の「沖縄語辞典」の部に入る。巻末に「古典文学引用一覧」(琉歌,組踊,歌劇),「和沖索引」がある。辞典の部では,方言語形を五十音に準じて配列し,それぞれにアクセント,音声のIPA表記,品詞,活用形,語源,語義,用例,典拠,参照などの項目を記述している。
(2006年5月発行 研究社刊 B6判横組み 448ページ 3,200円+税 ISBN 4-7674-9052-9)
日本語ジェンダー学会編 佐々木瑞枝監修 『日本語とジェンダー』
2000年に設立された日本語ジェンダー学会の論文集である。社会的・文化的な性役割が日本語の表現にどのような形で現れているかを論じている。男性を表す語句を扱った佐々木瑞枝論文,ジェンダーとポライトネスの関係について述べる宇佐美まゆみ論文,終助詞の男女差を日本語教育の立場から扱う小川早百合論文,談話の中でジェンダー表示形式が持つ役割について述べる因京子論文,女性文末詞の使用が「現実」と「女性が書いた脚本」・「男性が書いた脚本」でどう違うかを述べる水本光美論文,日本語教材に見られる女性・男性の職業描写,挿絵の男女比,ステレオタイプなどを調査した渡部孝子論文,源氏物語のジェンダー意識を扱った佐藤勢紀子論文,明治期女学生ことばを扱った中村桃子論文,ホフステードの文化モデルで日本の男性らしさが高数値になることについて考察するユディット=ヒダシ論文,自分の立場を表すという観点から,主語・文体などについて述べ,ジェンダー表現の意味を考える日置弘一郎論文の10編からなる。
論文の題名・筆者名は以下のとおりである。
- 日本語の男性を表す語句と表現―資料からみる日本語の変遷―(佐々木瑞枝)
- ジェンダーとポライトネス―女性は男性よりポライトなのか?―(宇佐美まゆみ)
- 話しことばの終助詞の男女差の実際と意識―日本語教育での活用へ向けて―(小川早百合)
- 談話ストラテジーとしてのジェンダー標示形式(因京子)
- テレビドラマと実社会における女性文末詞使用のずれにみるジェンダーフィルタ(水本光美)
- 日本語教材とジェンダー(渡部孝子)
- 『源氏物語』とジェンダー―「宿世」を言わぬ女君―(佐藤勢紀子)
- 言語イデオロギーとしての「女ことば」―明治期「女学生ことば」の成立―(中村桃子)
- 日本におけるジェンダー的価値観―ヨーロッパ人の視点から―(ユディット=ヒダシ)
- 日本語のジェンダー表現における「私」の揺らぎ(日置弘一郎)
- 資料 グラフに見るジェンダー(佐々木瑞枝)
- 参考文献資料(監修 佐々木瑞枝)
(2006年6月10日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 226ページ 2,400円+税 ISBN 4-89476-274-9)