日本語学会

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学会運営についての報告(2002年度春季大会)

代表理事 山口佳紀

 本学会は,今年度より会員総会を春季大会第一日(土曜日)における講演会・シンポジウム等の直後に開催することにいたしました。そこで,本年度の会員総会は,2002年5月18日(土)東京都立大学において,シンポジウムの直後に,同じ会場で開かれました。
 従来は第二日(日曜日)における研究発表会の直後に開いていましたが,第一日の方が時間的に余裕があるため,会員が出席しやすいのではないかという点を配慮したものです。その効果はあったようで,従来に比べて,今回はかなり多くの会員の出席が見られました。その議事の概略は,本誌に別に掲示してあります。
 ただし,いろいろな事情によって大会そのものに出席できなかった会員もあり,その方々にも,総会で行った学会運営に関する報告の内容を知っていただく方がよいと考えました。以下,項目別に紹介いたします。

(一)学会代表者の名称と選出方法の見直しについて

  1. 学会代表者の名称としては,現在用いている「代表理事」という名称が一般的でなく,外部から見て分かりにくい。また,以下に示す選出方法の変更が認められるならば,「代表理事」よりも「会長」の方がふさわしい。
  2. 選出方法を改定する方向としては,会員による直接選挙制がまず考えられるが,それには,以下のようなさまざまな難点がある。
      (ア)立候補制が可能かどうかという危惧がある,(イ)立候補制でないと低得票数による当選の可能性が出てくる,(ウ)スケジュールの調整が困難である,(エ)費用の増加(約40万円の出費)が見込まれる,(オ)選挙事務のための労力が増大する
  3. 学会員の意見を代表する評議員による選挙は,学会代表者の選出方法として合理的であり,かつ現実的である。また,従来における学会代表者の選出方法に比べて,選出過程がクリアーになる。
  4. 上記の理由に基づき,理事9人を候補者とし,評議員の投票によって会長を選挙するという会則改訂案を理事会がまとめ,評議員会に提出することになった。


 この案は,同日午前に行われた評議員会で基本的に認められました。なお,部分的に再検討する必要が残っています。

(二)各種委員長の選任方法の見直しについて

  1. 近年は,実務担当の委員長として,編集委員長・大会(企画)運営委員長を理事から出すのが慣例であるが,これには幾つかの問題点が存する。
  2. 理事選挙は,理事としての適格者を選挙しているのであり,実務担当者としてふさわしいかどうかは必ずしも考慮されておらず,問題が生じやすい。たとえば,実務担当の委員長は,仕事の性質上東京圏在住者が望ましく,現にそういう場合がほとんどである。従って,選択の範囲はかなり狭くなりがちである。
  3. 理事は,学会運営の基本方針を策定するべき存在であり,実務担当の委員長は理事でなくてよい。現に,庶務委員長は理事以外から選ぶのが慣例であり,最近発足した情報電子化委員長も理事以外から選ばれている。
  4. 学会発足時以来,理事会メンバーは次第に高年齢化しているが,理事以外から実務担当の委員長を迎えることによって,執行部に若い力を導入することを考える必要がある(理事会メンバーの平均年齢:1944年学会発足時=48.3歳/2000年今期理事会発足時=65.1歳)。
  5. 以上の問題点を解決するべく,今後は各種委員長は理事会メンバー以外から選ぶという方針を立てて,これを「理事会内規」の形にするという案を理事会がまとめ,評議員会に提出することになった。


 この案は,同じく評議員会に提案されましたが,いくつかの問題点が指摘されたため,理事会で改めて検討し,次回の評議員会に再提案されることになりました。

(三)学会の名称問題について

  1. 現在の学会名である「国語学会」を「日本語学会」と改称すべきではないかという意見は,以前から見られたが,今期の理事会ではその問題を正式な議題として取り上げることにした。それは,この問題について私的に感想を述べ合う段階はすでに過ぎており,学会全体の問題として論議すべき時期に来ていると考えたためである。
     ただし,学会名は,個々の学会員が自らの携わる学問を何と呼ぶかという問題などとも関連するから,取り扱いに慎重を要することは,言うまでもない。
  2. 会員の多くが改称の理由等に関して知識を共有しないままに論議を行っても,意味はないから,改称問題の議論の内容を会員全体に広く知らせる必要がある。そこで,そのような作業の一環として,雑誌『国語学』で誌上フォーラムを行い,また大会フォーラムを企画した。
  3. 理事会では,全会員の投票による決着という方途についても考えたが,これにはかなり問題のあることが分かった。
    1. いわゆる住民投票に倣うと,投票総数の過半数が賛成で,かつその賛成票数が全体の1/3以上であることを要する。これを国語学会に当てはめると,いかなる案であれ,会員の1/3以上つまり約800票以上の賛成票が必要になるが,前回の評議員選挙の状況(有効投票の総数は544票)から見て,現実的な数字ではない。
    2. アンケート程度なら実施はできようが,それには拘束力がなく,実施しても,その扱いに困るのではないか。
    3. この問題は,会則上は評議員会の決定事項である。
  4. もし学会名を「日本語学会」に変えるならば,機関誌の名称も変える必要が生ずるが,それは付随的な問題であり,学会名の問題が根本的であるというのが,理事会の認識である(学会の新名称の候補は,現在のところ「日本語学会」がほとんど唯一の候補である。なお,機関誌名の候補としては「日本語学研究」「日本語学会誌」などが考えられよう)。
  5. 理事会は,今年度(2002年)春季大会(東京都立大学)以降にこの問題に対する基本方針を決定し,来年度(2003年)春季大会の評議員会に提示する。なお,理事会の方針が改称の方向に決定された場合は,評議員会に諮った上で,60周年(2004年)を期して改称することとし,具体的な作業は次期理事会に委ねる,という考え方が出ている。


[参考] 既に挙げられている主要な論点
《改称に賛成するもの》
(ア) 日本語を対象とする言語学という意味で,「日本語学」がふさわしい。「国語学」の「国語」は国家の言語の意であろうが,現在の日本語研究は多くの場合国家の存在を前提としたものではない。
(イ) 日本語研究が多くの外国人によっても行われるようになった現在,「国語学」という国際的に通用しにくい名称が不適当になっている。
(ウ) 日本語教育に関わる日本語研究の分野,あるいは現代語研究の分野では「日本語学」を,歴史的研究の分野では「国語学」を使う傾向が強くなりつつあり,「国語学」という名称がかつて有していた包括性が失われてきている。
(エ) 現に進行している日本語研究の細分化を克服するためには,日本語研究の全域を覆う学会の存続が必要であり,それには旧来の「国語学会」の名称を維持するよりも,新たに「日本語学会」の名称を採用することが望ましい。
(オ) 近年,大学等では専修・専攻名および教科目名として「日本語学」を採用するところが増えている。また今度,科学研究費の分野の再編があり,細目名の中で「国語学」→「日本語学」という改称があった。
(カ) 大学生を含む一般人から見て,「国語学」という名称は,小・中・高の教科としての「国語」と結びつきやすく,誤解を生じやすい。


《改称を批判するもの》
(ア) 学の名称として,文献学的な日本語研究には「国語学」を,言語学的な日本語研究には「日本語学」を当てるべきものであり,学会の名称としては,前者が「国語学会」に,後者が「日本語学会」に対応する。したがって,単純に「国語学会」を「日本語学会」に改称すべきではない。
(イ) 「国語」が政治的であるように,「日本語」も十分政治的である。たとえば,「大日本帝国」が直接支配した地域で通用すべき言語の名称としては「国語」が,それ以外の「大東亜共栄圏」における諸地域で通用すべき言語の名称としては「日本語」が使われたという歴史がある。安易な改称は,そのような問題の所在を曖昧にする。
(ウ) 「国語学会」を「日本語学会」と呼び変えることによって,「国学」の流れを受ける「国語学」の良き伝統を捨てることになる。
(エ) 「日本語学」は従来の「国語学」との差異化を目指して成立した学の名称であり,その「日本語学」を冠して「国語学会」が「日本語学会」と改称するのは,そのような「日本語学」の側の努力を無視するものである。


 この問題についても評議員会で議論されましたが,大きな問題であるため,本年秋季大会の時に臨時評議員会を開き,再度論議されることになりました。
○関連ページ
学会名称問題について

(四)雑誌『国語学』投稿・大会発表応募の資格について

 今度の春季大会の発表応募者の中に,数人による共同発表があり,その中に非会員が含まれているというケースがあった。今後は,その種の投稿・応募が増えることが予想されるので,原則をはっきりさせておく必要が生じた。協議の結果,第一著者(代表者)が会員であればよいとし,投稿・応募の際に第一著者(代表者)の名を明記してもらうとする案が認められた。

(五)海外会員の会費について

 これまで,ODA(政府開発援助)対象国の会員のみ3割引の会費であった。今後は,これを海外会員全員について,一律5割引にしたい。これは,海外からも入りやすい学会を目指すものである。また,海外会員は,大会参加の機会が得にくいことなど,国内会員に比して,会員としてのメリットが相対的に少ない点を配慮したものである。

 以上が,学会運営に関して当日報告した内容です。

『国語学』53巻3号 p.124-128 に掲載
(2002年7月8日掲載)