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学会名称問題の扱いについて

(『国語学』54巻1号 2003・1・1 p.171-174 )

国語学会代表理事 山口佳紀

 すでにご承知のとおり,本学会では,学会名称を従来どおり「国語学会」とするか,それとも「日本語学会」と改めるか,問題になっています。前号(53巻4号)でもご報告いたしましたように,理事会では,かねてよりこの問題について審議を重ねてまいりましたが,この度理事会原案をまとめ,去る11月9日に行われた臨時評議員会に提出いたしましたところ,承認されるに至りました。その原案とは,2002年から2003年にかけて評議員投票および会員投票を行い,その結果によって,この問題の決着をはかろうというものです。

 以下,前号でのご報告と重複する点もありますが,これまでの経過と,理事会および評議員会で承認された解決の方法とをご報告したいと思います。

(一)これまでの経過

  1. 現在の学会名である「国語学会」を「日本語学会」と改称すべきではないかという意見は,以前から見られましたが,今期の理事会ではその問題を正式な議題として取り上げ,検討を進めてまいりました。
  2. 名称問題に関する議論の内容を会員共有のものにするために,いくつかの活動を行いました。
    (ア) 『国語学』誌上フォーラム
    第52巻2号(2001年6月刊)〜 第53巻2号(2002年4月刊)
    (イ) 大会シンポジウム
    「いま「国語学」を問い直す」(2002年度春季大会〈東京都立大学〉)
    (ウ) 学会ホームページ
    「学会名称問題に関する意見欄」の開設(2002年7月8日)
  3. 2002年度の春季大会時には定例評議員会を,また秋季大会時には臨時評議員会を開き,この問題の扱いについて論議しました。
  4. 以上の過程において,主要な論点として,次のような点が挙げられました。
     《改称に賛成するもの》
    (ア) 日本語を対象とする言語学という意味で,「日本語学」がふさわしい。「国語学」の「国語」は国家の言語の意であろうが,現在の日本語研究は多くの場合国家の存在を前提としたものではない。
    (イ) 日本語研究が多くの外国人によっても行われるようになった現在,「国語学」という国際的に通用しにくい名称が不適当になっている。
    (ウ) 日本語教育に関わる日本語研究の分野,あるいは現代語研究の分野では「日本語学」を,歴史的研究の分野では「国語学」を使う傾向が強くなりつつあり,「国語学」という名称がかつて有していた包括性が失われてきている。
    (エ) 現に進行している日本語研究の細分化を克服するためには,日本語研究の全域を覆う学会の存続が必要であり,それには旧来の「国語学会」の名称を維持するよりも,新たに「日本語学会」の名称を採用することが望ましい。
    (オ) 近年,大学等では専修・専攻名および教科目名として「日本語学」を採用するところが増えている。また今度,科学研究費の分野の再編があり,細目名の中で「国語学」→「日本語学」という改称があった。
    (カ) 大学生を含む一般人から見て,「国語学」という名称は,小・中・高の教科としての「国語」と結びつきやすく,誤解を生じやすい。
     《改称を批判するもの》
    (ア) 学の名称として,文献学的な日本語研究には「国語学」を,言語学的な日本語研究には「日本語学」を当てるべきものであり,学会の名称としては,前者が「国語学会」に,後者が「日本語学会」に対応する。したがって,単純に「国語学会」を「日本語学会」に改称すべきではない。
    (イ) 「国語」が政治的であるように,「日本語」も十分政治的である。たとえば,「大日本帝国」が直接支配した地域で通用すべき言語の名称としては「国語」が,それ以外の「大東亜共栄圏」における諸地域で通用すべき言語の名称としては「日本語」が使われたという歴史がある。安易な改称は,そのような問題の所在を曖昧にする。
    (ウ) 「国語学会」を「日本語学会」と呼び変えることによって,「国学」の流れを受ける「国語学」の良き伝統を捨てることになる。
    (エ) 「日本語学」は従来の「国語学」との差異化を目指して成立した学の名称であり,その「日本語学」を冠して「国語学会」が「日本語学会」と改称するのは,そのような「日本語学」の側の努力を無視するものである。
    (オ) 「日本語学」という名称も,必ずしも包括的であるとは言いがたい。
  5. 11月の臨時評議員会では,以下に述べるような理事会原案が,この問題に決着を付けるための方法として承認されました。

(二)理事会の原案

 理事会の原案は,以下のとおりです。

(1)[原案の主文]

原案の主文は,次のようにする。

 本学会の名称を創立60周年(2004年)を期して「国語学会」から「日本語学会」に改める。会則の文言も,それに応じて改める。

(2)[決定の方法]

(ア) 上記を理事会の原案主文として,評議員投票および会員投票にかける。
(イ) 評議員投票は,評議員の現在数の2/3以上の賛成をもって可決とする。もし否決された場合は,今回は見送る。
(ウ) 上記で可決された場合には,会員投票にかける。会員投票は,投票総数の過半数の賛成をもって可決とする。その際,会員の投票総数の多寡は問題にしない。もし否決された場合は,今回は見送る。

(3)[今後の手順]
 2003年度春季大会(大阪女子大学)以前に,郵便投票によって評議員投票ならびに会員投票を実施する。その結果は,春季評議員会で報告して承認を求め,総会に報告する。

(三)理事会原案に関する説明

 上記(二)の各項に関する説明は,以下のとおりです。

(1)[原案の主文]について

 「国語学会」は日本語を研究対象とする各種の研究者を糾合する組織として創立され,発展してきたものである。所属する機関や学派などの別を超えて,多様な研究者が交流し,刺激し合うというところに,本学会の特長が認められてきたし,今後もまたそうでなければならない。

 ただし,「国語学」という名称がかつて有していた包括性が失われてきた現在,その名を冠した「国語学会」という名称を使い続けることは,本学会の今後の活動にとって,決して有利なことではない。

 もともと「国語学」という名称の下で行われた研究も,さまざまな立場や方法を許容するものであって,決して偏狭なものではなく,近世以来の国学的な日本語研究を継承する一方で,世界における最新の言語学的方法をも積極的に導入してきたという歴史をもつ。

 しかし,「国語学」という名称は,日本人による研究のみを前提にしているかのように感じられる点,また日本国内だけに視野を限定した研究であるかのように思われやすい点など,本学会で現実に行われている諸研究の実態を十分には反映しなくなってきている。

 その点,「日本語学」は,そうした誤解を受けるおそれが相対的に少なく,その名を冠する「日本語学会」は,多種多様な研究者を統合する学会の名称として,望ましいものと考えられる。

 なお,〈創立60周年(2004年)を期して〉とした理由は,改称が決定したとしても,学会誌の名称をどうするかを含めて,種々の準備が必要であり,また再出発の節目としてふさわしいと考えられるためである。なお,学会名の問題が第一義ではあるが,学会誌名の問題も極めて重要であり,これについては会員の意見も徴する必要がある。

(2)[決定の方法]について

 学会名称の変更という問題は,会則の変更に該当し,会則上は評議員会の決定事項(評議員の現在数の2/3以上の賛成を要する)であるが,問題の重要性を考慮し,評議員投票だけでなく,会員投票にかけるのがよいと考えられる。

(3)[今後の手順]について

 『国語学』誌上フォーラム,大会シンポジウム,学会ホ−ムページ「学会名称問題に関する意見欄」の開設等によって,この問題に対する会員の理解や関心が高まっている。また,論点もほぼ出尽くしたかと思われる。この時期に何らかの形で決着をはからないと,決めるべき時機を失することになる。賛否いずれであるにせよ,会員の総意に基づくということであれば,いずれの側の会員にとっても納得しやすいであろう。

(四)投票のスケジュールおよび事務

 評議員および会員による投票のスケジュール・その他は,以下のとおりです。

(1)評議員による郵便投票の日程
2002年11月中旬評議員へ投票用紙の送付
2002年12月15日投票締切
2002年12月20日頃開票 →評議員投票の結果に関するご報告(学会の名称について)

(2)会員による郵便投票の日程
2003年1月中旬会員へ投票用紙の送付(評議員投票結果の通知とともに送付。なお,上記で否決された場合には,その結果のみ通知)
2003年2月15日投票締切
2003年2月20日頃開票 →会員投票の結果に関するご報告(学会の名称について)

(3)投票・開票の事務および開票の立会人
  (ア) 投票・開票の事務は,代表理事の責任のもと庶務委員が行う。
  (イ) 開票の際の立会人として,評議員会において土屋信一・飛田良文の両評議員が選出された。
(2002年12月28日掲載)