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新刊紹介 (『日本語の研究』第8巻1号(通巻248号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 野村剛史著 『話し言葉の日本史』
- 佐々木勇著 『専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書―影印・翻刻と総索引―』
- 新野直哉著 『現代日本語における進行中の変化の研究―「誤用」「気づかない変化」を中心に―』
- 舩城俊太郎著 『院政時代文章様式史論考』
- 齋藤文俊著 『漢文訓読と近代日本語の形成』
- 甲東哲編著(先田光演編集・和泊町歴史民俗資料館監修) 『分類 沖永良部島民俗語彙集』
- 坂詰力治著 『中世日本語論攷』
- 坂詰力治編 『言語変化の分析と理論』
- 内山純蔵監修 中井精一,ダニエル=ロング編 『世界の言語景観 日本の言語景観―景色のなかのことば―』
- 真田信治編著 太田一郎,篠崎晃一,渋谷勝己,高江洲頼子,高木千恵,高橋顕志,日高水穂,札埜和男,松丸真大,山田敏弘,吉田雅子著 『日本語ライブラリー 方言学』
- 小林芳規著 『平安時代の佛書に基づく漢文訓讀史の研究I 敍述の方法』
- 今野真二著 『日本語学講座 第2巻 二つのテキスト 上―明治期以前の文献―』『日本語学講座 第3巻 二つのテキスト 下―明治期の文献―』
- 荻野綱男・田野村忠温編 『ウェブによる情報収集』
- 山口佳也著 『「のだ」の文とその仲間―文構造に即して考える―』
- 鍋島弘治朗著 『日本語のメタファー』
- 吉岡泰夫著 『コミュニケーションの社会言語学』
- 金澤裕之・矢島正浩編 『近世語研究のパースペクティブ―言語文化をどう捉えるか―』
- 金水敏編 『役割語研究の展開』
- 高見健一著 『受身と使役―その意味規則を探る―』
- 呉人恵編 『日本の危機言語―言語・方言の多様性と独自性―』
- 伊豆山敦子著 『琉球のことばと人―エヴィデンシャリティーへの道―』
野村剛史著『話し言葉の日本史』
本書は,古代から近代へ,日本の話し言葉が,中央語ないし規範言語として連続的に変遷してゆく様子を述べたものである。書名は「話し言葉」であるが,「書き言葉」を始めとする日本語の歴史を通覧できる内容となっており,一般読者や大学生向けの入門書という位置付けである。『万葉集』や訓点資料,抄物,キリシタン資料など,用例や図版を交えながら時代順に解説が加わる。第1章「古代の日本語」は上代の日本語を中心に,中古の音韻全体について述べる。第2章「古代・中世の文法」は主として中古の話し言葉を扱い,古代から中世にかけての日本語文法の変遷を追う。第3章「中世話し言葉の世界」は鎌倉期について,仮名書き漢語を始めとする漢語語彙の側面から人々の言語生活を考え直す。第4章「文字となった話し言葉」では室町期の言語から江戸・明治期の標準言語までを述べる。「補説 音声と音韻―言語学初心者のために―」では特に現代語の音声・音韻について解説し,初学者や一般読者に供する。本書は歴史文化ライブラリー311として刊行された。
内容は以下のようになっている。
- 言語学的な準備―プロローグ
- 古代の日本語
- 上代の話し言葉をさぐる
- 音韻の変化
- 古代・中世の文法
- 中古・中世の話し言葉をさぐる
- 係り結びを考える
- 移り変わる文法
- 中世話し言葉の世界
- 鎌倉時代の仮名書き漢語
- 漢語を使う人々
- 文字となった話し言葉
- 中央語と方言
- 近世スタンダードの誕生
- スタンダードが東京語を作った―エピローグ
- 補説 音声と音韻―言語学初心者のために
(2011年1月1日発行 吉川弘文館刊 B6判縦組み 240頁 1,700円+税 ISBN 978-4-642-05711-0)
佐々木勇著『専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書―影印・翻刻と総索引―』
本書は,専修寺蔵『選択本願念佛集』延書(下本・下末)の影印・翻刻等を公刊したものである。本文篇・索引篇・研究篇の3篇から成る。本文篇は全127頁で,全文のカラー影印を上段に,翻刻を下段に配する。索引篇は語彙索引と漢字索引から成る。研究篇は全35頁で,本書の価値や,日本語史資料としての特徴(訓法・仮名遣い・音便・語種・待遇表現等)について述べられたものである。底本の専修寺蔵本は,親鸞が読み下し,漢字に多くの振り仮名や訓注を付した『選擇本願念佛集』延書本(漢字仮名交じり文による)のうち,最古の写本(正安4年(1302)奥書)である。親鸞自筆本は現存しないが,本書は高田派第3世顕智による転写本であり,国の重要文化財に指定されている。
内容は以下のようになっている。
- 本文篇
- 凡例
- 選擇本願念佛集 下本
- 選擇本願念佛集 下末
- 索引篇
- 語彙索引
- 漢字索引
- 研究篇
- 専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書の国語学的研究
- 一,日本語史研究における『選擇本願念佛集』延書の価値
- 二,『選擇本願念佛集』の古写本・古版本について
- 三,専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書について
- 1.専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書の書式
- 2.専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書の原著者
- 四,日本語史資料としての専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書
- 1.専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書の訓法
- 2.『選擇本願念佛集』訓点本との比較
- 3.漢字の字体
- 4.漢字の欠筆
- 5.字音語の仮名遣い
- 6.和語の仮名遣い
- 7.行頭仮名の左寄せ表記
- 8.左傍注
- 9. 音便
- 10.語種
- 11.語種と表記の関係
- 12.原漢文の漢字との比較
- 13.漢文訓読語と和文語
- 14.待遇表現
- 五,結び
- 参考文献
- 専修寺蔵『選擇本願念佛集』延書の国語学的研究
(2011年1月25日発行 笠間書院刊 B5判縦組み 302頁 8,000円+税 ISBN 978-4-305-70533-4)
新野直哉著『現代日本語における進行中の変化の研究―「誤用」「気づかない変化」を中心に―』
著者のこれまでの言語変化研究をまとめたものである。意味上の変化が起きている語句(誤用あるいは気づかないうちに意味がずれていったものなど)を選び,用例の渉猟によりその変化の実態(どのようなずれが生じているか)を探り,変化の過程を跡付け,さらに変化の要因を考察するという手法でなされた変化研究が展開されている。全体は4部に分かれる。第1部では「役不足」「なにげに」を扱う。第2部では「全然」+肯定を扱い,否定とともに使うという「迷信」について考察する。また「全然」に関する近年の研究史を概観し,さらにデータベースによる用例の追加を行っている。第3部は「いやがうえにも」「返り討ち」「ていたらく」「(準備)万端」を扱う。第4部では「適当」と,「のうてんき」(これは意味のほか表記面についても扱う)について述べている。なお,本書は2009年に東北大学に提出された博士論文に加筆・訂正を行ったものである。
内容は以下のようになっている。
- 序章 本書の目的と概要
- 第1部 現代日本語の「誤用」
- 第1章 “役不足” の「誤用」について
- 第2章 “なにげに” について―その発生と流布,意味変化―
- 第2部 「“全然”+肯定」をめぐる研究
- 第1章 「“全然”+肯定」の実態と「迷信」
- 第2章 「“全然”+肯定」に関する近年の研究史概観
- 第3章 各種データベースによる実例の調査結果とその分析
- 第3部 現代日本語の「気づかない変化」
- 第1章 “いやがうえにも”の意味変化について―「いやがうえにも盛り上がる」とは?―
- 第2章 “返り討ち”の意味変化について
- 第3章 “ていたらく”について―「ていたらくな自分」とは?―
- 第4章 “万端”の意味・用法について―今日と明治〜昭和戦前との比較―
- 第4部 そのほかの注目すべき言語変化
- 第1章 “適当” の意味・用法について―「適当な答」は正解か不正解か―
- 第2章 “のうてんき” の意味・表記について
- 終章 本書をまとめるにあたって
(2011年2月14日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 416頁 6,400円+税 ISBN 978-4-89476-533-7)
舩城俊太郎著『院政時代文章様式史論考』
本書は「院生時代を中心とする,日本語文章様式の歴史に関する研究の書」(序論より)であり,既出の論文に,序論・各部導論・新規執筆3章を加えてまとめられた,著者の研究の集大成である。「今昔物語集の文章様式について―宇治拾遺物語と今昔物語集の比較を中心として―」,「平安時代の日本漢文に見いだされる中国白話語の語法とその展開」,「『色葉字類抄』をめぐって」の3部から成る。第1部では『今昔物語集』の文章の特異性について,第2部では院政期の〈変体漢文〉の中に中国六朝時代ごろの白話語的漢語法が混じること,またそれらから日本独自の漢語法が作られることが指摘されている。第3部では平安時代の辞書『色葉字類抄』を取り上げ,『白氏文集』や『遊仙窟』の白話語,『文選』の熟語を多く収録していることから,『色葉字類抄』が,修辞性の強い漢文すなわち「漢詩文」を書くためのものであることが主張された。
内容は以下のようになっている。
- 全体内容(目次相当)
- 序論
- 第一部 今昔物語集の文章様式について―宇治拾遺物語と今昔物語集の比較を中心として―
- 第一部の導論
- 第一章 疑問副詞「何ゾ」「何ド」「何デ」をめぐって
- 第二章 「いとど」と「弥ヨ」
- 第三章 「おり」と「時」の対応―説話と言語研究―
- 第四章 今昔物語集の三つの文章要素―「其レニ」をめぐって―
- 第五章 「間」の”分布”
- 第六章 「如シ」と「様ナリ」再見
- 第七章 宇治拾遺物語と今昔物語集の対応例
- 第八章 「畢ル」への翻訳―出典文献の〈結果補語〉から今昔物語集へ―
- 第二部 平安時代の日本漢文に見いだされる中国白話語の語法とその展開
- 第二部の導論
- 第一章 変体漢文はよめるか―日本漢文についての基礎的な認識として―
- 第二章 「間」の遡源
- 第三章 「間」字の用法から見た浦島伝説
- 第四章 「間」のゆくえ
- 第五章 「了(ヲハンヌ)」考―〈変体漢文〉研究史にまでおよぶ―
- 第六章 「サフラヒヲハンヌ」の敬語性
- 第七章 変体漢文の「併」字
- 第八章 古消息の「併」字
- 第九章 「動詞+得」の語法と日本漢文
- 第十章 平安時代の日本漢文にみられる中国俗語の疑問詞三種―多少・争・早晩―
- 付論 変体漢文の奇妙な常用字
- 第三部 『色葉字類抄』をめぐって
- 第三部の導論
- 第一章 三巻本色葉字類抄に付された朱の合点について
- 第二章 白氏文集と色葉字類抄
- 第三章 三巻本色葉字類抄に見いだされる唐時代の白話語の熟語―白氏文集からのそれを中心にして―
- 第四章 三巻本色葉字類抄の割注部分に見いだされる白氏文集の語句について
(2011年2月25日発行 勉誠出版刊 A5判縦組み 628頁 15,700円+税 ISBN 978-4-585-10450-6)
齋藤文俊著『漢文訓読と近代日本語の形成』
本書は,近世の漢文訓読が近代日本語の形成過程に与えた影響について考察したものである。大きく,(1)『論語』を中心とする近世漢文訓読資料における各語法の史的変遷,(2)各資料(訓読法)間の影響関係という2方面から論じる。序章および第1章では,近世後期における訓読語法の簡略化の特徴である「補読語の減少」「音読の増加」という点から,近世の漢文訓読が前期・後期に分かれること,近世の訓読資料が〈前期の資料〉〈後期の資料〉〈復古的な資料〉に3分できることを指摘する。第2章では,儒学者佐藤一斎の訓読法(一斎点)の特徴を整理するとともに,その影響について考察する。第3章から第9章では,漢文訓読語法が影響を与えた近世・近代の様々な文章表現に着目し,対象を近世の白話資料・蘭学資料・英学資料,近代の漢文体の資料に広げて論じている。なお本書は,著者の既発表の論文を大幅に修正・加筆して9章と成し,新たに序章と終章を加えてまとめたものである。
内容は以下のようになっている。
- 序章 近世・近代の言語文化と漢文訓読
- 第1章 近世漢文訓読語法の変遷とその特徴
- 第2章 漢文訓読史上の一斎点
- 第3章 近世漢文訓読と時の助動詞
- 第4章 近代漢文訓読体と時の助動詞
- 第5章 近世漢文訓読と可能表現
- 第6章 近世漢文訓読と当為表現
- 第7章 近世漢文訓読と敬語表現
- 第8章 近代邦訳聖書における二人称代名詞「爾」と「あなた」
- 第9章 言文一致と漢文訓読語法
- 終章 漢文訓読と「型」
(2011年2月25日発行 勉誠出版刊 A5判縦組み 312頁 7,500円+税 ISBN 978-4-585-10451-3)
甲東哲編著(先田光演編集・和泊町歴史民俗資料館監修)『分類 沖永良部島民俗語彙集』
本書は1955年に孔版刷りの私家版として出された『沖永良部島民俗語彙集』を復刊したものである。(ただし項目配列を変えるなどの編集は加えてある。)私家版は十部ほどしか刷られず、自然災害により原稿や編著者所蔵本が部分的にしか残らなかったので、全体像が明らかではなかった。今回の出版は完全な形で残っていた徳川宗賢旧所蔵本(琉球大学へ寄贈したもの)を編集者が知ったことがきっかけである。編著者(1987年逝去)は,小中学校で教員をするかたわら,柳田国男の影響で民俗学研究のための民族語彙採集を始め,後には方言語彙と合わせて『島のことば 沖永良部島』(三笠出版1987)を出版している。さて,本書は「信仰・俗信篇」「漁村篇」など12章から成る。各記述は単語(や語句)が挙げられ,それに関する記述が付されるという形になっている。記載例を一つ上げると,「村制・族制篇」の〔島役人〕という項目の一つとして「シュータ」という見出しが挙げられ,それに「島における支配階級の人々。官職についている人々。主達の意か。」という記述がなされている。
内容は以下のようになっている。
- 第1章 信仰・俗信篇
- 第2章 漁村篇
- 第3章 村制・族制篇
- 第4章 農耕篇
- 第5章 婚姻・産育・児童篇
- 第6章 食物篇
- 第7章 服飾篇
- 第8章 住居・芸能篇
- 第9章 年中行事・諸職・交通・社交篇
- 第10章 葬送・民間医療篇
- 第11章 言語・労働・気象・動物篇
- 第12章 俚諺・慣用句篇
- 『分類 沖永良部島民俗語彙集』の編集刊行にあたって(先田光演)
(2011年3月10日発行 南方新社刊 A5判縦組み 304頁 3,800円+税 ISBN 978-4-86124-209-0)
坂詰力治著『中世日本語論攷』
本書は,中世の日本語を語彙・語法の面から研究した論文集である。著者の既発表の論文26編を「語義・語形変化」「語法史」「文字・表記」「鶏肋」の4章に分類して収める。調査対象は,平安時代から室町時代(一部江戸時代)までの,和文や擬古文によって書かれた散文(物語・評論・日記・随筆・紀行・和歌・軍記・説話)・キリシタンローマ字資料・狂言詞章・抄物等であり,適宜現代日本語辞書や古辞書を参照しながら豊富な用例を挙げる。所収論文は,「形容詞「いか(厳)し」の消長―「いかめし」「いかめい」との関連から―」「半井本『保元物語』に見る漢語二題―「洩奏」「物怪(勿怪)」―」「副詞「かま(構)ひて」は「かま(構)へて」の音転か」「半井本『平治物語』の用字法―借字表記を中心に―」「御伽草子に見る室町時代語的様相―形容詞を中心に―」「『狂言記』(正編)に用いられた漢語の意味・用法」等。本書は笠間叢書376として刊行された。
内容は以下のようになっている。
- 序章 中世日本語研究の意義と方法
- 第一章 語義・語形変化
- 第二章 語法史
- 第三章 文字・表記
- 第四章 鶏肋
- 初出一覧
(2011年3月20日発行 笠間書院刊 A5判縦組み 480頁 12,500円+税 ISBN 978-4-305-10376-5)
坂詰力治編『言語変化の分析と理論』
坂詰力治氏の古稀をきっかけに企画された論文集である。中世語に関わる史的研究を中心とする坂詰氏にちなんで,「言語変化」が主題となっており,氏が関わった近代語学会や語彙・辞書研究会関係者からの寄稿も多い。内容は,「ものうし」など「もの」が付く形容詞に関してその意味と消長を考察する坂詰力治論文,「文字法」と「用字法」などの用語について考える沖森卓也論文,中世の形容詞でク活用とシク活用の両方に活用する語について論じる蜂矢真郷論文,日本語の舌音について検討し,四つ仮名の区別が失われた過程を論究する林史典論文,江戸の上流武家社会の言葉が東京語になる過程を明らかにするため「場面」という観点から見ていく必要があるとする土屋信一論文,「新漢語」という用語を再検討すべきだと主張する陳力衛論文など,言語変化に着目した論文計39編を収める。なお,編集委員は沖森卓也・木村一・木村義之・倉島節尚・陳力衛・中山?腰N・山本真吾となっている。
内容は以下のようになっている。
- 抽象的表現から具体的表現へ―「もの」形容詞を通して見た一考察―(坂詰力治)
- 文字法と用字法(沖森卓也)
- 中世形容詞と両活用形容詞(蜂矢真郷)
- 〈四つ仮名〉の区別は何故〈江戸時代初期〉に失われたか―日本語舌音の通時論―(林史典)
- 公的な場面と私的な場面―場面の観点の導入―(土屋信一)
- 「新漢語」とはなにか―漢籍出典を有する語を中心に―(陳力衛)
- 「上げ核」の由来―奈良田アクセントの成立過程―(上野善道)
- 『日本書紀』における漢語死亡動詞の字音字彙体系の構造史モデル(伊藤雅光)
- 『和名集并異名製剤記』の本文の性格―『本草異名記』『製剤記』との比較を通して―(柳田征司)
- 『三宝絵』の三伝本と和漢混淆文(乾善彦)
- 源氏物語の「しげ木のなか」―仮名文の中の漢字―(阿久澤忠)
- 上代・中古語推量助動詞の確定条件用法(井島正博)
- 弾指・つまはじき考(倉島節尚)
- 『大鏡』注釈二題(小久保崇明)
- 建造物関係の語彙について―『今昔物語集』を中心に―(郭木蘭)
- 記録語彙の変遷―『民経記』を軸として―(中山?腰N)
- 『続拾遺和歌集』の「詞書」の語彙について(若林俊英)
- 鎌倉時代仏教者夫妻親鸞・恵信尼の用語―言語の地域差について―(金子彰)
- 勧修寺法務寛信の言語生活について(山本真吾)
- 中世戦記物語に見られる「―奉る」・「―参らす」(見野久幸)
- 清原宣賢講『論語抄』の語法―「叡山文庫本」と「京大図書館本」との抄文比較―(山田潔)
- 龍谷大学蔵『謡抄』欠巻部における注釈文体と用語―守清本『謡抄』の考察を通して―(小林千草)
- 質問表現における「聞ク」と「問フ」「尋ヌル」―室町時代から近世前期上方語まで―(小林賢次)
- こんてむつすむん地の語彙変化(松岡洸司)
- 日本語数詞の倍数法について(安田尚道)
- 寛文四年版袖珍倭玉篇の画引きに就いて(鈴木功眞)
- 『訳通類略』について―対訳辞書にみることばの消長―(木村一)
- 近世語資料としての御触書(高梨信博)
- 蘭学資料に見える三字漢語―明治期の三字漢語とのつながりを求めて―(朱京偉)
- 江戸時代のオランダ語研究における「助語」小考―中野柳圃『助詞考』・宇田川玄随『蘭訳弁髦』における訳語を中心に―(服部隆)
- 『雅言集覧』の漢語(荒尾禎秀)
- 『航米日録』の漢語―古代漢語と近世中国語―(浅野敏彦)
- 『呉淞日記』の中の漢語(山口豊)
- 明治期小説作品の地の文について―文末の承接から―(田貝和子)
- 発話導入部にみえる対人配慮について―明治・大正時代の謝罪・感謝系の表現を中心に―(木村義之)
- 軍事用語の変遷(桜井隆)
- 現代語「特化」の展開―使用の拡大と意味変化―(橋本行洋)
- 「いい加減」の意味分析(許羅莎)
- 「匂い」と「香り」の意味用法―評価性とそのコロケーションに着目して―(陳世娟)
(2011年3月25日発行 おうふう刊 A5判縦組み 632頁 15,000円+税 ISBN 978-4-273-03636-2)
内山純蔵監修 中井精一,ダニエル=ロング編『世界の言語景観 日本の言語景観―景色のなかのことば―』
本書は,1990年代後半から研究が本格化した言語景観研究の流れを受け,2010年1月に富山大学人文学部で開催された国際シンポジウム「世界の言語景観,日本の言語景観」の企画がもととなっている。本書は2部構成となっている。第1部「多言語化と言語景観」では,「世界の少数言語の言語景観に見られるアイデンティティの主張」(ダニエル=ロング),「「北の外地」言語景観の対照―北海道とサハリンを事例に―」(朝日祥之)をはじめ,山田敏弘,張守祥,李舜炯,市島佑起子,磯野英治,西尾純二,ペート=バックハウスの計9本の論文が収められる。また第2部「言語景観研究の方法論的展望」では,「社会分析ツールとしての言語景観―観光を中心として―」(高岡弘幸),「「景観文字」の記録と分析のために」(高田智和)をはじめ,大西拓一郎,松丸真大,高木千恵,日高水穂,岸江信介,鳥谷善史,中井精一による計9本の論文が収められる。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 多言語化と言語景観
- 世界の少数言語の言語景観に見られるアイデンティティの主張(ダニエル・ロング)
- ロマンス語圏少数言語地域の言語景観(山田敏弘)
- 中国(黒龍江省)における言語景観(張守祥)
- 看板表記にみる現代韓国の言語景観―大邱広域市を事例として―(李舜炯)
- 韓国地方都市の言語景観―釜山広域市の言語景観から見る地方都市の現状― (市島佑起子)
- 韓国における日本語の言語景観―各都市における現状分析と日本語教育への応用可能性について―(磯野英治)
- 「北の外地」言語景観の対照―北海道とサハリンを事例に―(朝日祥之)
- 大阪市大正区の沖縄に関する言語表示(西尾純二)
- 言語景観から読み解く日本の多言語化―東京を事例に―(ペート・バックハウス)
- 第2部 言語景観研究の方法論的展望
- 社会分析ツールとしての言語景観―観光を中心として―(高岡弘幸)
- 「景観文字」の記録と分析のために(高田智和)
- 町の言語景観・里の言語景観(大西拓一郎)
- 都の言語景観―京都市中心部の提灯に注目して―(松丸真大)
- 大阪府下の公的掲示物にみる言語景観のローカル化(高木千恵)
- 層を成す「増田」の地域表象―「リンゴの里」から「蔵のある街」へ―(日高水穂)
- 看板・標示物にみられる禁止表現の言語景観(岸江信介)
- 旧跡記念石碑の言語景観―石碑に込められた日本の「歴史的言語景観」―(鳥谷善史)
- 言語景観に見る地方都市の文化虚弱性(中井精一)
- あとがき(中井精一)
(2011年3月25日発行 桂書房刊 A5判縦組み 272頁 2,400円+税 ISBN 978-4-903351-93-3)
真田信治編著 太田一郎,篠崎晃一,渋谷勝己,高江洲頼子,高木千恵,高橋顕志,日高水穂,札埜和男,松丸真大,山田敏弘,吉田雅子著『日本語ライブラリー 方言学』
本書は,方言学のテキストとして,日本語の方言についてその概要を述べたものである。各地の方言を全般的に扱いながら,方言に関する基礎的な知識を提供することをめざしている。本書は4章で構成される。第1章は「概論」である。日本語の地理的変異,方言の動向,方言活動などが概説される。第2章では「各地の方言の実態」について,全国7地域(北海道・東北,関東,中部,関西,中国・四国,九州,沖縄)について記述を行った。第3章「社会と方言」では,例えば「ことばと臨床」「法廷」「言語景観」のような,現代における方言の臨床的課題をあつかった。第4章では「方言研究の方法」としてデータ収集法と方言学史をまとめている。
内容は以下のようになっている。
- 第1章 概論―方言学のみかた―
- 第2章 各地方言の実態―方言の現在―
- 第3章 社会と方言―方言の臨床的課題―
- 第4章 方言研究の方法
(2011年3月25日刊 朝倉書店刊 A5判横組み 226頁 3,500円+税 ISBN 978-4-254-51524-4)
小林芳規著『平安時代の佛書に基づく漢文訓讀史の研究I 敍述の方法』
本研究は,日本の諸寺等に現存する訓点資料のうち,平安時代の仏書を対象資料として,漢文訓読史の視点から論述したものである。『平安時代の佛書に基づく漢文訓讀史の研究』の書名を冠する全11冊(10冊+別冊)は,平成6年に執筆が開始され,実に15年以上を経て刊行に至った著者の仏書漢文訓読研究の集大成であり,本書はその第1冊にあたる。第2冊以降は,「訓點の起源」「(初期/中期/後期)訓讀語體系」「傳承と傳播」「變遷の原理(一)(二)」「加點識語集覽」「訓讀語要語索引」「訓點表記の歴史」と続刊予定である。第1冊は,書き下ろしの第1章「緒説」に,未発表原稿2本と既発表論文3本(加筆)を加えた6章から成る。なお,約50年にわたり著者が調査を行ってきた主な寺院は以下の通りである。醍醐寺,高山寺,石山寺,東寺観智院金剛蔵,大覚寺,三千院,青蓮院吉水蔵,随心院,仁和寺。
内容は以下のようになっている。
- 第1章 緒説
- 第2章 漢文訓讀史研究の課題と構想
- 第3章 漢文訓讀史の研究史料
- 第4章 漢文訓讀史の時代區分―奥書の用語に注目して―
- 第5章 漢文訓讀史敍述の方法 比較訓讀法―妙法蓮華經の諸點本を例として―
- 第6章 漢文訓讀史敍述のための訓讀語體系
- 本册の内容と既發表論文等との關係
(2011年3月26日発行 汲古書院刊 A5判縦組み 368頁 12,000円+税 ISBN 978-4-7629-3591-6)
今野真二著『日本語学講座 第2巻 二つのテキスト 上―明治期以前の文献―』『日本語学講座 第3巻 二つのテキスト 下―明治期の文献―』
この日本語学講座は単独著者による全10巻予定の講座である。著者の興味ある分野(主に日本語史,表記)において書きたいことをまとめて書くという試みである。掲げられた予告によれば,既刊の第1巻が「書かれたことば」,第4巻以降が順に「連合関係」「『節用集』研究入門」「明治期の辞書」「ボール表紙本」「自筆原稿」「仮名の歴史」「言語の揺れ」となっている。第2,3巻は「二つのテキスト」と題して,異本や異版テキストなどを比較し,その異同(表記や使用語句など)から,いかなる情報を引き出すことができるのかを追究している。第2巻(明治期以前)では藤原定家〜冷泉家関係資料関連のテキスト,第3巻(明治期の文献)では,印刷特有の問題を扱うとともに,辞書類に見られる表記・語句の異同の問題について考えている。
内容は以下のようになっている。
- 第2巻
- 第1章 古典文学作品の書写とテキストと
- 第2章 藤原定家筆本
- 第3章 擬定家本
- 第4章 冷泉家時雨亭文庫蔵資経本
- 第5章 冷泉家時雨亭文庫蔵承空本
- 第6章 資経本・承空本・御所本
- 第3巻
- 第1章 江戸期から明治期への移行
- 第2章 さまざまな印刷媒体
- 第3章 さまざまな「やわらげ」―和解・啓蒙・訓解・俗解―
(2011年4月20日発行 清文堂出版刊 A5判縦組み 244頁 3,500円+税 ISBN 978-4-7924-0940-1)
(2011年4月20日発行 清文堂出版刊 A5判縦組み 224頁 3,500円+税 ISBN 978-4-7924-0943-2)
荻野綱男・田野村忠温編『ウェブによる情報収集』
日本語研究に必須のIT関連知識とその活用法を詳しく解説するという「講座 ITと日本語研究」の第7巻である。この巻ではインターネットを通じて得られる情報一般を扱っている。全体は5章からなる。まず,第1章「図書館としてのウェブ」(辻慶太・影浦峡)では,主に文献探索法について述べる。第2章「百科事典としての利用」(大塚みさ)では,ネット上にある有償の百科事典,無償の事典,さらに協同編集の事典を紹介し,さらに,検索で得られる情報を百科事典がわりに活用する方法について説明している。第3章「オンライン辞書の利用―国語辞典・和英辞典など―」(福嶋秩子)では,オンライン辞書の紹介と,その検索法を述べ,さらに用途(何を調べるか)別に使用上のヒントを述べている。第4章「日本語学関連サイトの紹介」(嶺田明美)では,団体・個人のサイトの名称・場所(URL)・内容を簡単に紹介している。第5章「HTMLとXML」(千葉庄寿)では,研究資料の保存形式として重要であり,コーパスを利用する研究において分析の基礎ともなるHTMLとXMLについて説明している。本書は講座ITと日本語研究7として刊行された。
内容は以下のようになっている。
- 第1章 図書館としてのウェブ(辻慶太・影浦峡)
- 第2章 百科事典としての利用(大塚みさ)
- 第3章 オンライン辞書の利用―国語辞典・和英辞典など―(福嶋秩子)
- 第4章 日本語学関連サイトの紹介(嶺田明美)
- 第5章 HTMLとXML(千葉庄寿)
(2011年4月25日発行 明治書院刊 A5判横組み 232頁 2,400円+税 ISBN 978-4-625-43444-0)
山口佳也著『「のだ」の文とその仲間―文構造に即して考える―』
「のだ」のほか,「わけだ」「ものだ」「からだ」「はずだ」などの要素を持つ文に関して,用例分析に基づき構文主義的な立場からその特質を考察したものである。ノダについては,現在,モダリティ要素の一つとして扱う(著者の言い方ではノダを助動詞的なものとして扱う)ことが多い。つまりノダ文の分析としては,ラシイが「彼が来る」+「らしい」と分析されるのと同様,「彼が来る」+「のだ」と分析されることが多いのだが,本書はそのような見方を取らず,「〜のは〜のだ」という文を基本と考える考え方,つまり「〜は〜だ」という名詞述語文の構造が基礎になっているという立場をとっている。その立場から「わけだ」等の「形式名詞+だ」の分析を行い,さらに源氏物語における「連体+なり」や「連体+ぞ」の構造の分析も名詞述語文の構文という面からの分析を行う。他に著者の出発点となった論文,「のだ」をめぐって佐治圭三との論争をした論文などを含む。
内容は以下のようになっている。
- 第1 「のだ」の文について
- 第2 「のだ」の文の性格をめぐって
- 第3 いわゆる解説的な用法の「ものだ」の文
- 第4 「連体なり」の文について―「源氏物語」の用例をもとに―
- 第5 「連体形+ぞ」の文について―「源氏物語」の用例をもとに―
- 第6 「わけだ」の文について
- 第7 いわゆる納得用法の「わけだ」の文
- 第8 「する道理だ」の文
- 第9 「ことだろう」の文について
- 第10 「〜からだ」の文について
- 第11 「わけではない」の文について
- 第12 「はずだ」の文の構造と意味
- 第13 納得用法に続く第三の用法について―「はずだ」の文の場合を中心に―
- 付第1 「〜のだ」の文の本質をめぐって
- 付第2 再び「〜のだ」の文の本質をめぐって―佐治圭三氏の論に寄せて―
(2011年5月1日発行 三省堂刊 A5判縦組み 312頁 6,600円+税 ISBN 978-4-385-36513-8)
鍋島弘治朗著『日本語のメタファー』
認知言語学の立場から日本語の狭義のメタファー(=隠喩)を論じたものである。新しく身体性メタファー理論を提唱し,その立場から日本語の隠喩表現を分析している。全体は大まかに二つに分かれる。前半は第4章までで,認知言語学,その中の認知メタファー理論,さらにその中の身体性メタファー理論(発達研究や感覚・主観性などの身体的要素を重視した認知メタファー理論)についての説明を行う。後半は第5章以後で,「イメージ・メタファー」,「水のメタファー」,「擬人のメタファー」,「線と移動のメタファー」のような章題のもと,前半で示した理論に基づき,当該表現の提示・分析を行う。なお,本書は関西大学に提出され2007年3月に学位を受けた論文の後半のデータをもとに,依って立つ理論の説明を加えて一書としたものである。
内容は以下のようになっている。
- 第1章 はじめに
- 第2章 認知言語学
- 第3章 認知メタファー理論
- 第4章 身体性メタファー理論
- 第5章 イメージ・メタファー
- 第6章 水のメタファー
- 第7章 擬人のメタファー
- 第8章 線と移動のメタファー
- 第9章 因果のメタファー
- 第10章 現実のメタファー
- 第11章 可能性のメタファー
- 第12章 希望のメタファー
- 第13章 問題のメタファー
- 第14章 善悪のメタファー
- 第15章 評価性を基盤とするメタファー
- 第16章 関係のメタファー
- 第17章 ことわざのメタファー
- 第18章 結論
- 第19章 あとがき
(2011年5月20日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 376頁 3,000円+税 ISBN 978-4-87424-512-5)
吉岡泰夫著『コミュニケーションの社会言語学』
本書はコミュニケーション研究の中でもポライトネス理論を応用した社会言語学的研究を,具体的にはビジネス・行政,医療を題材に実施,その成果をまとめたものである。本書は4章で構成される。第1章「コミュニケーションの言語問題とポライトネス理論」では,まずコミュニケーションの言語問題の定義とその射程が示され,本書の理論的な枠組みであるポライトネス理論が紹介される。第2章「ビジネス・行政におけるコミュニケーションの適切化」と第3章「医療におけるコミュニケーションの適切化」は,いずれもポライトネス理論を応用したものである。第2章ではビジネスにおける目的達成に必要なポライトネスストラテジーが述べられ,また行政においては,行政窓口の職員と一般住民への調査結果から行政にもとめられるポライトネスの姿について考察がなされる。第3章では医療場面におけるポライトネスストラテジーが提示される。第4章では「コミュニケーション能力を育てる教育」として,敬語習得とポライトネス教育の必要性が主張される。なお,本書は大阪大学大学院文学研究科に提出された博士学位請求論文の内容に基づいて加筆修正が加えられたものである。
内容は以下のようになっている。
- まえがき
- 第1章 コミュニケーションの言語問題とポライトネス理論
- 第2章 ビジネス・行政におけるコミュニケーションの適切化―ポライトネス理論の応用I―
- 第3章 医療におけるコミュニケーションの適切化―ポライトネス理論の応用II―
- 第4章 コミュニケーション能力を育てる教育
(2011年5月20日発行 大修館書店刊 A5判横組み 210頁 1,900円+税 ISBN 978-4-469-21332-4)
金澤裕之・矢島正浩編『近世語研究のパースペクティブ―言語文化をどう捉えるか―』
2010年5月の日本語学会で開かれたシンポジウムをきっかけに編まれた論文集である。現代語研究や通史研究に留まらず文学研究・歴史研究にも刺激を与えるような,近世語研究の新たな方法論・方向性を探ったものとなっている。全体は2部に分かれる。第1部「文法史の面から捉え直す近世語」には,打消し表現と授受補助動詞表現を取り上げ,現代語と近世語に見られる動態の普遍性について探究する金澤裕之論文,推定の「ようだ」を扱い,江戸語と現代の違いを指摘する岡部嘉幸論文,「ソレダカラ」の成立を描くため周辺の表現を多角度から追究する矢島正浩論文,近世の条件表現の様相を捉えるべく『方言文法全国地図』と国語史・近世方言文献を総合する彦坂佳宣論文の4編を収める。第2部「言語生活の面から捉え直す近世語」には,変異形を例に出しながら研究上の約束事を意識化し,それを問い直そうとする福島直恭論文,節用集を総合的に検討する佐藤貴裕論文,近世通行の仮名表記は乱れているのではなくそれなりの意味があるのだとする屋名池誠論文,文学研究者の立場から文学と言語の研究の橋渡しの可能性を論ずる井上泰至論文の4編を収める。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 文法史の面から捉え直す近世語
- 時代を超えた言語変化の特性―動態の普遍性を考える―(金澤裕之)
- 現代語からみた江戸語・江戸語からみた現代語―ヨウダの対照を中心に―(岡部嘉幸)
- 時間的・空間的比較を軸にした近世語文法史研究―ソレダカラ類の語彙化を例として―(矢島正浩)
- 条件表現からみた近世期日本語の景観―『方言文法全国地図』と国語史・近世方言文献の対照から―(彦坂佳宣)
- 第2部 言語生活の面から捉え直す近世語
- 日本語の歴史的研究と変異形(福島直恭)
- 節用集と近世社会(佐藤貴裕)
- 「近世通行仮名表記」―「濫れた表記」の冤を雪ぐ―(屋名池誠)
- 問いの共有―文学研究と言語研究の架橋へ―(井上泰至)
(2011年5月31日発行 笠間書院刊 A5判縦組み 212頁 2,500円+税 ISBN 978-4-305-70555-6)
金水敏編『役割語研究の展開』
本書は2007年にくろしお出版から刊行された『役割語研究の地平』の続編にあたる。前著の刊行から「役割語」の概念が研究者に浸透し,その後役割語研究がさらなる進展を見せた。その内容を受けて刊行されたのが本書である。本書は5部で構成される。第1部「キャラクタをめぐって」では役割語と対をなす「(発話)キャラクタ」に関する考察である。第2部「教育と役割語」では,翻訳教育,日本語教育における役割語が果たす役割が論じられる。第3部「外国語と役割語」は外国語との対処研究である。第4部「さまざまな役割語」では,役割語のヴァリエーションに関する記述/分析が行われ,その歴史的な起源,発達の経緯について明らかにしようとしている。第5部「ツンデレをめぐって」では,役割語の周辺問題にある「ツンデレ」という特異なキャラクタ造形に言語がどのようにかかわるかを扱う。
内容は以下のようになっている。
- 導入(金水敏)
- 第1部 キャラクタをめぐって
- 第1章 現代日本語の役割語と発話キャラクタ(金水敏)
- 第2章 キャラクタは文法をどこまで変えるか?(定延利之)
- 第3章 役割語のエコロジー―他人キャラとコンテキストの関係―(山口治彦)
- 第2部 教育と役割語
- 第4章 韓国の教科書における役割語の役割―「生きた日本語」を教えるバーチャルリアリティ―(恩塚千代)
- 第5章 役割語を主題とした日韓翻訳の実践―課題遂行型の翻訳活動を通して気づきとスキル向上―(鄭惠先)
- 第3部 外国語と役割語
- 第6章 ウサイン・ボルトの"I"は、なぜ「オレ」と訳されるのか―スポーツ放送の「役割語」―(太田眞希恵)
- 第7章 要素に注目した役割語対照研究―「キャラ語尾」は通言語的なりうるか―(金田純平)
- 第8章 コミック翻訳を通じた役割語の創造―ドイツ語史研究の視点から―(細川裕史)
- 第4部 さまざまな役割語
- 第9章 『風の谷のナウシカ』と役割語―映像翻訳論覚書―(米井力也)
- 第10章 「沖縄人」表象と役割語―語尾表現「さ」(「さぁ」)から考える―(本浜秀彦)
- 第11章 役割語としての「幼児語」とその周辺(岡崎友子・南侑里)
- 第12章 役割語としての片言日本語―西洋人キャラクタを中心に―(依田恵美)
- 第13章 大阪大学卒業論文より(2002-2010)(金水 敏他)
- 第5部 ツンデレをめぐって
- 第14章 役割語としてのツンデレ表現―「常用性」の有無に着目して―(西田隆政)
- 第15章 ツンデレ属性における言語表現の特徴―ツンデレ表現ケーススタディ―(冨樫純一)
(2011年6月8日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 410頁 3,500円+税 ISBN 978-4-87424-522-4)
高見健一著『受身と使役―その意味規則を探る―』
日本語・英語を中心とした言語・文化についての興味深い事柄を取り上げ,その研究成果をやさしく解説する「開拓社 言語・文化選書」の第25巻である。本書では日本語・英語の受身・使役を取り上げ,その構造について簡単に説明し,その上で適格文と不適格文を区別している意味的・機能的要因を探っていく。また,その過程で両語の共通点・相違点について見ていく。全体は序章を含めると6章構成になっている。誤用文からそれがなぜ言えないのかを機能論的に探っていく方法を述べた序章に続き,第1章で日本語の直接受身文,第2章で日本語の間接受身文,第3章で英語の受身文を扱う。さらに第4章で日本語の使役文,第5章で英語の使役文を検討する。
内容は以下のようになっている。
- 序章 ことばの間違いから見えてくるもの
- 第1章 日本語の直接受身文―「富士山は先週,山田君に登られた」とはなぜ言えないか―
- 第2章 日本語の間接受身文―「ローソクに燃えられた」とはなぜ言えないか―
- 第3章 英語の受身文―Harry Potter was read by John.とはなぜ言えないか
- 第4章 日本語の使役文―「太郎を体当たりで倒れさせた」とはなぜ言えないか―
- 第5章 英語の使役文―The lightning had the girls cover their heads. とはなぜ言えないか―
(2011年6月14日発行 開拓社刊 B6判横組み 232頁 1,800円+税 ISBN 978-4-7589-2525-9)
呉人恵編『日本の危機言語―言語・方言の多様性と独自性―』
本書は,日本の言語・方言の多様性と独自性,その変容と衰退,また新たなアイデンティティの獲得について,アイヌ語,日本語諸方言,琉球語を対象にして論じたものである。本書は4部で構成される。第1部では日本の中の言語の多様性をめぐる現状を概観する。第2部ではアイヌ語,北海道方言,秋田方言,水海道方言,東京弁,八丈方言,宇和島方言,鹿児島方言,琉球語が取り上げられる。第3部は日本語の標準語から方言の重要性が論じられる。第4部は世界から見た言語の多様性保持の意義が示される。本書には各言語,方言における挨拶ことばを収録したCDが付される。なお,本書は2009年3月に日本言語学会「危機言語」小委員会企画の公開シンポジウム「日本のなかの危機言語:アイヌ語,琉球語,本土方言」がきっかけとなっている。
内容は以下のようになっている。
- 第I部 日本の言語状況(佐々木冠)
- 第II部 独自性と現状
- 第1章 アイヌ語の研究(佐藤知己)
- 第2章 北海道方言―様々な本土方言の融合体(菅泰雄)
- 第3章 秋田方言―多様性を内包する「仮想方言」のダイナミクス(日高水穂)
- 第4章 水海道方言―標準語に近いのに遠い方言(佐々木冠)
- 第5章 滅びゆく言語「東京弁」(秋永一枝)
- 第6章 八丈方言―古代東国方言のなごり(金田章宏)
- 第7章 愛媛県宇和島方言の時間の捉え方―標準語の文法を相対化する視点(工藤真由美)
- 第8章 鹿児島方言―南端の難解な方言(木部暢子)
- 第9章 琉球語―「シマ」ごとに異なる方言(西岡敏)
- 第III部 標準語から見る日本語の方言研究(加藤重広)
- 第IV部 世界から見た日本語の多様性(角田太作)
(2011年6月25日発行 北海道大学出版会刊 A5判横組み 332頁 3,200円+税 ISBN 978-4-8329-6747-2)
伊豆山敦子著『琉球のことばと人―エヴィデンシャリティーへの道―』
本書は,琉球諸方言に特徴的な言語事象(エヴィデンシャリティー,母音調和など)をトピックごとに取り上げ,豊富な用例を用いながら琉球諸方言の表す表現世界の多様性を述べたものである。琉球方言を調査研究するための基本的な考え方,調査時の心得,調査項目(表記,代名詞,名詞(附助詞),動詞,形容詞),石垣・宮良方言の基礎文法,琉球諸方言の形容詞語末の形成,「テイル」形に関する考察,八重山方言の基礎文法研究,琉球方言の母音調和的傾向,エヴィデンシャリティーが取り上げられる。基礎文法研究に該当する章では,調査項目で規定された順に記述がなされる。なお,本書は日本語で書かれた章と英語で書かれた章があるのも特色である。
内容は以下のようになっている。
- はしがき
- 琉球への視点
- The Grammar of Ishigaki Miyara Dialect in Luchuan
- 琉球・宮古(平良)方言の文法基礎研究
- A Study on the Formation of Luchuan (Ryukyuan) Adjective Endings
- 「ている」形への一考察
- 琉球・八重山(与那国)方言の文法基礎研究
- 琉球方言の母音調和的傾向
- Evidentiality―琉球語の場合―
(2011年6月30日発行 真珠書院刊 A5判横組み 410頁 10,000円+税 ISBN 978-4-88009-506-6)