日本語学会

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《誌上フォーラム:「国語学」と「日本語学」》

(『国語学』52巻4号(207号) 2001・11・30 p.48-49)

新しい名称への変更に伴う混乱は避けたい

荻野 綱男

 「国語学会」が「日本語学会」に名称変更する可能性があると聞く。私は,この改称により,さまざまなところに無用の混乱を招く可能性があると思うので,「日本語学会」への改称には反対である。
 「日本言語学会」という学会がある。50年以上の活動歴があり,国語学会の会員にとって周知の組織であろう。「日本語学会」は,この学会と名称が似ている。
 そんなことをいうと,多くの人は「そんなはずはない」と思うであろう。「日本語・学会」と「日本・言語学会」(ナカグロの位置については問題があるが,両者の区別のために仮にこのようにしておく)では,全く違うので誤解の危険性はないはずである。確かに,国語学会の会員(さらには日本言語学会の会員)にとってはその通りである。しかし,学会の名称は,単に会員だけの問題ではなく,会員外の多くの人々,たとえば,やや専門が違う研究者,これからこの分野に入ってくる学生,さらにはこれから生まれてくる人々の問題でもある。
 私は,2000年に日本言語学会が主催する夏期講座の実行委員長をつとめたが,その夏期講座の受講を受け付けたときに,「日本言語学会は,日本で唯一の日本言語に関する学会と聞きました。ついては是非夏期講座を受講したく,……。」という趣旨の手紙を受け取ったことがある。こういう誤解をする人が夏期講座に参加して意味があるのか,疑問もあるが,一方では,そういう人にこそ参加してもらって言語学について理解を深めてもらいたいとも思った。このことで,非会員にはこんな誤解をする人もいるのだと悟った。
 一例をもって全体を判断するのは危険であるが,会員外の人々(の一部)には,「日本言語学会」と「日本語学会」の区別はしばしば困難であろう。
 もしも国語学会が日本語学会に改称したとすると,将来的に,図書館,図書検索システム,インターネット上の検索エンジン(実際にはこれらの利用者),日本学術会議などなど,多方面に迷惑をかけることもあるかもしれない。
 実は,別の機会に,「JCHAT言語科学研究会」という組織が「日本言語科学会」と改名する予定だという話も聞いたことがある。これは,国語学会の改称よりも,さらに重大な問題だと考えた。「日本言語学会」とは,たった漢字1文字(発音では1モーラ)の違いだけで,しかも構成要素をみても全体に意味が似ている。さっそく,関係者に改称再考を呼びかける連絡をした。
 「日本語学会」も同様である。組織名は,はじめて聞いて,若干うろ覚えでも,各種の検索時に使えるようでなければならない。似た名称を使うのは,そういうときに不便である。
 雑誌名についても,考えなければならない。「国語学会」が「国語学」を発行するのは自然である。「日本語学会」に改称した場合,どんな雑誌名を使うのだろうか。最も自然なのは「日本語学」であるが,そういう名前の月刊誌がすでにあり,20年の歴史を持つ。「日本言語学会」の「言語研究」や「日本音声学会」の「音声研究」の例にならえば「日本語研究」だが,これまたそういう名前の雑誌があり,国語年鑑にも載っており,こちらも20年の歴史を持つ。既存の雑誌と同じ名前にすることは,絶対にしてはならない。似た名前であっても,上述の学会名の議論と同じことがいえ,将来のことを考えると避けておいた方がいい。
 ただし,私は「国語学会」および「国語学」の名称を守り続けようとは思わないので,何かいい名称があるならば,それに改称することには賛成する。いい名称とは,会員の研究内容を端的に表し,かつ既存の他学会の名前と間違えられないものである。この原則を守る以上,新しい名前は,長くなるしかないだろう。私案では,「日本語研究学会」および「日本語研究学会誌」くらいが適当ではないかと思う。
 余談ながら,「韓国日本語学会」や「中国日本語学会」(いずれも現存の組織)のように「日本語学会」の前にさらに修飾語が付けば,誤解のおそれはないので,こういう名称は望ましいものである。「明海大学日本語学会」なども同様である。もっとも,ここは,しばしば「日本語学会」と略称しているようだ

注 2001.8.16現在,http://www.meikai.com/topics/t200012.htm#japan partyにアクセスすると,次のような記述がある。「日本語学会主催00/11/04 東呉・銘傳大学留学生歓迎パーティー開催【中略】日本語学会とは,本学外国語学部日本語学科の教員,学生が集って結成されたもの。」

――東京都立大学教授――
(2001年8月17日 受理)

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