日本語学会

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《誌上フォーラム:「国語学」と「日本語学」》

(『国語学』53巻1号(208号) 2002・1・1 p.136-137)

「国語学」と「日本語学」 『国語年鑑』による意識調査

日野 資成

 「国語学」の研究分野と「日本語学」の研究分野を研究者はどのようにとらえているのだろうか。『国語年鑑』(2000年版)の「国語関係者名簿」の「(5) 専攻・専門」の項目から統計を取って考えてみたい。この項目は,それぞれの研究者が自分の専門分野を申告する項目であり,「国語学」や「日本語学」だけを挙げる研究者もいれば,「国語学・日本語教育」など複数の分野を挙げる研究者もいる。下の表1は,それぞれの学問分野(一つまたは二つ以上)を自分の専門であるとする研究者の人数を示したものである(今回は「国語学」「日本語学」「日本語教育」「言語学」の四分野を別項目として扱い,それ以外の項目がこれら四分野と重なる場合はすべてカットした。たとえば,「国語学・上代文学」は「国語学」,「日本語学・方言学」は「日本語学」とする。この四分野以外の分野を挙げた人は「その他」に含めた)。

表1 専門分野別の人数
 専門分野人数 
国語学484(81%)
日本語学110(19%)
  日本語教育66 
  言語学213 
日本語教育・日本語学35(76%)
日本語教育・国語学11(24%)
言語学・日本語学20(67%)
言語学・国語学10(33%)
  言語学・日本語教育20 
  国語学・日本語学2 
  国語学・言語学・日本語教育2 
  項目(5)なし29 
  その他1071 
  合計2073 
 『国語年鑑』に載せられている2073名の研究者に関する限り,専門分野を「国語学」とする人(484人,81%)が「日本語学」とする人(110人,19%)よりも多い。「国語学」という語の定着度の高さがうかがえる。しかし,「日本語教育」を専門とする人が,もう一つの専門分野として「日本語学」を挙げた人(35人,76%)は「国語学」を挙げた人(11人,24%)よりも多い。日本語教育の専門家は,「国語学」よりも「日本語学」をより多く用いる傾向にある。日本語教育における日本語は,日本語学習者にとって外国語であり,日本語教師は,日本語を他の言語と比較して外国語として教えなければならない。日本語教育の専門家にとって「日本語学」とは,日本語を他の言語と比較して明らかにしてゆく学問分野であろう。
 次に,「言語学」を専門とする人が,もう一つの専門分野として「日本語学」を挙げた人(20人,67%)は「国語学」を挙げた人(10人,33%)よりも多い。言語学者も「国語学」よりも「日本語学」を多く用いる傾向にある。言語学における日本語は,世界の言語の中の一言語である。言語学者にとって「日本語学」とは,言語学の理論を,世界の一言語としての日本語に当てはめる学問分野であろう。
 特筆すべきは「国語学」と「日本語学」の二分野を挙げている人が二名いることである。この二人は,「国語学」と「日本語学」を異なる分野の学問であることを意識して使っていると思われる。では,それぞれどのような学問分野と言えるであろうか。
 歴史言語学では,文献以前の言語状態(祖語)を理論的に再構成するのに二つの方法を用いる。複数の言語を比較することによって再構成する「比較方法(Comparative method)」と,一言語の共時態における言語形式をもとに再構成する「内的再建法(Internal reconstruction)」である(『言語学大辞典 第6巻 術語篇』467,490ページ)。日本語教育の専門家や言語学者によって多く使われている「日本語学」は,「『比較方法』により,外国語との比較によって,世界の中の一言語である日本語を記述する学問」と定義する。一方「国語学」は,「『内的再建法』により,研究の対象を日本語だけに絞って,日本人の立場から自国語を研究する学問」と定義してみたい。歴史言語学において,「比較方法」と「内的再建法」の両方が祖語再建に有効であるように,「日本語学」「国語学」ともに,違った観点から日本語を研究する学問分野として有効であると考える。
 「日本語学」「国語学」が上記のようにともに違った分野の学問であるとするならば,雑誌の名称については,すでにある『日本語学』に対して『国語学』がやはりふさわしいと考える。学会の名称についても,「日本語学」を研究するならば「日本語学会」でよいが,「国語学」を研究するのであるから「国語学会」がふさわしいと考える。

参考文献
『国語年鑑』(2000年版)国立国語研究所編 大日本図書
『言語学大辞典 第6巻 術語篇』1996年 三省堂

――福岡女学院大学助教授――
(2001年9月18日 受理)

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