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新刊紹介 (53巻3号(210号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『国語学』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 吉田金彦・築島裕・石塚晴通・月本雅幸編『訓点語辞典』
- 小池清治著『現代日本語探究法』
- 植村雄太朗編『種子島方言辞典』
- 真田信治編『百年前の越中方言』
- 飛田良文・佐藤武義編『現代日本語講座 第1巻 言語情報』『現代日本語講座 第2巻 表現』『現代日本語講座 第3巻 発音』
- 国語文字史研究会・前田富祺編『国語文字史の研究 六』
- 近藤瑞子著『近代日本語における用字法の変遷 ―尾崎紅葉を中心に―』
- 来田隆著『抄物による室町時代語の研究』
- 国立国語研究所編『全国方言談話データベース 日本のふるさとことば集成〈第11巻〉京都・滋賀』
- 中村ちどり著『日本語の時間表現』
- 高見健一著『日英語の機能的構文分析』
- 甲田直美著『談話・テクストの展開のメカニズム ―接続表現と談話標識の認知的考察―』
- 森岡健二著『要説日本文法体系論』
- 吉野正敏著『気候地名集成』
- 遠藤織枝編『女とことば 女は変わったか 日本語は変わったか』
- 城生佰太郎編『映像の言語学』
- 玉村文郎編『日本語学と言語学』
- 藤井茂利著『東アジア比較方言論 ―「甘藷」「馬鈴薯」の名称の流動―』
- 高見健一・久野暲著『日英語の自動詞構文 ―生成文法分析の批判と機能的解析―』
- 町田健編・籾山洋介著『認知意味論のしくみ』
吉田金彦・築島裕・石塚晴通・月本雅幸編『訓点語辞典』
本書は訓点語の五十年の学のエッセンスを凝縮したものであり,現在の研究の水準を,平易な表現により,一般の読者の理解に資する目的で編まれたものである。
本書は,「訓点研究の概要」,「主要な訓点資料の解題」,「主なる訓点語彙の解説」の三部より成っている。「訓点研究の概要」では総論で基本的な術語についての解説のほか,研究史,研究法,時代別・宗派別の訓点資料の様相などを記す。「主要な訓点資料の解題」では国語資料として特に重要と考えられる約140点について加点年代,または成立年代順に配列して解題を付す。「主なる訓点語彙の解説」では約180語について語釈・用例・問題点を記載している。
(2001年8月30日発行 東京堂出版刊 A5判縦組み 318ページ 8,500円)
小池清治著『現代日本語探究法』
シリーズ「日本語探究法」の第1巻である。このシリーズは,日本語学の演習での発表,あるいは卒業論文執筆などの人に対して,探求方法を提示するという目的で作られている。
本書の構成は,各章冒頭に疑問を提示し,それを解いて行く形式で事例研究を行うというものである。たとえば,本巻第1章では,「「日本」は「にほん」か「にっぽん」か?」という問題に対して,〈問題点の整理〉→〈用例収集〉→〈日本語史あるいは文字表記の面から考察をして結論を出す〉という探求の例を示している。本文の後に発展問題がある。これは演習やレポートの題材などに使われることを想定しての出題である。
章立ては以下のようになっている。
- 第1章 「日本」は「にほん」か「にっぽん」か?[音声言語と書記言語,名詞]
- 第2章 日本語に主語はないのか?[文法・構文論]
- 第3章 「栃木県に住む外国人」と「栃木県に住んでいる外国人」は同じか?[文法・動詞]
- 第4章 ラ抜き言葉が定着するのはなぜか?[文法・可能動詞]
- 第5章 「それでいいんじゃない?」はなぜ肯定になるのか?[文法・疑問文・存在詞]
- 第6章 なぜ,「安くておいしい店」と言い,「おいしくて安い店」とは言わないのか?[文法・形容詞]
- 第7章 「全然,OK。」は,全然許されないか?[文法・日本語の変遷・副詞]
- 第8章 「しかし」は論理に関する接続詞か?[文法・文学と語学・接続詞]
- 第9章 助動詞「た」は過去を表すか?[文法・助動詞]
- 第10章 「ここが皇居です。」事実の初出にはガが用いられるのか?[文法・助詞]
- 第11章 「わかりますか?」と「わかりますか。」はどちらが正しいか?[表記・助詞]
- 第12章 父親はいつから「オトウサン」になったのか?[共通語と方言・親族呼称]
- 第13章 夏目漱石はなぜ「夏目嗽石」と署名したのか?[文学と語学・レトリック]
- 第14章 「夜の底が白くなった。」「夜」には「底」があるか?[文学と語学・レトリック]
- 第15章 孤独な魂は擬人法を好むか?[文学と語学・レトリック]
(2001年10月15日発行 朝倉書店刊 A5判横組み 148ページ 2,500円)
植村雄太朗編『種子島方言辞典』
種子島方言の包括的な資料である。最初に「共通語びき索引」がある。配列は「天然,植物・・・」のように意義分類になっている。例えば「天体」の項を見ると,「太陽,月,星・・・」という共通語の単語が並んでおり,それに対応する種子島方言が記されている。 次に本編となる。まず,日本方言圏のなかでの種子島方言の位置づけや,音声・文法の特徴,研究史などの概説があり,次にアクセント論(木部暢子)が載せられている。その後,辞典の部が始まる。ここも「天然,植物,動物(陸生),動物(水性)」のように意義分類されており,各々の部の中で単語が五十音順に配列されている。記載項目は,基本的には〈見出し〉,〈音声表記〉,〈意味〉,〈アクセント〉,〈用例(付けられていないものもある)〉であり,〈注釈〉,〈慣用表現〉などは必要に応じて記載されている。また,末尾には〈諸表現〉として,否定・意志・推量・使役・受身・可能などの言い方が並べられている。
なお,冊子のほかに,CDに収録された「種子島方言アクセント」(木部暢子監修)が付いている。
- 1〜11ページ
- まえがき
- 地図・写真(春田行夫)
- 凡例
- 参照文献
- 1〜108ページ
- 共通語びき索引
- 1〜375ページ
- 概説
- 中種子方言のアクセント(木部暢子)
- 天然
- 植物
- 動物(陸生)
- 動物(水生)
- 人体・生理
- 人の性情
- 社会
- 衣食性
- 諸表現
(2001年11月1日発行 武蔵野書院刊 A5判横組み 375ページ 10,000円)
真田信治編『百年前の越中方言』
編者は科学研究費による特定領域研究(A)「消滅に瀕した日本語方言に関する総合的研究」の代表者として研究を進行させており,本書の刊行はこのプロジェクトの一環であるとも言えると位置付けている。本書でとりあげられた資料は,日本方言研究会編『日本方言研究の歩み 文献目録』(角川書店)にも見られず,斯界では知られていない貴重なものである。清水信光「越中方言(一〜六)」(『越中郷土研究』第4巻第4号〜第4巻9号・昭和15.5〜16.3)ほか,まつのや主人「富山両市方言」(『富山日報』富山日報杜・明治28年),城南学人(寄稿)「富山風俗方言百首」(『北陸政報』北陸政報社・明治39年),米沢与四雄「黒東方言(一〜三)」(『越中郷土研究』第3巻第4号〜第3巻6号・昭和14.4〜14.6)を収める。また,編者による解題と解説とを付す。
(2001年11月12日発行 桂書房刊 B6判縦組み 223ページ 1,600円)
飛田良文・佐藤武義編
『現代日本語講座 第1巻 言語情報』
『現代日本語講座 第2巻 表現』
『現代日本語講座 第3巻 発音』
本講座は,現代日本語の実相を把握するとともに,問題点の理解・解決の糸口を提示する目的で企画されたものである。言語情報,表現,発音,語彙,文法,文字・表記,の分野に分け,それぞれに1巻を割り当てた全6巻からなる。第1巻は,ITの基礎である「言語情報」を扱ったものである。第2巻は「表現」を,第3巻は「発音」を扱っている。具体的な内容は以下の通りである。
- 第1巻 言語情報
- 言語情報と言語情報処理(長尾真)
- 自動翻訳と人工知能(塩津誠)
- 情報化社会の言語政策(田中牧郎)
- 日本人とアメリカ人の交渉手法(西潟真澄)
- 日本語と第二公用語論(古藤友子)
- 日本語の漢字とアルファベット文字(ライマン,エツコ・オバタ)
- 広告の言語情報(小矢野哲夫)
- 官庁用語の改善策(西原春夫)
- 近代日本語政策史概観 ―戦前・戦中期を中心に―(安田俊朗)
- 日本語は特殊な言語ではない(吉田智行)
- 第2巻 表現
- 表現を考える(佐藤喜代治)
- 談話の構造(茂呂雄二)
- 文章の種類と執筆(半沢幹一)
- 話し方の教育(佐々木倫子)
- 書くことの教育(有元秀文)
- 携帯電話と電子メイルの表現(田中ゆかり)
- 待遇表現の構造(浅田秀子)
- 修辞体系と比喩(中村明)
- 辞書の利用法(小野正弘)
- 表現研究の歴史(安藤修平)
- 第3巻 発音
- 世界の言語からみた日本語音声の特色(城生佰太郎)
- 現代日本語の発音分布(佐藤亮一)
- 東京語の発音とゆれ(秋永一枝)
- 西洋語の発音の影響(井上史雄)
- 日本語音声の合成(牧野正三)
- 日本語の同音衝突(小林隆)
- 日本語の音数律(坂野信彦)
- 連想と掛け詞(福田秀一)
- アクセント記述の方法(上野善道)
- 音声研究の歴史(齋藤孝滋)
国語文字史研究会・前田富祺編『国語文字史の研究 六』
国語文字史研究会による,論文集の第6集。以下の13編の論文を収める。
- 「国訓考証五則」(高橋忠彦・高橋久子)
- 「御巫本日本書紀私記の研究 ―稀用万葉仮名について―」(山口真輝)
- 「『家伝』における「漢字文字列」認定の理論的側面 ―語史・語彙史研究との関わりから―」(小野正弘)
- 「国字「辷」の成立と訓の変遷 ―「まろぶ」「ころぶ」そして「すべる」へ―」(蜂谷清人)
- 「『仮名文字遣』における「万葉」の引用」(長谷川千秋)
- 「菅原智洞の半濁音表記から」(小林賢章)
- 「本居宣長の送り仮名意識 ―寛政期の板本三作を対象として―」(神作晋一)
- 「『古事記伝』の仮名字体 ―訓仮名出自字体の忌避とその背景―」(内田宗一)
- 「近代における漢字字書・節用集の漢字字体」(楊昌洙)
- 「雑誌『太陽』創刊号における外国地名片仮名表記」(深澤愛)
- 「巖谷小波の児童文学における仮名遣い ―いわゆる「お伽仮名」について―」(小松聡子)
- 「内田百閒の擬声語・擬態語の表記について」(岡村まり子)
- 「「標準コード用漢字表(試案)」とJIS漢字」(池田証寿)
また,書名・人名・用語・語彙・仮名・漢字索引を付す。
(2001年11月20日発行 和泉書院刊 A5判縦組み 320ページ 8,000円)
近藤瑞子著『近代日本語における用字法の変遷 ―尾崎紅葉を中心に―』
近代日本語の確立期である明治20年前後に現れた文学者は,その過渡期を過ごすうちに前代の日本語と近代日本語とを体得していったという。その代表が尾崎紅葉であるが,彼は日本語の運用に腐心することになった。なかでも,古来日本人を悩まし続けてきた,日本語表記のうえでの漢字と仮名との関係について大胆な試行錯誤を行った一人と考えられた。本書はその作品の用字法の史的変遷を調査・研究したものである。なお,本書は筆者が日本大学に提出した卒業論文を刊行したものである。
(2001年11月22日発行 翰林書房刊 A5判縦組み 434ページ 12,000円)
来田隆著『抄物による室町時代語の研究』
本書は,筆者がこれまで公表した論文のうち,室町時代の抄物に関するものをまとめたものである。初出が昭和46年から平成12年までのものを収めている。第1部「五山僧・博士家抄物のことば」では「抄物に於ける「」「」注記について」,「『湯山聯句抄』に於けるノ・ガの用法について」など論文5編を,第2部「洞門抄物のことば」では曹洞宗僧の手になる洞門抄物の資料・用語,語法,敬語法などについての論文13編を,第3部「語の諸相」では「ヒキイからヒクイへ」など論文4編を収める。
(2001年11月30日発行 清文堂出版刊 A5判縦組み 496ページ 14,000円)
国立国語研究所編『全国方言談話データベース 日本のふるさとことば集成〈第11巻〉京都・滋賀』
1977〜1985年に文化庁により方言談話収録事業が行われた。本集成はそこで集められた各地の談話の一部をデータベース化したものである。CD・冊子・CD-ROMが1組になって1巻を構成する。CDには選定された談話全体の音声が収録されている。冊子には談話の一部が文字化され,それに共通語訳が付けられている。以上の主要な部分を電子化した物としてCD-ROMが用意されている。CD-ROMには,冊子に収載した内容(文字化部分と共通語訳部分)がテキスト形式で収められ,さらに,冊子ページのpdfファイルと,それとリンクした方言音声waveファイルが収められている。このシリーズは全20巻(各巻に2または3の都道府県を収める)の刊行が予定されており,本巻に続き,第12巻『奈良・和歌山』(2001/11),第13巻『大阪・兵庫』(2002/1),第4巻『茨城・栃木』(2002/3),第5巻『埼玉・千葉』(2002/6)のように刊行されている。
- 全20巻の構成(〈 〉内は予定されている刊行順)
- 第1巻『北海道・青森』〈15〉
- 第2巻『岩手・秋田』〈16〉
- 第3巻『宮城・山形・福島』〈17〉
- 第4巻『茨城・栃木』〈4〉
- 第5巻『埼玉・千葉』〈5〉
- 第6巻『東京・神奈川』〈6〉
- 第7巻『群馬・新潟』〈7〉
- 第8巻『長野・山梨・静岡』〈12〉
- 第9巻『岐阜・愛知・三重』〈13〉
- 第10巻『富山・石川・福井』〈14〉
- 第11巻『京都・滋賀』〈1〉
- 第12巻『奈良・和歌山』〈2〉
- 第13巻『大阪・兵庫』〈3〉
- 第14巻『鳥取・島根・岡山』〈8〉
- 第15巻『広島・山口』〈9〉
- 第16巻『香川・徳島』〈10〉
- 第17巻『愛媛・高知』〈11〉
- 第18巻『福岡・佐賀・大分』〈18〉
- 第19巻『長崎・熊本・宮崎』〈19〉
- 第20巻『鹿児島・沖縄』〈20〉
(2001年11月30日発行 国書刊行会刊 A5判横組み 232ページ 6,800円)
中村ちどり著『日本語の時間表現』
日本語のテンス・アスペクトや時間を表す副詞句について論じたものである。第1部では,語彙的な時間情報の素性と,それに関わる情報や規則がどのように関係して時間の解釈が決定されるかを扱う。第2部では,時点を表す副詞句における助詞の選択の問題を扱う。たとえば,第5章では,いわゆる南の四段階階層論を一部変更し,それを使って助詞の選択の要因を説明する。第6章では,時の限界点を表す「ニハ」の解釈について,ギャズダーの含意に関する理論をもとに説明する。結論として,著者が第7章で示しているのは「日本語の副詞句,従属節,述語における時間情報の解釈を構成的に行うためには,少なくとも,(1)語彙的テンス,アスペクト情報,(2)統語,文脈情報の階層,(3)単一eventuality,反復eventuality,テンスの各レベルを含んだ意味解釈上の階層,(4)含意の解釈機構という四つのものが必要である」(p.194より)ということである。なお,本書は2001年3月に東北大学に提出された学位論文を加筆修正したものである。
(2001年12月1日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 206ページ 3,800円)
高見健一著『日英語の機能的構文分析』
〈情報構造〉,〈照応と視点〉に関わる著者の論文を大幅な修正を加えたうえで1冊にまとめたものである。序章「「機能的構文論」について」では機能主義の位置付け・考え方・方法論・使用される概念について述べる。全体は2部に分かれている。第1部「主述関係と情報構造」には,第1章「受動化と数量詞遊離」,第2章「先行詞内削除と焦点」,第3章「日英語の後置文と情報構造」,第4章「日本語の数量詞遊離」,第5章「日英語のtough構文と特徴づけ」,第6章「「象は鼻が長い」と特徴づけ」などを収め,焦点,機能論的制約,特徴付けなどの概念で現象を説明する。第2部「照応と視点」には,第7章「逆行束縛と視点」,第8章「日本語の代名詞照応について」,第9章「日英語の文照応と否定」,第10章「日英語の文照応と副詞類」,第11章「談話における視点と文関係」を収め,共感度などの概念で事象を説明していく。
(2001年12月4日発行 鳳書房刊 A5判横組み 331ページ 4,800円)
甲田直美著『談話・テクストの展開のメカニズム ―接続表現と談話標識の認知的考察―』
「接続表現や談話標識」を手掛かりに,「談話・テクスト」の「結束性・展開」について考えたものである。言語構造と人間の認知面の両方から考察している点に特徴がある。第1章「談話・テクストと文脈の理解」では言語理解に関する様々な立場を紹介する。第2章「慣習化された関係,間接的示唆による関係」では,接続表現の考察,主観化,話者情報の付加,さらに,認知的概念を使った通事的変化に関する解釈,などの内容を扱う。第3章「経験的基盤と文脈の理解 ―文連鎖における認知プロセス」では,接続詞の文章における役割について認知的観点から述べ,関連性理論の問題点について述べる。第4章「文脈構成における関連表示句の機能」では,基本的認知(対称性,時間など)の,接続詞への反映を扱う。そして,対話,話題の移行,メタ言語操作について述べる。第5章「「語り」と再現性 ―接続詞と物語叙法」では,文学作品における接続詞を主に扱う。第6章「終章」では,談話・テクスト理解の様々な立場の背景について述べ,次に各章の相関について述べる。なお本書は2000年3月に,京都大学に提出された学位論文を,加筆修正したものである。また,この論文に関連する論文や発表は巻末で示してある。
(2001年12月15日発行 風間書房刊 A5判横組み 295ページ 8,200円)
森岡健二著『要説日本文法体系論』
本書はタイトルに「要説」とあるけれど,旧著『日本文法体系論』(明治書院・1994)のたんなる要約ではない。旧著は長年にわたる講義で述べた内容をまとめたものであり,自説のほか,主要学説の紹介や従来の文法論の問題点の指摘などにも多くのページを割いていた。これとは違い,本書では,最新の自説を簡明直截に述べることを旨とし,従来の文法論の検討は必要最小限にとどめてある。したがって森岡文法論がより明確に伝わるようになっている。今後は,森岡文法論の全体像を見るには本書を,その主張がどのような検討を経て生まれたものかを探る際には旧著を読むというような位置づけがなされるであろう。章立ては,総論に続き,第1部「形態素論」(たとえば,その下位には第1章「和語系単一語基」,第2章「漢語系・外来語系・和語系複合語基 ―附・日本語語基一覧―」,第3章「派生辞」,第4章「屈折辞」,第5章「形式語」がある),第2部「語論」,第3部「統語論」のように3つに分かれている。
(2001年12月15日発行 明治書院刊 A5判縦組み 456ページ 12,000円)
吉野正敏著『気候地名集成』
気候地名とは,ある土地における大気の状態が,その地名に取り入れられたものを指す(つまり,「日,霧,風,雨などが入った地名,たとえば「日向」が気候地名とされる)。本書は,気候地名の研究史,日本の気候地名の概説,地域別の特徴(気候地名が多いか否か,どのような気候名が多いかなど)について論じたものである。さらにアジア,ヨーロッパの気候地名についても触れ,比較をして,日本の気候地名の特徴について考察している。前著『気候地名をさぐる』(学生社・1997年)を加筆・訂正し,「地名索引」「文献」を付けたものである。章立ては以下の通りである。第1章「序説:気候地名の研究」,第2章「気候地名研究の発展」,第3章「日本の気候地名」,第4章「気候地名の地域誌」,第5章「アジアの気候地名」,第6章「ヨーロッパの気候地名」,第7章「まとめとこれからの課題」。
(2001年12月17日発行 古今書院刊 A5判横組み 284ページ 3,800円)
遠藤織枝編『女とことば 女は変わったか 日本語は変わったか』
本書は,壽岳章子氏が喜寿を迎えるにあたり,氏の著書『日本語と女』(岩波書店)の発行から20年を経た現在,女性と日本語との関わりがどのようであるのかを検証する目的で編まれた論文集である。
第1部の「『日本語と女』からの二〇年を検証する」では,『日本語と女』で提起された問題の各々について,その後の変化と現状を考えるものを集めている。第2部の「日本女性の言語環境はよくなったか」では,『日本語と女』では扱われなかった分野を取り上げる。女性をとりまくことばのありようが好転しているか,旧態依然としたものなのかを,マスコミ用語,マンガ,家族関係のことばなどの項目を立てて考えるものを集めている。
また,「「女性とことば」研究文献目録」と索引とを付す。
(2001年12月26日発行 明石書店刊 B6判縦組み 308ページ 2,800円)
城生佰太郎編『映像の言語学』
「日本語教育学シリーズ」の第6巻である。近年,教育における映像利用に関心が持たれるようになってきた。それは,映像利用が以前に比べて安価・簡便にできるようになったためである。本書では,映像の基礎論から具体的な使用までを扱い,この分野の現状,今後扱われる技術,この分野を考える際に問題となる課題・論点について述べる。
- 第1章 映像を考える(飛田良文)
- 【キーワード】映像文化 見ること 写真 テレビ ビデオ ノンバーバール・コミュニケーション
- *総論。日本語教育用ビデオ教材のリストを付す。
- 第2章 映像利用における様々な問題点と課題(保崎則雄)
- 【キーワード】言語教育 映像理解 視点運動分析 メディアリテラシー 字幕付き音声映像
- *映像に関わる効果・技法・認知・教育などの話題を取り扱う。
- 第3章 「連結」と映画CCデータベース(磐崎弘貞)
- 【キーワード】連結(コロケーション)クローズドキャプション コーパス カイ二乗検定
- *言語情報をコーパスから得る手法を説明した後,映像の検索について述べる。ある種の字幕情報(クローズドキャプション)についても述べる。
- 第4章 映像と表現(高島秀之)
- 【キーワード】感性 ウチとソト 「包む」と「解く」 VR,CG デフ・サービス
- *映像と異文化理解(留学生教育プログラムの研究開発などを含む),デジタル化技術について,聴覚障害者と映像,などの話題を扱う。
- 第5章 映像と日本語教育(池田伸子)
- 【キーワード】客観的映像 映像の教育効果 有意味学習 映像の機能と役割 映像を組み込んだ教材
- *映像の教育効果,日本語教育における映像の利用,映像を利用した・漢字・内容理解・作文・アクセントなどの教材などについて述べる。
(2002年1月10日発行 おうふう刊 A5判横組み 195ページ 2,500円)
玉村文郎編『日本語学と言語学』
玉村文郎氏の古稀・退職を契機に編まれた論文集である。日本語学,日本語教育,言語学の様々な分野の論文を収載している。論文題名・筆者名は以下の通りである。
- 序(金田一春彦)
- はじめに(玉村文郎)
- 文字がきりひらく言語(石井久雄)
- 中国語の形容詞が日本語でサ変動詞になる要因(中川正之)
- 日本語助詞の体系(糸井通浩)
- 「〜のだ」=〈未共有情報の提示〉説について(佐治圭三)
- 辞と複合辞(田野村忠温)
- 多寡を表す述語の特性について ―肯定/否定関係との平行性を中心に―(服部匡)
- 日本語の文章改訂の実態 ―版の違う新聞記事を比較して―(野田尚史)
- 語彙が文構造に与える影響についての一考察 ―逆接の従属節を中心に―(市川保子)
- 語彙の意味と構文の意味 ―「冷やし中華はじめました」という表現を中心に―(影山太郎)
- 「文章における臨時一語化」の基本類型(石井正彦)
- 四字熟語の品詞性を問う(村木新次郎)
- 現代人にとっての理解不可能な語彙 ―『分類語彙表』収載語彙を母集団として―(真田信治)
- 集団語の造語法(米川明彦)
- 国語辞書における文法的連語について ―辞書と利用者に関する調査報告―(砂川有里子)
- 漆黒の瞳(前田富祺)
- 外来語辞典一覧作成の考え方(甲斐睦朗)
- 新聞の生活家庭面における外来語(佐竹秀雄)
- 語釈にはどんな音象徴語が使用されているか ―『例解新国語辞典(第四版)』を調査資料として―(大島中正)
- オ段長音の開合と読み癖 ―ミセケチの背後にあるもの―(遠藤邦基)
- 勧誘表現通史の試み(山口堯二)
- 物語文の表現と視点 ―今昔物語集の文章を通して―(藤井俊博)
- 「条件」(縁,因果)をめぐっての考察 ―語誌文法等において―(堀川善正)
- 持続時間を表す「〜するアヒダ」の主体について(吉野政治)
- 形容詞ヒキシ・オホキイ等とその周辺(蜂矢真郷)
- 時を表す語彙 ―漢語の日常語化の諸相について―(玉村禎郎)
- 天草版平家物語・エソポのハブラス「ことばの和らげ」の漢語の層別化(浅野敏彦)
- 昭南本願寺日本語塾発行『東亜字典』(昭和十八年六月刊)を巡って(椎名和男)
- 教授法における語彙の選択 ―表現語彙の可能性をさぐって―(下田美津子)
- ことばの教育とコンピュータの利用(壇辻正剛)
- 日本語教育の現勢と大学生短期日本語研修の課題 ―実践報告と現場からの提言―(松井嘉和)
- コメニウス教授学における「分析」と「総合」の意味について(松岡弘)
(以下は横書き) - 焦点連鎖とメンタルパスからみた言語現象(山梨正明)
- 想定から生じる機能 ―ドイツ語心態詞MPと日本語文末辞の関連―(神田靖子)
- 動詞の接辞化と言語類型論 ―中国語と日本語の副動詞を中心に―(沈力)
- 日本語の助詞「に」と朝鮮語の助詞「에게」をめぐって(生越直樹)
- 日本語音声の縮約とリズム形式(土岐哲)
- 「外国の地名表記の見直し」と「原音主義」(伊藤芳照)
- 「お〜する」の語用論的考察の一側面(窪田富男)
- 「リ」を含む現代音象徴語(平弥悠紀)
- 日本語教育におけるモダリティーの扱いについて ―形式と機能の間―(鈴木睦)
- あとがき
- 執筆者一覧
(2002年1月10日発行 明治書院刊 A5判縦組み 487ページ 18,000円)
藤井茂利著『東アジア比較方言論 ―「甘藷」「馬鈴薯」の名称の流動―』
著者は,「東アジアの比較言語研究は,各語の祖語を考えるのではなく,他の東アジア語とどういう関係で結ばれているかを考えていく新しい学問であると,理解すべきである」(はしがき)と述べている。その具体的研究として行ったのが,芋の名称をめぐる論考である。韓国語の「カムジャ」は,語形は「甘藷」が元だと思われるが,一般的には「じゃがいも」を意味する。これはなぜか。派生する問題として,「さつまいも」を意味する韓国語は一般的には「コグマ」であるが,この語形はどこから生まれたのか。このような謎を解くべく,物そのものの伝播,言葉の伝播の両面に関して,実地探索,方言調査,音の対応の考察など,様々な視点から調べ,論じている。本書の焦点は韓国語における芋の名称であるが,伝播過程を考えるにあたって,中国音や日本語の方言名についても考察しており,それが東アジアの物や言葉の流通の実相を描き出している。
(2002年1月20日発行 近代文芸杜刊 B6判縦組み 161ページ 1,500円)
高見健一・久野暲著『日英語の自動詞構文 ―生成文法分析の批判と機能的解析―』
本書では,これまで注目を集めてきた日英語の構文を取り上げ,その構文に対する従来の生成文法系研究の説明を批判し,代案として機能的制約を提示している。そして,従来,〈非能格動詞〉と〈非対格動詞〉との区別によって的確に捉えられるとされてきた諸構文(あるいは諸構文における制約)が誤りであると結論づけている。
序章で自動詞の2分類について述べ,第1〜3章では〈There構文〉,〈Way構文〉,〈同族目的語構文〉を扱う。第4章では〈擬似受身文〉の関係文法での扱いについて述べ,機能的な説明を提示する。第5〜6章では日本語の〈被害受身文〉,〈「〜にVしてもらう」/「〜がVしてくれる」構文〉を扱う。第7章では日英語の〈結果構文〉を論ずる。第8章では英語の〈主語外置構文〉と,日本語の〈数量詞遊離構文〉とを扱う。
なお,第1,2章は『英語青年』1999年の1〜3,6〜8月号に発表されたものを大幅に修正したものである。また,第5章は『(月刊)言語』2000年の8〜10月号に発表されたものを大幅に修正したものである。
(2002年1月25日発行 研究杜刊 A5判横組み 461ページ 7,500円)
町田健編・籾山洋介著『認知意味論のしくみ』
本書は認知意味論の基本的な考え方とその射程を予備知識なしで理解できるように説明したものである。説明は,各章に設定された質問に答える形で記述されている。たとえば,〈認知能力とは何か〉,〈それを意味の基盤と考えるとそこから何が見えてくるのか〉,〈このような研究によって「意味」のどのような側面に光が当てられるようになるのか〉などの問題である。従来の辞書記述と結びついた「意味」の扱いとは異なる点が新鮮である。
章立ては以下のようになっている。第1章「認知言語学の基本的な考え方」,第2章「認知意味論における「意味」の考え方」,第3章「語の意味 ―意味の拡張」,第4章「句の意味」,第5章「類義表現の意味」。巻末には「さらに勉強したい人のための参考文献」がある。書名・著者名・出版社名だけではなく,簡単な解説も付いている。なお,本書は「シリ−ズ・日本語のしくみを探る」の第5巻として出版された。
(2002年2月1日発行 研究社刊 A5判縦組み 189ページ 2,000円)