日本語学会

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《誌上フォーラム:「国語学」と「日本語学」》

(『国語学』52巻3号(206号) 2001・9・29 p.83)

「国語学」から「日本語学」へ

小林 賢次

 本誌第52巻2号から,誌上フォーラムがスタートし,早速意見が寄せられている。ことは学会の名称にとどまらず,我々がその対象とする研究をなんと呼ぶのかという問題にかかわってくる。筆者自身は,「国語学」「国語史」の名称で育ってきたものであり,その名前には愛着も感じるのではあるが,最近では,「日本語学」あるいは「日本語史」の名前を用いることが多くなってきている。日本語研究に携わる留学生を指導していたりすると,もはや「国語学」は不適切なのである。歴史的な研究をも,また,現代語研究をも対象とし,日本人による国語研究も,外国人による日本語研究も,すべてを包含する名称として,「日本語学」の名を用いたいと思う。
 ところが,現在,従来の「国語学」(国語史・国文法等)に対して,「日本語学」を独立した学問とみなす立場もかなり広まっているようである。その目指すところは,もっぱら現代日本語の研究である。その立場からすれば,学会としても,「国語学会」から独立したものとして,“日本語学会”を構想することもありうるであろう。
 「国語学」と「日本語学」とが,別の学問であるかのように使い出されているという実情が現実にあり,そのため,従来の「国語学」に慣れ親しんだ立場からは,「日本語学」という名称には抵抗を感ずるということがあるかと思われる。しかし,それでよいであろうか。そうではなく,日本語に関するさまざまな研究分野,さまざまな研究方法,すべてを含んだ日本語研究として「日本語学」を位置づけ(個人の専門分野として「国語学」の名称を用いること自体は当然自由である),学会の名称も,「国語学会」から「日本語学会」に改名するのがよいのではなかろうか。今後,もしも「国語学会」とかかわりなく,新たに,たとえば日本語教育との連動などをうたう“日本語学会”が結成されるような事態が生じるならば,「国語学会」は,改名の機会を失い,「国語学」と「日本語学」とは,まったく異なる学問という意識が定着することになるであろう。
 以上,「国語学」「国語史」の立場で研究を行なってきたものとしての意見を述べた。なお,学会名が変更されるとすれば,機関誌の誌名にも議論が及ぶのは当然であろう。本誌200集の特集に,次のような記述があった。「一例をあげれば,『日本語研究』がいいとおもう。すでにローカルな雑誌,機関誌名として,つかわれている可能性があるが……」(鈴木重幸「日本語研究のために――学会・機関誌の名称をめぐって――」)。『日本語研究』は,実際に存在する(東京都立大学国語学研究室『日本語研究』。年刊。2001年4月に第21号刊行)。今後の議論の参考に一言しておきたい。

――東京都立大学教授――
(2001年7月27日 受理)

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