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新刊紹介 (53巻2号(209号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど、雑誌『国語学』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- カレル・フィアラ著『日本語の情報構造と統語構造』
- 坂原茂編『認知言語学の発展』
- 山口光著『還元文法構文論―再検討・三上文法―』
- 山梨正明・辻幸夫・西村義樹・坪井栄治郎編『認知言語学論考―No.1 2001―』
- 金田章宏著『八丈方言動詞の基礎研究』
- 山田潔著『玉塵抄の語法』
- 桑田明著『古典に近づく文法』
- 碁石雅利著『平安語法論考』
- 小野米一著『移住と言語変容―北海道方言の形成と変容―』
- 佐佐木隆著『万葉集構文論』
- 水谷修監修 日本語イディオム用例辞典編纂委員会編『日本語イディオム用例辞典』
- 小泉保編『入門 語用論研究―理論と応用―』
- ダニエル=ロング・中井精一・宮治弘明編『応用社会言語学を学ぶ人のために』
- 小林千草著『中世文献の表現論的研究』
- 日本語研究会編『日本語史研究の課題』
- 飛田良文編『日本語行動論』
- 小松英雄著『日本語の歴史―青信号はなぜアオなのか―』
- 田中克彦著『差別語からはいる言語学入門』
カレル・フィアラ著『日本語の情報構造と統語構造』
日本語の文および談話の構造をチェコ語との比較を交えながら総合的に捉えようとするものである。全体は大きく4つの部に分かれる。
- 第1部「情報構造」
*「「情報価値」と主題・焦点分節」「談話展開の仕組み(スキャンニングと線条化)」「アナロジーから見た言語素材のスキャンニング」「情報構造の表し方の対照」を収める。プラーグ学派の伝統を背景にした視点からの考察が見られる。 - 第2部「統語構造」
*「文」「モダリティ」の2つの章を収める。陳述論を意識しつつ統語構造のプロトタイプの重層性などについて論じる。 - 第3部「文を越えて」
*「テクスト単位」「連文レベルの類型論と談話展開の方式」「テクスト単位の順序」「古典のテクスト分析」を収める。文より大きい単位における機能の引き継ぎと単位の配列について述べる。また,平家物語のパラフレーズ調査などを行う。 - 第4部「通時的変遷―古代の係助詞と連体助詞―」
*「情報価値の表示」「統語構造のレベル」「係り助詞・連体助詞の体系の再考」「階層構造の曖昧さと不規則性」「古語の主節構文の崩壊」を収める。係り助詞は情報価値を表す助詞であるとし,これを手がかりに情報構造の通時的変化を分析する。
(2000年7月15日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 492ページ 28,000円)
坂原茂編『認知言語学の発展』
『認知科学』3-3(1996)の認知言語学特集をきっかけに生まれた論文集である。レイコフ,ラネカー,フォコニエ,タルミーなどこの立場を形成した研究者たちの基本的文献を初めとする合計10編の論文が収録されている。「まえがき」(坂原茂)にはこの分野の歴史的背景と収録論文の概要とが書かれている。題名・執筆者・内容は以下のようになっている。
- 「不変性仮説―抽象推論はイメージ・スキーマに基づくか?」(George Lakoff 杉本孝司訳)
*人間の概念体系と言語体系に関わる規則性を特徴づける一般的な原理として不変性仮説を提唱している。 - 「動的使用依拠モデル」(Ronald W.Langacker 坪井栄治郎訳)
*表題のモデルの基本的な考え方を示したものである。 - 「対照研究への認知言語学的アプローチ」(西村義樹)
*ラネカーの認知文法に基づいた分析により知覚構文と使役構文に関する日英両語の特徴を扱ったもの。 - 「日常言語における創造性」(Gilles Fauconnier)
*代名詞・反事実的条件文などを扱い,意味が創造的な認知操作によるものであることを示す。 - 「図の変化と地の変化―変化述語,メンタル・スペース,尺度の基準に関する一考察」(Eve Sweetser 小原京子訳)
*変化述語を分析し,図と地の反転現象などを指摘する。 - 「英語と日本語の名詞句限定表現の対応関係」(坂原茂)
*英語定冠詞句と日本語の裸名詞の類似性を談話処理モデルから説明する。 - 「複数の心的領域による談話管理」(田窪行則・金水敏)
*話し手が想定する聞き手の知識という概念による説明は不適切であり,直接・間接知識領域の区分への言及が適切であることを固有名詞・指示詞・終助詞を例にして述べる。 - 「言語的知識としての構文―複文の類型論に向けて」(大堀寿夫)
*複文,特に接続節を扱い,節の統合性ついて述べる。 - 「日本語における身体部位詞から物体部分詞への比喩的拡張―その性質と制約」(松本曜)
*「口」などの身体部位語が「瓶の口」などに拡張される現象を扱い,その拡張のパターンや意味的性質について検討する。 - 「イベント統合の類型論」(Leonard Talmy 高尾享幸訳)
*2つの事件を統合して1つと見なすマクロ・イベントという再概念化の存在を提唱し,その概念領域にどのようなものがあるかを論ずる。また,マクロ・イベントの現れ方により,言語をふたつのタイプに分ける。
(2000年8月10日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 465ページ 4,400円)
山口光著『還元文法構文論―再検討・三上文法―』
三上文法を検討し,それを批判・継承・発展させた著者の考えを,一定の手続きに従って文法書としてまとめたものである。章立て・内容は以下のようになっている。
- 第1章「基本概念(定義と説明)」
*対象を要素に分解し有限数の類に還元するという手続きについて述べ,「単位,構造,機能」をはじめとする基本的な概念について説明する。 - 第2章「言語単位」
*「言語記号,言語表現,話線,発話,発話文,文,単語,形態素」などについて述べる。 - 第3章「品詞論」
*「名詞,助詞,指示詞」など各品詞について記す。 - 第4章「構文論」
*構文論の位置付け,三上の「基本文型論」と三尾の「国語法文章論」などに触れたのち,構文論について論ずる。
なお,「付1」として「MBK(三上文法研究会)年譜」,「付2」として「山口光発表論文」(過去に発表した三上章の文法論についての論が中心である。)を収録している。
(2001年7月15日発行 めいけい出版発行・くろしお出版刊 B6判横組み 340ページ 3,000円)
山梨正明・辻幸夫・西村義樹・坪井栄治郎編『認知言語学論考―No.1 2001―』
認知言語学に関する論文集である。収録論文は、以下の通り。
- 「ことばの科学の認知言語学的シナリオ」(山梨正明)
*認知言語学の基本的な考え方を示し今後の展望を行う。 - 「多義語の複数の意味を統括するモデルと比喩」(籾山洋介)
*多義に関するラネカーと国広のモデルが性質の違うものであることを指摘し,その統合を試みる。 - 「二重目的語構文の認知構造―構文内ネットワークと構文間ネットワークの症例―」(中村芳久)
*英語の二重目的語構文を軸に,様々なレベルのネットワークに注意しつつ,構文間の連続性を示す。 - 「英語の間接照応―認知文法の観点から―」(高橋英光)
*「推論」を扱うには語用論だけでなく,統語論・音韻論を参照するなど包括的な考察が必要であり,その意味で認知言語学は有効であるとする。 - 「文構築の相互行為性と文法化―接続表現から終助詞への転化をめぐって―」(本多啓)
*終助詞的な「から」を扱う。認知言語学の弱点(認識が社会的に構成される側面があることや,言語行為が人と人の相互行為によって作られる側面があることに比較的冷淡である点)を克服しようとする試み。 - 「膠着語における文法化の特徴に関する認知言語学的考察―日本語と韓国語を対象に―」(堀江薫)
*日韓両語を対照言語学(Hawkinsの比較類型論)の方法で扱い,膠着語における文法化の特徴をまとめる。 - 「参照点構文としての主要部内在型関係節構文」(野村益寛)
*「[りんごが皿の上にあった]のを取って食べた。」型の構文を認知言語学の立場から論ずる。 - 「人工物主語―クオリア知識と中間表現―」(吉村公宏)
*英語の中間表現の意味的適格性の問題を扱う。名詞が指し示す物に関する慣習的知識の重要性をめぐる考察。
(2001年9月5日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 319ページ 3,800円)
金田章宏著『八丈方言動詞の基礎研究』
八丈方言の体系的記述をする一過程として,動詞の文法的な側面について詳述したものである。方言を扱った研究という観点のほか,活用・アスペクト・テンス・ムードなどのカテゴリーが方言でどのようになっているかという文法的観点から本書を見ることもできる。(文法の基本的な枠組みに関しては高橋太郎ほか『日本語の文法』《未公刊の文法教科書》に依ったとのことである。)なお,巻末に目次細目があり,扱われている内容を一覧できる。
- 序章「八丈方言概説」
*音韻論・形態論・構文論などについて述べる。 - 本論「動詞の形態論」
- 第1章「諸形式の成立過程」
*主要な語形・派生形式の成立過程について述べる。 - 第2章「活用のタイプ」
- 第3章「動詞の活用」
- 第4章「基本的なムード・テンス・アスペクト」
- 第5章「特殊なムード・テンス・アスペクト語形」
- 第6章「ボイス」
- 第7章「そのほかの語形の意味と用法」
*中止形,副動詞,条件形と譲歩形,連体=名詞形,接続形などについて。 - 第8章「待遇表現とやりもらい」
- 第9章「文法的な(広義)派生形式のいろいろ」
*局面動詞・もくろみ動詞など。
- 第1章「諸形式の成立過程」
- 資料編
- 1「そのほかの動詞の活用表」
- 2「単語の例」
- 3「テキスト」
*談話・民話を収める。
(2001年9月9日発行 笠間書院刊 A5判横組み 545ページ 15,000円)
山田潔著『玉塵抄の語法』
室町末期の口語資料『玉塵抄』の用例を資料としてその語法の分析を行った論文をまとめたものである。
- 第1章「用言類の考察」
*「読ムル」「サ変動詞未然形の用法」「形容動詞の連用形」「デアルとニアル」についての論である。 - 第2章「副詞類の考察」
*「一向(に)」「スグレテ・ツヲウ・イカウ」などが扱われている。 - 第3章「助動詞類の考察」
*「うず」「らう」などについて『天草本平家物語』等のキリシタン資料,『史記桃源抄』などの抄物等と比べながら考察している。 - 第4章「助詞類の考察」
*「の・が」による主格表現,確定および仮定順接表現について述べる。 - 第5章「待遇表現の考察」
*「シム・サシム」「「まらする」の丁寧語化」「「サウラウ」による丁寧表現」を扱う。
(2001年9月10日発行 清文堂出版刊 A5判縦組み 401ページ 11,500円)
桑田明著『古典に近づく文法』
古典を正しく読むための文法を解明するという立場から,従来気付かれていなかったことがら,あるいは十分に論議されてこなかったり,誤った説が引き継がれていると思われる点について述べたものである。前著『日本文法探究』『義趣討究小倉百人一首釈賞―文学文法探究の証跡として―』で扱ってきた問題に対する新しい考察が示される。全体は前編と後編に分かれる。章立ては以下のようになっている。
- 前編「古文を読む基礎としての文法私見」
- 第1章「成存立につながる意味の助動詞―「つ・ぬ」「たり・り」「ず・ざり」「き・けり」の意味」
- 第2章「係りの「は」「も」の意味・機能」
- 第3章「「だに」「すら」「さえ」の意味・機能」
- 第4章「語源と語義・語法の相即三題」
- 第5章「敬虔語」
*補助動詞「侍り」の意味を丁寧ではなく敬虔という概念で捉えようとする。 - 第6章「いろは歌結句の訓釈とあそひ歌の解釈」
- 後編「古典文学文法の考察」
- 序
- 第1章「「すがた」の意味」
*歌論の用語「すがた」について述べる。 - 第2章「文学文法の渕源」
- 第3章「文学文法の諸手法」
- 第4章「慣用語句」
(2001年9月15日発行 風間書房刊 A5判縦組み 431ページ 9,500円)
碁石雅利著『平安語法論考』
平安時代を中心とした語法および表現形式に関する論考をまとめたものである。
- 第1章「構文形式と意味」
*本居春庭の図解に見られる宣長の影響や図解法がもたらした「体言止め」の類型化について述べた「かかりうけから文の類型化へ―春庭の構文研究―」のほか,「和歌におけるかかりうけの交錯例」「かかりうけ交錯の構文」「「こそあれ」と「ばこそあれ」の構文」「説明辞「也」非表出の構文」の各節を収める。 - 第2章「語法と意味」
*西源院本『太平記』に見られる「ケンナル」と「けるなり」の関係などについて述べる「伝聞表現「ケンナル」」のほか,「打消表現の意味転換―「きたなげなし」「きたなげならず」」「客体尊敬語「まかでさす」」「主体尊敬語「まゐらす」」の各節を収める。 - 第3章「和歌の表現形式と意味」
*「已然形+や」に関する旧稿の強すぎた一貫性を弱めて妥当な線を探ろうとする「「已然形+や」型表現形式」のほか,「序詞の概念喚起とその構造―『万葉集』を例として―」「なづの木の さやさや」「和歌第3句に置く枕詞と体言―『古今集』を例として―」「短歌の音数律」の各節を収める。
なお,関連既発表論文は巻末に記されている。
(2001年9月20日発行 おうふう刊 A5判横組み 255ページ 12,000円)
小野米一著『移住と言語変容―北海道方言の形成と変容―』
北海道方言を対象として移住と言語変容に関する研究をしてきた長年の成果をまとめたものである。章立ては以下のようになっている。
- 序章「移住と言語変容」
*目的と方法を述べる。さらに「変容」とは何かについて述べる。 - 第1章「北海道方言前史―『松前方言考』についての考察―」
*1848年頃に書かれた方言書の著者・成立・諸写本・収録語彙などについて述べる。 - 第2章「北海道におけることばの伝播」
*東北方言に由来する北海道海岸部方言語彙を取り上げ,その伝播について考える。 - 第3章「北海道1世の生活語―富山県からの移住者について―」
*開拓移住者1世の言語を取り上げ,どの程度元の方言を使っているかを調べる。 - 第4章「北海道方言の形成と変容―富山県礪波地方からの移住入植地―」
*富山県礪波地方からの団体入植者のことばが,そのあとの世代にどのように受け継がれているかを調査している。 - 第5章「団体入植地における言語変容―福島県相馬地方からの移住入植地―」
*福島県相馬地方からの団体入植者のことばが,そのあとの世代にどのように受け継がれているかを調査している。 - 第6章「屯田入植地における言語変容」
*旭川市東旭川町・旭川市永山町・深川市納内町・上川郡当麻町などの屯田入植地の調査。 - 第7章「北海道方言の現在」
*札幌における自然会話や北海道方言の均質化について述べる。 - 結章「移住と言語変容研究の射程」
*移住と言語変容についてのモデルなどを扱う。 - 付論「国内外における移住と言語変容」
*日本語話者の国内外への移住,諸外国における移住と言語変容について。
(2001年9月20日発行 渓水社刊 A5判横組み 277ページ 4,500円)
佐佐木隆著『万葉集構文論』
語構成や訓読が不明な箇所について構文・表記の面から検討したものであり,同種の試みとして先に出版された『上代語の構文と表記』(ひつじ書房1996),『万葉集と上代語』(ひつじ書房1999),『上代語の表現と構文』(笠間書房2000)に続く著作である。章立ては以下の通りである。(なお,ここでは参考のため,章の後に万葉集における巻-歌番号を記載した。)
- 第1部 表現と構文
- 第1章「打橋渡すながくと念へば」4-528
- 第2章「片垸の底にそ吾は恋成りにける」4-707
- 第3章「おもやは見えむ秋の風吹く」8-1535
- 第4章「さ寝がには誰とも寝めど…」11-2782
- 第5章「木立繁しも幾代神びそ」17-4026
- 第6章「沖つ白波たちしくらしも」15-3654
- 付章「来むと云ふも来ぬ時あるを…」4-527
- 第2部 表現と文字
- 第1章〈如此所待者有不得勝〉4-484
- 第2章〈神左夫跡不欲者不有…〉4-762
- 第3章〈并人見等此乎誰知〉7-1115
- 第4章〈為君御跡思鶴鴨〉10-1966
- 第5章〈将相等念夜袖易受将有10-2020
- 第6章〈印結有不得吾眷〉11-2481
- 第7章〈敷細布枕人言問哉…〉11-2516
- 第8章〈鼻之々々火眉可由見…〉11-2809
- 付章 返読字と助字の用法
- 第3部 長歌の表現
- 第1章「河嶋皇子挽歌」2-194
- 第2章「明日香皇女挽歌」2-196
- 第3章「高市皇子挽歌」2-199
- 第4章「神を祭る歌」3-379,3-380
- 第5章「覊旅歌」3-388
- 第6章「惑へる情を反さしむる歌」5-800
(2001年10月1日発行 勉誠出版刊 A5判縦組み 329ページ 9,000円)
水谷修監修 日本語イディオム用例辞典編纂委員会編『日本語イディオム用例辞典』
日本語教育などの実用面に配慮したイディオムの用例辞典である。ここでは「イディオム」を広くとり,「〜からいうと」などの複合辞,「〜にあかるい」などのように転義して複合辞になったもの,「のみこむ」の「〜こむ」など生産性の高い形式,品詞変更し転義した「および」などの語,「ああいう」などのこそあど表現,「まだ〜ない」などの呼応表現の一部,形式名詞を使った「わけにはいかない」などの表現,等々をまとめて扱っている。ただし,慣用句は扱っていない。取り上げられた形式はその中心的と思われる見出しのものにまとめられる。(「する」の見出しの下に「〜が〜だとすれば」「〜からすると」「〜はするが」(以下略)の項が配列されている。)それぞれについて,「使い方・作り方・類似・注意・例文」(すべての形式にこれらの5つ項がそろっているとは限らない)を挙げている。以下に一例を挙げる。なお,実際には振り仮名が付いているが,ここでは省いた。
- 〜しぶる[〜shiburu]
- 使い方 あまりそれをしたくないとき使う
- 作り方 〈ます形語幹〉+しぶる。次のような動詞。貸します・出します・言います・書きます
- 注意 名詞形は「〜しぶり」となる。
- 例文 姉はいつも私の服を借りるのに,私が姉の服を借りようとするといつも貸ししぶる。(例文は複数あるが,以下省略)
(2001年10月1日発行 朝日出版社刊 B6判横組み 461ページ 2,800円)
小泉保編『入門 語用論研究―理論と応用―』
大学1・2年,高校の英語教師,日本語教師を念頭におき,教科書として役立つよう編集したという語用論の入門書である。基礎的な内容に加えて最近の動向も取り入れ,さらにジョークやレトリックについて触れた章や他分野との関連について触れた章を収録している。章立ては以下の通りである。
- 第1章「序説」(小泉保)
- 第2章「直示」(小泉保)
- 第3章「推意」(沢田治美)
- 第4章「前提」(児玉徳美)
- 第5章「言語行為」(久保進)
- 第6章「談話分析」(高原脩)
- 第7章「丁寧さ」(井上逸兵)
- 第8章「語用論の応用」(小泉保)
- 第9章「語用論と他の分野」
- 第1節「小説」(大沼雅彦)
- 第2節「認知語用論」(山梨正明)
- 第3節「語用論的能力の発達」(伊藤克敏)
- 第4節「語法研究」(田中広明)
(2001年10月15日発行 研究社刊 A5判横組み 243ページ 2,700円)
ダニエル=ロング・中井精一・宮治弘明編『応用社会言語学を学ぶ人のために』
社会言語学的知識の応用,特に語学教育への応用を意識し,各執筆者がそれぞれのテーマについて基本的な事柄を述べたもので,領域の広さと多面性が感じられる。序章「応用社会言語学ことはじめ」(ダニエル=ロング)では,応用とは何か,どのような応用分野が考えられるかなどについて述べる。全体は5部に分かれる。章立ては以下の通りである。
- 序章「応用社会言語学ことはじめ」(ダニエル=ロング)
- 第1部「ことばの運用」
- 第1章「規範意識とゆれ」(花井裕)
- 第2章「ことばとイメージ」(日高水穂)
- 第3章「コード選択と言語使用」(村上敬一)
- 第4章「言語運用からみた敬語」(沖裕子)
- 第5章「インターアクションとことば」(金沢裕之)
- 第2部「ことばの属性」
- 第1章「社会集団とことば」(姜錫祐〈カンソクウ〉)
- 第2章「世代とことば」(吉田雅子)
- 第3章「ジェンダーとことば」(二階堂整)
- 第4章「言語接触」(大原始子)
- 第5章「移民とことば」(エレン=ナカミズ)
- 第3部「ことばの変異」
- 第1章「音声的変異」(余健)
- 第2章「文法的変異」(松田謙次郎)
- 第3章「語用論的変異」(西尾純二)
- 第4部「ことばの変化」
- 第1章「日本語の共通語化」(井上文子)
- 第2章「地域方言」(岸江信介)
- 第3章「都市方言」(中井精一)
- 第5部「ことばの習得・普及」
- 第1章「第一言語の習得」(真田信治)
- 第2章「第二言語の習得」(浜田麻里)
- 第3章「中間言語」(渋谷勝己)
- 第4章「日本語普及政策―戦前・海外―」(任栄哲〈イムヨンチョル〉)
- 第5章「日本語普及政策―戦後―」(永田高志)
(2001年10月20日発行 世界思想社刊 B6判横組み 216ページ 1,600円)
小林千草著『中世文献の表現論的研究』
中世の文献が生み出されたときの現場性に注意し,表現者の意図だけではなく,コミュニケーションの結果として得られる表現性などを総合的に分析していこうとするものである。扱われる対象は,聞書抄物,講義を想定して書かれた抄物,狂言,キリシタン資料,文学作品など様々であるが,単なる調査に終わる研究ではなく,人や文化に迫ろうとする姿勢が示される。章立ては以下の通りである。
- 序章「本研究の目的と視点」
- 第1章「『古活字版日本書紀抄』の自問自答表現―講義という表現空間―」
- 第2章「「アヽ」「アウ」型自問自答表現の分布をめぐって―吉田兼倶系日本書紀抄の場合―」
- 第3章「「アヽ」「アウ」型自問自答表現の分布をめぐって―清原宣賢系『毛詩抄』『蒙求抄』『論語抄』などの場合―」
- 第4章「『古活字版日本書紀抄』の敬語表現―素材への表現・聴講者への表現―」
- 第5章「別視点から見た『中華若木詩抄』―表現者如月寿印の意図―」
- 第6章「『中華若木詩抄』の表現構造―「竹」の詩をめぐって―」
- 第7章「『中華若木詩抄』と評語「アリアリト」―表現を測定する―」
- 第8章「「テノ用ハ」の表現領域―抄物から狂言まで―」
- 第9章「「不審」という語の表現環境―狂言に反映された日常会話(1)―」
- 第10章「「不審」という語の表現環境―狂言に反映された日常会話(2)―」
- 第11章「「不審」という語の表現環境―『エソポ物語』・御伽草子などの場合―」
- 第12章「『日葡辞書』の婦人語から―性差による表現の実態―」
- 第13章「みもなき事・いとふ・心のやみ・くはんねんする―『こんてむつすむん地』の用語と表現―」
- 第14章「天の甘味・甘露・値遇・ひとしく―『こんてむつすむん地』の用語と表現―」
- 第15章「へりくだり・ちりんだあで・ただしき人―『こんてむつすむん地』の用語と表現―」
- 終章「まとめ」
(2001年10月20日発行 武蔵野書院刊 A5判縦組み 689ページ 18,000円)
日本語研究会編『日本語史研究の課題』
日本語研究会(年2回)は,北原保雄・前田富祺・山口佳紀の各氏が中心となって1970年代の半ばに始めた会である。本書はこの会が50回を迎えたことを記念して出版された論文集である。収録された論文は以下の通りである。
- 「古代の音韻現象―字余りと母音脱落を中心に―」(毛利正守)
*音韻変化,特に「字余り」と「母音の脱落現象」について「和歌」と「散文」という異なる領域におけるあり方とその関連について述べる。 - 「母音連続の融合と非融合―今後の課題―」(柳田征司)
*母音連続の融合と非融合に関する先行研究を展望する。執筆者が最近出した仮説を挙げて,この問題の広がりと今後の展開について論ずる。 - 「上代漢字文研究―「言」をめぐって―」(白藤禮幸)
*続日本紀,日本書紀,古事記,万葉集などにおける「言」の用法を見ていく。 - 「明治期落語速記の表記」(野村雅昭)
*演芸速記雑誌『百花園』の表記(速記者の表記方法および表記態度)について調査し,どのような特徴があるのか,言語資料として意味があるのか否か,などについて述べる。 - 「語形変化に関する一問題―アラタシ(新)からアタラシ(新)へ―」(山口佳紀)
*「アタラシ(新)」の成立について,従来の説にあるような音位転倒によるものでもなく,また,アタラシ(惜)から生まれたのでもなく,アタシ(他)との混交によるという説を提示する。 - 「『捷解新語』における「オシラル」の変容」(林義雄)
*『捷解新語』の原刊本より改修本のほうに古い語形が出てくる現象がある。その1つとして「オシラル」が改修本では「オオセラル」等に改められている現象を取り上げ,その事情を探る。 - 「読本に見られる和語語彙造出の方法―曲亭馬琴を中心にして―」(鈴木丹士郎)
*馬琴における和語表現造出の方法がどのようなものであったかを指摘する。(字音語を訓読みの語にする,など6種の方法が挙げられいる。) - 「格機能の弛緩」(北原保雄)
*格助詞や助動詞の歴史的な変化を関係構成機能の弛緩という観点で捉える。扱われる内容は,「が」における格助詞から接続助詞への拡大,使役「す・さす」の尊敬への分化,断定「なり」の変容などである。 - 「擬音語・擬態語の変化」(山口仲美)
*最近30年間における擬音語・擬態語の誕生・消滅の様相を見る。2000/12〜2001/1に出された新聞・雑誌から擬音語・擬態語を抽出して,1972年頃の資料をもとにして作成された天沼寧『擬音語・擬態語辞典』東京堂出版と比較する。 - 「対馬方言書『日暮芥草』について」(迫野虔徳)
*対馬方言書と朝鮮資料(『方言集釈』『倭語類解』『交隣須知』)の日本語の関係について述べる。 - 「“黒猫”の言語文化史」(前田富祺)
*「ねこ」が古代からの文献にどのように出てくるかを紹介。日本語に現れる「猫」のイメージ,過去の人々が猫(特に黒猫)をどのようなものとして描いてきたかを詳述。
なお,巻末に「日本語研究会の記録」が収録されている。
(2001年10月25日発行 武蔵野書院刊 A5判縦組み 271ページ 5,000円)
飛田良文編『日本語行動論』
日本語教育学シリーズの第2巻である。章立て・キーワード・内容は以下の通りである。
- 第1章「行動表現を考える」(宮永国子)
【キーワード】 出会い 観察 分析 解釈 人間理解
*人類学者の視点から行動が表現として解釈される事象を事例を交えながら描き出す。 - 第2章「行動表現の科学」(城生佰太郎・福盛貴弘)
【キーワード】 行動表現 行動言語 行動素 動用論 動芯 (記述言語学的)基礎調査 実験研究 統計処理
*行動の調査・処理に関する方法論を主に音声・音韻における手法を批判的に検討することにより考えていこうとする試み。 - 第3章「日本人の言語行動の特色」(野元菊雄)
【キーワード】 言語行動 有と無 上と下 敬語と敬意表現 社会集団
*肯定的に話を進める,否定ははっきり言わず察してほしいと思っている,などの日本語の特徴を挙げ,コメントを付す。 - 第4章「日本語の行動表現の構造」(加藤正信)
【キーワード】 伝達意図 言語形式 敬語使用度 あいまい化 遠慮 場面適合 地域差 世代差
*地域差を考慮しつつ,敬語・あいさつ・要求など諸表現の形式と行動の関連を概観する。 - 第5章「世界の行動表現と非言語伝達」(村野良子)
【キーワード】 非言語伝達 行動表現 初級日本語教育 外国人留学生 コミュニケーション
*日本語教育の立場から,非言語伝達(距離の取り方,視線など)を扱う。 - 第6章「コンピュータ支援による言語学習者の学習行動」(水町伊佐男・松崎千香子)
【キーワード】 学習ストラテジー CALL学習者 学習行動 解答入力行動 学習行動の視点
*学習ストラテジー調査に関する留意点を述べ,学習者がコンピュータソフトを使ったときの行動や感想を調べて結論を出す。概説ではなく,調査である。
(2001年10月25日発行 おうふう刊 A5判横組み 238ページ 2,500円)
小松英雄著『日本語の歴史―青信号はなぜアオなのか―』
本書は,素朴で具体的な疑問から出発して,通説にとらわれずに日本語の変化の姿を考えていくことの大切さを訴えようとするものである。日本語史で重要なのは,単なる過去の事実ではなく,日本語を「日本語話者にコントロールされている動的体系」として把握しその変化の機構を理解することだと著者は説く。その姿勢から一般の日本語史概説書の記述の誤りを指摘し,事実に即して考えれば歴史的な変化の動因や意味に関してどのような結論が得られるかを示す。章立ては以下の通りである。
- 0「イントロダクション―日本語史の知識はどのように役立つか」
*現代日本語の実像を捉えることが日本語史の目的であると述べる。 - 1「日本語語彙の構成」
*漢語や外来語の形成に多様な音の資源が寄与したことを述べ,その資源はワンワンやゾロゾロなどの活写語から得たとする。 - 2「借用語間のバランス」
*同音語が多い漢語がカタカナ語で置き換えられている現象について述べる。 - 3「言語変化を説明する―怪しげな説明から合理的説明へ」
*ハ行子音の変化に関して,聞き手にどのように聞こえるかということが関係するという観点を導入する。 - 4「音便形の形成から廃用まで」
*音便を文体指標の機能という視点から捉える。 - 5「日本語の色名」
*色名の体系と発達過程を見ていく。 - 6「書記テクストと対話する」
*「クレナヰ,カラクレナヰ」を例に,テキストとの「対話」を試みる。 - 7「係り結びの機能」
*「ゾ・ナム」の機能と,それが接続詞に置き換えられた現象を扱う。
(2001年10月30日発行 笠間書院刊 B6判横組み 256ページ 1,900円)
田中克彦著『差別語からはいる言語学入門』
本書は,差別語の問題を,糾弾すべき問題あるいはそれから身をかわす方法として見るのではなく,言葉の本質と原理を深く考えてみるための契機として捉えるという立場から執筆されたものである。現実と言葉(この場合は差別と差別語)との関係,言語における事柄に関わる部分とものの見方に関わる部分の関係など複雑な問題を考慮に入れつつ,様々な事柄を扱っている。章立ては以下の通りである。なお,もともと第6講までは季刊の文芸誌『小説トリッパー』(朝日新聞社)に掲載され,それ以降はその雑誌に第7・8講が掲載されなかったことから掲載紙を『部落解放 なら』に変えて掲載されたものである。
- 序説「差別語の発見」
- 第1講「言語ニヒリズムの邪道」
- 第2講「ことばは人間が作ったものだから人間が変えられる」
- 第3講「蔑視語と差別語」
- 第4講「サベツ語糾弾が言語体系にもたらす結果について」
- 第5講「「オンナ」で考える―サベツ語と語彙の体系性」
- 第6講「「片目」で考える―欠損を表わすための専用形」
- 「場所をかえての連載」にあたって
- 第7講「ハゲとメクラ―欠如詞(privativa)の概念を検討する」
- 第8講「略語のサベツ効果について―「北鮮」から「ヤラハタ」まで」
- 第9講「「トサツ」についての予備的考察」
- 第10講「「カタ−」の練習問題―カタテオチはサベツ語か」
- 第11講「サベツ語にも方言カタヨリがあるかもしれん―ブラク・ブゾクの「部」について」
- 第12講「豊橋豚のナマクビ事件の巻」
(2001年11月15日発行 明石書店刊 A5判縦横組み 187ページ 1,800円)