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新刊紹介 (『日本語の研究』第7巻1号(通巻244号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 月本雅幸・藤井俊博・肥爪周二編 『古典語研究の焦点』
- 森田良行著 『日本語の慣用表現辞典』
- 李漢燮編 『近代漢語研究文献目録』
- 西端幸雄著 『平安朝仮名文学作品語彙の研究』
- 蜂矢真郷著 『古代語の謎を解く』
- 田中寛著 『複合辞からみた日本語文法の研究』
- 須田淳一・新居田純野編 『日本語形態の諸問題―鈴木泰教授東京大学退職記念論文集―』
- 土岐哲著 『日本語教育からの音声研究』
- 柳田征司著 『日本語の歴史1 方言の東西対立』
- 寺島浩子著 『明治三〇年代生まれ話者による 町家の京言葉分類語彙編』
- 土岐留美江著 『意志表現を中心とした日本語モダリティの通時的研究』
- 仁田義雄著 『語彙論的統語論の観点から』
- 小林隆・篠崎晃一編 『方言の発見―知られざる地域差を知る―』
- 古田東朔著 鈴木泰・清水康行・山東功・古田啓編集 斎藤文俊・常盤智子解説校訂 『古田東朔 近現代 日本語生成史コレクション 第3巻 日本語へのまなざし 内と外から―国語学史1』
- 高梨信乃著 『評価のモダリティ―現代日本語における記述的研究―』
- 加藤泰彦・吉村あき子・今仁生美編 『否定と言語理論』
- 須田義治著 『現代日本語のアスペクト論―形態論的なカテゴリーと構文論的なカテゴリーの理論―』
- 上野善道監修 『日本語研究の12章』
月本雅幸・藤井俊博・肥爪周二編『古典語研究の焦点』
本書は武蔵野書院創立九十周年を記念して企画されたもので,古典日本語を扱う若手・中堅の研究者による研究論文を収めた論文集である。万葉集巻二十所載防人歌の言語について検討し,東海地方と関東地方とでは差異が認められることや防人歌は中央の耳を持った話者が音声レベルで筆録したものであることなどを述べる屋名池誠論文,正倉院文書のうち「請暇不参解」と呼ばれる文書群の中には下層識字層の言葉が見られ,それらの中には中世まで文学作品中には現れない語と平安時代和文作品で用いられる語があることを述べる長沼英二論文,成立年代について従来問題視されてきた醍醐寺本『元興寺縁起』の用字等を再検討し,奈良朝ではなく平安朝以降の作成であるという説が妥当なものであることを述べる馬場治論文,和漢の混淆という現象が起きた経緯にはいくつかのケースがあり,そのうち漢文訓読の言葉を仮名で記そうとした結果和文的要素を含んだ三宝絵の様なケースについては,仮名で書くという(文体ではなく)表記体の選択・変換という行為が和漢の混淆と深く関わっていることを述べる乾善彦論文など計46編の論文を収める。
- 奈良時代東国方言の音韻体系と防人歌の筆録者(屋名池誠)
- 奈良時代の下層識字層のことばと平安時代語―正倉院文書「請暇不参解」の「見治/看治」と「吾仏公」―(長沼英二)
- 元興寺縁起の宣命体について(馬場治)
- 表記体の変換と和漢の混淆(乾善彦)
- 萬葉集所載地名表記における二合仮名―非固有名詞表記との関係をめぐって―(尾山慎)
- 宣命体表記の変遷―漢文助字「可」に注目して(池田幸恵)
- 『古語拾遺』本文と『日本書紀』の訓読(杉浦克己)
- 濁音小考―有声阻害音の意味(高山倫明)
- 古典語の連濁―二つの未解決問題―(肥爪周二)
- 動詞重複構文の展開(青木博史)
- 歌語「嘆き」の消長(阿久澤忠)
- 『篁物語』の井野葉子氏「『源氏物語』浮舟巻での引用」説補強ならびに祖形小考(安部清哉)
- 『我身にたどる姫君』の複合動詞語彙(岡野幸夫)
- 「気色」と「仰(旨)」―古記録・古文書等に見る〈けしき〉の用法の展開―(辛島美絵)
- 中古語情意形容詞「くちをし」の意味記述―対象,誘因を表す語句の分析による―(田中牧郎)
- 陽明文庫本源氏物語の動詞(中村一夫)
- 源氏物語の地の文におけるケリの意味・機能―ケリ形による「認識」の再検討―(西田隆政)
- 今昔物語集の「けり」のテクスト機能―冒頭段落における文体的変異について―(藤井俊博)
- 『枕草子』における概念形成―副助詞「など」の運用―(藤原浩史)
- 改編本類聚名義抄における注音方式の再検討―傍仮名音注・声点の朱墨について―(山本秀人)
- 東大寺図書館蔵『七喩三平等十无上義』について―『東大寺諷誦文稿』との比較を通して―(山本真吾)
- 古典語文体の分析のための試案―和漢の混淆を中心に―(アルベリッツィ・ヴァレリオ・ルイジ)
- 漢籍訓点資料における訓読語の位相と文体―複製資料に依拠した研究を巡って―(松本光隆)
- 漢字字体から見た論語古写本の位置(小助川貞次)
- 紙背聖教の訓点について―訓点資料研究の一視点―
- 日本の漢文訓読からみた韓国の漢文読法(尹幸舜)
- 訓点資料の基本的問題について(月本雅幸)
- 再読字使用の問題―「未」の場合―(原裕)
- 『後二条師通記』冒頭三カ年分の「本記」と「別記」について(柳原恵津子)
- 藤原定家の著述資料における「侍」「候」について―『毎月抄』の違和感―(田中雅和)
- 『覚一本平家物語』に於ける「御(ご/おん/ぎょ/み)〜あり」をめぐって(堀畑正臣)
- 『水鏡』における漢語―その用語選択をめぐって―(青木毅)
- 鎌倉時代における漢字音の個人差―親鸞と恵信尼との比較―(佐々木勇)
- 連声と促音・撥音(榎木久薫)
- 鎌倉時代聞書類における本文整定の一形態―明恵述・定真聞書「護身法事」をめぐって―(土井光祐)
- 書記特有表現としてのメモ体―非陳述的書記体の沿革―(矢田勉)
- 中世真名軍記に於ける倒置記法「有之」について(橋村勝明)
- 醍醐寺蔵『探要法花験記』における「也」の用字意識―出典との比較に見る漢文和化の問題―(磯貝淳一)
- ゆれる〈をのこ〉とゆれない〈おとこ〉―『仮名文字遣』の諸本とアクセントの体系変化―(坂本清恵)
- 四つ仮名混乱と前鼻子音衰退化との干渉―個別言語史の視点の重要性―
- 『南村輟耕録』所載「射字法」から見た『書史会要』の「いろは」音注(蒋垂東)
- 易林本『節用集』平井版研究の基本課題(佐藤貴裕)
- 清原家における『中庸章句』の訓読について―東京大学国語研究室蔵兼右写・宣賢点『中庸章句』を中心に―(呉美寧)
- 『尾張国郡司百姓等解文』における字音声点(加藤大鶴)
- 相互承接からみた中古語の時の助動詞(小田勝)
- 通時態,継時態,そして構造通時態(伊藤雅光)
- あとがき
(2010年1月31日発行 武蔵野書院刊 A5判縦組み 1,008頁 13,000円+税 ISBN 978-4-8386-0239-1)
森田良行著『日本語の慣用表現辞典』
本書は,日本語に数ある慣用表現について,それらの語句を使用する場面や話題から,全体を十二のトピックに分けてまとめた表現辞典である。既存する多くの『慣用句辞典』と銘打つものが扱う「油を売る」とか「道草を食う」「鼻が高い」など狭義の慣用句にとどまらず,読者が必要とする場面を考え,一種の決まり文句や,慣用化された言い回し,種々の諺類などを網羅して,話題や場面別にまとめて対照できる,表現・理解に役立つ辞書を目指して編まれたものである。従来の辞書では対比的に類似の語句との意味差,使い分け,時には発想の違いにまで触れることは困難であったことを解消する試みとして,場面・話題からの分類方式をとり,類義の紛らわしい語句と対照しながら細部にわたって分析解説を施している。
- 目次
- 一 人生編
- 二 勤労編
- 三 生活編
- 四 社会生活編
- 五 社会的行為編
- 六 人間行為編
- 七 人間の状態編
- 八 事柄の事態編
- 九 人間関係編
- 十 感情編
- 十一 思考・判断編
- 十二 言語活動編
- 索引
(2010年2月20日発行 東京堂出版刊 B5縦組み 364頁 2,800円+税 ISBN 978-4-490-10776-0)
李漢燮編『近代漢語研究文献目録』
本書は,近代漢語語彙に関する研究文献を調査し,目録としてまとめたものである。明治以降日本で使われるようになった漢語語彙を見出しに立て,当該漢語の成立及び由来・出自・概念・意味について考察した文献を収録している。収録文献の数は約8,200件(延べ)である。また一部「株式」「身分」「瓦斯」「倶楽部」のような和語や混種語,中国語・韓国語に入って漢語として認識されているような語彙も見出し語の中に含まれている。原則的に1945年から2008年までに日本で発表された文献を中心に採録しているが,それ以前,以後のものや韓国,中国,台湾,欧米の研究者が現地で発表したものも,その範囲に含まれる。収録した文献類については,語彙の由来や概念,意味などを解説した事典類,語源辞典類,事物起源に関する辞典類や漢語近代語に関する研究書類,論文類のほか,これらに近い雑誌記事や科学研究費の報告書,博士論文なども一部挙げられている。
- 序―『近代漢語研究文献目録』の刊行を祝って―(前田富祺)
- はしがき
- 凡例
- 近代漢語研究文献目録
- 主要採録文献一覧
- 事項索引
- 署名・人名索引
(2010年2月28日発行 東京堂出版刊 A5判横組み 328頁 9,000円+税 ISBN 978-4-490-20687-6)
西端幸雄著『平安朝仮名文学作品語彙の研究』
平安朝仮名文学作品における「散文語彙」と「和歌語彙」の特徴を,「分類語彙表」に倣って作成した古典語のシソーラスに基づいて明らかにした書である。「竹取物語」「伊勢物語」「土左日記」「蜻蛉日記」「枕草子」「源氏物語」「紫式部日記」「更級日記」「大鏡」「平中物語」「大和物語」「八代集」を中心に取り上げ,各作品の使用語彙を体の類【名詞】・用の類【動詞】・相の類【形容語・副詞】に分類し,具体的な語数や語の出現比率を示しながら,それぞれの性格を比較している。例えば,第3章「歌物語の語彙」では,いわゆる歌物語に属する作品でも「伊勢物語」と「大和物語」の使用語彙の性格がきわめて近似しているのに対し,「平中物語」はそれらとはかけ離れ,物語的性格を強く帯びている旨を指摘しており,前二者と後者を異なるジャンルの作品として扱う必要性を強調している。なお,本書は既発表の論文を全面的に書き換えたものである。
- 全体内容(目次相当)
- まえがき
- 序章 基礎データの整備
- 第1章 和歌語彙と散文語彙の性格
- 第2章 仮名散文作品の語彙の性格
- 第3章 歌物語の語彙
- 第4章 八代集における和歌語彙の変容を検証─「けしき」を用いて
- 第5章 歌風変移の契機としての『拾遺集』
- あとがき
(2010年3月5日発行 金壽堂出版刊 A5判横組み 180頁 2,800円+税 ISBN 978-4-903762-08-1)
蜂矢真郷著『古代語の謎を解く』
本書は現代まで用いられている語や語構成要素・地名について,国語史的な知見から解説をするものである。入門書・啓蒙書の形をとりながら,上代特殊仮名遣い,有坂・池上法則,金田一法則,被覆形―露出形に関する有坂の指摘,古辞書における記述など,最先端の研究成果による客観的根拠を丁寧に示しつつ,種々の語の歴史を述べていく。「現代に続く古代語」と題した第1章では,「縦と横」「男と女」「ヲ[小]とコ[小]」など現代でも用いられる語について,古代ではどのように用いられていたのかを述べる。「一音節の語構成要素」と題した第2章では,「ト[利]」,「ト[門]」と「ト[戸]」と「ト[外]」,「タ[手]」と「テ[手]」,「マ[目]」と「メ[目]」といった,共通する要素か否かの見極めが難しい語構成要素類を取り上げ,詳細な客観的論拠によりながら,江戸の音義説のような恣意的な解釈に陥らぬ検討の手法を実践する。「古代からの地名」と題した第3章では,淡路,信濃,島根,新潟,津,敦賀といった地名について,語構成などの国語学的な観点から検討する。
- はしがき
- 第一章 現代に続く古代語
- 第二章 一音節の語構成要素
- 第三章 古代からの地名
- あとがき
(2010年3月15日発行 大阪大学出版会刊 B6判縦組み 314頁 2,300円+税 ISBN 978-4-87259-305-1)
田中寛著『複合辞からみた日本語文法の研究』
「にあたって」「わけにはいかない」などのようないわゆる複合辞について日本語の発想という点に留意しつつ考究したものである。序章「複合辞からみた日本語文法の研究―文型研究と文法研究の接点をもとめて―」で文法研究と日本語教育,複合辞と文型,文脈と用法,文型と語彙などについての基礎的考察をする。第1部と第2部では接続表現を扱う。各章で形(例えば助詞+動詞テ形)または意味(例えば「きっかけ」を表す複合辞)をテーマにしていくつかの複合辞等を扱い,それらの意味用法,類義表現の異同などを記述する。第3部と第4部では文末表現を扱う。各章で〈諦念〉表現(例:やむをえない),〈禁止〉表現,「かもしれない」「にちがいない」等の判断系表現,「てならない」等の命題への評価を表す形式,「AといいBといい」「とはいえ」など「という」の変異形式,否定文末形式について考察している。附章で名詞述語文と“説明”のモダリティ表現を論じている。巻末に複合辞研究文献目録を付す。
内容は以下のようになっている。
- 序章 複合辞からみた日本語文法の研究―文型研究と文法研究の接点をもとめて―
- 第1部 接続表現 副詞節の諸相(1)
- 第1章 動詞テ形後置詞の分類と意味機能―機能的認定と様態的意味の諸相―
- 第2章 漸進性と相関関係を表す後置詞─「につれて」「にしたがって」などをめぐって―
- 第3章 “きっかけ”を表す構文―〈類義語〉と〈類義文型〉についての一考察―
- 第4章 結果誘導節における発話意図―主観的評価をめぐる一考察―
- 第2部 接続表現 副詞節の諸相(2)
- 第1章 レバ条件文における文脈的意味―論理関係と節末・文末叙述の構造―
- 第2章 擬似的な連体節と従属接続成分―「理由で」「代わりに」「反面」などをめぐって―
- 第3章 “瞬間”と“同時”を表す複合辞―事態生起の偶発性と恣意性の観点から―
- 第3部 文末表現とモダリティの構制(1)
- 第1章 「しかたがない」「やむをえない」考―〈諦念〉をめぐる省察―
- 第2章 条件と可能性・蓋然性のモダリティ―「かもしれない」「かねない」とその周辺―
- 第3章 確信と確実性判断の交渉―「にちがいない」と「はまちがいない」を中心に―
- 第4章 言語行動論からみた発話行為と文法―〈禁止〉の構文をめぐって―
- 第4部 文末表現とモダリティの構制(2)
- 第1章 心的表出と評価判断のモダリティ(1)―命題の評価性をめぐって―
- 第2章 心的表出と評価判断のモダリティ(2)―“引用”という観点からの考察―
- 第3章 否定文末形式の意味と機能(1)―判断・評価の表現の諸相―
- 第4章 否定文末形式の意味と機能(2)―否定の論理構造と倫理的な意味―
- 附章 名詞述語文と“説明”のモダリティ表現―「ことだ」「ものだ」から「寸法だ」「毎日だ」まで―
- 巻末資料 複合辞研究文献目録
(2010年3月30日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 632頁 9,800円+税 ISBN 978-4-89476-479-8)
須田淳一・新居田純野編『日本語形態の諸問題―鈴木泰教授東京大学退職記念論文集―』
鈴木泰氏の退職を記念して編まれた論文集である。「古典語のパラダイムについて」(鈴木泰),「主体-客体表現と形態論的なしるしづけ―類型学からみた日本語―」(まつもとひろたけ),「こと-ばの かた-ちの こと」(工藤浩),「蘭学者の文法認知と術語の様相」(岡田袈裟男),「『V』との対応をなさない『V-(サ)セル』」(早津恵美子),「沖縄西表島祖納方言」(金田章宏)のほか,印省熙,黄美静,近藤雅恵,齋美智子,施淑恵,須田義治,スネジャナ=ヤンコヴィッチ,高山道代,津留崎由紀子,林淳子,方美麗,松浦恵津子,山崎貞子,山本博子,楊金萍,新居田純野,須田淳一の論文,計23編を収める。巻末に「鈴木泰先生の経歴と業績」を付す。
内容は以下のようになっている。
- 巻頭のことば(工藤浩)
- 古典語のパラダイムについて(鈴木泰)
- 主体-客体表現と形態論的なしるしづけ―類型学からみた日本語―(まつもとひろたけ)
- こと-ばの かた-ちの こと(工藤浩)
- 蘭学者の文法認知と術語の様相―「体用」,「実虚助」,「静動」との関連において―(岡田袈裟男)
- 「V」との対応をなさない「V-(サ)セル」―語彙的意味の一単位性―(早津恵美子)
- 沖縄西表島祖納方言―アスペクト・テンス・ムード体系の素描―(金田章宏)
- 日本語の「は」と「が」と韓国語の「〓」と「〓」―統語的条件の相違を通して―(印省熙)
- 『西国立志編』における逆順語(黄美静)
- 文献にみるデハナイカ(近藤雅恵)
- シヨウに関する一考察(齋美智子)
- 日本語・台〓語の「模様替え動詞と物名詞との組合せ」の比較(施淑恵)
- 「思う」と「考える」―その意味・用法について―(須田義治)
- 仮定条件における「と・たら・なら・ば」の意味と用法―セルビア語の条件文との対照の観点から―(スネジャナ=ヤンコヴィッチ)
- 平安期日本語における動詞述語文の主語標示―ノ格とガ格のふるまいから―(高山道代)
- 形容詞派生の名詞〜サのデ中止形―(津留崎由紀子)
- 後置詞「によって」の機能(林淳子)
- 中国語の使役表現から見た日本語―〈状態変化的〉使役文を中心に―(方美麗)
- 逆条件節をつくる形式― -テモ・〜トシテモ・ニシテモ・ニセヨ[ニシロ]―(松浦恵津子)
- 仮名日記の時間副詞の文法的意味と述語形式(山崎貞子)
- 助動詞「ぬ」の消失的意味についての一考察(山本博子)
- 「私」の第一人称代名詞化の歴史的考察(楊金萍)
- シタコトガアルについて―シタ経験ガアル,シタ経験ヲモツとの対照から―(新居田純野)
- 上代語「を」の格性疑義 (須田淳一)
- 鈴木泰先生の経歴と業績
(2010年3月31日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 364頁 6,800円+税 ISBN 978-4-89476-500-9)
- ※印省熙論文の「〓」は,韓国語の「nun」と「ga」(いずれもハングル表記。UnicodeのB294 는 とAC00 가)。
- ※施淑恵論文の「〓」は,「門」に「虫」という字(Unicodeの95A9 閩)。
土岐哲著『日本語教育からの音声研究』
シリーズ「言語学と言語教育」の第20巻。本書は,日本語教育と日本語音声についての筆者が過去に発表した諸論文にそれぞれ加筆修正を加えたものである。収録された論文は,主に自発性の高い自然な日本語音声に焦点を当てて観察し考察したものである。本書は3部で構成される。第1部では,日本語音声教育とその研究を史的に概観する。第2部は,日本語音声の実態を,日本国内を始め,ミクロネシアや台湾などの海外の日本語もそのフィールドと対象とし,日本語音声の地域差の解明を目指す内容となっている。第3部は,第2部までの研究及びその結果を踏まえ,筆者の「日本語音声教育観」を述べ,音声教育,音声研究と社会との関係が扱われる。
- 目次
- 第1部
- 第1章 日本語音声の教育・研究の変遷
- 第2章 教科書に見られる日本語音声教育上の記述
- 第3章 一般音声学的支店から考える音声教育の重要性
- 第4章 日本語音声に見られる諸現象の実態
- 第5章 日本語リズムの研究
- 第6章 日本語音声の縮約とリズム形式
- 第7章 アクセントの下げとイントネーションの下げの区別
- 第2部
- 第8章 音声上の虫食い文補填の手掛かりとなる韻律的要素
- 第9章 東京方言話者と大阪方言話者による同一音声資料の聞き取り結果
- 第10章 日本語会話文の音読に見られる各地方方言の韻律的特徴―弘前市生育者の場合―
- 第11章 青森県深浦方言の音声・音韻―4世代の横断的内部観察資料から―
- 第12章 ミクロネシア・チュークに見られる残存日本語の音声
- 第13章 ミクロネシア・ポナペ島に残存する日本語の音声
- 第14章 台湾先住民ヤミ族に見られる日本語音声―アミ語話者との比較も交えて―
- 第3部
- 第15章 音声研究と日本語教育
- 第16章 聞き手の国際化―音声教育の将来への展望―
(2010年3月31日発行 ひつじ書房刊 A4判横組み 280頁 5,800円+税 ISBN 978-4-89476-488-0)
柳田征司著『日本語の歴史1 方言の東西対立』
本書は,日本語諸方言間の違いが非常に大きく,それが生じた時期が遥か昔だとした先学の通説を疑い,日本語諸方言間の違いが,いつ,どのようにして,なぜ生じたのかについて,筆者の解釈を記したものである。第1章では,従来の研究で指摘された日本語方言の東西対立を紹介し,この対立の要因として考えられた基層語説と方言周圏論について筆者の考えが述べられる。第2章から第7章までにおいて,日本語の根幹にかかわる事象として,語法の東西対立とその成立時期について述べている。第2章ではハ行同士の促音便とウ音便について,第3章では東部方言における促音の多用について,第4章では形容詞連用形の音便について,第5章では断定の助動詞「ダ」と「ジャ」「ヤ」について,第6章では打消の助動詞「ナイ」と「ン」について,第7章では命令形「起きろ」と「起きよ」「起きい」について。第8章ではアクセントについて東京式アクセントと京都(京阪)式アクセントが取り上げられる。第9章では,母音連続の融合と非融合のアクセント形式との関係が考察される。
- はじめに
- 一 先学の研究―基層語説と方言集権論と現代書方言間に認められる顕著な違い
- 二 ハ行同士の促音便とウ音便
- 三 東部方言における促音の多用
- 四 形容詞連用形の音便
- 五 断定の助動詞「ダ」と「ジャ」「ヤ」
- 六 打消の助動詞「ナイ」と「イ」
- 七 命令形「起きろ」と「起きよ」「起きい」
- 八 東京式アクセントと京都式アクセント
- 九 母音連続の融合と非融合
- おわりに
(2010年4月15日発行 武蔵野書院刊 B5版横組み 208頁 2,000円+税 ISBN 978-4-8386-0422-7)
寺島浩子著『明治三〇年代生まれ話者による 町家の京言葉分類語彙編』
著者の前著『明治三〇年代生まれ話者による 町家の京言葉 ―付 近世後期上方語の待遇表現―』(武蔵野書院2006年)の続編にあたるものである。前著はデータ(明治30年代生まれ話者4人から得られたデータ)をもとにして「人称代名詞」「あいさつ表現」などのテーマごとに分析したものであったが,本書は元データの単語などを「衣服」「食物」「住居・道具」などに類別して語彙集を編んだものである。この語彙集は表形式になっており,例えば「衣服」の項目には,上から一段目には「イシキアテ」「イッチョーラ」「イマキ」などの語が並び,二段目はその漢字表記「居敷当」「一張羅」「湯巻」などが並び,三段目に品詞(あるいは連語)表示,四段目に意味・説明が来るようになっている。全体は3部構成で,第1部は語彙集,第2部は表現集(単語ではなく待遇や命令表現など),第3部は補遺(分類から漏れた品詞・慣用句等のほか,「数え唄」「子守唄」など)となっている。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 語彙集
- 第2部 表現集
- 第3部 補遺
(2010年4月30日発行 武蔵野書院刊 A5判縦組み 512頁 14,000円+税 ISBN 978-4-8386-0243-8)
土岐留美江著『意志表現を中心とした日本語モダリティの通時的研究』
本書は,ひつじ研究叢書〈言語編〉第82巻である。古代語のモダリティ研究は,いわゆる推量表現を中心に進められており,推量と意志とは多くの推量系のモダリティ形式において表裏の関係にあるが故に,従来,意志系のモダリティが研究対象として正面から取り上げられることは少なかった。本書は意志系のモダリティ形式について,現代語にいたるまでの通時的な変遷の過程に焦点を当て,その成立の体系的考察を試みた書である。3部から成り,第1部では助動詞「う」と「だろう」について江戸語を中心とした考察を,第2部では,形式名詞「つもり」を中心に文法化の実態の考察を行う。第3部では,最もシンプルで原始的な方法である動詞終止形終止による意志表現について,古代語と現代語とを比較して述べている。第3部付章として現代日本語と現代中国語の意志表現を概観し,最後に意志表現の通時的考察についてのまとめを行う。なお,本書は著者の既発表の論文をまとめたものである。
- 全体内容(目次相当)
- まえがき
- 凡例
- 序章
- 第1部 助動詞「う」と「だろう」
- 第1章 江戸時代における助動詞「う」の変遷
- 第2章 江戸語における連語「そうにする」の機能
- 第3章 江戸語の現代語における「だろう」の比較―推量から確認要求へ―
- 第4章 後期江戸語を中心とした「だろう」の用法分類
- 第2部 形式名詞を用いた意志表現
- 第1章 江戸時代における名詞「つもり」の変遷―モダリティ表現としての文末表現形式化と形式名詞化の過程―
- 第2章 意思表現に用いられる「つもり」以外の名詞の分布と変遷
- 第3部 動詞基本形を用いた意志表現
- 第1章 テンスとモダリティとの関係―現代韻文資料における動詞基本形のテンス―
- 第2章 古代語と現代語の動詞基本形終止文―古代語資料による「会話文」分析の問題点―
- 第3章 平安和文会話文における連体終止文
- 付章 日本語と中国語の意志表現
- おわりに
(2010年5月21日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 292頁 6,200円+税 ISBN 978-4-89476-474-3)
仁田義雄著『語彙論的統語論の観点から』
全4巻予定の「仁田義雄日本語文法著作選」シリーズの第3巻(第3回配本)である。単語が持つ語彙的な特性と文法との関わりを探ることによってきめこまかな文法記述を目指した著者の軌跡を1970年代の論文から2000年代までの論文を収録することによって示したものである。全体は4部12章構成である。第1部「文法と語彙や意味との相関を考える」には初出1982年と初出2002年の論文が並べてあり,初期の問題意識がこの20年でどのような深化をしたかを跡づける。第2部「語彙論的統語論の姿勢から」は,動詞をとりあげ,それがとる格成分の分析を行い,それに基づいて動詞の分類を行ったり,その観点からどのようなことが言えるかを扱った論文を収めている。第3部「動詞の語彙論的統語論」は動詞の特性が格成分だけではなく,ヴォイス,アスペクトなどの文法カテゴリとどう関わるかをテーマにした論文が並ぶ。第4部「動詞と格支配と格体制」は動詞と格成分になっている名詞の意味特性の関係を扱った論文と,1000余りの動詞を格体制のあり方によって分類した論を収めている。
内容は以下のようになっている。
- 第1部 文法と語彙や意味との相関を考える
- 第1章 語彙と文法
- 第2章 語彙的(な)意味と文法的(な)意味
- 第2部 語彙論的統語論の姿勢から
- 第3章 係助詞・副助詞と格表示―〈ハ〉を中心にして―
- 第4章 動詞の格支配
- 第5章 対称動詞と半対称動詞と非対称動詞―格成分形成規則のために―
- 第6章 多義性を有する用言についての二三の考察 ―Lexico-Syntaxの姿勢において―
- 第7章 類義語「取リ返ス」と「取リ戻ス」の文法 ―Lexico-Syntaxの観点から―
- 第3部 動詞の語彙論的統語論
- 第8章 再帰動詞・再帰用法―Lexico-Syntaxの姿勢から―
- 第9章 動詞とアスペクト ―語彙論的統語論の観点から―
- 第10章 動詞の文法的側面の相互交渉
- 第4部 動詞と格支配と格体制
- 第11章 動詞の格支配と名詞の意味特性 ―「水を沸かす」と「湯を沸かす」と「風呂を沸かす」を中心に―
- 第12章 格体制からした動詞のタイプ
(2010年5月21日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 354頁 4,800円+税 ISBN 978-4-89476-452-1)
小林隆・篠崎晃一編『方言の発見―知られざる地域差を知る―』
地域差の研究が進んでいる音韻やアクセントといった分野ではなく,イントネーション・オノマトペ・感動詞・言語行動・談話・比喩というような(構造が不明瞭で単位の設定の仕方やまとめ方に関して扱いにくい面があるため)地域差の研究があまり進んでいなかった分野に取り組んだ論文集である。質問文のイントネーションを扱った木部暢子論文,「大声で泣く様子」のオノマトペを扱った小林隆論文,応答詞を扱った友定賢治論文,「失敗の感動詞」を扱った澤村美幸論文,ポライトネスを扱った陣内正敬論文,働きかけ方を扱った篠崎晃一論文,卑罵表現を扱った西尾純二論文,談話展開を扱った久木田恵論文,比喩表現を扱った半沢幹一論文,地域差ではなく方言談話論の対象と方法などについて述べた沖裕子論文の全10編を収載している。
内容は以下のようになっている。
- はじめに─未知なる地域差の世界へ─(編者)
- 【イントネーション】
- イントネーションの地域差─質問文のイントネーション─(木部暢子)
- 【オノマトペ】
- オノマトペの地域差と歴史─「大声で泣く様子」について─(小林隆)
- 【感動詞】
- 応答詞の地域差(友定賢治)
- 感動詞の地域差と歴史─「失敗の感動詞」を例として─(澤村美幸)
- 【言語行動】
- ポライトネスの地域差(陣内正敬)
- 働きかけ方の地域差(篠崎晃一)
- 卑罵表現の地域差(西尾純二)
- 【談話】
- 談話展開の地域差(久木田恵)
- 方言談話論の対象と方法(沖裕子)
- 【比喩】
- 方言比喩語の地域差─比喩の素材および関係に着目して─(半沢幹一)
(2010年5月26日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 220頁 3,600円+税 ISBN 978-4-89476-495-8)
古田東朔著 鈴木泰・清水康行・山東功・古田啓編集 斎藤文俊・常盤智子解説校訂『古田東朔 近現代 日本語生成史コレクション 第3巻 日本語へのまなざし 内と外から―国語学史1』
主として幕末から近代の国語史・国語学史・国語教育を扱い,それらに関するいろいろな物事がいかなる経緯を経て成立したのかを明らかにしてきた著者の著作集(全6巻)が刊行され始めた。第1〜2巻が「国語史」,第3〜4巻が「国語学史」,第5巻が「国語教育」,第6巻が「伝記・随筆」という構成になっている。本書はその第3巻で第1回配本にあたる。論文20編を収録しているが,前半の12編は主に江戸時代の日本人研究者(本居宣長・鈴木朖・本居春庭等)の研究に関する論文であり,諸本の成立事情,研究者の影響関係などについて考察した論が並ぶ。また後半の8編は幕末明治期の外国人研究者(ホフマン・アストン等)の研究に関する論文となっている。研究史上におけるアストンの重要性を示すいろいろな側面からの論文が一書にまとめられているのは著作集ならではと言えよう。
内容は以下のようになっている。
- 古田東朔コレクション 刊行のことば(鈴木泰)
- 1 江戸時代までの文法観−詞辞の意識・てにをは・活用−
- 2 「和歌八重垣」をめぐって
- 3 「語意」の三写本について−版本『語意考』への過程−
- 4 『詞の玉緒』の先蹤としてのてにをは研究書−特に『〓邇乎波義慣鈔』の内容との比較−
- 5 『活語断続譜』の成立は果たして享和三年六月か
- 6 『活語断続譜』(岡田本・神宮本)成立時期私見
- 7 『活語断続図説』から『活語断続譜』へ
- 8 『言語四種別考』から『言語四種論』へ
- 9 『言語音声考』から『雅語音声考』へ
- 10 〈国語学資料復刻〉付解説 活語断続図説(神習文庫蔵) 活語断続譜・言語四種論・言語音声考(黒川文庫蔵)
- 11 『八衢』へ流れこむもの
- 12 富士谷御杖の『和歌いれひも』
- 13 コソアド研究の流れ(一)
- 14 コソアド研究の流れ(二)
- 15 外の人々から見たク語法
- 16 アストンの日本文法研究
- 17 アストンの敬語研究−人称との関連について−
- 18 ホフマンの『日蘭辞典』『日英辞典』
- 19 ホフマン『日本文典』の刊行年について
- 20 ホフマンとヘボンの相互影響
(2010年5月29日発行 くろしお出版刊 A5判縦組み 440頁 8,500円+税 ISBN 978-4-87424-482-1)
- ※『〓邇乎波義慣鈔』の〓は「氏」の下に「一」がある字(Unicodeの6C10 氐)。
高梨信乃著『評価のモダリティ―現代日本語における記述的研究―』
「ほうがいい」「てはいけない」「べきだ」などの形で示されるモダリティを「評価を表すモダリティ」と捉え,その意味・用法を記述するとともに,モダリティ体系における位置づけを試みたものである。全体は3部に分かれる。第1部「評価のモダリティとは」で先行研究の概観と評価のモダリティの概略について述べる。第2部「評価のモダリティの記述」は各論にあたり,「―いい,―いけない」型,「べきだ」等の助動詞型,それ以外(「必要がある」「ことはない」「わけにいかない」など)を扱い,記述的研究を行う。第3部「評価のモダリティをめぐる問題」では,「べきだった」のようにタ形を取った場合どういう意味を表すか,隣接するモダリティとの関係はどうか,評価モダリティの位置づけはどうか,について述べる。なお,本書は2006年に大阪外国語大学に提出した博士学位論文に加筆・修正を加えたものである。
内容は以下のようになっている。
- 序章 はじめに
- 第1部 評価のモダリティとは
- 第1章 先行研究の概観
- 第2章 評価のモダリティの概観
- 第2部 評価のモダリティの記述
- 第3章 「−いい/いけない」型複合形式
- 第4章 評価のモダリティの助動詞「べきだ」
- 第5章 評価のモダリティを表すその他の形式(1)―助動詞型―
- 第6章 評価のモダリティを表すその他の形式(2)―複合形式型―
- 第3部 評価のモダリティをめぐる問題
- 第7章 評価のモダリティ形式のタ形
- 第8章 評価のモダリティと希望表現
- 第9章 評価のモダリティと実行のモダリティ
- 第10章 評価のモダリティの位置づけ
- 終章 おわりに
(2010年6月12日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 258頁 3,800円+税 ISBN 978-4-87424-483-8)
加藤泰彦・吉村あき子・今仁生美編『否定と言語理論』
「否定」をテーマに様々な領域の研究者が書いた論文集である。全体は3部に分かれる。第I部は「統語論」で,この分野の展望を含んだ「否定と統語論」(加藤泰彦)に続いて,岸本秀樹,西岡宣明,渡辺明,久野正和,片岡喜代子,ジョン=ホイットマン,宮地朝子,小林賢次,家入葉子の論文を収録。主に生成文法系のアプローチを取る研究と日本語の歴史的研究がその内容となっている。第II部は「意味論」で,論理学的アプローチについて触れる「否定と意味論」(今仁生美)のほか,中西公子,小淵-Philip麻菜,工藤真由美の論文を収録。第III部は語用論で,否定語用論研究の話題を三つ取り上げた「否定と語用論」(吉村あき子)に続いて,高見健一,山田政通,田中廣明,中村芳久,河西良治の論文を収録しており,機能主義,談話分析,新グライス派,認知文法,カテゴリー論など多彩な立場からの論考が並ぶ。
内容は以下のようになっている。
- 第I部 統語論
- 否定と統語論(加藤泰彦)
- 否定辞移動と否定の作用域(岸本秀樹)
- 文否定と否定素性移動(西岡宣明)
- 両極性表現(渡辺明)
- 否定一致表現の構成要素と認可の方略(久野正和)
- 否定極性と統語的条件(片岡喜代子)
- 否定構造と歴史的変化―主要部と否定極性表現を中心に―(ジョン=ホイットマン)
- 日本語否定文と文法化―シカ類の変化と変異を中心に―(宮地朝子)
- 室町時代における否定推量・否定意志の表現(小林賢次)
- 初期近代英語における否定構文―Lampeter Corpusの調査から―(家入葉子)
- 第II部 意味論
- 否定と意味論(今仁生美)
- 数詞とりたての「も」と否定(中西公子)
- 「しか」の意味特性と否定(小淵-Philip麻菜)
- 現代日本語の否定とアスペクト・テンス(工藤真由美)
- 第III部 語用論
- 否定と語用論(吉村あき子)
- 否定極性への機能論的アプローチ(高見健一)
- 談話分析から見た否定:談話機能を探る(山田政通)
- 新グライス学派語用論からみた否定の諸問題―否定的な推意から否定へ―(田中廣明)
- 否定と(間)主観性―認知文法における否定―(中村芳久)
- 否定:対立と超越(河西良治)
(2010年6月18日発行 開拓社刊 A5判横組み 496頁 6,400円+税 ISBN 978-4-7589-2152-7)
須田義治著『現代日本語のアスペクト論―形態論的なカテゴリーと構文論的なカテゴリーの理論―』
奥田靖雄のアスペクト論を批判的に検討し,継承・発展させようとしたものである。また,文法理論の基礎論について論じたものである。全体は2部に分かれる。第I部では,先行研究の奥田,工藤真由美の論を検討して,形態論的なカテゴリーとしてのアスペクトの基本的概念を明らかにする。さらにパーフェクトの概念を規定して,アスペクト,テンスとの関係を明確にする。続けて構文論的カテゴリーとしてのアスペクチュアリティについて論じる。その後,動詞の語彙的な意味に基づく動詞分類について述べ,動作/変化動詞という分類ではなく,限界/無限界動詞という分類を中心とすることを論じる。最後に小説というテキストに関わるアスペクト,テンスについて扱う。第II部では,形態論と構文論についての,より一般的な検討を行っている。つまりアスペクト論を離れ,形態論的なカテゴリーとはどのようなものか,構文論のカテゴリーとして何を認めるべきかなどについての考察を進めている。なお,本書の第I部は2002年に東京外国語大学に提出した博士論文をもとに修正を加えたものであり,それに第II部を加えて一書としたものである。
内容は以下のようになっている。
- 第I部
- 第1章 アスペクト
- 第2章 パーフェクト
- 第3章 アスペクチュアリティ
- 第4章 語彙・文法的な系列
- 第5章 時間表現のナラトロジー ―小説の地の文のアスペクトとテンス―
- 第II部
- 第1章 体系的な文法理論の諸概念
- 第2章 構文論的なカテゴリーとしてのモダリティとヴォイス性
(2010年6月23日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 404頁 6,800円+税 ISBN 978-4-89476-382-1)
上野善道監修『日本語研究の12章』
上野善道氏の退職を記念して編まれた論文集である。日本語研究の研究分野を12のトピックに分け,その具体的な研究事例から,その研究分野を取り上げる意義や魅力が伝わるように企画された。本書は,題目が示すように12章で構成される。「ことばと社会」(第1章)に始まり「方言の分布」(第2章)「アスペクト」(第3章)「日本語の格」(第4章)「名詞と文法」(第5章)「語用論」(第6章)「意味をめぐって」(第7章)と続く。第8章「文献の世界から」は文献研究,第9章「日本語を教える」は日本語教育,第10章「対照研究」となる。第11章,第12章はアクセント研究に充てられる。それぞれの章は1本から5本までの論文で構成され,計35本の論文が所収される。
内容は以下のようになっている。
- 1 ことばと社会
- 外国語から外来語へ−言語・社会への定着過程を探る−(相澤正夫)
- 「お疲れさまです」をめぐって−日韓大学生の挨拶言葉の対比より−(羅聖淑)
- 2 方言の分布
- 分布をどう読むか(福嶋秩子)
- 言語地図の括弧についての再検討(沢木幹栄)
- 言語地理学と方言生活の現場(中島由美)
- 3 アスペクト
- 方言接触から見た存在動詞とアスペクト(工藤真由美)
- テンス・アスペクトの定義と「シテイル」形式の基本的意味(大場美穂子)
- 現在進行中の文法変化−補助動詞「おる」から「おく」へ−(山部順治)
- 4 日本語の格
- 日本語の2種類の「文構成原理」と、「が」の「文構成上の機能」(菊地康人)
- ガ格項の題目化をめぐって(堀川智也)
- 5 名詞と文法
- 日本語の連体修飾表現の類型と特性(加藤重広)
- 形式名詞(前田直子)
- 6 語用論
- ポライトネスと語用論−“はだかの命令形”の考察から−(滝浦真人)
- 宮古方言における敬語法の記述−旧上野村野原方言の敬語動詞を中心に−(西岡敏)
- 南紀方言における終助詞「ヨ」の意味機能分析試論(大野仁美)
- 研究史としての「こそあど」−佐久間鼎のリズム研究から指示詞論まで−(吉田朋彦)
- 7 意味をめぐって
- 語の意味はどのようなことばで記述できるのか(山田進)
- 百科事典的意味とメタファー(籾山洋介)
- 「まじめ」の多義性と経年変化(山中信彦)
- 単語の意味の新たな変化(中道知子)
- 鮨を数える助数詞(飯田朝子)
- 8 文献の世界から
- ロドリゲス文典成立の背景(丸山徹)
- 文献から言語音の歴史を辿るとは(豊島正之)
- 朝鮮資料から見た日本語音声(陳南澤)
- 9 日本語を教える
- 日本語教育と音声(御園生保子)
- 韓国語母語話者に対する日本語発音教育のためのパイロット調査−半濁音で始まる外来語の発音を中心に−(鄭恩禎)
- 外国人生活者の日本語ニーズと語彙の学習(中道真木男)
- 10 対照研究
- 日英対照 否定と否定極性項目(杉浦滋子)
- 11 アクセント I
- 石川県白峰方言の複合動詞アクセント(新田哲夫)
- 愛媛にみるアクセント分布の多様性(清水誠治)
- 動詞活用形におけるアクセント交替規則(李連珠)
- 3語からなる複合名詞のアクセント類型−6字漢語「222複合型」の場合−(胡世光)
- 12 アクセント II
- 付属語のアクセント−鹿児島方言−(児玉望)
- 多良間島の3型アクセントと「系列別語彙」(松森晶子)
- 与那国方言のアクセントと世代間変化(上野善道)
(2010年6月25日発行 明治書院刊 A5判横組み 528頁 5,000円+税 ISBN 978-4-625-43430-3)