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新刊紹介 (『日本語の研究』第5巻2号(通巻237号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 穐田定樹著 『古記録資料の敬語の研究』
- 三原健一著 『構造から見る日本語文法』
- 定延利之著 『煩悩の文法―体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話―』
- 吉田金彦著 『吉田金彦著作選1 万葉語の研究 上』
- 村田美穂子著 『体系日本語文法』
- 金水敏・乾善彦・渋谷勝己著 『日本語史のインタフェース』
- 小泉保著 『現代日本語文典』
- 安田敏朗著 『金田一京助と日本語の近代』
- 沈国威著 『改訂新版 近代日中語彙交流史―新漢語の生成と受容―』
- 滝浦真人著 『ポライトネス入門』
- 伊藤健人著 『イメージ・スキーマに基づく格パターン構文―日本語の構文モデルとして―』
- 犬飼隆著 『漢字を飼い慣らす―日本語の文字の成立史―』
穐田定樹著 『古記録資料の敬語の研究』
本書は,平安時代記録語を題材とした待遇表現に関する論考をまとめたものである。全体は3章に分かれる。第1章「御堂関白記の敬語の研究」では,「仰・被仰・命・被命・宣」「御・御座・座・被座」「被・給」「奉・献・供・進」「聞・申・承」や引用表現の諸形式など,類似した表現間での用法を比較しながら,シテやウケテの身分,その表現を採用する場面などの観点から,それぞれの待遇表現の用法を詳細に検討する。また,道長の待遇意識や自敬的表現の傾向も指摘する。第2章「小右記の尊敬語」では,「仰・被仰・命・被命・宣・曰」「給・賜・被給・被賜」「御・坐」「給・被」といった類義語群の間に見られる用法の差異を指摘し,同時代の他の古記録・古文書類や和文体での実態にも言及する。第3章「平安古記録資料の敬語表現とその語彙」では,「覧」および「覧」をふくむ複合語の待遇性,室町期口語に見られる謙譲語「致す」の源流としての和化漢文における「致」,『小右記』に見られる地位・一門意識・場面の公私の違いと待遇意識との連関などについて論じる。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 御堂関白記の敬語の研究
- 第2章 小右記の尊敬語
- 第3章 平安古記録資料の敬語表現とその語彙
(2008年3月20日発行 清文堂出版刊 A5判縦組み 312頁 8,700円+税 ISBN 978-4-7924-1404-7)
三原健一著 『構造から見る日本語文法』
生成文法の分析手法によって研究されてきた日本語の興味深い事実を扱い,意味用法の分析に偏りがちな最近の文法研究とは違ったアプローチ,つまり構造面からの分析の重要性を指摘している。著者が主として大学1・2年生を対象とした授業で扱っている内容に基づいて書かれたものであり,理論的な背景を知らなくても読めるよう,専門的な用語をできるだけ避けて書かれている。全14話からなり,第1話「ことばの構造」では,構造分析のための樹形図を紹介する。第14話「構造から日本語を見る」では,構造のみを過信してはならないという注意を,過去の分析の誤りを指摘しながら述べる。これらを除く各話は,例文の分析によって,格・多重主語構文・受動文などのテーマを論じる形になっている。各話の最後に参考文献が提示され,それぞれの話題についての議論の動向が,簡単な解説とともに示されている。
内容は以下のとおりである。
- 第1話 ことばの構造
- 第2話 「部長は,多分,本社に応援を依頼するだろう」
- 第3話 「え〜ん,ヒロちゃん,わたし,ぶった」
- 第4話 「このクラスでは,佐藤君が,いちばん頭がいい」
- 第5話 「私は局長の行動を不審に思った」
- 第6話 「みんな自分の老後を気にしている」
- 第7話 「田中先生はスワヒリ語が話せる」
- 第8話 「警官は男が逃げようとするのを呼び止めた」
- 第9話 「凧あげ」
- 第10話 「山田さんが,奥さんに逃げられた」
- 第11話 「みんな,そうし始めた」
- 第12話 「美穂は直人にチョコレートをあげた」
- 第13話 「そのことを,私は今でもよく覚えている」
- 第14話 構造から日本語を見る
(2008年6月28日発行 開拓社刊 B6判横組み 192頁 1,600円+税 ISBN 978-4-7589-2506-8)
定延利之著 『煩悩の文法―体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話―』
ある文が自然だと感じられるか否か,適格である表現か否かという文法適格性の判断は,話し手がその事態をどう捉えているか,どのような事態だと捉えて相手に話そうとしているかによって左右されることを,本書は伝えようとしている。一般に,決まり(ルール)の集合だと思われている文法が,実はそれほど厳格なシステムではなく,話し手の事態把握に影響を受けるシステムであることを示し,一人でも多くの人に文法に対する見方を変えてもらおうという姿勢で書かれている。題材には,頻度語(「いつも」「たまに」など)や,「たら」「で」「た」「ばかり」などに関する著者の論考を用い,文法や意味についてわかりやすくまとめ直している。なお,本書はちくま新書730である。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 知識の文法と体験の文法
- 第2章 ワクワク型の体験
- 第3章 ヒリヒリ型の体験
- 第4章 環境とのインタラクション
(2008年7月10日発行 筑摩書房刊 新書判縦組み 208頁 680円+税 ISBN 978-4-480-06438-7)
吉田金彦著
『吉田金彦著作選1 万葉語の研究 上』
『吉田金彦著作選2 万葉語の研究 下』
『吉田金彦著作選3 悲しき歌木簡』
『吉田金彦著作選4 額田王紀行』
『万葉集』のことばに関する著述を収録した吉田金彦氏の著作集である。各巻とも著者の前著を基に、本文の加筆や論考の追加を行っている。第1巻『万葉語の研究 上』は『地名語源からの万葉集』(東京堂書店,1997年刊),第2巻『万葉語の研究 下』は『埋もれた万葉の地名』(東京堂書店,1998年刊)をそれぞれ増補し,書名の変更には,地名を含めて包括的に万葉語を扱おうとする著者の意図が込められている。第3巻『悲しき歌木簡』は『秋田城木簡に秘めた万葉集』(おうふう,2000年刊)の改版であり,秋田城出土木簡や大伴家持に関する著述を収める。第4巻『額田王紀行』は『沼の司祭者 額田王』(毎日新聞社,1993年刊)の改版であり,額田王の歌のことばを取り上げ,語源を考察する。
各巻の内容は以下のとおりである。
- 【第1巻】
- 第1章 しな立つ着く澗さの潟
- 第2章 磯のさき・いそ越道
- 第3章 とこの山なるいさや川
- 第4章 あどの水門・あど川
- 第5章 かにはの田居
- 第6章 いはれの池
- 第7章 天の香具山とかまに
- 第8章 おし照る難波の海
- 第9章 鹿子ぞ鳴くなる
- 第10章 真若の浦
- 第11章 紫の小潟の海
- 【第2巻】
- 第1章 万葉集さいはての歌
- 第2章 石走る近江と垂水と澗
- 第3章 衣手を打廻の里
- 第4章 たまはやす武庫の渡り
- 第5章 天ざかる鄙の都
- 第6章 明石大門に入る日
- 第7章 姫路たゆらぎ山
- 第8章 家持の「伊佐左村竹」
- 第9章 つのさはふ石見の海
- 第10章 八雲立つ出雲
- 第11章 枕詞「ちはやぶる」の成り立ち
- 【第3巻】
- 第1章 秋田城出土仮名木簡の研究
- 第2章 仮名木簡の歌と家持の歌との比較
- 第3章 考古・歴史学からの歌木簡
- 第4章 家持の秋田決死行
- 第5章 大伴家持の死をめぐって
- 第6章 笠女郎、愛の旅路
- 第7章 笠女郎、空閨の怨歌
- 第8章 家持と笠女郎の最期
- 第9章 後半生の歌を集めた大伴家持歌集
- 第10章 「醜の御楯」考
- 【第4巻】
- 第1章 熟田津の研究
- 第2章 伊予温泉歌の研究
- 第3章 蒲生野遊猟の歌
- 第4章 万葉の「むらさき」
- 第5章 へそ形の林のさき
【第1巻】(2008年7月25日発行 明治書院刊 A5判縦組み 376頁 15,000円+税 ISBN 978-4-625-43413-6)
【第2巻】(2008年7月25日発行 明治書院刊 A5判縦組み 412頁 15,000円+税 ISBN 978-4-625-43414-3)
【第3巻】(2008年7月25日発行 明治書院刊 A5判縦組み 356頁 15,000円+税 ISBN 978-4-625-43415-0)
【第4巻】(2008年7月25日発行 明治書院刊 A5判縦組み 392頁 15,000円+税 ISBN 978-4-625-43416-7)
村田美穂子著 『体系日本語文法』
印欧諸語に典型を求めるのではなく,日本語の性質に沿った分析・分類によって,現代日本語文法を体系的に整理しようとしたものである。また,日本語を問うことは「日本人とは」「日本とは」という問いにつながるが,それを避けているかのような風潮に対して警鐘を鳴らす。序章「「見えるもの」「変わらないもの」」では,現実のあり方と,それを日本語がどのように分節しているかなどについて述べる。その後は4部に分かれる。第1部「基本の整理」では,従来の研究が主語,品詞,テンスという枠組みに関する一定の思い込みに縛られていると指摘し,日本語の基本的な単位はどうあるべきかについて論じる。第2部「品詞」では,詞と辞の区別を行い,それぞれを語彙的・文法的に区別することで,語彙詞・文法詞・語彙辞・文法辞に分類し,さらに下位分類を行う。第3部「ことがら」は従来の命題論,第4部の「態度表明」は従来の広義モダリティ論にあたる内容について著者の考えをまとめている。
内容は以下のとおりである。
- 序章 「見えるもの」「変わらないもの」
- 第1部 基本の整理
- 第1章 主語:第一の呪縛を解く
- 第2章 品詞:第二の呪縛を解く
- 第3章 小さい単位
- 第4章 大きい単位
- 第5章 テンス:第三の呪縛を解く
- 第2部 品詞
- 第6章 詞の顔ぶれ
- 第7章 辞の顔ぶれ
- 第3部 ことがら
- 第8章 ことがらの素材
- 第9章 ことがらの部材
- 第4部 態度表明
- 第10章 予告や確認
- 第11章 責任範囲
- 第12章 問いと答え
- 第13章 確実性
- 第14章 見解や判断
- 第15章 評価
- 第16章 距離感
- 終章 日本語らしさの正体
(2008年7月26日発行 すずさわ書店刊 A5判横組み 336頁 3,800円+税 ISBN 978-4-7954-0261-4)
金水敏・乾善彦・渋谷勝己著 『日本語史のインタフェース』
これまでの資料研究・記述的研究の成果をふまえ,理論研究の動向も取り入れて,新しい日本語史研究の地歩を築こうとする「シリーズ日本語史(全4巻)」の第4巻である。本巻は「インタフェース」と題し,従来の分野に収まらない論,研究のあり方や言語現象を別角度から見た論を扱う。第1章「日本語史のインタフェースとは何か」(金水敏)では,言語資料から言語史的事実を導く方法を検討する。第2章「言語資料のインタフェース」,第3章「日本語書記の史的展開」(乾善彦)では,日本語における漢字・仮名の文字論上の位置づけを行い,日本語書記史を概観する。第4章「新たなことばが生まれる場」,第5章「ことばとことばの出会うところ」,第6章「言語変化のなかに生きる人々」(渋谷勝己)では,言語の伝播・言語接触・言語習得・言語能力・言語行動などの側面から言語変化を考察する。第7章「役割語と日本語史」(金水敏)では,役割語の歴史的形成を考慮すると,談話資料の扱いには注意が必要であると述べる。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 日本語史のインタフェースとは何か
- 第2章 言語資料のインタフェース
- 第3章 日本語書記の史的展開
- 第4章 新たなことばが生まれる場
- 第5章 ことばとことばの出会うところ
- 第6章 言語変化のなかに生きる人々
- 第7章 役割語と日本語史
(2008年7月29日発行 岩波書店刊 A5判横組み 272頁 3,600円+税 ISBN 978-4-00-028130-0)
小泉保著 『現代日本語文典』
著者の主張とこれまでの研究成果を盛り込んだ現代日本語の文典である。国文法の活用を「語幹末母音配列方式」と呼び,歴史的音声変化の説明を必要とし(「読みた」>「読んだ」など),現在の動詞変化語形のすべてを包括していない国文法の活用表に替わって,「語形変化表」を提示する。この考え方は,従来の助動詞・形容動詞・補助動詞の品詞分類にも影響が及ぶ。また,統語論には,ルシアン・テニエールの統合価理論による統語分析法を採用している。本書の構成は,第1章「日本語の音声」,第2章「日本語の音素」,第3章「日本語の形態」,第4章「日本語の統語」,第5章「日本語の意味と語用」であり,練習問題やコラム(「形容動詞」「国文法の助動詞」など)も収録していて,教科書として活用できるようになっている。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 日本語の音声
- 第2章 日本語の音素
- 第3章 日本語の形態
- 第4章 日本語の統語
- 第5章 日本語の意味と語用
(2008年8月1日発行 大学書林刊 A5判横組み 208頁 2,700円+税 ISBN 978-4-475-01884-5)
安田敏朗著 『金田一京助と日本語の近代』
金田一京助を取り上げ,アイヌ語研究の姿勢や日本語に対する考え方がどのようなものであったか,また,現代の国語政策(仮名遣い,標準語論,敬語論)にどのような影響を及ぼしたかについて述べたものである。第1章「問題のありか」では,一般的に流通する金田一京助像に疑問を呈し,アイヌ人・アイヌ語を研究対象としてしか捉えていなかったのではないかと述べる。第2章「アイヌ語との出会い」では,帝国大学言語学の割り振りがアイヌ語研究のきっかけであったと指摘する。第3章「「言語」論とその展開」以降では,金田一京助の戦前の言語論と,戦後の国語政策とのつながりを見ていく。なお,本書は平凡社新書432である。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 問題のありか―「イノセント」であること―
- 第2章 アイヌ語との出会い―日本帝国大学言語学の射程―
- 第3章 「言語」論とその展開―戦前・戦中の議論を軸に―
- 第4章 歴史認識・社会論―敗戦直後の議論を軸に―
- 第5章 あらたな国語を求めて(一)―現代かなづかいをめぐって―
- 第6章 あらたな国語を求めて(二)―標準語論と敬語論をめぐって―
(2008年8月12日発行 平凡社刊 新書判縦組み 288頁 880円+税 ISBN 978-4-582-85432-9)
沈国威著 『改訂新版 近代日中語彙交流史―新漢語の生成と受容―』
本書は,1994年に刊行された『近代日中語彙交流史―新漢語の生成と受容―』(笠間書院)の改訂新版である。前著は,博士論文(大阪大学,1993年2月)を出版したものであり,近代(1840年〜1945年)に中国語に取り入れられた日本語由来の語彙(日本語借用語)を取り上げ,語彙の流入・受容・定着のあり方などを言語学的な観点から究明することに主眼を置いている。改訂新版は,前著をより容易に読者へ提供することを目的とし,研究編(全5章)・語誌編・資料編の構成や内容に関して,前著を大きく変更してはいない。ただし,前著以降の著者の研究成果や,近代語研究・日本語借用語研究の進展を「補注」にまとめている。
内容は以下のとおりである。
- 研究編
- 序論
- 第1章 日本語借用語研究概説
- 第2章 日本語借用語の研究史
- 第3章 日本語との出会い─近代前期における中国の知識人と日本語─
- 第4章 西学東漸と日本語借用語─英華辞書類を中心に─
- 第5章 中国語における日本語の受容について
- 語誌編
- 資料編
(2008年8月20日発行 笠間書院刊 A5判横組み 488頁 4,800円+税 ISBN 978-4-305-70388-0)
滝浦真人著 『ポライトネス入門』
名前自体は有名でありながら誤解も多く,本質を簡易にまとめたものが少ないポライトネス理論の入門書である。第1章「「ポライトネス」の背景」では,デュルケームやゴフマンによる社会学の理論を説明する。第2章「ブラウン&レヴィンソンのポライトネス理論」では,グライスの会話の理論から背景説明を始めて,ブラウン&レヴィンソンのポライトネス理論の全体像を描き出そうとする。第3章「敬語とポライトネス」では,ポライトネスが言語形式の理論ではないことに注意を促しつつ,日本語の敬語をポライトネス理論で説明する。第4章「〈距離〉とポライトネス」では,呼称詞と指示詞を取り上げ,距離感の表現・伝達について考察する。第5章「ポライトネスのコミュニケーション」では,談話的機能(会話のスタイル,言語行為など)によって実現されるポライトネスを扱う。第6章「終助詞「か/よ/ね」の意味とポライトネス」では,終助詞の意味機能とポライトネスとの関係を論じる。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 「ポライトネス」の背景─人間関係にかかわるいくつかの普遍─
- 第2章 ブラウン&レヴィンソンのポライトネス理論─効率と配慮、どちらをとるか?─
- 第3章 敬語とポライトネス─会話の場で人間関係を切り分ける─
- 第4章 〈距離〉とポライトネス─“人を呼ぶこと”と“ものを呼ぶこと”の語用論─
- 第5章 ポライトネスのコミュニケーション─会話のスタイル・言語行為・文化差─
- 第6章 [応用編] 終助詞「か/よ/ね」の意味とポライトネス―話者が直観的にしていることの長い説明―
(2008年9月1日発行 研究社刊 A5判横組み 176頁 1,800円+税 ISBN 978-4-327-37723-6)
伊藤健人著 『イメージ・スキーマに基づく格パターン構文―日本語の構文モデルとして―』
構文文法の考え方を出発点として,日本語の新たな構文モデルを提案したものである。ある格パターンをとる構文は,ある構文的意味を持つ(例えば,「〜に〜がV」という存在構文は《状態》という意味を持つ)と述べ,それはイメージ・スキーマ(上の例の場合,〈容器〉という意味)に動機づけられている主張する。そして,それをもとに動詞の多義,格助詞の交替現象,格助詞の意味解釈の分析を行っている。全体は2部に分かれる。第1部「従来の構文モデル」では,Goldbergが提唱した構文文法を紹介し,その構文モデルの可能性と限界について述べる。第2部「新たな構文モデル」では,格パターン,イベント・スキーマ,イメージ・スキーマなど分析のための概念を整理した後,四つの基本的構文と三つの複合的構文について,その格パターンと構文的意味の結びつきを説明する。さらに,格助詞の交替現象などについての事例研究を行う。なお,本書は博士論文(神田外語大学,2005年3月)に加筆・修正をしたものである。
内容は以下のとおりである。
- 第1部 従来の構文モデル―その可能性と限界―
- 第1章 序論
- 第2章 構文文法の概要―Goldberg(1995)を中心に―
- 第3章 Goldberg(1995)の構文モデルの可能性と限界
- 第2部 新たな構文モデル―イメージ・スキーマに基づく格パターン構文―
- 第4章 構文の形式と意味、及び、構文の意味拡張
- 第5章 構文の意味を動機付けるもの―イメージ・スキーマ―
- 第6章 日本語の構文―イメージ・スキーマと格パターンの統合体―
- 第7章 格助詞と構文
- 第8章 まとめ
(2008年9月10日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 256頁 5,600円+税 ISBN 978-4-89476-381-4)
犬飼隆著 『漢字を飼い慣らす―日本語の文字の成立史―』
漢字と仮名で日本語を書き表す方法が開発された経緯を述べたものである。外国の文字である漢字を輸入して日本語に適合させ,日本語を書き表すための文字に作りかえた過程を「飼い慣らし」と呼び,その内実の考察を試みるとともに,日本語が中国語の影響を受けて「鋳直された」側面にも注目する。全体は10章と補説からなる。前半は,漢字が日本語に適用された経緯を,第4章「訓よみ」,第5章「音よみ」,第6章「万葉仮名」のように,項目を分けて概説している。後半の第7章「漢字と日本語との接触」,第8章「漢字で日本語の文を書きあらわす」,第9章「日常業務と教養層の漢字使用」は,前著『上代文字言語の研究』(笠間書院,2005年増補版刊)の一部をもとにし,漢字の「飼い慣らし」「鋳直し」のあり方を,文字資料(文献資料・出土資料)に即して詳述している。補説には,「日本語の研究」第4巻1号(2008年1月)に掲載された特集論文を改稿し収録する。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 日本語の文字体系と書記方法の個性
- 第2章 日本語には固有の文字がなかった
- 第3章 古典中国語の文字を借りて日本のことがらを書く
- 第4章 訓よみ─漢字に日本語をあてて読み書きする─
- 第5章 音よみ─古代中国語を日本語のなまりで発音する─
- 第6章 万葉仮名─漢字で日本語の発音を書きあらわす─
- 第7章 漢字と日本語との接触─八世紀の兄弟姉妹概念と語彙─
- 第8章 漢字で日本語の文を書きあらわす─古事記の選録者たちの工夫─
- 第9章 日常業務と教養層の漢字使用─平仮名・片仮名の源流─
- 第10章 仮名で日本語の文を書きあらわすには?
- 補説 古代の漢字資料としての出土物
- 付録 紫香楽宮跡 万葉歌の木簡発見
(2008年9月10日発行 人文書館刊 B6判縦組み 256頁 2,300円+税 ISBN 978-4-903174-18-1)