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新刊紹介 (『日本語の研究』第4巻4号(通巻235号)掲載分)
「新刊書目」の一部について,簡単な紹介をしています。なお,論文集等については,論文リストを添えるなど,雑誌『日本語の研究』掲載分と一部異なる点があります。(価格は本体価格)
- 澤田美恵子著 『現代日本語における「とりたて助詞」の研究』
- 松本克己著 『世界言語のなかの日本語―日本語系統論の新たな地平―』
- 藤村靖著 『音声科学原論―言語の本質を考える―』
- 今石元久編 『音声言語研究のパラダイム』
- 小久保崇明著 『水鏡とその周辺の語彙・語法』
- 長谷川信子編 『日本語の主文現象―統語構造とモダリティ―』
- 国語文字史研究会編 『国語文字史の研究 10』
- 八亀裕美著 『日本語形容詞の記述的研究―類型論的視点から―』
- 山東功著 『唱歌と国語―明治近代化の装置―』
- 朝日祥之著 『ニュータウン言葉の形成過程に関する社会言語学的研究』
- 小林賢次著 『狂言台本とその言語事象の研究』
- 小川栄一著 『延慶本平家物語の日本語史的研究』
- 小林隆・木部暢子・高橋顕志・安部清哉・熊谷康雄著
『シリーズ方言学1 方言の形成』
真田信治・陣内正敬・井上史雄・日高貢一郎・大野眞男著 『シリーズ方言学3 方言の機能』
小西いずみ・三井はるみ・井上文子・岸江信介・大西拓一郎・半沢康著 『シリーズ方言学4 方言学の技法』
澤田美恵子著 『現代日本語における「とりたて助詞」の研究』
「とりたて助詞」自体の基本的な意味は単純であり,使用環境や話者の見方(期待や評価)により様々な意味が生まれるという立場から,「も,でも,さえ,しか,だけ,ばかり,こそ,など,なんか,なんて」について考察したものである。序章「「とりたて」という概念の創出」では,「とりたて」をめぐる研究史をたどる。第1章「認識的判断に関わる「とりたて助詞」」では,「も」の諸用法を検討し,「でも」「さえ」との共通点と相違点を分析する。また,韓国語との対照も行なう。第2章「限定に関わる「とりたて助詞」」では,「だけ」と「しか」の違いや,「ばかり」の限定以外の用法を扱う。第3章「評価的判断に関わる「とりたて助詞」」では,「PREFER値のスケール(命題に対する話し手の価値判断の尺度)」を提案し,「こそ」「など」「なんか」「なんて」の位置づけと関連性を指摘する。終章では,各章のまとめと今後の課題を示し,日本語教育への応用にも触れる。
内容は以下のとおりである。
- 序章 「とりたて」という概念の創出
- 第1章 認識的判断に関わる「とりたて助詞」
- 第2章 限定に関わる「とりたて助詞」
- 第3章 評価的判断に関わる「とりたて助詞」
- 終章
(2007年12月3日発行 くろしお出版刊 A5判横組み 210頁 3,800円+税 ISBN 978-4-87424-387-9)
松本克己著 『世界言語のなかの日本語―日本語系統論の新たな地平―』
本書は言語類型論の視点から日本語の系統を論じたものである。第1章「日本語系統論の見直し―“マクロの歴史言語学”からの提言―」では,従来の比較言語学の枠組みを越えた発想が必要なことを言語類型論の立場から述べる。第2章「日本語・タミル語同系説批判」,第3章「日本語の系統と“ウラル・アルタイ説”」は,日本語系統の著名な仮説を批判したものである。第4章「類型地理論から探る言語の遠い親族関係―太平洋沿岸言語圏と環日本海諸語―」は本書の中心をなす部分である。流音・名詞の数カテゴリー・人称標示などの特徴により,ユーラシア内陸言語圏と太平洋沿岸言語圏を分け,さらに後者を南方群(オーストリック大語族)と北方群(環日本海諸語)に分け,日本語を北方群に位置づける。第5章「新説・日本語系統論―環日本海諸語とアメリカ大陸―」,第6章「環太平洋言語圏の輪郭―人称代名詞からの検証―」では,環太平洋言語圏の特徴を述べる。第7章「太平洋沿岸言語圏の先史を探る」では,歴史・考古学的側面から太平洋沿岸言語圏の成立と変遷を扱う。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 日本語系統論の見直し―“マクロの歴史言語学”からの提言―
- 第2章 日本語・タミル語同系説批判
- 第3章 日本語の系統と“ウラル・アルタイ説”
- 第4章 類型地理論から探る言語の遠い親族関係―太平洋沿岸言語圏と環日本海諸語―
- 第5章 新説・日本語系統論―環日本海諸語とアメリカ大陸―
- 第6章 環太平洋言語圏の輪郭―人称代名詞からの検証―
- 第7章 太平洋沿岸言語圏の先史を探る
(2007年12月10日発行 三省堂刊 A5判横組み 352頁 3,500円+税 ISBN 978-4-385-36349-3)
藤村靖著 『音声科学原論―言語の本質を考える―』
本書は音声を新たな視点で捉え直そうとしたものである。著者の主張の眼目は,音声の生理学的・音響学的性質を踏まえて,時間関数としての音声現象を合理的に扱うならば,従来の音素単位ではなくシラブル単位の記述をするべきだというものである。そして,独自の音声学理論C/Dモデル(変換/分配モデル)により,CDダイアグラムを用いて音声を記述する。また,本書には,「唇の調音(labial articulation)は,言語学者や音声学者の間でも充分に理解されていないことの多い,簡単そうに見えてそうでない現象である。」(56頁より)や,「母音と子音の対比を物理的な観点から考えるためには,概念的に前者は静力学(statics),後者は動力学(dynamics)の問題であると捉えるのが有効だと思われる。」(84頁より)など,今後の音声研究の新たな展開の糸口を示すような記述が諸所に見られる。
内容は以下のとおりである。
- 1 声の性質
- 2 母音的な音の性質
- 3 子音の性質と動的特性
- 4 シラブルとその連結
- 5 音声と言語
(2007年12月19日発行 岩波書店刊 A5判横組み 248頁 4,000円+税 ISBN 978-4-00-022392-8)
今石元久編 『音声言語研究のパラダイム』
音声言語研究に関する論考20編を,五つのテーマ(分節,超分節,音声言語データ,音声言語の科学および教育,言語学的諸相」)に位置づけ,「感性を発揮しながら既成の枠を越える」(「論纂の目的」より)ことを企図した論文集である。「分節」には,日本語母語話者の英語母音区別を扱うAkiyo Joto論文を含む4編,「超分節」には,香川県広島方言を扱う中井幸比古論文をはじめアクセントやイントネーションに関する5編,「音声言語データ」には,地域言語の音声データ保存について述べる岩城裕之論文を含む2編,「音声言語の科学および教育」には,脳機能計測装置による実験結果を考察する船津誠也論文を含む5編,「言語学的諸相」には,都市をフィールドとする言語研究の必要性を述べる中井精一論文を含む4編を収める。なお,付属CD-ROMには,音声分析ソフト「音声録聞見 for Windows」(東京大学大学院医学系研究科認知・言語医学講座開発)とサンプル音声データが収録されている。
収録論文は以下のとおりである。
- 分節
- Effect of Consonantal Contexts on English Vowel Discrimination by Japanese Listeners and its Relations to the Dynamic Information of Formants(Akiyo Joto)
- On Rhotacized Vowels in GA : Phonetic VS Phonological Representations(Yoshiki Nagase)
- 言語接触地域における/-i//-u/の実相と分布―新潟県北部方言の場合―(大橋純一)
- 国外における音節論の把捉(大和シゲミ)
- 超分節
- 香川県広島方言のアクセント(中井幸比古)
- 伊豆南部特殊アクセントに見られる男女差(木川行央)
- 文アクセント(山口幸洋)
- 「とびはね音調」の成立と拡張―アクセントとイントネーションの協同的(collaborative)関係―(田中ゆかり)
- 『雪国』の朗読のイントネーション(今石元久)
- 音声言語データ
- 生活記録としての音声言語データ―CD-ROM「吉和の言葉」とその後―(岩城裕之)
- Webを利用した方言談話資料データベース化の試み―音声・文字対応ソフトTranscriberの紹介―(岸江信介)
- 音声言語の科学および教育
- 音素の脳内表現(船津誠也)
- 日本人女性アナウンサーにおける聴覚的印象と音響的特徴(世木秀明)
- 音声教育と日本語教育―分析主導型パラダイムから統合主導型パラダイムへ―(萩原一彦)
- 外国語母音発音の教示方法とその効果―ドイツ語変母音に関する音響分析と知覚実験―(林良子)
- 第二言語における音声習得と早期言語教育への示唆(原田哲男)
- 言語学的諸相
- ことばの研究にとっての社会―都市をめぐる人びとの心性とことば―(中井精一)
- 文のコンテクスト―paradigmに拓かれた意味的基盤―(野林靖彦)
- 文末詞の長音化における語用論的機能―山形市方言を例にして―(渋谷勝己)
- カテゴリー化の問題をめぐって―経験基盤主義と生活環境主義―(室山敏昭)
(2007年12月25日発行 和泉書院刊 A5判横組み 544頁 12,000円+税 ISBN 978-4-7576-0440-7)
小久保崇明著 『水鏡とその周辺の語彙・語法』
『水鏡』を中心に,いわゆる鏡物4作品及び平安鎌倉時代の諸文献を資料として,中世語の語彙・語法に関する論考が集められている。第1部「『水鏡』の語彙・語法」では,中世語的性格を帯びたものや,解釈上の問題を有する箇所について検討を加える。「多し」など形容詞4語,「いからかす」など動詞10語,「さしむ」など助動詞3語,「とかや」など助詞5語,敬語法,係り結び,人称代名詞などが取り上げられている。第2部「『水鏡』周辺の語彙・語法」では,接頭辞「御」,『大鏡』に見える表現「仰せられ掛く」「きこえさせ給めり」,八巻本『大鏡』の性格などが扱われている。付録として,山田孝雄『年号読方考証稿』に,八巻本『大鏡』,千葉本『大鏡』に付せられた年号の読み及び声点を補足した「『年号読方考証稿』鶏肋」を収める。
内容は以下のとおりである。
- 第1部 『水鏡』の語彙・語法
- 第1章 中世的語彙・語法
- 第2章 各論
- 【付録】 『年号読方考証稿』鶏肋―古印本(整版本)『水鏡』を資料として―
- 【付録】 専修寺本『水鏡』声点語彙一覧
- 第2部 『水鏡』周辺の語彙・語法
- 第1章 副助詞「とかや」
- 第2章 接頭辞「御」をめぐって
- 第3章 仰せられ掛く
- 第4章 「小一条のおとゝときこえさせ給めり」考
- 第5章 動詞 二題
- 第6章 鏡物のことば
- 第7章 八巻本『大鏡』の性格について
- 【付録】 『年号読方考証稿』鶏肋―八巻本『大鏡』を資料として―
- <書評> 保坂弘司著『大鏡研究序説』
(2007年12月25日発行 笠間書院刊 A5判縦組み 488頁 9,000円+税 ISBN 978-4-305-10371-0)
長谷川信子編 『日本語の主文現象―統語構造とモダリティ―』
ワークショップ「日本語の主文現象と統語理論」(神田外語大学言語科学研究センター,2006年2月)での発表内容を基にした論文集である。「序 日本語の主文現象から見た統語論―文の語用機能との接点を探る―」(長谷川信子)は,統率束縛理論による統語論では命題中心の文構造と現象を主に扱ってきたが,ミニマリスト・プログラムでは統語論の領域が拡大し,主文現象を軸に統語理論研究を展開することができると述べる。全体は3部から成り,第1部「主文と補文:数量詞の作用域から」には,「だけ」の焦点化の可能性から日本語が題目優位言語であることを論じる岸本秀樹論文など3編,第2部「主文と補文:上代語と熊本方言」には,万葉集と平安初期訓点資料をデータとして,日本語は平安初期に格システムが能格から対格へ移行したと仮説を示す柳田優子論文など2編,第3部「モダリティと人称制限」には,真正モーダルと擬似モーダルの形態的・統語的性質を検討する井上和子論文など4編を収録する。
収録論文は以下のとおりである。
- 序 日本語の主文現象から見た統語論―文の語用機能との接点を探る―(長谷川信子)
- 第1部 主文と補文―数量詞の作用域から―
- 第1章 題目優位言語としての日本語―題目とWh疑問詞の階層位置―(岸本秀樹)
- 第2章 とりたて詞の認可と最小性条件―カラ節と主節との関係を中心に―(佐野まさき)
- 第3章 文の構造と判断論(上山あゆみ)
- 第2部 主文と補文―上代語と熊本方言―
- 第4章 上代語の能格性について(柳田優子)
- 第5章 「ガ」・「ノ」交替を方言研究に見る(吉村紀子)
- 第3部 モダリティと人称制限
- 第6章 日本語のモーダルの特徴再考(井上和子)
- 第7章 日本語のモダリティの統語構造と人称制限(上田由紀子)
- 第8章 モダリティ要素による認可の(非)不透明領域―「こと」「よう(に(と))」が導く命令・祈願表現をめぐって―(内堀朝子)
- 第9章 1人称の省略―モダリティとクレル―(長谷川信子)
(2007年12月25日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 400頁 7,600円+税 ISBN 978-4-89476-348-7)
国語文字史研究会編 『国語文字史の研究 10』
1992年9月から刊行されている論文集『国語文字史の研究』の第10集である。前田富祺氏による序文に続き,室町時代初期の連歌学書『心躰抄』には,助詞・助動詞に対する当て字など特異な漢字表記が見られることを述べる山内洋一郎論文,正税帳に出現する「都合」と「合」との使い分けの解明を試みる奥田俊博論文,「え」の仮名字体が「ちぢみえ」と称されていたことの背景をいろは歌の仮名表記に求める遠藤邦基論文,近世初期刊行の画数分類字書を検討する米谷隆史論文,「祇園」の「祇」のしめすへんの字体(「ネ」と「示」)を非文献資料によって分析する當山日出夫論文など,全19本の論文を収める。なお,巻末に第1集から第10集までの総目次を付す。
収録論文は以下のとおりである。
- 『心躰抄』に見る漢字表記の特性―室町時代初期の特異な漢字資料―(山内洋一郎)
- 倭文体の背景について(佐野宏)
- 「略書」再考(乾善彦)
- 『日本書紀』の中国口語―「〓a」をめぐって―(是澤範三)
- 正税帳における「都合」と「合」―熟字と単漢字の使用をめぐって―(奥田俊博)
- 写経・正倉院文書(食口案・献物帳)の所用字体をめぐって(井上幸)
- コンテクストと文字研究―書記資料の文字の処理はどうするか―(西崎亨)
- ちぢみ「え」―仮名の異名といろは歌―(遠藤邦基)
- 定家の表現における表記と語形の選択(田中雅和)
- 近世初期刊行の画引字書について(米谷隆史)
- 合巻類の漢字―『一之富當眼』『正本製 五編 難波家土産』を中心に―(矢野準)
- 二つの『星』(今野真二)
- 明治期の漢字表記の一側面―当時三種の小新聞における「あて字」を資料として―(潘鈞)
- 『道草』の書き潰し原稿と最終原稿の文字・表記(佐藤栄作)
- 代用字・代用表記(同音の漢字による書きかえ)について(田島優)
- 「蛯」の使用分布の地域差とその背景(笹原宏之)
- 京都の「〓b園」の表記―「しめすへん」をどう書くか―(當山日出夫)
- 現代仮名遣いの長音表記(蜂矢真郷)
- 『初心仮名遣』索引(上)(狩野理津子)
(2007年12月30日発行 和泉書院刊 A5判縦組み 360頁 10,000円+税 ISBN 978-4-7576-0446-9)
八亀裕美著 『日本語形容詞の記述的研究―類型論的視点から―』
現代日本語の形容詞についての記述的研究である。諸外国語や日本語の諸方言の言語事象を視野に入れ,類型論的観点から,実例に基づく帰納的手法により,形容詞とはどのようなものかを明らかにする。第1章「はじめに」では,国内外の形容詞研究史をまとめ,著者の立場を述べる。第2章「形容詞の基本的な性質」では,「時間的限定性」と「評価性」を軸に形容詞を分類する。第3章「形容詞の文中での機能」では,形容詞の文の中での働きから,規定語,述語,それ以外の場合に整理する。第4章「日本語の形容詞述語文」では,述語用法の形容詞には「特性」「状態」「存在」「関係」というタイプがあり,連続的に存在すると主張する。第5章「これからの形容詞研究のために」では,方言形容詞を取り上げ,類型論的観点の有効性を確認する。また,テキストタイプと解釈の関係性や,場面との関わりについて述べる。第6章「おわりに」では全体をまとめ,補章では著者の基本的立場を解説している。なお,本書は博士論文(大阪大学,2005年)が基になっている。
内容は以下のとおりである。
- 序文(宮地裕)
- 序文(工藤真由美)
- 第1章 はじめに
- 第2章 形容詞の基本的な性質
- 第3章 形容詞の文中での機能
- 第4章 日本語の形容詞述語文
- 第5章 これからの形容詞研究のために
- 第6章 おわりに
- 補章(1) 現代日本語の文法的カテゴリー
- 補章(2) 標準語の文法と方言の文法
(2008年1月30日発行 明治書院刊 A5判横組み 228頁 10,000円+税 ISBN 978-4-625-43402-0)
山東功著 『唱歌と国語―明治近代化の装置―』
明治における近代化の問題を「文法」と「唱歌」を軸に扱ったものである。「文法」と「唱歌」はともに西洋からの影響が強い分野であり,両者の関連性を述べていく。第1章「国楽創生」では,主に伊沢修二を取り上げ,西洋音楽の受容と唱歌教育の形成,第2章「文法の発見」では,江戸期の国学者流の文典とは異なる文法教科書確立までの流れを追う。第3章「唱歌と文典」では,唱歌の作詞者が文法書を編集している事実から,国語教育関係者が唱歌教育に関わっていたことを指摘する。第4章「装置としての唱歌」では,身につけるべき内容を教え込むための装置(教授法)として唱歌が機能していたことを見る。第5章「暗唱されるものの内実―新体詩と唱歌―」では,新体詩と新体詩人大和田建樹の事跡を述べ,第6章「明治近代化と文法・唱歌」で全体をまとめる。
内容は以下のとおりである。
- 第1章 国楽創生
- 第2章 文法の発見
- 第3章 唱歌と文典
- 第4章 装置としての唱歌
- 第5章 暗唱されるものの内実―新体詩と唱歌―
- 第6章 明治近代化と文法・唱歌
(2008年2月10日発行 講談社刊 B6判縦組み 224頁 1,500円+税 ISBN 978-4-06-258406-7)
朝日祥之著 『ニュータウン言葉の形成過程に関する社会言語学的研究』
都市計画により開発された地域においては,様々な地域からの移住者が新たな地域社会を形成する。そこでは各所から持ち込まれた言葉が接触し,言語変種が生まれる。本書はニュータウンに注目し,言語変種の形成過程を社会言語学の見地から明らかにしようとしたものである。全体は4部からなる。第1部「ニュータウン研究の目的と意義」では,研究対象や方法などが示される。第2部「言語意識レベルにおける言語変種の形成過程」では,ニュータウン居住者の言語変異に対する言語意識を調べ,年齢差・出身地差による言語意識の違いを分析する。第3部「言語構造レベルにおける言語変種の形成過程」では,引用形式と動詞否定辞を取り上げ,移住者とニュータウン生まれの世代との違いを分析する。第4部「ニュータウンにおける言語変種の形成過程」では,第2部と第3部での議論をまとめ,言語変種の形成過程のモデルを示す。
内容は以下のとおりである。
- 第1部 ニュータウン研究の目的と意義
- 第1章 ニュータウンの定義とフィールドの紹介
- 第2章 言語変種の形成過程をとらえる視点
- 第3章 フィールドへのアプローチの方法
- 第2部 言語意識レベルにおける言語変種の形成過程
- 第4章 言語意識を取り上げる目的と方法
- 第5章 ニュータウン居住者の言語変異に対する言語意識
- 第6章 ニュータウン居住者の言語意識を決める社会的要因
- 第7章 言語意識のレベルにおける言語変種の形成過程
- 第3部 言語構造レベルにおける言語変種の形成過程
- 第8章 言語使用から言語変種の形成過程をとらえる目的と方法
- 第9章 引用形式から見た使用実態
- 第10章 動詞の否定辞から見た使用実態
- 第11章 言語構造のレベルにおける言語変種の形成過程
- 第4部 ニュータウンにおける言語変種の形成過程
- 第12章 西神ニュータウンで生まれた言語変種の形成過程
- 第13章 まとめと今後の課題
(2008年2月14日発行 ひつじ書房刊 A5判横組み 258頁 8,600円+税 ISBN 978-4-89476-361-6)
小林賢次著 『狂言台本とその言語事象の研究』
本書は,現存する大蔵流・和泉流・鷺流狂言台本について,その資料性を明らかにするとともに,狂言台本に見られる様々な言語事象を分析し,古代語から近代語への変遷過程を考察するための資料として位置づけることを試みたものである。第1部「言語資料としての狂言台本」は,狂言台本の資料的性質を考察することを主眼としており,第1章「大蔵虎明本における狂言詞章の伝承と改訂─本文注記の分析から─」,第4章「和泉流雲形本『狂言六議』の本文の性格について─筆録時期と言語事象─」,第5章「和泉流雲形本と古典文庫本の本文比較」,第8章「言語資料としての天理図書館蔵『狂言 大外』『狂言 新』」などの全9章で構成されている。第2部「狂言台本に関連する言語事象」では,キリシタン資料や抄物などをも視野に入れつつ具体的な考察が行われ,文法化の視点から条件表現の変遷を考察した第10章「条件表現史にみる文法化の過程」,狂言台本における「重宝」と「調法」の干渉・混同を論じた第13章「「重宝」と「調法」─狂言台本における使用状況とその語史─」などの全6章から成っている。
内容は以下のとおりである。
- 序章 狂言台本の研究とその刊行状況・本書の底本
- 第1部 言語資料としての狂言台本
- 第1章 大蔵虎明本における狂言詞章の伝承と改訂─本文注記の分析から─
- 第2章 天理本『狂言六義』の用語
- 第3章 鷺流享保保教本の用語
- 第4章 和泉流雲形本『狂言六議』の本文の性格について─筆録時期と言語事象─
- 第5章 和泉流雲形本と古典文庫本の本文比較
- 第6章 南大路家旧蔵和泉流狂言台本とその翻刻本文について─言語資料としての『狂言集成』と『狂言三百番集』─
- 第7章 和泉流三百番集本におけるシャル・サシャル敬語
- 第8章 言語資料としての天理図書館蔵『狂言 大外』『狂言 新』
- 第9章 天理図書館蔵『狂言 大外』におけるシャル・サシャル敬語
- 第2部 狂言台本に関連する言語事象
- 第10章 条件表現史にみる文法化の過程
- 第11章 完了性仮定と非完了性仮定の分類について─補説・大蔵虎明本の「タラバ」─
- 第12章 順接の接続助詞「ト」再考─狂言台本にみる近代語条件表現の流れ─
- 第13章 「重宝」と「調法」─狂言台本における使用状況とその語史─
- 第14章 イシガシ・セハシ・アワタタシとその類語─中世・近世における〈多忙〉〈性急〉を表す語の展開─
- 第15章 狂言台本における謙譲語法─「申サルル」とその周辺─
- 付章
(2008年2月14日発行 ひつじ書房刊 A5判縦組み 384頁 9,800円+税 ISBN 978-4-89476-354-8)
小川栄一著 『延慶本平家物語の日本語史的研究』
和漢融合という課題を提起し,『延慶本平家物語』に関する書誌的・日本語史的研究の成果を示すものである。第1部「延慶本の日本語史料的意義」では,延慶本の書誌・成立について検討し,言語資料としての性格を定位する。延慶本を『平家物語』の原型により近いものと見る水原説を支持し,「言語年代」を鎌倉時代後期と推定する。第2部「延慶本における和漢融合」では,表現システムの融合という理論的枠組みを設定し,延慶本の文章・文体についての考察を行う。日本語の中の「和」と「漢」との要素が融合する過程を検討した上で,延慶本の文章構造を明らかにする。第3部「延慶本の語彙システムと和漢融合」では,程度副詞,時制副詞,時間副詞を対象に,和文体起源語彙と漢語・訓読語起源語彙とが機能的な分担を果たしていることを論証する。第4部「和漢融合の背景にあるコミュニケーション」では,言語システムの変化を人間のコミュニケーション活動を背景とした機能的変化と捉える立場から,和漢融合文体は,記録語・訓読語と口頭語との間隙を埋めるものとして,両者の融合による機能進化として成立した文体であると論じる。なお,本書は博士論文(筑波大学,2006年)が基になっている。
内容は以下の通りである。
- 第1部 延慶本の日本語史料的価値
- 第1章 延慶本の書誌・成立
- 第2章 日本語史料としての延慶本
- 第3章 江戸期書写の三本について
- 第4章 延慶本の言語年代に関する研究1
- 第5章 延慶本の言語年代に関する研究2
- 第2部 延慶本における和漢融合
- 第1章 機能進化としての日本語史
- 第2章 表現システムの融合
- 第3章 延慶本の文章構造
- 第4章 文字表記の交用と機能的効率化
- 第3部 延慶本の語彙システムと和漢融合
- 第1章 延慶本における語彙システムの進化
- 第2章 副詞語彙システムの進化
- 第3章 程度量副詞のシステム1―僅少を表す副詞―
- 第4章 程度量副詞のシステム2―甚大を表す副詞―
- 第5章 時制副詞のシステム
- 第6章 時間副詞のシステム1―瞬時を表す副詞―
- 第7章 時間副詞のシステム2―若干の間隔のある時間を表す副詞―
- 第4部 和漢融合の背景にあるコミュニケーション
- 第1章 口頭語における和漢融合
- 第2章 敬語行動と敬語表現体系
- 第3章 和漢融合の背景にあるコミュニケーション
(2008年2月25日発行 勉誠出版刊 A5判横組み 528ページ 16,500円+税 ISBN 978-4-585-10438-4)
小林隆・木部暢子・高橋顕志・安部清哉・熊谷康雄著
『シリーズ方言学1 方言の形成』
真田信治・陣内正敬・井上史雄・日高貢一郎・大野眞男著
『シリーズ方言学3 方言の機能』
小西いずみ・三井はるみ・井上文子・岸江信介・大西拓一郎・半沢康著
『シリーズ方言学4 方言学の技法』
新たな角度から方言学についてまとめた「シリーズ方言学」全4巻のうちの3巻である(第2巻『方言の文法』の新刊紹介は『日本語の研究』3巻3号参照)。第1巻『方言の形成』は,日本語の方言がどのようにして生まれたのかを問題にする方言形成論を扱う。内的変化や接触変化などによる方言形成の考察のほか,アジアにおける日本語方言の位置づけや,方言形成に関わるシミュレーション研究の紹介などを取り上げる。第3巻『方言の機能』は,社会の中で果たしている方言の役割を扱う。発話スタイル,若者語,経済価値,福祉,学校教育と方言との関わりといった,属性論的な社会言語学においてあまり扱われていないテーマを取り上げる。第4巻『方言学の技法』は,方言学における調査・資料化・分析の最新技法を解説する。データベース,パソコンで作る方言地図,地理情報システム(GIS)など,情報機器の発達によって導入された技術を取り上げる。
各巻の内容は以下のとおりである。
- 【方言の形成】
- 第1章 方言形成における中央語の再生(小林隆)
- 第2章 内的変化による方言の誕生(木部暢子)
- 第3章 接触変化から見た方言の形成(高橋顕志)
- 第4章 アジアの中の日本語方言(安部清哉)
- 第5章 方言形成研究の方法としてのシミュレーション(熊谷康雄)
- 【方言の機能】
- 第1章 発話スタイルと方言(真田信治)
- 第2章 若者世代の方言使用(陣内正敬)
- 第3章 方言の経済価値(井上史雄)
- 第4章 福祉社会と方言の役割(日高貢一郎)
- 第5章 方言と学校教育(大野眞男)
- 【方言学の技法】
- 第1章 新時代の方言調査法(小西いずみ)
- 第2章 方言データベースの作成と利用(三井はるみ・井上文子)
- 第3章 パソコンで作る方言地図(岸江信介)
- 第4章 地理情報システムと方言研究(大西拓一郎)
- 第5章 方言を量る方法(半沢康)
【方言の形成】(2008年3月27日発行 岩波書店刊 A5判横組み 248頁 3,400円+税 ISBN 978-4-00-027117-2)
【方言の機能】(2007年10月30日発行 岩波書店刊 A5判横組み 192頁 3,400円+税 ISBN 978-4-00-027119-6)
【方言学の技法】(2007年12月20日発行 岩波書店刊 A5判横組み 248頁 3,400円+税 ISBN 978-4-00-027120-2)