機関雑誌「国語学」発刊の辞

 国語学会結成の目的は、「国語学会の成立とその使命」及び会規要綱に示すように、明治以来、種々雑多な系統の上に成立し、未だ全体として体系を成すに至らなかった国語学に体系的な組織を求め、国語学展開の根本理論を確立して、近時漸く問題になりつつある国語の実践部面の発展に即応して、国語学の再出発を期そうとする国語学界の反省と、自己批判とに基くものである。それには先ず何よりも国語学各分野の連絡を図り、国語学者の総力を糾合する必要がある。その方法として、本学会に於いては、研究会、講演会の開催、雑誌、図書の刊行等の諸事業が計画されているのであるが、中でも機関雑誌「国語学」の刊行は、本学会の目的を貫徹するための中心事業であるから、学会の成立と同時に、雑誌刊行の議を進め、それに要する諸般の準備を整えることとなったのであるが、戦時中より戦後へかけての諸種の事情のため延引を重ねて、斯くここに「国語学」の発刊の運びとなり、創刊号を世に送ることが出来ることとなったことは、国語学界のため、又日本文化の促進のため、慶賀に堪えない次第である。

 

 本誌の性格並にその編輯方針は、当然学会の性格並に目的によって、規定されるものであって、国語学界のあらゆる分野をここに綜合して、各研究者の相互の連絡を図ることが第一に考えられなければならない。次に本誌編輯方針の大綱を示すならば、

 

一 国語の学術的研究に関する論文
二 一般の国語に対する認識の向上と、国語学の普及に資すべき指導的解説的論文
三 国語問題、国語行政に関する論説
四 国語教育並に一般的な国語の実践部面に関する論説
五 国語学関係の図書に対する厳正な批判

 

 右は国語の学術部面と実践部面との間に緊密な連絡を求め、二者一体の実を挙げたいという希望と用意とに基くものである。更に学界の連絡を図るために以下の二項を加える。

 

六 学界消息として、各大学専門学校に於ける国語学関係の講義題目及び研究機関、調査機関に於ける研究調査の状況報告
七 国語学関係の新刊書論文等の紹介

 

なお、将来は随時特輯号を編輯し、特定の題目を選定して、専門権威者の所見を掲載する予定である。

 

 本誌が国語学会の機関誌として、その目的を完全に果すためには、今後、執筆者並に読者各位の協力と支援にまたなければならないことは云うまでもないが、編輯当事者一同も万難を排して編輯の事に当り、以て学界並に一般の要請に応えることを期している次第である。

 

追記 本稿の成立過程も、大体次稿「国語学会の成立とその使命」と同様である。これをここに掲載する意味も全く次項と同様である(時枝)。

※『国語学』第1輯(昭和23年10月30日発行)より

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