『日本語の研究』発刊の辞

日本語学会会長  前田 富祺

 

 『国語学』通巻220号は,いよいよ『日本語の研究』第1巻1号と名を変えて刊行されることとなった。国語学会は昭和19年に設立されたが,機関誌の刊行が遅れ,ようやく昭和23年10月に『国語学』第1輯が刊行されたのである。その巻頭「機関雑誌『国語学』発刊の辞」には,

 

明治以来,種々雑多な系統の上に成立し,未だ全体として体系を成すに至らなかった国語学に体系的な組織を求め,国語学展開の根本理論を確立して,近時漸く問題になりつつある国語の実践部面の発展に即応して,国語学の再出発を期そうとする国語学界の反省と,自己批判とに基づくものである。

 

とあり,従来の研究に対する反省の上に立って新しい体系を作ろうという意気込みが述べられている。

 

 創刊号に述べられたことには今の状況にも当てはまることが多い。大学の国語国文学科が日本語日本文学科に変わりつつあること,日本語教育のための日本語研究が必要になってきたこと,高度情報化社会における日本語の情報処理が必要になってきたことなど,日本語の実践部面の発展に即応して日本語学の再出発が期待されるようになったのである。

 

 このような期待に応えて,様々な検討をした上で,2004年1月から国語学会は日本語学会と名称を変えた。ただ,機関誌名の変更についてはなお議論があった。機関誌名は『国語学』のままで良いという意見もあり,また変えるにしてもどういう名前にするかが問題になった。『日本語学』など既存の名前は避けるべきだと考えられたからである。

 

 そこで機関誌名の改称の問題を検討するために理事会に小委員会が設けられた。小委員会は様々な可能性を考え,折々に理事会に報告し,編集委員会,評議員会,会員の意見を求め,次第に方向を定めてきた(その討議の経過については,そのつど『国語学』で報告している)。最終的には『日本語の研究』と改称するという理事会原案が2004年5月22日の評議員会で賛成多数で可決されたのである。なお詳細は私が「機関誌の新名称について」として『国語学』第55巻3号で報告している。

 

 『日本語の研究』は日本語の研究をめぐる新しい状況に応じて将来を見通した名前である。しかし,けっしてこれまで積み上げてきた国語学の豊かな成果を軽視するものではない。新しい日本語の研究においては,現代日本語が日本語の歴史を受け継いだものであることを忘れないでほしいし,日本語の歴史の研究も新しい目で見直してほしいのである。『日本語の研究』という名前は,将来の日本語学の発展を期してのものであり,それが叶えられるかどうかは日本語学会会員の一人一人の努力に俟つところである。

 

※『日本語の研究』第1巻1号(2005年1月1日発行)より

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