日本語学会2017年度秋季大会シンポジウム概要(詳細版)
lastupdate 2017/8/9

ルールを逸脱した表現の産出と許容

 

  趣旨

 「誤用」「言葉のゆれ」「新語」などとして注目される語句の形態や用法,表記や音声のゆれなどがあります。これらは従来の規範やルールから逸脱していたためにこのような呼び方をされ,ときに批判されたり珍しがられたりしてきました。これらの中には一時的なブームとしていつの間にか消えていくものもありますが,一方で,社会に許容されて定着していくものもあります。話し言葉や書き言葉のコーパスなどといった実際の言語データをもとにした近年の研究報告には,このような現象をとりあげたものが見られます。それらからは,気づかない変化が身の回りに存在すること,そしてそれらを単なる誤用や逸脱表現として片付けられないことがうかがえます。

 このような表現の産出は,ことばが新しい意味用法や機能を獲得するプロセスの一端を示しているともいえます。これまでに生じた言語変化のうちで定着してきたものは,われわれに変化の要因を読み解くヒントを与えてくれることでしょう。また,今起っている変化がこれからの日本語について予測するヒントを与えてくれることもあるかもしれません。

  言語変化や逸脱した表現をどうとらえるべきか,これらの現象をどうとりあつかうべきかということは興味深い研究テーマです。しかしながら,現象のありようを的確にとらえるためには,多様かつ大量になったコーパスなどの言語データのとりあつかい方にも注意を払う必要があります。また、当該の言語表現だけでなくその言語表現が使用される環境や意味を成立させる諸条件などから,そのダイナミクスについてもとらえることが求められるでしょう。さらには許容する側である社会の「受け入れ態勢」にも注目しなければならないと思われます。

そこで,本シンポジウムでは、このような従来の型やルールから逸脱した言語表現や言語変化の現象に注目し、それが出現する要因や変化のメカニズムとともに,それらが社会で許容されている理由などを考えます。これを通して,今のあるいはこれからの日本語をとらえる視点を議論する場になればと考えています。

 

  パネリストの発表タイトルとキーワード

金澤裕之(目白大学):「文法面から見た逸脱表現」なく中止形,充実に(過ごす)

野田春美(神戸学院大学):「歌詞に見られる逸脱表現」逸脱による違和感と魅力,リズム・拍数と逸脱表現,詩的表現

橋本行洋(花園大学):「新語の定着と非定着」気づかない新語,新聞記事,国語辞典への登録

横山詔一(国立国語研究所):「言語変化と社会環境」普及のキャズム理論,言語変化のS字カーブ説,コーパスの異体字問題

  司会

森篤嗣(京都外国語大学)

  企画担当

川端元子(愛知工業大学),森篤嗣

 

 

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